1 ダニとは
ダニはその大部分が大きさ0.2~0.8mmの小さな生物です。幼虫の時は昆虫と同じ6本足(脚)ですが、成虫はクモと同じ8本足のふしぎな生物でもあります。
ダニは世界中では5万種以上が知られており、雪と氷を除く地球のいたる所に生息し、50℃の温泉やpH10近くの強アルカリ性水域からも見いだされています。多くのダニは土壌中に生息し、落ち葉や動物の排泄物などの有機物の分解に大きく関与しており、地球環境の浄化に貢献しています。しかし、一部のダニが人間にとって有害であり、動物の血を吸うもの、農業被害を及ぼすもの、食品に大発生するもの、アレルギー疾患に関係するものなどがいます。
2 家の中にいるダニ
ある調査によりますと、1軒の住居には数千万匹から数億匹のダニが住み着いているとのことです。家庭の掃除機で集めた室内塵(ハウスダストとも言います)には1gあたり通常数十匹から数千匹のダニが見いだされます。また、ジュウタン、マットレス、布団、毛布、タタミ、床、ベッド、ソファー、ぬいぐるみ、衣類、押し入れ、タンスなど家庭内のあらゆる場所で採取したダニを合計して試算すると、このような天文学的な数値になるというわけです。
ハウスダストからはチリダニ類、コナダニ類、ホコリダニ類、ツメダニ類などが見つかりますが、その70~90%はチリダニ類です。チリダニ類が問題になるのは喘息やアトピー性皮膚炎、鼻炎、結膜炎などアレルギー疾患と関連が深いからです。
3 チリダニ類について
ハウスダストに多く見つかるチリダニ類にはヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニの2種がいます。日本にはどちらも生息していますが、コナヒョウヒダニの方が乾燥に強いことが知られています。
チリダニ類は大きさが0.4mm程度ですから肉眼では見えません。その一生は卵→幼虫→若虫→成虫と成長します。卵から成虫になるまで、好適な生育条件で約1ヶ月かかります。成虫は2~3ヶ月生き、雌は卵を1日に1~3個、生涯には200~300個産むと言われています。
チリダニ類が繁殖する条件として温度、湿度、餌、居場所が重要です。温度は10~32℃で発育可能ですが、22~28℃付近が最適です。湿度はチリダニ類の生育にとって最も重要です。水を直接飲めないダニは大気中の水分、すなわち湿度を水分供給源として利用します。湿度60~85%の条件が最も適しています。高温、多湿の条件がそろう6~9月はチリダニ類が最も繁殖しやすい季節ですが、冬でもかなりの数が生存しています。チリダニ類の餌はフケ、アカ、カビなどです。ダニは身を隠す場所が必要ですが、ジュウタン、布団などは最適です。これらのことからもおわかりのように、チリダニ類の好む環境は人の住む環境と良く一致し、人がいる場所にはチリダニ類が必ず生息していると言っても過言ではありません。
4 ダニアレルゲンについて
アレルゲンとはアレルギー疾患を引き起こす原因になる物質のことを言います。住居内でアレルゲンとなるのは、ダニのほかにカビ、花粉、ペットなどがありますが、最も重要なのがダニ、特にチリダニ類です。
チリダニ類は虫体、死がい、抜け殻、フンなどすべてがアレルゲンになります。特に、フンはアレルゲン量が多く、全アレルゲン量の9割以上を占めるという報告もあります。
チリダニ類がアレルゲンとして注目されるようになったのは、1964年にオランダ人の医師であるVoorhorstがハウスダスト中のダニと気管支喘息との関連性を指摘してからです。現在では、小児喘息患者の60~90%がチリダニ類で感作(過敏になること)されていると言われています。
チリダニ類が有するアレルゲン成分は10種類以上見つかっており、いずれも蛋白質だと言われています。そのうちDerⅠとDerⅡという2つの成分が重要です。DerⅠはダニのフンに多く含まれ、分子量が25,000程度のシステインプロテアーゼという消化酵素です。一方、DerⅡは虫体に由来する分子量14,000程度の蛋白質ですが、詳しいことはまだよくわかっていません。
WHO(世界保健機関)が定めているダニアレルゲンの室内における汚染基準として、喘息についてはDerⅠ量が塵1gあたり2μgで感作し、10μgで発作を引き起こす危険がある数値とされています。これらの数値をダニ数に換算しますと、それぞれ100匹、500匹に相当します。
5 ダニとアレルゲンの防除
ダニを防除することはダニアレルゲンの防除につながります。しかし、ダニアレルゲンの防除は単にダニを殺すだけでは解決せず、死がい、抜け殻、フンを同時に排除することが必要です。
ダニアレルゲン防除に重要な対象物は、汚染度が高く睡眠中に吸い込む可能性の高い布団と、居住空間であるタタミや床です。これらを定期的に新品に交換することが究極の防除法ですが、現実的ではありませんので日常の対策を紹介します。
簡便な方法としては、部屋の窓を開けること、掃除機がけ、布団の日光干し、布団乾燥機の使用などが有効です。天気の良い日に部屋の窓を開けて風通しを良くすることは、最も簡単な防除法です。但し、湿度が高い時や雨の日は逆効果になります。日頃の掃除機がけも効果的ですが、ダニはタタミやジュウタンの内部に圧倒的に多くいますので、表面にいるダニしか除去できないことに注意する必要があります。なお、ダニは掃除機で吸引することによるショックで70%以上は死んでしまいます。
布団や毛布などの寝具はダニの餌となるフケやアカが蓄積し、ダニが繁殖しやすい環境にあります。寝具がダニアレルゲンによって汚染されていると睡眠中にそれらを吸い込み、人によっては喘息発作を誘発する恐れがあります。ダニは寝具の内部へと移動しますが、内部は含水量が少ないためダニの多くは死んでしまいます。そのため布団の内部には死んだダニやフンが特に多く存在しています。布団の日光干しは布団全体を乾燥させるのでダニの防除に効果的です。ただし、干した布団を叩くのは、内部にいる死んだダニやフンを表面に移動させてしまい好ましくありません。また、午後2時以降に干すのは湿度が上がってしまいかえって好ましくありません。布団乾燥機の使用もダニを殺すのには有効です。日光干しや乾燥機使用後の布団に掃除機をかけると防除効果が上がります。その他、高密度繊維を使った布団や布団カバーの使用、布団の丸洗いなども有効です。
タタミや床については、日頃の掃除の徹底が一番です。床はジュウタンやカーペットの使用をできるだけ避け、フローリングにするのが効果的なダニ対策になります。
6 当所の取り組み
当所では、20数年前から室内に生息しているダニの実態調査やダニの繁殖条件の検討などを行ってきました。また、ハウスダスト中のダニアレルゲン量を測定するなど、アレルギー対策の基礎となるデータを収集し解析してきました。今年度は、チリダニ類の雌雄や生育ステージ(卵、幼虫、若虫、成虫)がアレルゲン生成量に与える影響を調べる試験や、ハウスダスト中のダニアレルゲン量をELISA法や各種簡易キットで測定し、キットの有効性の評価を行います。さらに、新たな簡易キットの開発およびその性能試験を行うプロジェクトにも参加し、アレルギー対策に必要な情報を提供してまいります。
(微生物部)