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神奈川県

衛研ニュースNo.113

2006年3月発行
  1. 遺伝子組換え食品検査の背景と現状
  2. 平成18年度の経常研究課題一覧

遺伝子組換え食品検査の背景と現状

大森清美

 

遺伝子組換え作物(GM作物)は、古くから行われてきた交配による品種改良作物とは異なり、目的とする働きをもった遺伝子を「遺伝子組換え」というバイオテクノロジーによって既存作物に組み込み、品種改良を行った作物です。遺伝子組換え技術では、植物以外の生物がもつ遺伝子を植物の遺伝子に組み込むことも可能です。たとえば「Btコーン」は、細菌がもつ遺伝子の一部をとうもろこしの遺伝子に組み込んだGM作物です。このようなGM作物が、日本国内で食品として流通を許可されるためには、厚生労働省による安全性審査で、安全性に問題がないことが確認されていなければなりません。平成18年1月現在、安全性審査が終了したGM作物は、7種類(大豆、とうもろこし、じゃがいも、てんさい、なたね、わた、アルファルファ)の74品種です。このなかには、GM作物同士の交配により開発された新品種である「スタック品種」も含まれています。
  このように、多くのGM作物が開発され、安全性審査が行われている一方、消費者は遺伝子組換え食品について、どのように考えているでしょうか。平成17年5月に実施された食品安全モニター約500名による遺伝子組換え食品の安全性に関するアンケート(厚生労働省、食品安全委員会実施)では、77%が「非常に不安である」もしくは「ある程度不安である」と回答しています。そして、不安を感じる理由としては、「安全性の科学的な根拠に疑問」が最も多く44%を占めています。また、同年に農林水産省が安全-安心モニター約1300人を対象に行ったアンケートでも、「食品を購入する際、遺伝子組換え食品が原材料として使用されているかどうか気になりますか」という質問に対して、「非常に気になる」は26%、「気になる」は53%であり、両者をあわせると79%になります。これらのアンケート調査結果から、消費者の約80%は、遺伝子組換え食品の安全性に関して不安感を持っていることが伺えます。
  食品の表示は、消費者が食品を選択するための最も重要な情報源です。神奈川県は、遺伝子組換え食品の食品表示が正しく行われているか否かを確認し、消費者の食品を選択する権利を守ために、県内で流通しているパパイヤ、とうもろこし、大豆を原料とする食品について、遺伝子組換え食品検査を強化しています。

IP(Identity Preserved)ハンドリング(分別生産流通管理)

現在、日本国内ではGM作物の商業的な栽培は行われていません。しかし、海外でのGM作物の作付け面積は年々増加しており、2005年(平成17年)には9万ヘクタール(日本の全耕地面積の10倍以上)となっています。このような状況下で、生産、流通及び加工の各段階でGM作物と非遺伝子組換え作物(non-GM)が、混合することのないよう、証明書を発行し管理するシステムが国際的に定められています。これをIPハンドリング(分別生産流通管理)といいます。

遺伝子組換えの表示

厚生労働省及び農林水産省で義務化されている遺伝子組換え食品に関する表示には、次の2種類があります。

「遺伝子組換え」(義務表示):GM作物であることを示しています。

「遺伝子組換え不分別」(義務表示):IPハンドリングが行われていない作物であることを示しています。GM作物の含有が0%~100%の可能性があるため、「遺伝子組換え不分別」の表示をしなければなりません。
  ただし、組み換えられた遺伝子またはその遺伝子からつくられるタンパク質が加工後に残存しない食品(醤油、植物油など)に関しては、「遺伝子組換え」及び「遺伝子組換え不分別」の表示義務はありません。
  遺伝子組換えに関する表示の中で、最も多く見られるのは「遺伝子組換えでない」の表示ですが、これについては任意表示であり、法律による表示義務はありません。

組換え遺伝子の定量試験

「遺伝子組換えでない」の表示がある食品もしくは無い食品については、IPハンドリングを実施したnon-GM作物を原料としていることを意味しています。これらについては5%を上限としてGM作物(安全性審査済みの作物に限る)の混入が意図しない混入として認められています。そこで、non-GM作物へのGM作物の混入が5%以下であるか否かを調べるために、GM作物含有率の測定(定量試験)を行います。
  定量試験は、定量試験用のPCR(遺伝子増幅)装置(リアルタイムPCR)を用いて行われます。現在、厚生労働省の通知によって定量試験法が示されている遺伝子組換え系統は、大豆のRRS、とうもろこしのBt11、T25、Mon810、GA21、Event176の6系統です。

組換え遺伝子の定性試験

IPハンドリングの有無に拘わらず、安全性審査が終了していないGM作物の食品への混入は認められていません。このようなGM作物については、含有の有無を検出する試験(定性試験)が行われます。現在、厚生労働省通知により定性試験法が示されている遺伝子組換え系統は、パパイヤの55-1、とうもろこしのCBH351及びBt10の3系統です。
  定性試験では、PCR装置を用いて目的遺伝子の特異的な部分を増幅します。その増幅遺伝子について電気泳動を行い、遺伝子の大きさの違いによって目的遺伝子の有無を調べます。

神奈川県の遺伝子組換え食品検査

遺伝子組換え食品の表示義務制度は、平成13年4月に厚生労働省及び農林水産省により示されました。神奈川県は、同年に遺伝子組換え食品検査を開始し、平成18年度には90検体を予定しています(下表)。検査結果については、パパイヤ、とうもろこし、じゃがいも、大豆関連食品の定性試験及び定量試験いずれにおいても、違反はありませんでした。しかしながら、毎年数検体の大豆からは、RRS組換え系統が混入率0.1%前後で検出されており、平成15年度にはアメリカ産の大豆穀粒で2.6%(当所最高値)のRRS混入が検出されました。そして、これらの大豆は全てIPハンドリングによりnon-GM作物である証明書を有していたことから、IPハンドリングを実施した作物であっても、組換え体の「意図しない混入」が起きている実態が明らかになりました。今後も、消費者の「食品を選択する権利」をまもるために、遺伝子組換え食品の表示に対する監視と検査による確認を継続していくことが重要であると考えます。

(理化学部)


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平成18年度の経常研究課題一覧

  経常研究は、公衆衛生向上のため保健衛生分野において経常的に行っている技術的な基礎研究、応用研究および開発研究です。検査を実施する上で生じた問題や事業本課が行政を進める上で生じた科学技術上の課題等の解決に向けて取り組むものです。平成18年度は、下記の25課題を計画しています。

   
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