令和6年度 神奈川県感染症発生動向調査解析委員会報告
令和7年2月7日(金)開催
[出席委員] | |
委員長 | 森 雅亮(東京科学大学新産業創生研究院 生涯免疫医療実装講座 教授) |
副委員長 | 清水 博之(藤沢市民病院 臨床検査科部長・感染対策室長) |
委員 | 今川 智之(神奈川県立こども医療センター感染免疫科部長) |
委員 | 梅沢 幸子(間島医院院長) |
委員 | 片山 文彦(小児科内科落合医院院長) |
委員 | 笹生 正人(笹生循環器クリニック院長 神奈川県医師会理事) |
委員 | 三﨑 貴子(川崎市健康安全研究所長) |
委員 | 三森 倫(相模原市健康福祉局保健所長) |
委員 | 横山 涼子 (横浜市医療局衛生研究所感染症・疫学情報課 課長) |
[オブザーバー] | |
近内美乃里(神奈川県鎌倉保健福祉事務所長) | |
多屋 馨子(神奈川県衛生研究所長) | |
横浜市医療局健康安全部、横浜市衛生研究所、川崎市健康福祉局保健医療政策部、川崎市健康安全研究所感染症情報センター、相模原市健康福祉局保健所疾病対策課、相模原市衛生研究所、横須賀市保健所保健予防課、横須賀市健康安全科学センター、藤沢市保健所保健予防課、茅ヶ崎市保健所保健予防課 |
議題
1 2024年の感染症発生動向調査及び病原体検出状況について
2 2024年に話題となった感染症について
3 その他
- 感染症と予防接種に関する最近の動向
- 2024年の感染症の状況に関する情報交換
議題1 2024年の感染症発生動向調査及び病原体検出状況について
〇 全数把握疾患報告数(資料1-1
、1-2
、1-3
)
- 累積報告数は2023年の2,879件にくらべ2024年は3,310件と増加した。疾患別でみるとカルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症、劇症型溶血性レンサ球菌感染症、侵襲性肺炎球菌感染症、梅毒、百日咳の増加が目立った。
〇 定点把握対象疾患週別報告数推移(資料2)
- インフルエンザは、2024年44週に定点当たり報告数が1を上回り、流行開始となった。また50週に定点当たり報告数が10を超え、注意報レベルとなった。51週には定点当たり報告数が30を超え警報レベルとなった。52週には66.30となった。
- 新型コロナウイルス感染症は2023年5月8日から5類定点把握対象疾患となった。2024年は5週(定点当たり報告数14.61)、と30週(定点当たり報告数10.66)をピークとした流行がみられた。48週から年末にかけては緩やかに増加した。
- RSウイルス感染症は16週をピークとした流行がみられた。
- 咽頭結膜熱は3週以降定点当たり報告数1未満で推移した。
- A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、2024年前半は定点当たり報告数3前後で推移していたが、後半は1~2で推移した。
- 手足口病は28週と41週をピークとする二峰性の流行がみられた。
- 伝染性紅斑は23週頃から増加し48週に警報レベル2を超えた。49週以降は減少している。また全国に比べて定点当たり報告数が多かった。
- ヘルパンギーナは夏季に流行がみられたが、2023年に比べて流行の規模は小さかった。
〇 神奈川県衛生研究所における病原体検出状況(2024年1月~12月)(資料3)
- 劇症型溶血性レンサ球菌感染症患者報告数の推移では、全国、神奈川県ともに2021年以降に増加傾向となり、2024年は過去最高の報告数となった。死亡例の割合に増加はなかった。従来のM1株よりも病原性や伝播性が高く重症化しやすい特徴があるMIUK系統株が、関東、特に神奈川県で多く分離されている。
- インフルエンザについて、2023/2024シーズンは、AH3が主流行株で、検出内訳は、AH1が106件、AH3が179件、Bが96件であった。2024/2025シーズンは、AH1が181件、AH3が25件、Bが2件であった。
