令和3年度 神奈川県感染症発生動向調査解析委員会報告
2022年3月2日(水)開催
[出席委員] | |
委員長 | 森 雅亮 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生涯免疫難病学講座 教授) |
副委員長 | 清水 博之 (藤沢市民病院臨床検査科 医長) |
委員 | 今川 智之 (神奈川県立こども医療センター感染免疫科部長) |
委員 | 岡部 信彦 (川崎市健康安全研究所長) |
委員 | 片山 文彦 (小児科内科落合医院院長) |
委員 | 木村 博和 (横浜市金沢福祉保健センター長) |
委員 | 笹生 正人 (笹生循環器クリニック院長 神奈川県医師会理事) |
委員 | 鈴木 仁一 (相模原市保健所長) |
委員 | 横田 俊一郎(横田小児科医院院長) |
[オブザーバー] | |
佐々木 つぐ巳(神奈川県鎌倉保健福祉事務所長) | |
髙崎 智彦(神奈川県衛生研究所長) |
議題
(1)2021年の感染症発生動向調査及び病原微生物検出状況について
- 全数把握疾患報告数
- 定点把握対象疾患週別報告数推移
- 病原体微生物検出状況
- 神奈川県衛生研究所における病原体検出状況(2021年1月~12月)
(2)2021年に話題となった感染症について
- RSウイルス感染症の県内発生動向について
- 神奈川県衛生研究所におけるHIVと梅毒について
- 新型コロナウイルス感染症について
- 新型コロナウイルス変異株の動向について
(3)その他
- [情報交換]新型コロナウイルス感染症について
(1)2021年の感染症発生動向調査及び病原微生物検出状況について
〇 全数把握疾患報告数
- 2021年の全数把握疾患について総数は2,378件となり、前年2,345件より33件増加した。
全体的にはデング熱、麻しんなど輸入感染症や、肺炎球菌、百日咳、風しんなどの飛沫・飛沫核感染をする疾患の報告は大幅に減少した。一方、梅毒など性感染症や腸管出血性大腸菌感染症、E型肝炎の増加が特徴的であった。 - 一類の報告はなかった。
- 二類は結核のみで、前年1,153件から1,105件と48件減少した。1,105件のうち肺結核が494件、その他の結核198件、肺結核及びその他の結核(肺以外の結核病変を伴う肺結核)57件、無症状病原体保有者が348件、疑似症8件であった。
- 三類では、腸管出血性大腸菌感染症は前年173件から254件と増加し、性別内訳は男性80件、女性174件と女性が多く、年齢層では10歳未満に最も多くみられた。
- 四類では、E型肝炎が前年39件、今年61件と報告が比較的多く、性別では男性が53件と多く、年齢層では30代から70歳以上まで幅広くみられた。A型肝炎は前年7件から4件に減少した。つつが虫病は、前年27件から17件と減少し、性別では男性が10件と多く、年齢層は70歳以上が12件と多くなっていた。輸入感染症のデング熱は前年2件から1件と引き続き低い水準になっており、マラリアは前年3件から本年は報告なしであった。レジオネラ症は前年112件から108件と減少した。レジオネラ症の病型は、例年通り肺炎型が100件と多く、性別では男性、年齢別では50歳代以上に多かった。
- 五類感染症では、アメーバ赤痢が54件から57件に微増した。急性脳炎は、前年32件から17件に減少し、その他の病原体が3件、病原体不明が14件であった。カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症が前年122件から122件と横ばいで、性別では男性77件と多く、70歳以上で多くみられた。クロイツフェルト・ヤコブ病は前年4件から7件に増加した。劇症型溶血性レンサ球菌感染症は前年51件から40件と減少した。後天性免疫不全症候群(AIDS)では、65件から67件と微増し、男性が63件とほとんどを占め、20歳以上の幅広い年齢層で報告され、AIDS発症が23件と約3分の一を占めた。侵襲性インフルエンザ菌感染症は前年22件から12件に減少、侵襲性肺炎球菌感染症は前年102件から91件、水痘(入院例)は前年26件から18件と減少した。バンコマイシン耐性腸球菌感染症は前年7件から1件に、百日咳は79件から21件と減少した。一方、梅毒は前年219件から333件と増加し、早期顕症梅毒と無症候性病原体保有者がほとんどだが、先天梅毒1件、晩期梅毒12件を認めた。播種性クリプトコックス症は前年5件から12件に増加した。百日咳は79件から21件と減少したが、幅広い年代にみられた。風疹は前年8件から1件に、麻疹は前年1件から0件と減少した。
〇 定点把握対象疾患週別報告推移
- インフルエンザは、2019年49週に注意報レベルの定点当たり10を上回ったが、2020年6週には10を切り、その後2020年と2021で報告はほとんどなかった。
- RSウイルス感染症は2020年にほとんど報告がなかったが、2021年19週から報告数が増え始め27週をピークとする流行がみられた。
