2024年9月6日更新
WHO(世界保健機関)から2回目のPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)が宣言されました
旧来アフリカでは、げっ歯類やリス、およびセンザンコウなどの動物の狩猟、その肉の調理喫食等によって感染する疾病でした。
サルは自然宿主ではなく、ヒトと一緒で、他の動物からの感染の結果、発症すると考えられています。
発症したヒトからヒトへは、皮膚と皮膚の接触やタオル・シーツの共有といった、伝染性軟属腫(水いぼ)の様な感染様式で拡散します1-3)。
しかし、2022年に欧州を中心に、大規模な流行が始まりました4-8)。ここでは動物は関与しておらず、大規模なイベントを通じた参加者間の性的接触により感染が伝播しました。
北米や全欧で数万人が発症しました。
日本では、2023年に入って海外渡航歴の無い症例が急増しました。
ここで問題になったのは新しい感染様式です。
皮疹(水疱など)が痂皮になり従来なら感染性が低下したと考えられる状態でも、唾液や精液には3週間ほどウイルスが認められ、口腔性交や肛門性交などで性感染症として流行しました。
もともと性的活動が活発な層での流行なので、クラミジアや梅毒などによる持続的な炎症が侵入門戸となります。
国内での患者発生は続いており、2024年8月30日時点で248例の症例が確認されています9)。
また欧州の患者の約3分の1にはHIVの併発もみられ重篤化する症例がありました。流行が始まった後に、ピアスやタトゥー10)を入れる店で器具を介した小流行も起きました。
世界保健機関(WHO)は、これまでウイルスが確認されていなかった国々での性的接触による感染拡大を受けて、2022年7月に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言しました。その後症例数の継続的な減少により、2023年5月に終息が宣言されました。
しかし、コンゴ民主共和国で新たなウイルス株のクレードⅠbが急速に広まったこと、クレードⅠbがコンゴ民主共和国の近隣諸国で検出されたことから、2024年8月に2度目のPHEICがWHOにより宣言されました。
潜伏期間は1~2週間です。
初期症状:発熱、頭痛、筋肉痛など感冒様症状から始まり、リンパ節の腫脹が伴います。
古典的なアフリカでの流行では、皮疹は顔面と手から始まりますが、性感染症としてのエムポックスでは陰茎や肛門周囲に多く認められます。その後身体の広範囲にわたり発現します。
性感染症としてのエムポックスでは、咽喉頭の糜爛(びらん)や外陰部の潰瘍・肛門炎などの症状が認められるようになりました。嚥下や排泄が困難になります11)。
適切な検体の採取が重要となります。遺伝子増幅法にて確定診断されます12)。ウイルス分離培養でもPCRやダイレクトシークエンスで確認を行います。スクリーニングとして下水からの検出も試みられています13)。
図 検体採取方法(神奈川県衛生研究所作成)
写真1 ドライスワブの例 | 写真2 EDTAスピッツの例 |
病理所見としては光学顕微鏡による封入体基本小体(グアルニエリ小体)が観察されます。また電子顕微鏡でウイルス粒子が観察されます。これらの場合はエムポックスと確定出来ず、オルソポックスウイルス感染症に留めます。顕微鏡所見では同じポックスウイルス科の伝染性軟属腫(水いぼ)ウイルスとの鑑別は困難です。
欧州においては、特異的治療薬としてテコビリマットが承認されていますが、耐性株もあります。国内では「エムポックスと天然痘に対する経口テコビリマット治療の有効性および安全性を検討する多施設共同非盲検二群間比較試験」の参加施設のみ使用が可能です。
天然痘ワクチンに有効性が認められ、事前に接種すると発病を85%予防できます9)。クラスターが発生した場合やエムポックス患者との接触後に天然痘ワクチンの緊急接種を行う場合があり、発症を半分に抑制できます。日本では乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」14)がエムポックスに対して追加承認されています。関係保健所が研究班と協議の上、接種対象者を決定し、紹介する場合があります15)。
性交渉を避け、ウイルスは唾液にも排泄されているので、梅毒同様、コンドームだけでは予防は難しいです。
症状や所見のあるときは、箸の共用16)や飲料の吞み回し、性的接触、ハグやキスも避け、ソーシャルディスタンスを維持しましょう。
トップページへ戻る|感染症情報センターに戻る|このページのトップへ
お問い合せはトップページ:お問い合わせまたは下記までご連絡ください。 |
|
神奈川県衛生研究所 | |
〒 253-0087 神奈川県茅ヶ崎市下町屋1丁目3番1号 電話:0467-83-4400 ファックス:0467-83-4457 |
本ホームページの著作権は神奈川県衛生研究所に帰属します。
Copyrightc 2004 Kanagawa Prefectural Institute of Public Health. All rights reserved.