Para
Sports
特集 Para Sports vol.7
ゲームの共通体験が、
フラットな未来を切り開く
eスポーツプレイヤー 北村直也さん
ゲームの共通体験が、フラットな未来を切り開く
コンピューターゲーム(ビデオゲーム)でプレイヤー同士が対戦する「eスポーツ」。
今、世界中で競技人口が急増している注目の新競技で、全盲のプレイヤーとして活躍しているNAOYAさんに、ご自身のこと、そして今熱心に取り組んでいる「バリアフリーeスポーツ」についてお話をうかがいました。
視覚情報に頼らず、「音」で相手の手を読む
NAOYAさんは、国内外の大会に参加する一方で、全国各地を飛び回り、バリアフリーeスポーツ大会の企画運営に取り組んでいます。障がい者が自分らしく、やりがいをもって社会参加していくための支援活動を広げようと始めたこの取組みは徐々に広がり、現在ではスポーツチームや企業など様々な団体の賛同を集めています。
NAOYAさんらは、障がい者で構成されたチーム「フォルティア」を結成し、全国でゲームの対戦イベントを開催。子どもから大人まであらゆる世代の人々との対戦を通じ、障がいのあるなしにかかわらず、ゲームという共通体験をともに楽しむ機会を提供しています。
生まれながらに目がみえない先天的な全盲であるNAOYAさんは、主に聴覚情報でゲームの戦況を把握し、様々な技を繰り出します。攻撃・ガード・相手との距離を音から把握するこのプレイスタイルは「心眼プレイ」とも称され、主に対戦型の格闘系ゲームで多くのファンを魅了しています。ゲーム対戦に臨むとき、最も大切にしていることは、“全力で挑む”こと。
「障害があるとかないとか、助けてあげるとか助けてもらうとか、友達に対してはそんな風に思わないじゃないですか。僕は対戦する方々と、“ちゃんと友達になりたいな”と思うんです。友達とゲームするとき、手加減しないですよね。だから、いつも本気で挑むようにしているんです」とNAOYAさんは微笑みます。
「やったー!勝ったー!」「悔し~!」。NAOYAさんたちが企画する大会は、いつもエキサイティングで楽し気なリアクションが飛び交います。
ゲームが身近にあった子供時代
「物心がついた頃にはもうゲームが身近な存在でしたね」と話すNAOYAさん。兄弟や友人と様々なゲームをして遊ぶ子供時代を過ごしたと言います。特に音やリズムに合わせて操作できる『パラッパラッパー』はお気に入りのゲームのひとつでした。ときに、一緒にプレイしている兄弟たちに「今どんな状況?」と聞きながら、状況を把握していたといいます。
負けたときは悔しいし、勝ったときは嬉しい。大好きなアニメを題材にしたゲームにも夢中になりました。「ゲームという同じ時間を過ごすと、友達とも一気に心の距離が縮まる感じがして。だからゲームが好きになったのかな」。ゲームというコミュニケーションを通じて、NAOYAさんの世界はどんどん広がっていきました。
ePARAとの出会い~スキル、才能に魅せられて即オファー
NAOYAさんが、eスポーツを通じた障がい者の社会参加促進に取り組む「株式会社ePARA」の加藤大貴代表と出会ったのは今から5年ほど前。NAOYAさんの活躍を耳にした加藤代表が、記事執筆を依頼したのがきっかけでした。
「記事執筆の依頼からほどなくしてあるイベントにNAOYAさんをお誘いしたんです。会場に向かう道中、新幹線の中で色々な話をしました。これまでやってきたこと。ゲームへの熱量。様々なことに挑戦しようとしていること。そして何よりその明るさに惹かれて、帰りの新幹線ではもう、うちに来ていただきたいとオファーを出していましたね」と加藤さん。以来、NAOYAさんは同社の社員として、ゲーム大会の企画運営に携わる傍ら、所属する障がい者メンバーのサポートなどにも取り組んでいます。
様々な分野に臆することなく挑戦することで、自らフィールドを広げたい
NAOYAさんは、eスポーツプレイヤーとして活躍する一方で、声優・ナレーターとしてのキャリアにも挑戦しています。もともと、声優になるのが夢だったといい、大学在学中には、声優の養成学校に通ったこともあるそうです。「もし本当に声優になれたら、世界初の全盲の声優になれるのではないかと思いました。これは挑戦したいと思いましたね」。
現在は、ePARA内に、視覚障害を持つ声優・ナレーターで構成されるセクション「ePARA Voice」を立ち上げ、自らが事業部長として、音声制作サービスの提供を始めました。同じように視覚障害者であるメンバーらとともに、スタジオ収録やライブ収録にも対応。音を頼りに生きていく中で作りあげられた、表情豊かなサウンドを届けています。
「ゲームも声優も、自分の興味の赴くままに取り組んできました。何かに興味を持って、努力をしていくことで、自然と活動範囲が広がっていった。人との交流も増え、僕自身が誰かの役に立てることもあると感じることができた。常に助けてもらう側ではなく、自分ができることを、自分が誇れることを開拓していきたいと思っています。」
- 取材先:ePARA 北村直也さん ePARAのウェブサイトはこちら▶