令和5年度 神奈川県感染症発生動向調査解析委員会報告
2024年2月16日(金)開催
[出席委員] | |
委員長 | 森 雅亮(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生涯免疫難病学講座 教授) |
副委員長 | 清水 博之(藤沢市民病院 臨床検査科部長・感染対策室長) |
委員 | 今川 智之(神奈川県立こども医療センター感染免疫科部長) |
委員 | 岡部 信彦(川崎市健康安全研究所長) |
委員 | 梅沢 幸子(間島医院院長) |
委員 | 片山 文彦(小児科内科落合医院院長) |
委員 | 笹生 正人(笹生循環器クリニック院長 神奈川県医師会理事) |
委員 | 三森 倫(相模原市健康福祉局保健所長) |
委員 | 横山 涼子(横浜市医療局衛生研究所感染症・疫学情報課 課長) |
[オブザーバー] | |
佐々木 つぐ巳(神奈川県厚木保健福祉事務所長) | |
多屋 馨子(神奈川県衛生研究所長) | |
横浜市健康福祉局健康安全部健康安全課、川崎市健康福祉局保健所感染症対策課、川崎市健康安全研究所感染症情報センター、相模原市健康福祉局保健所、相模原市衛生研究所、横須賀市健康部保健所保健予防課、藤沢市保健所保健予防課、茅ヶ崎市保健所保健予防課感染症発生動向調査担当 |
議題
1 2023年の感染症発生動向調査及び病原微生物検出状況について
- 全数把握疾患報告数(資料1)
- 定点把握対象疾患週別報告数推移(資料2)
- 病原微生物検出状況(2023年1月~11月)(資料3)
- 神奈川県衛生研究所における病原体検出状況(2023年1月~12月)(資料4
、
URL:https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/003_center/COVID-19/SARS-CoV-2_genome2312.pdf)
2 2023年に話題となった感染症について
- 腸管出血性大腸菌感染症の県内発生動向について
- 梅毒の県内発生動向について
3 その他
- COVID-19パンデミックに対する神奈川県感染対策協議会としての4年間の取り組み~神奈川県健康医療局医療危機対策本部室「新型コロナウイルス感染症 神奈川県対応記録(保健医療編)」からの抜粋~
- 予防接種等について
- 2023年の感染症の状況に関する情報交換
議題1 2023年の感染症発生動向調査及び病原微生物検出状況について
〇 全数把握疾患報告数(資料1)
累積報告数は2022年の2,477件にくらべ2023年は2,859件と増加した。疾患別でみるとデング熱などの輸入感染症が増加し、侵襲性インフルエンザ菌感染症、侵襲性肺炎球菌感染症、百日咳、風しん、水痘(入院例)などの飛沫・飛沫核感染する疾患も報告数が増加した。
〇 定点把握対象疾患週別報告推移(資料2)
- インフルエンザは、2023年34週に定点当たり報告数が1を上回り、流行開始となった。また39週に定点当たり報告数が10を超え、注意報レベルとなった。50週に定点当たり報告数が最多となり、その後減少した。
- 新型コロナウイルス感染症は2023年5月8日から5類定点把握対象疾患となった。18週から36週までは増加傾向で、その後45週まで減少したが再び増加傾向となった。
- RSウイルス感染症は2022年にくらべて流行の開始が早く、27週がピークとなり減少した。流行した期間は短かった。
- 咽頭結膜熱は35週から増加し、48週に警報レベルを超えたが、その後減少した。
- A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は20週から31週まで定点当たり1を超えており、32週、33週は減少したが、34週から再び増加し50週がピークとなり、減少した。
- ヘルパンギーナは20週から増加をはじめ、27週をピークとして夏季に流行した。
〇 病原体微生物検出状況(2023年1月~11月)(資料3)
【細菌】
- 腸管出血性大腸菌感染症検体からの腸管出血性大腸菌の検出は夏季に多く、陽性率は9.5%であった。食中毒様搬入検体からの腸管出血性大腸菌検出はなかった。
- A群溶血性レンサ球菌の検出は5月以降増加した。
- カンピロバクター属細菌の食中毒様搬入検体に占める割合は12.6%であった。
- レジオネラ属菌は主に6月から10月にかけて検出された。
【ウイルス・リケッチア】
