WWWを検索 当サイトを検索

2024年3月5日更新

RSウイルス感染症

RS(respiratory syncytial)ウイルスによる感染症です。従来は秋から冬にかけて流行が見られましたが、報告数が最も多い週の中央値の比較では、2004年から15年が51週であるのに対し、16年から18年は36.5週、20年から22年では28週となり、流行のピークが早くなっていました。特に2021年は、県域(神奈川県内の政令市を除く地域)では28週に定点当たり8.59と例年のピーク時報告数の7倍の流行が見られました1。乳幼児、特に2歳以下に多くの報告がみられます。症状としては軽い風邪のような感冒様症状から重症の細気管支炎・肺炎まで、様々な呼吸器の症状を起こします。特に乳児期早期(生後数週間から数か月間)にRSウイルスに初感染した場合は重症化しやすいとされています。感染症法では5類感染症定点把握疾患に定められていて、指定された小児科から保健所に毎週、診断数が届けられます。

最大の週の中央値2004年から15年:51週、16年から18年:36.5週、20年から22年:28週
3群以上の間の比較(Kruskal-Wallis検定) P値 <0.001


1) RSウイルス感染症 2018~2021年 IASR Vol. 43, No.4 (No. 506) April 2022外部サイトを別ウィンドウで開きます

目次

感染経路

RSウイルスに感染した人の咳やくしゃみ、会話で飛び散る飛沫を吸い込んだり(飛まつ感染)、ウイルスの付いた手や物(手すりやおもちゃなど)を触ったりなめたりすること(接触感染)で感染します。感染後、3~8日程度は他人へ感染させる恐れがあります。一度RSウイルス感染症にかかった場合でも、再度感染することがあります。

症状

RSウイルスに感染して4~6日後に鼻汁・食欲の低下、続いて咳やくしゃみ、発熱などの風邪症状が現れます。多くは軽症で済み、ほとんどが1~2週間で症状が改善します。重くなる場合は咳が続き、喘鳴や呼吸が苦しくなるなどの症状が現れ、細気管支炎や肺炎へ進展します。低出生体重児、心臓や肺、神経や筋に生まれつきの病気がある場合、また免疫不全がある場合には重症化する危険性が高くなります。
新生児や生後2~3か月未満の乳児では典型的な症状が現れにくく、無呼吸発作などの重篤な症状を起こすことがあり注意が必要です。
感染後、気道過敏性2が持続し、ぜん息様症状が続く場合があります3

大人で感染した場合

通常鼻汁やのどの痛み、咳といった風邪症状が現れます。発熱も38℃未満で、全身症状が乏しく、介護の必要な高齢者では誤嚥性肺炎4と診断される事もあります。
高齢者施設等でも集団発生5する場合があります。下気道感染症から肺炎球菌6やインフルエンザ桿菌7の感染を併発し、重篤化する症例が認められます。


2) RSウイルス感染と5歳以下の喘息/RS virus infection and asthma under 5 years old 日本小児アレルギー学会誌2012年 26 巻 1号 p.177-184外部サイトを別ウィンドウで開きます
3) 小児の気道過敏性とウイルス感染 日本小児アレルギー学会誌2004年 18巻 1号 p.25-31外部サイトを別ウィンドウで開きます
4) 当院において冬季2シーズンに経験した成人RSウイルス感染症例の臨床像 感染症学会誌2016年 90巻 5号 p.645-651外部サイトを別ウィンドウで開きます
5) 新型コロナウイルス流行期に高齢者施設で発生したRSV-Bの集団感染事例 IASR Vol.43 p87-88: 2022年4月号外部サイトを別ウィンドウで開きます
6) RSウイルスと肺炎球菌が検出された老人福祉施設での集団発生事例-千葉県 IASR Vol.34 p.208-209: 2013年7月号外部サイトを別ウィンドウで開きます
7) Comparison of Community-Acquired Pneumonia in Relation to Influenza A and RS Virus Infections 2001 Volume 75 Issue 1 Pages 42-47外部サイトを別ウィンドウで開きます

このページのトップへ

診断について

迅速診断キットでRSウイルス抗原を検出する方法がありますが、健康保険適用が認められているのは、1歳未満の乳児、入院中の患者、パリビズマブ製剤の適応となる患者等8,9,10,11です。
乳幼児で緊急入院し集中治療が必要な重篤な呼吸器感染症になった場合はマイクロアレイ法 (定性)9検査が実施される場合があり、このキットの中にもRSウイルスの検査が含まれています。
また血清で抗体の上昇を確認する方法や、鼻やのどの分泌液からRSウイルスを分離する方法があります

治療について

RSウイルス感染症に対する特別な治療はありません。症状を和らげるための治療を行います。呼吸症状が重度の場合は入院の上、酸素投与や痰の吸引、呼吸の管理が必要な場合があります。入院が必要となるのはほとんどが6か月未満の乳児です。

