ホーム > くらし・安全・環境 > 生活と自然環境の保全と改善 > 野生動物と自然環境の保全 > 個体分析
更新日:2025年5月1日
ここから本文です。
個体分析
野生動物の個体データは、野生動物の生活や周りの環境(植生など)を反映することが知られています。管理捕獲の効果により、植生については、一部の地域で回復が見られることが明らかになっています。(図1)
図1 管理捕獲実施地でみられるようになったクルマユリ(県絶滅危惧I(ローマ数字の1)A類)
管理捕獲された個体についても、開始当初から、個体データの経年変化を記録しています。これは、人間でいうと、身体測定データにあたります。
また、県では、平成15年度から平成28年度まで、3つの計画期間(第一期:H15~H18、第二期:H19~H23、第三期:H24~H28)に分けて事業を実施してきました。平成28年度、第三期計画が終了したことに伴い、データの整理をしました。管理捕獲で何らかのデータを得ることができた個体は、なんと4,396個体もあります。
ここでは、まとめ方により精査が必要な点もありますが、捕獲個体のデータを計画期間ごとに比較した結果について簡単に紹介します。
シカの切歯は、1歳の夏に乳歯から永久歯になってからは、生え替わりません。また、冬の間に食べ物量が減って成長がとまるため、1年ごとに木の年輪のような層が出来ます(図2)。これを数えて、年齢を判定しています。
図2 歯に形成された年輪
たくさんの歯を集めて年齢を調べると年齢別個体数ピラミッドを作ることができ、各計画期間におけるシカの年齢構成の変化が分かります。
捕獲されたメスの年齢ピラミッドを計画期間ごとに比べると、計画期間が経つにつれて高齢の個体の割合が減り、若い個体の割合が増えていることが分かりました(図3)。管理捕獲の捕獲圧は全ての年齢に等しくかかると想定されます。結果として、全体の死亡率が上がることで、年をとった個体の割合が減ったと考えられます。また、平均寿命についても、第一期の5.5歳が第三期では4.2歳となり短くなっていました。
図3 計画期間ごとの年齢ピラミッドの変化
前述のとおり、シカの歯は生え変わらないので、歯は年を経るにつれて摩滅していきます。年齢ごとの摩滅の程度は、食べているものの質を反映します。かつては、樹皮や笹などの硬いものを多く食べていましたが、植生の回復や生息密度の低下などによりシカが良い餌を食べられることで、歯の摩滅は緩やかになると予想されます。そこで、歯の摩滅した割合について、摩滅無し(=0)から全て摩滅(=1)に区分して、計測しました(図4)。
図4 歯の磨滅(左=”磨滅なし”、右=”全て磨滅”)
年齢別の摩滅具合を第一期と第三期で比較すると、管理捕獲が進むにつれて歯の摩滅が緩やかになる傾向が見られました(図5)。例えば、捕獲されたメスの5歳時点における歯の摩滅率は、第一期は0.52ですが、第三期では0.40と顕著に減少しています。
図5 第一期計画期間と第三期計画期間の歯の磨滅の進行の比較
管理捕獲開始した当初の丹沢では、餓死が見られるなど、シカの栄養状態が悪いと考えられていました。現在、県では増えすぎたシカをまず減らしていますが、将来的にはシカの個体群の栄養状態が良好に保たれることを目標としているため、栄養状態の変化も調べています。
この指標には、腎脂肪率を測定して用いています。栄養状態が良くなれば、腎脂肪率は高くなりますが、計画期間ごとの変化を見ると、近年は管理捕獲開始時に比べて高い値を示すようになっており、栄養状態が改善したことが伺えます。(図6)
図6 計画期間ごとの3歳以上の腎脂肪率の推移
シカの栄養状態が改善すれば、妊娠率も高まります。妊娠率は、シカの増え方に関係する重要な指標となります。
妊娠率についても、管理捕獲開始時に比べると、近年は高い値を示しています(図7)。この結果、管理捕獲開始時に比べるとシカが多く生まれるようになっているため、以前と同じようにシカを捕っても個体数が減りにくくなっています。
なお、第二期計画よりも第三期計画にかけて妊娠率が低下した理由は、妊娠率に年変動がみられ、平成26年度に特に低い値が記録されたことが関係していると考えられます。
図7 計画期間ごとの3歳以上の妊娠率の推移
このページの所管所属は 自然環境保全センターです。