- 手足口病について、2024年は二峰性の流行がみられた。コクサッキーウイルスA6型が6月、7月に多く検出され、コクサッキーウイルスA16型が9月から12月に検出されており異なる型のコクサッキーウイルスが時期をずらして流行した。2010年まではエンテロウイルスA71型とコクサッキーウイルスA16型による流行、2011年以降はコクサッキーウイルスA6型による流行が多く、1年おきに流行が見られる(COVID-19流行の2021-2022年を除く)。
- 新型コロナウイルスについて、2023年4月~2025年1月に県域で190種のオミクロン変異系統が検出された。2023年10月にBA.2.86系統(通称名Pirola)が初めて検出され、JN系統は12月から検出された。2024年3月にKP系統が初めて検出され、90%を占めたが、2025年1月には減少傾向が見られた。しかしながら、KP.3系統は未だ全体の4割を占めている。組換え系統であるXECが9月に初めて検出され、2025年1月にはXECが5割を占め増加傾向となっている。
議題2 2024年に話題となった感染症について
〇 マイコプラズマ肺炎の県内発生動向について(資料4)
- マイコプラズマ肺炎は2024年21週ごろから定点当たり報告数が増加し始め、45週(3.08)をピークとする大きな流行がみられた。2017年から数年にわたって定点当たり報告数が少ない期間が続いており、免疫を持つ人の割合が低下したことで、大きな流行につながったのではないかと考えられる。
- 2024年は、特に1~14歳の患者が激増し、19歳未満の患者の割合も84.4%と大幅に増加している。
- 保健所別では、横浜市が268件と最も多く、厚木保健福祉事務所の109件、藤沢市の79件、川崎市の30件の順に報告数が多くなっている。
〇 梅毒の県内発生動向について(資料5)
- 県内梅毒報告数は、2018年まで増加を続け、2019年、2020年と減少したが、2021年は再び増加し、以降は増加を続けている。全数に占める女性の割合はここ数年、3割程度となっている。
- 年齢別では、男性は20代から40代を中心に幅広い世代に広がりがみられた。一方女性は20代が圧倒的に多くなっている。
- 病型別では、男性は早期顕症梅毒Ⅰ期で発見されるものが多い。一方、女性は早期顕症梅毒Ⅱ期で発見されるものが多い。
- 2023年に比べて、男性の性風俗利用歴有りの割合は微減、女性の性風俗従事歴有りの割合は増加した。
- 妊娠中に発見された梅毒患者数は2024年が最近5年で最多で、そのほとんどが無症状病原体保有者であったが、早期顕症梅毒の報告もあった。
- 感染原因別ではほとんどが「性的接触」であった。全体に対する割合は異性間が多くなっている。また、母子感染が3件あった。
〇 急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランスについて
- 急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランスが令和7年4月から開始される。
- 目的は「ARIの定義に合致する症例数及び収集された検体または病原体から、各感染症の患者数や病原体等の発生数を集計し、国内のARIの発生の傾向(トレンド)や水準(レベル)を踏まえた、流行中の呼吸器感染症を把握すること」
- 症例定義は、「咳嗽、咽頭痛、呼吸困難、鼻汁、鼻閉のいずれか1つ以上の症状を呈し、発症から10日以内の急性的な症状であり、かつ医師が感染症を疑う外来症例」
- オウム病・レジオネラ症、クラミジア肺炎・マイコプラズマ肺炎、百日咳、インフルエンザ・COVID-19・RSウイルス感染症等が特定感染症予防指針の対象とするARIの範囲となる。このうち、「急性呼吸器感染症」が4月から新たに五類感染症に位置付けられることとなり、定点医療機関から患者数をご報告いただくこととなる。
- 神奈川県においても4月からのARI病原体サーベイランス開始に向け、現在検査法等について調整中。
議題3 その他
- 多屋神奈川県衛生研究所長から感染症と予防接種に関する最近の動向として、帯状疱疹、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症、百日咳、麻しん、風しんについて情報提供があった。
- 2024年の感染症の状況に関する情報交換が各委員により行われた。
以上