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衛研ニュースNo.110

2005年3月発行
  1. 医薬品とは?医薬部外品とは?
  2. 結核菌の新しい遺伝子型別法

医薬品とは?医薬部外品とは?

-医薬品販売体制の拡充について-
           

熊坂謙一

 最近、薬局・薬店に置かれていた一部の医薬品が、コンビニエンスストアーなどでも販売されるようになりました。これは、平成15年6月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本指針2003」に医薬品販売体制の拡充が盛り込まれ、「検討の結果安全上特に問題がないとの結論に至った医薬品すべてについて、薬局・薬店に限らず販売できるようにする」とされたことが契機となっています。厚生労働省はこの決定を受け、すべての一般用医薬品を対象に「安全上特に問題がないもの」について選定を行う専門の検討会を設置しました。その検討会では、使用上の注意に薬剤師が直接説明すべき情報が含まれていないか配合されている主成分の薬理作用・副作用などの観点から安全性に問題がないかの2つの視点に着目し、選定作業が行われました。その結果、選定された医薬品は、コンビニエンスストアーなどの一般小売店での販売が可能となりました。しかし、今回の場合、一般小売店における医薬品の販売自体が認められたのではありません。検討会で選定された「医薬品」は「医薬部外品」に移行することにより販売が可能となったのです。では、医薬品と医薬部外品の違いはどこにあるのでしょうか。
 私たちが身体のために効能効果などを期待して使用する製品には、薬事法上、「医薬品」、「医薬部外品」などがあります。これらは人体等への作用の強さ、使用目的などによって分類され、外箱等にそれぞれ表示がされています。この中で「医薬品」は、薬事法では①日本薬局方に収載されているもの、②疾病の診断、治療又は予防への使用を目的とするもの、③体の構造又は機能に影響を及ぼすことを目的とするものであり、機械器具ではないものと定義されています。例えば、処方箋により調剤される薬、薬局などで販売されている鼻炎用カプセル、風邪薬などが該当します。これらの製品は人体への直接的な作用が強いことから、その開発、製造から販売に至るまで様々な規制が設けられており、また、薬局・薬店以外では原則として販売することが出来ません。それに対して「医薬部外品」は、薬事法では①人体に対する作用が緩和なものであり機械器具ではないもの、②これらに準ずる物で厚生労働大臣の指定するものと定義され、使用目的などが限定されています。例えば、一部のドリンク剤、頭髪の染色に用いる染毛剤、ソフトコンタクトレンズ用消毒剤などが該当します。また、製造等には医薬品に準じた規制がありますが、販売については医薬品と異なり規制はありません。そのため、これらの製品は多くの一般小売店でもよく見かけられると思います。
下表に、今回新たに医薬部外品に移行した15製品群の一覧を示します。過去に医薬部外品に指定されていた製品は「滋養強壮、虚弱体質の改善及び栄養補給が目的とされている物(ビタミン含有保健剤)」、「胃の不快感を改善することが目的とされている物(健胃清涼剤)」など、「薬」という直接的な名称ではなく、効能効果が緩和である感じがありましたが、今回移行した製品群は、「いびき防止薬」、「瀉下薬」などの様にに、全て「薬」のまま移行されています。新たに医薬部外品に移行したものは配合成分及び配合量に制限があり、また、人体に対する作用が穏やかであるものとされていますが、今までは一般用医薬品として販売されていたことから、使用には注意が必要です。従って、厚生労働省では消費者の安全確保のために一般小売店、製造業者等に対して留意すべき事項を併せて示しています。一般小売店に対しては、消費者の誤解や誤用を防止するため、他の商品との識別及び品質の維持管理が可能である方法で陳列すること、販売時に外箱の表示情報について消費者に確認すること、使用に伴う健康被害の相談・苦情等の申し出に対して相談窓口に関する情報を提供するとともに、その情報を製造業者等に的確に伝達すること、また、不良品発生時に迅速に対応するため、製造業者等との連絡体制を整備することなどが示されています。一方、製造業者等に対しては、消費者が使用前に知っておく必要がある情報を、外箱等に見やすく且つ理解しやすく表示すること、消費者の副作用情報、相談・苦情については的確に対応すること、不良品発生時に迅速に対応するため、一般小売店との連絡体制を整備することなどが示されています。
しかしながら、どのような対策を講じたとしても誤用や乱用等による有害な作用が発生する可能性が考えられます。また、適切な使用であっても副作用が発生する可能性も否定できません。万が一、副作用の可能性が考えられた場合には、添付文書の使用上の注意を参照するとともに、速やかに医師または薬剤師に相談することも重要でしょう。手軽に購入できることにより消費者の利便性は高まりましたが、それに伴い消費者に任される責任も大きくなったとも考えられます。消費者も、購入の際は症状に合わせて正しく製品を選択すること、使用上の注意を十分理解して適切な使用を心がける事が重要だと考えられます。
(理化学部)
表 新たに医薬部外品に移行した15製品群

