平成31・令和元年(2019)年度 神奈川県感染症発生動向調査解析委員会報告
令和2年2月21日(金)開催
[出席委員] | |
委員長 | 森 雅亮 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生涯免疫難病学講座 教授) |
委員 | 今川 智之 (神奈川県立こども医療センター感染免疫科部長) |
委員 | 岡部 信彦 (川崎市健康安全研究所長) |
委員 | 片山 文彦 (小児科内科落合医院院長) |
委員 | 木村 博和 (横浜市金沢福祉保健センター長) |
委員 | 近藤 真規子(神奈川県衛生研究所微生物部) |
委員 | 笹生 正人 (笹生循環器クリニック院長 神奈川県医師会理事) |
委員 | 横田 俊一郎(横田小児科医院院長) |
[オブザーバー] | |
長谷川 嘉春(神奈川県平塚保健福祉事務所長) | |
髙崎 智彦(神奈川県衛生研究所長) |
議題
(1)2019年の感染症発生動向調査(全数疾患、定点疾患)について
(2)2019年に話題となった感染症について
- ウイルス検出状況について
- 風しんの報告状況について
- 麻しんの報告状況について
- 神奈川県の蚊・ダニ媒介感染症
- 急性脳炎
- カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症について
(3)その他
- 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた感染症のリスク評価
- [情報交換]新型コロナウイルス感染症について
(1) 2019年の感染症発生動向調査(全数疾患、定点疾患)について
(全数疾患)
- 2019年の全数把握疾患の総数は4,036件で、前年4,606件より減少した。
- 二類の報告は結核のみで、1484件のうち肺結核が719件、その他の結核218件、肺結核及びその他の結核54件、無症状病原体保有者が492件だった。活動性結核は70歳以上で多かった。幅広い年齢層で報告がみられている。
- 三類感染症は、腸管出血性大腸菌感染症が189件と前年300件より減少している。性別内訳では女性(119件)に多く、年齢層では20代に最も多くみられた。
- 四類感染症では、A型肝炎が前年度95件から41件と減少した。デング熱は22件から36件に増加し、5歳以上から50歳代まで幅広い年齢層で報告された。マラリアは前年1件から6件に増加。レジオネラ症は、前年114件から152件と増加した。
- 五類感染症では、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症(CRE)が前年233件から207件とやや減り、性別では男性130件と多く、年齢群別では70歳以上で多くみられた。急性脳炎は、前年36件から65件に増加し、内訳ではインフルエンザを病原体とするものが24件、その他の病原体が10件だった。侵襲性髄膜炎菌感染症は前年1件であったが、6件の報告があり、内訳は性別では男性が4件、女性が2件で、年齢群別では10代から80代まで散見された。感染地域は国外が1件、他は国内であるが地域集積性は認めなかった。梅毒は前年354件から269件と85件の減少、百日咳も766件から547件と219件の減少を認めた。風疹は前年414件から295件に減少し、性別では男性234件、女性61件で、年齢群は20代~50代と幅広く報告された。麻疹は前年6件から94件と増加を認め、年齢群別では5歳未満の小児と20~30代に多くみられ、診断別では麻疹検査診断例72件、修飾麻疹検査診断例20件、麻疹臨床診断例2件だった。
(定点疾患)
- インフルエンザは、2018年、2019年とも4週、5週に定点当たり60を超える報告があり、大流行した。2019/2020シーズンは年明け4週の定点当たり14.4をピークに減少し、5週から定点当たり10を切った。
- RSウイルスは前年と大きな変化はなく、35、36週、8月末から9月頃にピークがみられた。
- 感染性胃腸炎は、前年より42週以降は報告が少なく、2019年も警報レベルにならなかった。
- 水痘は、基準値の変更により、局地的に警報、注意報レベルを超えることがあったが、全体では前年並みだった。
- 手足口病は、報告の少なかった2018年から変わって、2019年は27週、7月はじめに警報レベルを超えて大流行した。
- 伝染性紅斑は2019年の報告は少なかった。
- 流行性角結膜炎は、前年より今年は全体に少なかった。