- インフルエンザ様疾患患者からの検体搬入は、年間を通してあり、学級閉鎖に伴う初発検査が例年よりも早く9月に搬入されたため、検査件数は9月が最も多かった。8月頃までは主にAH3型が検出されたが、10月・11月はAH1型が4割を占めた。インフルエンザ様疾患患者からの搬入検体578件中AH1型91件、AH3型312件、B型10件、A(亜型不明)4件であった。インフルエンザ様疾患患者から新型コロナウイルスの検出はなかった。
- RSウイルス感染症患者は、夏季に多く報告されたが、病原体サーベイランスの対象になっておらず、搬入検体からは、RSウイルスは検出されなかった。
- ヘルパンギーナ患者は、夏季に多く報告され、搬入検体からはコクサッキーウイルスA4型20検体、A2型14検体が検出された。
- 手足口病患者からの検体では、10検体からコクサッキーA16型が検出された。
- 咽頭結膜熱患者は、12月末に多く報告され、搬入検体32件からアデノウイルス3型が検出された。
- 感染性胃腸炎検体54検体からはノロウイルスが20件と最も多く検出された。
- 麻しん疑い67検体、風しん疑い12検体、流行性耳下腺炎疑い7検体からは病原微生物は検出されなかった。
- 急性脳炎疑い患者からの検体14件からは、コクサッキーウイルスA4型4件、新型コロナウイルス2件、サイトメガロウイルス2件、ヒトヘルペスウイルス7、1件が検出された。
- エムポックスウイルスは、6月に検体搬入があり、1症例6検体が陽性であった。
- 新型コロナウイルス感染症疑い例は1,171検体中828件が陽性で、陽性率は70.7%であった。
- 食中毒様搬入検体でのノロウイルス陽性率は30.2%であった。8月にロタウイルスが3検体から検出されたが、この3例は全例食中毒様搬入検体だった。
〇 神奈川県衛生研究所における病原体検出状況(2023年1月~12月)(資料4)
(1)定点把握疾患における病原体検出状況(神奈川県、茅ヶ崎市、藤沢市)
- 2023年の病原体検出状況は、2022年より増加した病原体が多かった。
- インフルエンザは、494症例中398症例から検出されAH1、AH3,B亜型が検出された。2023年は2022年に比較し症例数、検出数ともに大幅に増加した。
- 手足口病は2022年47症例が2023年25症例と減少しているが、25症例中21症例からコクサッキーウイルスA2型、A4型、A16型、エンテロウイルスA71型、パレコウイルスA3、A6、ヒトライノウイルス、アデノウイルス3型が検出されていた。
- ヘルパンギーナは、2022年は0症例が2023年48症例で、手足口病とほぼ同様のウイルスが検出されていた。
- 咽頭結膜熱についても2023年に非常に増えており、アデノウイルス1型、2型、3型、54型が検出され、3型が多かった。
- 感染性胃腸炎は2022年と比較し、減少している。アデノウイルス、ノロウイルス、サポウイルスが検出された。
- 無菌性髄膜炎では、2022年と検出状況は大きく変わっていないが、11症例中7症例からコクサッキーウイルスB5型、パレコウイルスA3型、ヒトライノウイルス、ヒトヘルペスウイルス3(水痘・帯状疱疹ウイルス)、5、6と様々なウイルスが検出された。
- 細菌感染症は、感染性胃腸炎患者36症例中11症例から下痢原性大腸菌、カンピロバクターが、A群溶血レンサ球菌は102症例中68件から血清型T12型等が検出された。レジオネラ症については、レジオネラ・ニューモフィラが22検体中9件から検出された。
(2)全数把握疾患の病原体検出状況
- E型肝炎は、2022年から2023年の患者報告数に大きな違いがないが、2023年は1件検出があり、遺伝子型はG3であった。
- つつが虫病の症例数・検出数は例年同様で、20症例中7症例から血清型Kawasaki、Kuroki、UT(血清型不明)が検出されていた。
- デング熱は、報告数、症例数ともに増えており、5症例中3症例から血清型D1、D2が検出された。
- 急性脳炎については、当所では4症例中3症例で病原体検出があった。うち1症例から4種類のウイルスが検出された。その内訳は、コクサッキーウイルスA4型、ヒトヘルペスウイルス4、7、新型コロナウイルスであった。
- 風しんは、症例数が5例で検出は無かった。
- 麻しんは、症例数が22症例と多かったがいずれも不検出であった。これらの症例は、渡航歴があったため麻しん疑いとして検査依頼があったが検出は無かった。
