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神奈川県

衛研ニュースNo.111

2005年9月発行
  1. ダニとアレルゲン対策
  2. 残留農薬等のポジティブリスト制について

ダニとアレルゲン対策

竹田 茂

1 ダニとは

ダニはその大部分が大きさ0.2~0.8mmの小さな生物です。幼虫の時は昆虫と同じ6本足(脚)ですが、成虫はクモと同じ8本足のふしぎな生物でもあります。

ダニは世界中では5万種以上が知られており、雪と氷を除く地球のいたる所に生息し、50℃の温泉やpH10近くの強アルカリ性水域からも見いだされています。多くのダニは土壌中に生息し、落ち葉や動物の排泄物などの有機物の分解に大きく関与しており、地球環境の浄化に貢献しています。しかし、一部のダニが人間にとって有害であり、動物の血を吸うもの、農業被害を及ぼすもの、食品に大発生するもの、アレルギー疾患に関係するものなどがいます。

2 家の中にいるダニ

ある調査によりますと、1軒の住居には数千万匹から数億匹のダニが住み着いているとのことです。家庭の掃除機で集めた室内塵(ハウスダストとも言います)には1gあたり通常数十匹から数千匹のダニが見いだされます。また、ジュウタン、マットレス、布団、毛布、タタミ、床、ベッド、ソファー、ぬいぐるみ、衣類、押し入れ、タンスなど家庭内のあらゆる場所で採取したダニを合計して試算すると、このような天文学的な数値になるというわけです。

ハウスダストからはチリダニ類、コナダニ類、ホコリダニ類、ツメダニ類などが見つかりますが、その70~90%はチリダニ類です。チリダニ類が問題になるのは喘息やアトピー性皮膚炎、鼻炎、結膜炎などアレルギー疾患と関連が深いからです。

3 チリダニ類について

ハウスダストに多く見つかるチリダニ類にはヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニの2種がいます。日本にはどちらも生息していますが、コナヒョウヒダニの方が乾燥に強いことが知られています。

チリダニ類は大きさが0.4mm程度ですから肉眼では見えません。その一生は卵→幼虫→若虫→成虫と成長します。卵から成虫になるまで、好適な生育条件で約1ヶ月かかります。成虫は2~3ヶ月生き、雌は卵を1日に1~3個、生涯には200~300個産むと言われています。

チリダニ類が繁殖する条件として温度、湿度、餌、居場所が重要です。温度は10~32℃で発育可能ですが、22~28℃付近が最適です。湿度はチリダニ類の生育にとって最も重要です。水を直接飲めないダニは大気中の水分、すなわち湿度を水分供給源として利用します。湿度60~85%の条件が最も適しています。高温、多湿の条件がそろう6~9月はチリダニ類が最も繁殖しやすい季節ですが、冬でもかなりの数が生存しています。チリダニ類の餌はフケ、アカ、カビなどです。ダニは身を隠す場所が必要ですが、ジュウタン、布団などは最適です。これらのことからもおわかりのように、チリダニ類の好む環境は人の住む環境と良く一致し、人がいる場所にはチリダニ類が必ず生息していると言っても過言ではありません。

4 ダニアレルゲンについて

アレルゲンとはアレルギー疾患を引き起こす原因になる物質のことを言います。住居内でアレルゲンとなるのは、ダニのほかにカビ、花粉、ペットなどがありますが、最も重要なのがダニ、特にチリダニ類です。

チリダニ類は虫体、死がい、抜け殻、フンなどすべてがアレルゲンになります。特に、フンはアレルゲン量が多く、全アレルゲン量の9割以上を占めるという報告もあります。

チリダニ類がアレルゲンとして注目されるようになったのは、1964年にオランダ人の医師であるVoorhorstがハウスダスト中のダニと気管支喘息との関連性を指摘してからです。現在では、小児喘息患者の60~90%がチリダニ類で感作(過敏になること)されていると言われています。

チリダニ類が有するアレルゲン成分は10種類以上見つかっており、いずれも蛋白質だと言われています。そのうちDerⅠとDerⅡという2つの成分が重要です。DerⅠはダニのフンに多く含まれ、分子量が25,000程度のシステインプロテアーゼという消化酵素です。一方、DerⅡは虫体に由来する分子量14,000程度の蛋白質ですが、詳しいことはまだよくわかっていません。

WHO(世界保健機関)が定めているダニアレルゲンの室内における汚染基準として、喘息についてはDerⅠ量が塵1gあたり2μgで感作し、10μgで発作を引き起こす危険がある数値とされています。これらの数値をダニ数に換算しますと、それぞれ100匹、500匹に相当します。

5 ダニとアレルゲンの防除

ダニを防除することはダニアレルゲンの防除につながります。しかし、ダニアレルゲンの防除は単にダニを殺すだけでは解決せず、死がい、抜け殻、フンを同時に排除することが必要です。