- ロタウイルスは、2019年の16週、4月に多く報告があった。
- 性感染症の2019年、月別報告数。性器クラミジア、性器ヘルペス、尖圭コンジローマは、全国と比べて神奈川県の定点当たり報告数は全体に少ない傾向だった。淋菌感染症の定点当たり報告数は全国と同程度だった。年齢分布はいずれも例年通りだった。
- 薬剤耐性菌の2019年、月別報告数。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症は、全国より神奈川県の報告は少なかった。薬剤耐性緑膿菌感染症は全国より県で多く見える月もあるが、報告は1年間で2件だった。
(2)2019年に話題となった感染症について
○ウイルス検出状況について
- インフルエンザは2018/2019シーズン、大流行となったが、今シーズンの流行規模はまだ小さい。検出ウイルスで多かったのはAH3、次いでAH1pdm09だったが、今シーズンでは90%以上がAH1pdm09だった。
- オセルタミビル耐性変異については、感染研と全国地方衛生研究所で解析を行っている。シーズンごとの状況をみると、タミフル耐性が1~2%出ており、当所の解析では今シーズン2株検出されている。昨年度ゾフルーザというエンドヌクレアーゼ阻害剤が使われるようになったが、感染研での解析結果では、耐性株がAH1pdm09で2.3%、AH3で8.0%の検出が報告されている。小児に高頻度に耐性株が検出され、増殖力、感染性ともに感受性株と同等であることが報告され、今シーズンは小児の治療にゾフルーザが使用されなくなった。タミフル耐性株の伝播は2013/2014シーズンはあったが、それ以降は耐性株の伝播は非常に少ない状況。
- 手足口病患者からのウイルス検出状況について、手足口病は今年度大流行があり、153件の検査依頼があった。そのうち145検体からウイルスが検出され、1番多かったのがコクサッキーウイルスA6型(CA6)、次いでコクサッキーウイルスA16型(CA16)であった。夏を中心にCA6の流行があり、その後秋から冬にかけてCA16が検出されており、二峰性の流行であった。
- ヘルパンギーナについては、発生が少なくて、検査依頼31件中24件からウイルスが検出され、1番多かったのがコクサッキーウイルスA6型だった。
- 咽頭結膜熱について、アデノウイルスが主流で、例年通り1型・2型・3型が流行した。本来夏の病気だが、ほぼ毎年年間を通して流行している状況である。
- 流行性耳下腺炎について、21件の検査依頼があり、5件からムンプスウイルスが検出し、遺伝子型はG western型で、日本でよくみられる遺伝子型である。
- ウイルス性感染性胃腸炎の発生はここ数年少ないが、2019年は59件の検査依頼があり、33件からウイルスが検出された。1番多いのがノロウイルスで、その遺伝子型をみると、前半は昨シーズンの流行株のGⅡ.4が検出され、後半はGⅡ.3が主流であった。
- 無菌性髄膜炎については複数のウイルスが原因となることがあり、当所では検索ウイルス種として、エンテロ、ポリオ、エコー、パレコ、ライノ、コクサッキーA群、B群、ムンプス、ヘルペスというようなものを中心に調べている。検体の種類も、可能な限り咽頭ぬぐい液、髄液、糞便、尿、血漿、血清の提出をお願いしている。12症例について検査依頼があり、5症例からウイルスが検出された。検出されているウイルスの中で無菌性髄膜炎の原因と考えられるのはコクサッキーウイルスB4型で、2症例から検出されている。
- 急性脳炎について、8症例中4症例からウイルスが検出された。そのうちの1症例は髄液からコクサッキーウイルスA6型とムンプスウイルス(ワクチン株)が検出された。
- デング熱について、今年は検体数が多く、全国的には461症例、神奈川でも36症例で、当所でも9症例の依頼があり陽性数が6例あった。陽性6例のうち、D1型が1例、D2型が3例、D4型が2例検出された。
- A型肝炎は従来食中毒での発生が多いが、昨年2018年はMSM間で大流行した。2019年も去年の半数まで減少しているが大きな流行となった。当所では2019年、5例の検査依頼があり、4例からMSM型のHAVが検出された。
- 梅毒について、昨年より届出数は若干減少しているが、非常に多い状況である。保健所でHIVとの抱き合わせ検査で梅毒検査を2018年の3月から実施している。2018年には563例、2019年には897例の検査を実施し、梅毒陽性率は2~3%、スクリーニング検査法(IC法)の偽陽性率は約0.3%だった。