- 咽頭結膜熱は2021年では2020年と比較して夏季に報告数が増加しているが、一年を通じて報告は少なく警報レベルを超える週はなかった。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎も、2021年は一年を通じて報告は少なかった。
- 感染性胃腸炎は2021年45週から増加し、51週にピークがみられたが例年冬と同程度の流行であった。
- 水痘は、2021年は年間通じて報告は少なかった。
- 手足口病は、2021年夏の報告はほとんどなかったが、45週から報告数が増加しはじめ49週をピークとする流行がみられた。ヘルパンギーナも同様に秋から冬に報告数の増加がみられた。
- 伝染性紅斑は一年を通じて報告数は少なく、突発性発疹は前年と報告数はほぼ変わりなかった。
- 流行性耳下腺炎も2021年は2020年に引き続き一年を通じて報告は少なかった。
- 急性出血性結膜炎は2021年も前年も報告が少なく、大きな変化なしであった。
- 流行性角結膜炎は、2021年も前年と同様、報告は少なかった。細菌性髄膜炎は変わらず報告はとても少なかった。無菌性髄膜炎も、前年と変わらず報告はとても少なかった。
- マイコプラズマ肺炎は前年も少なかったが、2021年はさらに報告が減少した。
- クラミジア肺炎の報告はなかった。
- ロタウイルスも、2021年は報告がほとんどなかった。
- 性感染症の2021年、月別報告数は、性器クラミジア、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、淋菌感染症は、全国と比べて神奈川県の定点当たり報告数は全体に少ない傾向だった。
- 薬剤耐性菌の2021年、月別報告数は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症は、全国より神奈川県の報告は少なかった。ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症は全国より県で多く見える月もあるが、報告はそれぞれ、一年間で27件、2件だった。
○病原体微生物検出状況(2021年1月~11月)
- 病原細菌検出状況は、2020年の全体の検体数は154件、2021年は57件と減少傾向であった。検出状況としては、腸管出血性大腸菌21件、カンピロバクター・ジェジュニが8件、レジオネラ・ニューモフィラ7件と多い傾向だった。
- 臨床診断名別の病原細菌検出状況は、検査の多かった感染症では、腸管出血性大腸菌感染症は87検体中、21件で菌を検出した。レジオネラ症は16検体中、レジオネラ・ニューモフィラ8件を検出した。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は30検体中、4件で同菌を検出した。感染性胃腸炎17件中、4件で病原菌を検出した。食中毒様感染症では、99件中、カンピロバクター・ジェジュニ8件、黄色ブドウ球菌2件などが検出された。
- ウイルス・リケッチア検出状況は、2020年の全体の検体数は1,221件、2021年は11月までだが2,459件と増加していた。この増加はSARS-CoV-2の検体数の増加によるもので、検出状況は、SARS-CoV-2が2,402件、ノロウイルス23件、と多い状況となっていた。2020年に149件あったインフルエンザウイルスは2021年では0件となっていた。
- 臨床診断名別のウイルス・リケッチア検出状況は、検査の多かった感染症では、新型コロナウイルス感染症疑い例が13,818例中、2,402件でSARS-CoV-2を検出した。感染性胃腸炎33件中、ノロウイルスを14件検出した。つつが虫病は、10件中8件でオリエンチア ツツガムシを検出した。無菌性髄膜炎13件中、コクサッキーウイルスA6型 3件、ヒトパレコウイルス1型 3件、ヒトヘルペスウイルス62件、検出した。また、食中毒様感染症49例中9例でノロウイルスを検出した。
○神奈川県衛生研究所における病原体検出状況(2021年1月~12月)
- 病原体検出状況は、2021年は、全体に非常に低いレベルになっているが、インフルエンザは全く症例・検出はなく、手足口病は症例数14件、検出数8件、病原体はCV-A6、ヒトライノウイルス(HRV)。ヘルパンギーナは7件検出され、これも原因ウイルスはコクサッキーウイルスA4型(CV-A4)、コクサッキーウイルスA6型(CV-A6)。咽頭結膜熱は1件だけでアデノウイルス2型(AdV-2)、無菌性髄膜炎は症例3件、病原体はCV-A6、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)、ヒトパレコウイルス1型(PeV-1)があった。
- 細菌感染症は、感染性胃腸炎は下痢原性大腸菌が4件、A群溶血性レンサ球菌感染症はA群溶血性レンサ球菌が4件検出され、T-B3264型であった。
- 全数把握疾患の病原体検出状況は、大方減少しているが、つつが虫病は、2020年、2021年と増加し、2020年は13症例で11件検出、2021年には10症例で8件検出となっていた。
- 風しん・麻しんは、輸入感染症の側面が大きく、風しんは2020年1件検出、2021年0件、症例が2件とほとんど来ない。麻しんは、症例は10件前後来ているが検出は全くない。
