◆はじめに
住宅の高気密化ととともに建材から揮散する化学物質が原因で室内の空気が汚染され、居住者に様々な体調不良が発生しています。このように、住まいが原因となって発生する様々な症状をシックハウス症候群と呼んでいます。症状は目がチカチカする、のどが痛い、頭痛やめまい、鼻水や涙、せきがでる、皮膚が乾燥する、赤くなるなど多様です。
シックハウス症候群は住宅の高気密化や建材からだけでなく、家具、家庭用品、カビ、ダニ等生物由来のアレルゲン、化学物質に対する感受性など様々な要因が複雑に関係して発症すると考えられています。シックハウスは個人住宅だけでなく、オフィスビル、学校などでも問題となっています。(シックハウスは和製英語で、英語ではSick buildingといいます。)
◆室内濃度指針値
国では、厚生労働省・国土交通省等の関係省庁が協力して、原因分析、基準設定、防止対策等のシックハウス対策を行っています。厚生労働省は平成9年から現在までにホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、クロルピリホス、フタル酸ジ-n-ブチル等13物質について室内濃度指針値を設定しています。また、文部科学省は学校内の教室等の空気について、平成14年2月、平成16年2月に学校環境衛生の基準の改定を行い、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン等6物質を対象に判定基準を設定し、定期検査を義務づけています。
表 室内濃度指針値
物質名 |
主な用途 |
厚生労働省 |
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文部科学省の学校
環境衛生の基準 |
室内濃度指針値* |
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判定基準 |
ホルムアルデヒド |
合板、接着剤、防かび剤 |
100 mg/m3 |
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0.08 ppm |
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100 mg/m3 |
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トルエン |
塗料、接着剤、塗料用溶剤 |
260 mg/m3 |
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0.07 ppm |
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260 mg/m3 |
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キシレン |
塗料、接着剤、油性ペイント |
870 mg/m3 |
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0.20 ppm |
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870 mg/m3 |
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パラジクロロベンゼン |
衣料用防虫剤、トイレ用防臭剤 |
240 mg/m3 |
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0.04 ppm |
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240 mg/m3 |
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エチルベンゼン |
塗料用溶剤、接着剤 |
3800 mg/m3 |
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0.88 ppm |
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3800 mg/m3 |
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スチレン |
断熱材、畳、接着剤、発泡スチロール |
220 mg/m3 |
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0.05 ppm |
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220 mg/m3 |
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フタル酸ジ-n-ブチル |
プラスチック可塑剤、塗料、顔料、接着剤 |
220 mg/m3 |
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0.02 ppm |
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- |
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クロルピリホス |
殺虫剤、防虫剤、防蟻剤 |
1 mg/m3
小児の場合 0.1mg/m3 |
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0.07 ppb
0.007 ppb |
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- |
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テトラデカン |
灯油、塗料 |
330 mg/m3 |
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0.04 ppm |
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- |
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フタル酸ジ-2-エチルヘキシル |
プラスチック可塑剤、壁紙、床材 |
120 mg/m3 |
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7.6 ppb |
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- |
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ダイアジノン |
殺虫剤 |
0.29 mg/m3 |
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0.02 ppb |
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- |
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アセトアルデヒド |
接着剤、防腐剤 |
48 mg/m3 |
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0.03 ppm |
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- |
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フェノブカルブ |
殺虫剤、防蟻剤 |
33 mg/m3 |
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3.8 ppb |
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- |
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総揮発性有機化合物(TVOC) |
室内空気中の揮発性有機化合物の総量
室内空気質の目安 |
暫定目標値
400 mg/m3 |
(トルエン換算値) |
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*両単位の換算は25℃の場合
◆当所の現在までの取組み
1.住まいと健康サポート推進事業H13~
県民の方から、家庭内でのシックハウスとみられる症状などについて、保健福祉事務所に相談があったとき、保健福祉事務所ではその内容について聞き取り調査を行います。その結果、原因物質についての調査が必要と判断されたとき、衛生研究所に依頼があります。家庭内での試料採取は保健福祉事務所が担当し、分析は衛生研究所で室内濃度指針値が示されている物質について検査を行います。
平成13年度から現在までに138件の調査を行いました。そのうち、指針値を超えて検出された物質は、ホルムアルデヒド(8件)、パラジクロロベンゼン(8件)、アセトアルデヒド(4件)、トルエン(2件)でした。総揮発性有機物(TVOC)暫定目標値を超えたものは18件でした。
ホルムアルデヒドの発生原因は、合板や内装材、壁紙に使用される接着剤、家具、カーペットからの放散が考えられます。パラジクロロベンゼンは、衣類の防虫剤やトイレの芳香剤として使用されていますが、使いすぎには注意が必要です。アセトアルデヒドは接着剤、防腐剤で使用されています。また、喫煙によっても発生します。トルエンは内装材等の接着剤、塗料からの放散が考えられます。TVOCの暫定目標値は、毒性学的見地から決定されたものではなく、室内空気質の状態を示す目安として設定されましたので、目標値を超えてもすぐに問題ということではありません。
2.自動車におけるシックハウス予防調査H17
自動車は鉄、アルミニウム等の金属だけでなく、プラスチックや合成皮革など様々な化学材料で構成されており、塗料や接着剤も使用されています。今後の予防対策の一助として、現在、衛生研究所では自動車室内の化学物質濃度を調査しています。
3.光機能材料を活用したシックハウス症候群物質などの簡易定量法に関する研究(政策推進受託研究事業)H15~17
有望な研究成果を実用化まで育成するという考えのもと、産学官連携の共同研究で行っている事業です。現在、公定法として定められている方法は操作が煩雑で、結果が出るまでに時間がかかります。そこで、主要な原因物質であるホルムアルデヒド等について、現場での濃度測定を簡便に行うことができるよう簡易法の開発を大学、民間企業と行っています。
4.防蟻剤による室内空気汚染に関する研究(経常研究)H15~16
防蟻剤中のクロロピリホス等指針値が決められた物質を中心に室内空気からの捕集方法、分析法を検討し、GC/MSによる同時分析法を確立しました。
◆新たな取組み
県立高校におけるシックハウス症候群の発生を契機に、シックハウス対策に対する体制の強化が図られました。現在までの取組みをもとに、緊急の課題として「シックハウス症候群原因物質としての農薬成分による室内環境汚染に関する研究」(H17~19)を行うことになりました。
指針値は定められていないがシックハウス原因物質となることが危惧される防蟻剤や家庭用殺虫剤等に使用されている農薬成分に注目し、室内空気中からの捕集方法、検査法を確立し、その汚染実態の把握、さらにモデル実験による室内空気への放散量や挙動の把握、最終的にはシックハウス症候群原因物質の低減化対策について検討していく予定です。
(理化学部)
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