Art
特集 Art vol.1
広がる可能性
社会福祉施設「スタジオクーカ」(平塚市)
所属アーティスト・横溝さやかさん
アートが生むコミュニケーション
無限の可能性をキャンバスに描く
東京駅を背景に、表情豊かな各国の人々や動物、乗り物などが所狭しと描かれた大作。
知的・精神にハンディキャップを持った人たちが絵画やオリジナルグッズの制作、パフォーマンスといった様々なアートに携わりながら、社会とのつながりや仕事を生み出す社会福祉施設「スタジオクーカ」(平塚市)の所属アーティスト・横溝さやかさんの作品です。
横溝さんが描く絵は、さまざまな業界から高い評価を集めています。
アートと出会い「好き」が仕事に
ひとたびキャンバスと向き合えば、ペンを握る手はゆっくりと、しかしよどみなく動き続け、表情豊かな人物や動物たちが織りなすポップでカラフルな作品を生み出していきます。並外れた集中力と、妥協を許さない職人気質。横溝さんの表現する世界観に魅せられたファンも多く、今やスタジオクーカを代表する人気作家です。絵を描くことと並行し、10年以上続けている紙芝居の制作も、横溝さんの特技のひとつ。オリジナルのキャラクターが登場する紙芝居は、愛らしい絵のタッチはもちろん、変幻自在に声色を変えて読み聞かせを行う横溝さんの多才ぶりも、観る人の笑顔を誘います。
知的障がいと自閉症を抱える横溝さんは平塚市の養護学校を卒業後、スタジオクーカの前身施設に入所。2007年、逗子市が主催した「手作り絵本コンクール」の一般の部で最優秀賞を受賞したことを契機に、創作活動を加速させていきました。2016年には、文化庁主催により国立新美術館で開催された障がい者アーティストの展示イベント「ここから アート・デザイン・障害を考える3日間」に、ロンドンやブラジルといった世界各国の街並みを描いた作品群などを出展。同展を機に、スポーツ省から障がい者スポーツ団体を支援する企業の認定ロゴマークの制作依頼が舞い込み、翌年には、文部科学省から共生社会の実現に向けて障がい者の生涯学習教育を支援するスペシャルサポート大使にも任命されました。スタジオクーカがギャラリーを構える平塚市で毎年行われる全国有数の七夕イベント「湘南ひらつか七夕まつり」では、2018年のポスターにイラストが採用されて地元でも一躍時の人に。障がい者アートという枠を超え、横溝さんは作品を通じた社会との接点を次々と生み出しています。
仲間の存在が成長を後押し
毎日のように絵と向き合う横溝さんですが、息詰まったりスランプに陥ったりすることは「いままで一度もありません」ときっぱり。動物園で目にした動物や美術館での芸術鑑賞、身近な自然風景など、創作のヒントは日常の中にあふれています。そして横溝さんの活動を支える何よりも心強い存在となっているのが、創作に集中できる環境を提供してくれるスタジオクーカのスタッフ、そしてアートというキーワードでつながるスタジオのメンバーたちです。以前は一人で黙々と絵を描き続けることが多かったという横溝さんですが、スタジオクーカで活動を続けるうちに仲間とともに仕事をする楽しさを感じるようになったといいます。「私と同じように絵を描くことが好きな人、ものを作るのが好きな人、そういう人たちがたくさんいるので、刺激を受けるんです」。以前ならあまり関心を示さなかったというメンバーの作品展にも積極的に足を運ぶようになり、自らの作品づくりに生かそうという思いも芽生えるようになったといいます。
観る人の笑顔が創作の原動力
展覧会であっても紙芝居の上演であっても、イベントの規模に関わらず訪れた人たちが自身の作品で笑顔になったり、驚きを感じてくれたりすることがうれしいと横溝さんはいいます。「自分の作品を楽しみにしてくれる人がいる―」。横溝さんが絵を描き続けるのは、アートを通じたコミュニケーションこそが生きがいにつながっているからかもしれません。「いろいろなところで自分の絵を知ってくれる人が増えていくのはすごくうれしい。
大きいお仕事もいっぱいいただけるようになったので、頑張っています」。これからの目標は、2020年の東京五輪・パラリンピックをテーマにした作品を描くことという横溝さん。すでに構想は頭の中で着々と練りあがっているといい、2020年に迫った国際的な祭典に向けて高まるムードをさらに盛り上げる作品にしようと意気込んでいます。
- 取材先:横溝さやかさん(studio COOCA)
- 1986年伊勢原市生まれ。スタジオクーカに所属し、人や動物、風景、世界の国々、オリジナルキャラクターなど、多彩なモチーフを独特なタッチで描く作風が人気を集めている。2007年に逗子市主催の手作り絵本コンクール一般の部で最優秀賞。ARTFAIR東京や国立新美術館への出展をはじめ、平塚市の「湘南ひらつか七夕まつり」の公式グッズや公式ポスター、スポーツ庁の障害者スポーツ団体支援企業認定ロゴマークなどにも作品が採用されている。