- 梅毒は、2022年と比較し検査数が約1.4倍と増加している。スクリーニング検査では、検査数623件中陽性が26件で、陽性率は2022年4.9%から2023年4.0%に減少した。
- 後天性免疫不全症候群(HIV)は、神奈川県では即日検査がコロナ禍で実施できなくなった影響もあり、検査数が減少していたが、2023年は検査数が多くなっており、スクリーニング検査としては6件が陽性、その後の確認検査でも5件が陽性となっており、確認検査の陽性率としては昨年と比べて変化がなかった。
(3)新型コロナウイルスのゲノム解析について
(URL:https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/003_center/COVID-19/SARS-CoV-2_genome2312.pdf
)
- 2023年の1月から12月までの状況をまとめた。最初はBA.5から由来した系統が多かったが、そこからは緑色のグループいわゆるXBBの系統が占有を広げていき、さらにその亜型である、E、D型が多くなってきている。12月には、いわゆるJN株などの亜型が増えてきていた。
- 「神奈川県域で検出された変異系統(2022.7~2023.12(暫定))と、本解析における略称対応一覧」では最近の1か月間で出現した新規系統を赤で示したとおり、J株やHK株が系統を増やしている。J株・HK株のようにXBBから組み替わっている系統が多様化しているのが現状である。
- まとめとしては、最近ではJ系統が占有率を伸ばしているという状況であった。
議題2 2023年に話題となった感染症について
〇 腸管出血性大腸菌感染症の県内発生動向について
- 腸管出血性大腸菌感染症の発生届は326例提出された。
- 患者は220名、無症状病原体保有者は106名で、男性143名、女性183名であった。患者・無症状病原体保有者合計の報告数は1~13週21例、14~26週105例、27~39週154例、40~52週46例と夏季に増加していた。21週から22週にかけては横浜市の行政検査が実施され増加していたが、27週の報告については疫学的リンクの無い孤発例であった。
- 疫学調査で食材の記載があったもののうち、ユッケ・生レバー・その他生肉は、韓国7例、神奈川県4例、不明3例であった。焼肉・BBQ・ホルモンは神奈川県19例、その他都道府県8例であった。馬肉は神奈川県3例、韓国1例、イタリア1例、不明4例であった。海外渡航の再開に合わせて輸入症例が報告されている。
〇 梅毒の県内発生動向について
- 県内梅毒報告数は、2018年まで増加を続け、2019年、2020年と減少したが、2021年は再び増加し、2022年、2023年と増加を続けている。全数に占める女性の割合はここ数年、3割程度となっている。
- 年齢別では、男性は20代から40代を中心に幅広い世代に広がりがみられた。また、2023年は2022年に比べて、50代、60代の報告数が増加している。一方女性は20代が圧倒的に多く、30代、40代が続いている。また、2023年は2022年にくらべて、10代の報告数が増加している。
- 病型別では、男性は早期顕症梅毒で発見されるものが8割を超え、Ⅰ期で発見されるものが5割を超えている。一方、女性は早期顕症梅毒で発見されるものが6割を超えているものの、Ⅱ期で発見されるものが4割を超えている。
- 男性の性風俗利用歴有りの割合、女性の性風俗従事歴有りの割合は、2023年は2022年にくらべ低下していた。
- 妊娠中に発見された梅毒患者数は2023年が最近5年で最多で、そのほとんどが無症状病原体保有者であった。
- 感染原因別では「不明」「その他」以外のほとんどが「性的接触」であった。全体に対する割合は異性間が75%、同性間が7%程度で推移している。
- 県内の梅毒発生動向の増加に伴い、今後の対策への参考とするため、清水副委員長から「先天性梅毒の動向と課題」について情報提供があった。
議題3 その他
- 森委員長から神奈川県健康医療局医療危機対策本部室が取りまとめた「新型コロナウイルス感染症 神奈川県対応記録(保健医療編)」からの抜粋を用い、COVID-19パンデミックに対する神奈川県感染症対策協議会としての4年間の取組みについて報告があった。
- 多屋神奈川県衛生研究所長から予防接種ならびに予防接種で予防可能疾患(VPD)に関する最近の話題として新型コロナウイルス感染症、RSウイルス感染症、麻しん、風しん、HPV等の情報提供があった。
- 2023年の感染症の状況に関する情報交換が各委員により行われた。
以上