予防のために

RSウイルス感染症は0歳、1歳児に多くみられ、特に6か月未満の乳児に感染すると重症化の可能性があります。そのため、咳などの呼吸器症状のある年長児や大人は可能な限り低月齢の乳児との接触を避けることが乳児の発症予防につながります。子どもが日常的に触れるおもちゃや手すりなどをこまめに消毒することも大切です。何度も感染しますが、年長児では呼吸器症状のみということが多いため、呼吸器症状を認める年長児には、マスク着用による飛まつ感染の予防、手洗いによる接触感染の予防が大切です。

RSウイルスに対するモノクローナル製剤として、パリビズマブ10(販売名:シナジス)があり、接種条件11を満たす早産児、肺や心臓の病気をもつ小児、免疫が低下した状態の小児等に対して流行時期に月1回の注射を行うことで重症化を予防することが期待できます。ただし、感染自体を予防する効果や病気を治す効果はありません。

また、RSウイルスワクチンについては、60歳以上の人を対象に組換えRSウイルスワクチン12,13(販売名:アレックスビー筋注用)が2024年1月から日本でも接種ができるようになりました。
さらに、令和6年1月18日14に「妊婦への能動免疫による新生児及び乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患の予防」を適応症として、組換えRSウイルスワクチン(販売名:アブリスボ筋注用、以下、RSウイルス母子免疫ワクチン)が製造販売承認を取得し、2024年3月現在、販売に向けた準備が行われています。RSウイルス母子免疫ワクチンは、妊婦への接種により、胎児へ中和抗体が移行し、乳児におけるRSウイルスを原因とした下気道感染を予防します。パリビズマブは、適応症が基礎疾患を有する児や早産児等となるため、妊婦への母子免疫ワクチン接種により、基礎疾患のない乳児のRSウイルス感染症の予防に寄与することが期待されます。日本小児科学会はRSウイルス母子免疫ワクチンの理解と接種が進むことを目的に、「RSウイルス母子免疫ワクチンに関する考え方」15を提示しています。


8) 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて 令和5年4月3日 日医発第4号(保険)外部サイトのPDFが別ウインドウで開きます

新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その80)令和4年10月28日厚生労働省保険局医療課外部サイトのPDFが別ウインドウで開きます
臨時的取り扱いとして新型コロナウイルス感染症の疑似症では入院患者・施設入所者にRSVを含む新型コロナウイルス感染症診断キット(PCRまたは抗原)を利用する場合があります。入院中以外において、小児科外来診療料、地域包括診療料、認知症地域包括診療料、小児かかりつけ診療料、生活習慣病管理料、手術前医学管理料又は在宅がん医療総合診療料を算定する患者にも適応されます。ただし算定は月1回まで可能です。

9) FilmArray呼吸器パネル2.1 添付文書外部サイトを別ウィンドウで開きます
Multiplex-Nested PCR法を利用し、インターカレーターの蛍光測定により、標的微生物の核酸を検出するキット 
10) 日本におけるパリビズマブの使用に関するコンセンサスガイドライン 2019年4月外部サイトのPDFが別ウインドウで開きます
11) ※パリビズマブの接種条件
  • 在胎期間28週以下の早産で、12か月齢以下の新生児および乳児
  • 在胎期間29~35週の早産で、6か月齢以下の新生児および乳児
  • 過去6ヵ月以内に気管支肺異形成症の治療を受けた24か月齢以下の新生児、乳児および幼児
  • 24か月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患の新生児、乳児および幼児
  • 24か月齢以下の免疫不全を伴う新生児、乳児および幼児
  • 24か月齢以下のダウン症候群の新生児、乳児および幼児
12) https://www.fda.gov/vaccines-blood-biologics/arexvy外部サイトを別ウィンドウで開きます
13) N Engl J Med 2023; 388:595-608 DOI: 10.1056/NEJMoa2209604
高齢者むけのワクチンが日米欧で承認されている。
14) 新医薬品として承認された医薬品について (事務連絡 令和6年1月18日)アブリスボ筋注用外部サイトのPDFが別ウインドウで開きます
15) RSウイルス母子免疫ワクチンに関する考え方 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会外部サイトを別ウィンドウで開きます

参考リンク

トップページへ戻る感染症情報センターに戻るこのページのトップへ


お問い合せはトップページ:お問い合わせまたは下記までご連絡ください。

神奈川県衛生研究所 神奈川県ホームページ
〒 253-0087 神奈川県茅ヶ崎市下町屋1丁目3番1号
電話:0467-83-4400
ファックス:0467-83-4457

本ホームページの著作権は神奈川県衛生研究所に帰属します。
Copyrightc 2004 Kanagawa Prefectural Institute of Public Health. All rights reserved.