製品群
範囲(目的)

いびき防止薬
  いびきの一時的な抑制・軽減
カルシウムを主たる有効成分とする保健薬
  カルシウムの補給等
含嗽薬
  口腔内又はのどの殺菌、消毒、洗浄等(うがい用) 
健胃薬

胃のもたれ、食欲不振、食べ過ぎ、飲み過ぎ等の諸症状の改善 
口腔咽頭薬
  のどの炎症による痛み・はれの緩和等
コンタクトレンズ装着   コンタクトレンズの装着を容易にする
殺菌消毒薬   手指及び皮膚の表面または創傷部の殺菌等
しもやけ・あかぎれ用薬   しもやけや口唇のひび割れ・ただれ等を改善
瀉下薬
  便秘等を改善
消化薬   消化管内の食物等の消化を促進
生薬を主たる有効成分とする保健薬
  虚弱体質、肉体疲労、食欲不振、発育期の滋養強壮等
整腸薬   腸内の細菌叢を整え、腸運動を調節
鼻づまり改善薬(外用に限る)
  鼻づまりやくしゃみ等のかぜに伴う諸症状の緩和
ビタミンを含有する保健薬   ビタミン、アミノ酸その他身体の保持等に必要な栄養素の補給等
健胃薬、消化薬又は整腸薬のうち、いずれか二つ以上に該当するもの
  食欲不振、消化促進、整腸等の複数の胃腸症状を改善


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結核菌の新しい遺伝子型別法

″VNTR法″
           

高橋 智恵子

結核の現状と結核予防法の改正
 結核予防法が改正され、2005年4月より施行されました。小・中学生のツベルクリン(ツ)反応検査、BCG接種はすでに2003年から中止になっていますが、今回の改正で乳児へのBCG接種がツ反応検査を省略し直接接種となりました。定期健診は対象の見直しがなされ、高リスク集団を対象とした効率的な健診となります。また、患者治療においてはDOTS(Di- rectly observed treatment, short course)という患者を前にした直接服薬確認法が強化されます。このように、結核対策が状況の変化にあわせて一律的なものから個別のリスクに応じた、きめ細やかなものに変更されています。
   結核予防法は1919年に施行されましたが、1951年に大幅な改正が行われ、国を挙げての取り組みにより我が国の結核は世界で類を見ない速さで減少しました。しかし、最近、減少傾向が鈍化しており、2003年(結核の統計2004)における新登録患者は全国で31,638人、死亡者は2,336人を数え、依然として結核は国内最大級の感染症となっています。また、我が国の結核罹患率(人口10万人に対する新登録患者数)は24.8と報告されており、これは米国(5.2)の約5倍で、世界的にも結核の中蔓延国と位置づけされているのが現状です。ちなみに、神奈川県における2003年の新登録患者は1,961人、死亡者148人、罹患率22.6で、罹患率は対前年比0.2増となっています。
  結核は結核菌(Mycobacterium tu-berculosis )の感染により引き起こされる慢性的感染症です。患者から喀出された結核菌を含む飛沫核(エアロゾル)が空中を漂い、それを他の人が吸入し肺胞に定着することにより感染が成立します。感染しても約10%の人が発症する程度ですが、発症しない人でも、肺の中で結核菌は無くなったわけではないので、老化や生活習慣病(糖尿病、癌等)等により抵抗力が低下した時に発症(結核の再燃)することがあります。高齢者の結核の多くがこの再燃によるものです。現在、我が国では高齢化が急速に進んでおり、それに伴い新登録患者に占める70歳以上の患者も40%を超え、今後更に増加することが懸念されています。