ダニアレルゲン防除に重要な対象物は、汚染度が高く睡眠中に吸い込む可能性の高い布団と、居住空間であるタタミや床です。これらを定期的に新品に交換することが究極の防除法ですが、現実的ではありませんので日常の対策を紹介します。

簡便な方法としては、部屋の窓を開けること、掃除機がけ、布団の日光干し、布団乾燥機の使用などが有効です。天気の良い日に部屋の窓を開けて風通しを良くすることは、最も簡単な防除法です。但し、湿度が高い時や雨の日は逆効果になります。日頃の掃除機がけも効果的ですが、ダニはタタミやジュウタンの内部に圧倒的に多くいますので、表面にいるダニしか除去できないことに注意する必要があります。なお、ダニは掃除機で吸引することによるショックで70%以上は死んでしまいます。

布団や毛布などの寝具はダニの餌となるフケやアカが蓄積し、ダニが繁殖しやすい環境にあります。寝具がダニアレルゲンによって汚染されていると睡眠中にそれらを吸い込み、人によっては喘息発作を誘発する恐れがあります。ダニは寝具の内部へと移動しますが、内部は含水量が少ないためダニの多くは死んでしまいます。そのため布団の内部には死んだダニやフンが特に多く存在しています。布団の日光干しは布団全体を乾燥させるのでダニの防除に効果的です。ただし、干した布団を叩くのは、内部にいる死んだダニやフンを表面に移動させてしまい好ましくありません。また、午後2時以降に干すのは湿度が上がってしまいかえって好ましくありません。布団乾燥機の使用もダニを殺すのには有効です。日光干しや乾燥機使用後の布団に掃除機をかけると防除効果が上がります。その他、高密度繊維を使った布団や布団カバーの使用、布団の丸洗いなども有効です。

タタミや床については、日頃の掃除の徹底が一番です。床はジュウタンやカーペットの使用をできるだけ避け、フローリングにするのが効果的なダニ対策になります。

6 当所の取り組み

当所では、20数年前から室内に生息しているダニの実態調査やダニの繁殖条件の検討などを行ってきました。また、ハウスダスト中のダニアレルゲン量を測定するなど、アレルギー対策の基礎となるデータを収集し解析してきました。今年度は、チリダニ類の雌雄や生育ステージ(卵、幼虫、若虫、成虫)がアレルゲン生成量に与える影響を調べる試験や、ハウスダスト中のダニアレルゲン量をELISA法や各種簡易キットで測定し、キットの有効性の評価を行います。さらに、新たな簡易キットの開発およびその性能試験を行うプロジェクトにも参加し、アレルギー対策に必要な情報を提供してまいります。

(微生物部)


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残留農薬等のポジティブリスト制について

           

藤巻 照久

はじめに

牛海綿状脳症(BSE)事件を契機に食の安全について国民の関心が高まっています。国は、食品の安全確保について基本となる法律「食品安全基本法」を平成15年5月に制定しました。さらに関連する法律も改正されました。食品衛生法では監視・検査体制の見直しが行われました。その中で大きく変わるのが規格・基準の見直しによる農薬、動物用医薬品及び飼料添加物(以下「農薬等」という。)の残留規制の強化です。そのための方法としてポジティブリスト制が、平成18年5月から導入されます。衛研NEWS No.103(平成15年9月発行)で食品安全基本法の概要について解説しました。本稿では今回の食品衛生法改正の要点であるポジティブリスト制について説明いたします。

ポジティブリスト制って何ですか?

聞き慣れない言葉です。一般的に原則自由の中で、禁止しているものだけを一覧表に示し、規制することが行われています。これをネガティブリスト制と言います。それに対してポジティブリスト制とは、すべてのものについて原則禁止とし、その上で健康影響を考慮して、許容濃度等(残留基準、一律基準等)を示したリストを作成し、規制する制度です。

現行の食品衛生法で規制されている農薬、動物用医薬品及び飼料添加物はある食品との組み合わせで277品目あります(平成17年7月20日現在)。その中で残留基準値を超えれば、その食品の流通は禁止されます。しかし、残留基準が定められていないものは、たとえ残留していても規制はありません。ところがポジティブリスト制では、食品の農薬等の残留を原則禁止とし、実行可能なレベルとして安全性を考慮した上で「一律基準値」を設定します。さらに食品健康影響評価(以下「リスク評価」という。)などにより安全性が確認された食品との組み合わせについて一定濃度まで許容する「残留基準」等を設定します。

ポジティブリスト制により今まで見過ごされてきた残留基準値の存在しない農産物・畜水産物中の残留農薬等についても規制の対象となり、より食の安全に寄与することとなります。

平成18年5月以降の規制はどうなるの?