- 性感染症である梅毒については、例年並みであり、報告数としてはむしろ増えていた。
(2)2021年に話題となった感染症について
〇RSウイルス感染症の県内発生動向について
- 報告数の週別推移をみると、2021年は19週あたりから報告数が増加し、25-27週にピークを迎え、37週までに収束している。これは2017年から2019年のグラフと比較して明らかに流行の始期が早くなっており、ピーク時の感染者数も明らかに多くなっている。
- 2021年流行期における保健所別定点当たりの報告数は、21週から31週の週平均は厚木、小田原、秦野、川崎、横浜が多くなっている。
- 2021年1週から52週の年齢別割合は、1、2歳が最多で半数以上を占めている。また5歳未満が97%となっている。
〇神奈川県衛生研究所におけるHIVと梅毒について
- 神奈川県衛生研究所におけるHIV検査数と陽性率の推移は、2018年、2019年は検査数が1,316件、1,616件であり確認検査陽性数が7件、9件、2020年は900件、2021年は659件ほどで検査数としては減少したが、陽性数は各々5件であった。検査数あたりの陽性者数のパーセンテージを見ると0.5%程度とであまり変化がなく、2021年に関しては0.7%で若干上がっていた。
- 梅毒検査をHIVに付随して実施しているが、陽性数は約2~3%でパーセンテージにはあまり変化が見られない。2021年は400件程度しか検査していないが、陽性数が20名あり、陽性率が非常に高い状況になっている。
- 梅毒患者数の推移は、神奈川県と全国でほぼパラレルになっており、2018年をピークに減少していた件数が2021年に増加していた。
- HIV検査数と陽性数の推移は、検査数は2020年に大きく減少し、それと比べると感染者数はあまり減っていないという状況となっている。
〇新型コロナウイルス感染症について
- 2020年4月から最近までの神奈川県の新型コロナの日別報告数と7日間移動平均※は、2021年は1月を流行のピークとする第3波があり、1月8日から3月21日まで緊急事態宣言が出された。
- 4月末からのアルファ株中心の第4波に対しては、4月20日からまん延防止等重点措置がとられた。第4波の報告数が下がりきる前に第5波に移行したため8月2日から緊急事態宣言に移行している。
- 第5波は8月にピークであり、9月に入ると急速に感染者数は減少した。緊急事態宣言は9月30日で解除され、第5波はデルタ株が中心であった。10月下旬から報告数は非常に低い水準を保っていた。
- 11月にアフリカ南部を起源とするオミクロン株が海外において確認された。12月下旬ころから日本国内で検疫を中心にオミクロン株が確認され、市中へと広がっていった
- 神奈川県内でも2022年初めからオミクロン株が確認され、急速に感染者数が増加していた。
- 7日間移動平均線は、神奈川県、東京都と類似の傾向で推移している。
- 2020年から現在までの神奈川県の新型コロナ感染者報告についてまとめた。2020年は22,476件、2021年は147,395件で大幅な増加が認められた。
- 保健所別報告数は、ほぼ人口比と相関している。
- 年齢群別では、20歳代が最も多いが、30歳代から50歳代の働く世代で多いように見える。
- 2021年までの累計と、2022年1月の報告数を比較すると、第6波では全年齢に占める10歳未満、10歳代の割合が高くなっていた。
※移動平均(7days)は、6日前から当日までの7日間の報告数の平均値を示している。
〇新型コロナウイルス変異株の動向について
- 神奈川衛研として新型コロナウイルス検査・研究体制の導入・維持に関わっており、検査は2020年の1月から実施している。
- 変異株モニタリング事業を実施しており、これは県内の21ヵ所の医療機関から定期的に陽性検体を入手して、変異型別をリアルタイムPCRで行っている。2021年4月から2022年の1月までの推移は、アルファ株が出始めたため変異株検査が導入され始めたが、5月、6月になるとアルファ株がほぼ100%を占めた。8月にはほぼ完全にデルタ株に置き換わり、デルタ株はその後流行が収まり11月、12月にはほとんどデルタ株に置き換わっていたが、12月の終わり頃からオミクロン株が全世界的に流行した。1月に入った途端に置き換わりが終了してほぼ100%オミクロン株となり、現在のところ2月、3月はオミクロン株でない検体はないというのが現状である。オミクロン株は置き換わりが非常に速かったということである。
- ゲノム解析も実施しており、当所に搬入された陽性例のうち124検体について全ゲノム解析、219検体についてサンガーシークエンスを実施して株を同定している。その結果、アルファ株、ベータ株、デルタ株といったものが検出されている。
- 2022年1月からゲノム解析が非常に求められるようになったが、ほぼ全部オミクロン株という状況である。
(3) その他
- [情報交換]新型コロナウイルス感染症について
本日現在での状況について、情報交換を行った。
以上