食の安全は消費者の大きな関心事になっています。平成15年7月には、国民の健康の保護を最優先とする食品安全行政の確立をめざした食品安全基本法が施行されました。これに伴い、食品による健康への影響について、科学的な目で公正中立に評価(リスク評価)する機関として、内閣府に食品安全委員会が設置されました。
食品安全委員会が、平成15年9月に食品安全モニターを対象に実施した「食の安全性に関する意識調査」の結果では、食品の安全性に係る危害要因18項目の中で不安を感じている人の割合が高いものは、「農薬」67.7%、「輸入食品」66.4%、「添加物」64.4%、「汚染物質」60.7%でした。また、輸入食品の食品添加物に対する不安の理由では、日本と海外の使用基準の違いが挙げられていました。この調査からも、消費者が食品添加物に高い関心を持っていることがうかがえます。
一方、輸入食品の違反事例の内容を見てみると、安全性とは必ずしも関係なく、輸出入国の規制の違いによるものがかなり含まれています。各国の食品衛生に関する規制の違いが、貿易障壁として問題になり、ハーモナイゼーション(国内基準を国際基準に合わせる)の動きが日本でも急速に進んできました。こうした変わりつつある食品添加物の最近の状況を、輸入食品の問題を中心に紹介致します。
【食品添加物の規制】
日本では食品衛生法により、厚生労働大臣が添加物として指定した物(指定添加物)のみが食品に使用でき、使用基準も定められています。国によって食習慣等の状況が異なるため、規制の内容は各国で異なります。諸外国で使用が認められていても、日本で未指定の添加物は使用できません。
【輸入食品の流れ】
食品を輸入する場合は、食品衛生法に基づき検疫所に届出を行い、食品衛生監視員による審査を受け(食品衛生法に規定される製造基準に適合しているか。添加物の使用基準は適切であるか。有毒有害物質が含まれていないか。過去に衛生上の問題があった製造者であるか。等)、検査による確認が必要と認められた場合(過去食品衛生法不適格が多い食品等)には検査を実施し、食品衛生法に適合していることを確認します。平成14年には全国で1,618,880件が輸入届出され、このうち136,087件(8.4%)について検査が実施されています。合格した食品は通関手続き後、国内流通します。不合格の食品は廃棄または積み戻し等の措置がとられます。通関前に行われる検査は輸入件数の一部分に限られるため、国内流通品は各自治体により監視・検査が独自に行われます。違反が判明した場合には、厚生労働省、検疫所、関係自治体が連携を図り、食品の回収、違反の恐れがある関連食品の検査等の必要な措置がとられます。
【衛生研究所の対応】
神奈川県では、毎年、輸入食品中の指定及び未指定の添加物を検査しています。
未指定の添加物が検出された最近の事例を示しますと、平成11年度に中国産の穀物加工食品から甘味料のサイクラミン酸が検出されました。サイクラミン酸は日本では昭和44年に使用が禁止されましたが、中国、EU等多くの国で使用が許可されています。平成13年度にはタイ産のカレーから、平成14年度には韓国産のコチュジャン(唐辛子みそ)から乳化剤のポリソルベートが検出されました。
平成14年には未指定の酸化防止剤であるTBHQ(t-ブチルヒドロキノン)入りの油を使用した多数の食品からTBHQが検出されたとの報道がありました。当所でも、中華まんじゅう等の検査を行いましたが、検出された食品はありませんでした。
また、食品添加物として指定されているものでも、使用が許されている食品以外に使用すれば違反となります。今年の事例を示しますと、過酸化ベンゾイルは、日本では小麦粉処理剤(漂白等)として小麦粉にのみ使用が許可されていますが、中国産はるさめに使用されていることが5月に報道されました。小麦粉が原料に含まれない食品から検出されると、食品添加物の対象外使用にあたります。厚生労働省が、5月から6月に検疫所で検査を実施したところ、10件の違反が発見されました。神奈川県でも、県内に流通しているはるさめ、ビーフン等計20検体を7月に検査しましたが、過酸化ベンゾイルは検出されませんでした。違反はるさめの販売店からの回収が迅速に行われたことがうかがえました。
このような輸入食品の添加物に関する違反は、各国の規制が異なる状況で、国内向けの製品を誤って日本に輸出したり国内製品と同一製造ラインで製造して混入した等が多くの原因となっています。
【ハーモナイゼーションの動き】
平成14年6月に中国から輸入された食塩に、日本では未指定の添加物であるフェロシアン化物が使用されていることが判明しました。フェロシアン化物は国際的に安全性が確認され、諸外国で食塩に固結防止の目的で使用されています。フェロシアン化物含有の食塩が非常に多くの加工食品に使用されているために、製品の回収等で市場の混乱を招くことが予測され、厚生労働省で食品衛生法上の対応が検討されました。添加物の規制に関して国際的な整合性を図る方向で見直しが行われ、国際的に安全性が確認され、かつ汎用されている添加物については、今後、指定の方向で検討するとの方針が厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品分科会において平成14年7月に了承されました。フェロシアン化物は薬事・食品衛生審議会での審議を経て、平成14年8月に食品添加物に指定されました。食品安全基本法の施行後は、厚生労働省の役割はリスク管理となりましたが、この時は食品安全委員会の設置前で、厚生労働省がリスク評価も行いました。
厚生労働省は、その後、46品目を対象に指定に向けた検討作業を行っています。これら対象品目のうち、ポリソルベート20,60,65,80(乳化剤)、ナイシン(保存料)、ナタマイシン(防かび剤)、亜酸化窒素(噴出剤、気体充填剤)、ヒドロキシプロピルセルロース(錠剤用結合剤、乳化剤、増粘剤、フィルム形成剤)について審議が開始され、今後、食品安全委員会の食品健康影響評価を受けた後に、薬事・食品衛生審議会において指定の可否及び成分規格の設定が検討される予定です。
【まとめ】
日本ではエネルギー換算で約6割の食品が輸入されています。厚生労働省では食品衛生に関する規制を国際基準に合わせる方向を示しました。しかし、基本的に添加物の使用は極力制限していくという考え方は変わりません。各食品毎の使用基準は、我が国における各食品毎の摂取量をもとに安全性評価を行って定められます。
食品流通の国際化が進み、様々な問題が新しく起きていますが、衛生研究所では、これらにいつでも対応できるよう研究を進めています。
(理化学部) |