結核の感染経路解明と結核菌の遺伝子型別
 結核の集団感染は近年も一向に収まることなく、学校、事業所、病院あるいは福祉施設等で発生しており、2000~04年に厚生労働省に報告された事例は170件を数えました。学校での集団発生が約3割と最も多く、本県内でも、2004年2月に横浜市内の大学において学生13名が結核を発症し、132名が予防内服治療を受けた事例がありました。集団感染が発生した場合に、感染の拡がりや感染経路・感染源の調査をし、拡大・再発を防止する必要があります。結核は発症まで長い時間を要するため集団感染の全貌を把握することは容易ではありませんが、感染経路を追求するための方法として、現在、患者から検出された結核菌の遺伝子型別が実施されています。学校や施設などで結核の集団感染と思われるような事例が発生した時に、複数の患者から検出された結核菌の遺伝子型を調べ、同一であれば同じ菌による感染となり、その菌を排出している感染源患者がどこかに存在することになります。そして、各患者の発病日、発生地域およびその他の疫学情報から集団感染との判断ができると同時に、感染経路・感染源の解明が可能です。また、一見関係がないように見える結核の散発事例が実は同一感染源に起因するものであることもあり、このような隠れた感染源をも見つけることができます。感染源を迅速に究明し、治療することが集団感染の再発防止につながり、更には結核の減少に結びつくことになるので、極めて重要です。
   現在、当衛生研究所では結核菌の塗抹検査や培養検査と並行して遺伝子型別を実施しています。遺伝子型別にはVNTR(Variable Number of  Tandem Repeat)法という新しい方法を導入しています。図1に示すように従来法のRFLP(Restriction Frag-ment Length Polymorphism)法は煩雑で高度な技術を要する上に、結果が判明するまでに1~2週間を要しますが、VNTR法では1~2日で結果を出すことが可能で、格段に迅速で、操作も簡便です。
図1 VNTR法とRFLP法の操作手順

VNTR法による結核菌の遺伝子型別
 結核菌の全塩基配列が1998年に解明され、その中に40~100塩基対(bp)の直列に反復される塩基配列(Tan- dem repeat)が複数箇所に存在することが分かりました。これらの箇所において反復される数は菌株で違いが見られることを利用して型別するのがVNTR法です。反復塩基配列の存在する部位をPCR(Polymerase ChainReaction)法で増幅し、各部位におけるPCR増幅産物の大きさから反復数(アリルプロファイル)を求めることができます。当所では現在、PCR増幅部位を16箇所(TBTR-1~16;西森ら、動物衛生研究所報告、2003年)とし、結核菌の型別を実施しています。図2に、結核標準菌株(H37Ra)のVNTR法におけるPCR産物の電気泳動像およびアリルプロファイルを示します。これらが一致すれば同一遺伝子型の菌であり、そうでなければ異なる型の菌と判断されることになります。
図2 結核標準菌株 (H37Ra) の電気泳動像およびアリルプロファイル
   当所では、神奈川県立循環器呼吸器病センターで分離された患者由来の結核菌をVNTR法で解析していますが、異なる患者由来の41株においては全てが異なるアリルプロファイルを示しました。一方、過去に結核を発症した人が完治後再び発症した3事例においては、初発時と再発時に分離された菌株のアリルプロファイルは一致し、以前に感染した結核菌が体内に残存し、その菌による再燃であることが判明しました。更に、少数例ですが、外国人から分離された菌株は日本人とは異なるアリルプロファイルを示す傾向が見られ、それらの外国人は日本国以外で感染した可能性が推定されました。
   このように、結果が数値(アリルプロファイル)で示されることで株間での比較はもちろん、他の施設で解析した株との比較も容易となり、これらの結果を集積することでVNTR法を利用した結核菌遺伝子型の広域データベース化が可能です。既に、米国ではデータベース構築が進められていると言われています。VNTR法の自動化も検討されており、近い将来には全国レベルでのVNTRデータベース化が進み、我が国の結核対策において大きく貢献することが期待されます。VNTR法のもう一つの特徴は、喀痰から直接に結核菌の遺伝子型別が実施できる可能性があることです。これはVNTR法がPCRを基礎的方法としているためですが、実用化されると遺伝子型別の迅速化が更に進むことになります。
   また、VNTR法では薬剤耐性結核菌を特異的に検出することはできませんが、耐性菌に特有のアリルプロファイルが見出される可能性はあると考えられます。従って、今後、この部分の検討が進むことにより、耐性菌感染患者に対する迅速な治療にもVNTR法が威力を発揮することになるかも知れません。
   当所においては、今後も結核菌の検査およびVNTR法による遺伝子型別を継続して実施すると同時に、VNTR法の応用として喀痰からの直接型別法および薬剤耐性菌の迅速検出法も研究課題の中で検討していく予定です。
(微生物部)

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