ポジティブリスト制の規制対象物質は、農薬、動物用医薬品及び飼料添加物であり、規制対象食品は加工食品を含む全ての食品となります。

農薬等の残留については、一定量(一律基準値)以上残留する食品の販売等が原則禁止されます。その中で、除外規定として現行の残留基準の一部や本年11月に定められる暫定基準(暫定的に定めらる「残留基準」と考えればよい。)があり、その基準値内であれば販売等が認められます。他に「不検出」という厳しい基準があります。

「不検出」とする農薬等とは?

検出されてはならない農薬等のことですが、次の項目が該当します。

  1. 発がん性などが疑われる農薬等
  2. JMPR*1及びJECFA*2(以下「国際機関」という。)で一日許容摂取量が設定できないと評価されている農薬等
  3. 国際機関で一日許容摂取量が0.03µg/kg/day未満とされた農薬等

「一律基準値」とは何でしょう?

残留基準の一つと考えてください。人が毎日食べ続けたとしても、健康を損なうおそれのない量として、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聞いて定める量で、0.01ppmが設定される予定です。

「一律基準値」ってどうやって決めたの?

JECFA及び米国医薬食品庁(FDA)では、毒性評価が十分でない化学物質の許容される暴露量を一日1.5µg(1.5µg/day)としています。

仮に農薬等が0.01ppm(=10µg/kg)残留する食品では、1.5µg/dayの暴露量に到達する量は、150gと計算されます。

一方、国民栄養調査に基づく食品の一日摂取量のうち150gを超える食品は米(一日当たりの摂取量190g)だけです。このことから、一律基準値を0.01ppmに設定すれば、通常の食生活において暴露量の目安である1.5µg/dayを超えることはないとされました。

「一律基準値」は全て0.01ppmなのですか?

現在の分析技術では一律基準値(0.01ppm)までの分析が困難とされる農薬等については、分析法の定量限界に相当すると考えられる値をもって一律基準値とします。逆に一律基準値(0.01ppm)未満の残留基準が一部の農作物等に設定されている農薬等については、すでに設定されている残留基準(農薬等と食品の組み合わせで決められている。)の中で最小の値をもってその農薬の基準値とします。

「暫定基準」はどのように設定されるのか?

暫定基準も残留基準の一つと考えられます。現在277品目に定められている残留基準は、十分なリスク評価がなされています。ところが、今回あらたに定める暫定基準は国内においてリスク評価が十分に実施されていません。また、リスク評価には膨大な時間が必要であり今回の改正までにすべてを行うことができません。そこで国際機関、諸外国の基準等を参考に設定することとしました。下記は科学的な根拠として参考にされた基準です。

  1. 国連食糧農業機関(FAO)及び世界保健機構(WHO)が合同で行う食品規格委員会(コーデックス委員会)で決められた国際基準
  2. 農薬取締法に基づく登録保留基準(動物用医薬品又は飼料添加物では、薬事法又は飼料安全法に基づく承認時の定量限界等)
  3. 諸外国の基準(具体的には米国、EU、豪、ニュージーランド及びカナダの5カ国)

「暫定基準」の見直しはありますか?

暫定基準は、下記の見直しを行うことになっています。

  1. ポジティブリスト制導入後5年ごとに諸外国の基準の変更に応じて見直をします。
  2. マーケットバスケット調査による農薬等摂取量実態調査結果に基づき優先順位を決めて安全性試験の情報を収集し、見直しを行います。
  3. 国際機関で一日許容摂取量が設定できないと評価されるものなどについて資料を収集し、食品健康影響評価を優先的に食品安全委員会へ依頼し、その結果を踏まえて見直しを行います。

さらに、今後の調査研究の進展や分析技術の進歩に伴い、暫定基準値だけでなく、「不検出」の対象農薬等の変更や0.01ppmの分析が困難とされる農薬等の一律基準値の再設定も考えられます。

試験法開発について

現在、暫定基準最終案には714品目に基準値が設けられています。これらの農薬等を効率よく分析するため、一斉分析法が平成15年度から国立医薬品食品衛生研究所を中心に、当研究所を含めた十数カ所の地方衛生研究所等が参加し、検討を進めています。15年度の検討結果を厚生労働省のホームページ上
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/positivelist/040806-1.html外部サイトを別ウィンドウで開きます)で見ることができます。16年度までの2年間の結果も近々公表される予定です。

遅くとも暫定基準が告示される本年11月には分析法が公表される予定です。

最後に

当所では、平成18年5月のポジティブリスト制施行に向けて、一斉分析法開発への取組、行政検査のための標準作業書の作成準備、分析対象農薬等の拡大の検討などを進めています。

*1JMPR:FAO/WHO合同残留農薬専門家会議
*2JECFA:FAO/WHO合同食品添加物専門家会議

(理化学部)


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