- 麻疹については、2018年3月沖縄で流行し、その後収まりつつあったが、2019年に大流行となった。当所では2019年161症例の検査を実施し、20症例からD8型、13症例からB3型を検出した。1月から4月にD8型が検出されたが、その後8月までB3型が、9月からD8型が検出されるようになった。当所でのD8型と2018年沖縄での流行株と系統樹解析を行ったところ、同じクラスターに属していることが 分かった。
- 風疹について、2018年6月ごろから流行が始まり2019年も流行が継続した。当所では64症例中49症例から風疹ウイルス1E型を検出した。2013年の流行ウイルスのほとんどは2Bであったが、2018年以降は1E型が流行している。
- 麻しん風しん抗体保有率:当所では感染症流行予測調査として、神奈川県域の住民を対象に麻疹・風疹ウイルスの抗体価調査を各年代別、男女15例ずつ、例年約360例について実施している。
感染を防御するためには麻しんでPA抗体価128倍以上、風しんでは32倍以上が必要である。
各年別の感染防御に必要な抗体保有率の平均を見ると、麻しん・風しんともに全国平均に比べ低い状況であり、積極的なワクチン接種対策を継続すべきと思われた。
○風しんの報告状況
- 風しんの神奈川県内の報告数の年次推移であるが、2013年が1番高くそれ以降は低かった。しかし、2018年は413件ととても多い。2019年は2018年よりは低いが、295件と以前に比べるととても多い状況。風しんの週別報告数については、週によって変化がある状況。年齢別男女別報告数は男性のほうが圧倒的に多く、20代から40代が特に多い状況。保健所別報告数は横浜市が1番多く、次に川崎、厚木と続いている状況。ワクチンの接種状況については、20代から40代の発生数が多い中、不明が70%くらいだった。
○麻しんの報告状況
- 麻しんは2008年から統計がとられており、その頃が1番高い。2018年12月頃から報告数が増加し、2019年は94件と多くなっている状況。年齢別では、20代から40代が多い。風しんと違い麻しんは男女でそれほど差がない。年齢別ワクチン接種状況は20代から40代がとても多く、接種歴不明の方が非常に多い状況。
○神奈川県の蚊・ダニ媒介感染症
- オリンピック・パラリンピックに向け、蚊・ダニ媒介感染症対策について各地で行っており、注目した。蚊・ダニ媒介感染症といっても、ジカウイルス感染症、チクングニア熱、つつが虫病、デング熱、日本紅斑熱、マラリア、ライム病といって色々な疾患がある。全数把握となった時期などが若干異なるが、特に今年デングが多く注目した。デング熱は2014年に代々木で渡航歴のない方が公園で刺され感染した事例がでた、神奈川県は31例あったが、2019年はそれよりも多い。年齢別では修学旅行や、学校で海外に留学したり研修した方の発生もあり、幅広い年代で届出があった。最近5年間のデング熱の地域別の状況を見ると、東南アジアがダントツに多い状況。
○急性脳炎
- 急性脳炎について、委員の先生からインフルエンザとの関係はあるのかという指摘があったので、取り上げた。病原体別では、インフルエンザが多かったが、病原体不明も多い状況。急性脳炎とインフルエンザの報告数の週別比較では、やはりインフルエンザの流行期はインフルエンザによる急性脳炎の届出が多いが、それ以外はエコーウイルス、ヘルペスウイルス、ロタウイルス、水痘などが発見されており、病原体不明というのも多い状況にある。年齢別男女別報告数では、0歳児から14歳位が多く、男子の届出が多い。
○カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症について
- カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症は、年々届出が多く、2018年と2019年ではそれほど変化がない状況。年齢別では、50~80歳代の届出が多く、菌種としてはEnterobacter cloacae やKlebsiella aerogenes が多い状況。菌株の遺伝子の結果ですが、IMPが出ているものがある。
(3)その他
- 東京2020オリンピック・パラリンピック大会に向けた感染症のリスク評価について
東京2020のオリパラに向けて、改めて本県の実情に合わせた感染症のリスク評価を行ったので健康危機管理課より報告。 - [情報交換]新型コロナウイルス感染症について
本日現在での状況について、情報交換を行った。
以上