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神奈川県微生物検査情報


神奈川県衛生研究所

第177号

平成19年11月26日発行
病原体検出は平成19年7月分


特 集

 

2007年シーズンにおけるヘルパンギーナ患者および
手足口病患者からのエンテロウイルス検出状況

  神奈川県域における2007年シーズンのヘルパンギーナ患者および手足口病患者の発生動向およびウイルス検出状況を報告します。
 
1. ヘルパンギーナ患者の発生動向およびウイルス検出状況

2007年の神奈川県域(横浜市、川崎市を除く)におけるヘルパンギーナの週別患者報告数は、第25週(6/18~6/24)に定点当たり1.0人を超え、第30週(7/23~7/29)に6.82人とピークを迎えましたが、第35週(8/27~9/2)においても1.35人と流行が続きました。

図1 ヘルパンギーナ定点当たり報告推移(2001-2007年)

  2007年1月から9月末までに、神奈川県域(横浜市、川崎市、横須賀市、相模原市、藤沢市を除く)の病原体定点医療機関から搬入されたヘルパンギーナ患者検体の咽頭拭い液53件について、6種類(RD-18S、HeLa、Vero、HEp-2、LLC-MK2、VeroE6細胞)の培養細胞および哺乳マウスを用いてウイルス分離を行ったところ、現在までにコクサッキーウイルス(C)A10型が20株、A5型が3株、A2型が1株、A16型が1株、B2型が1株、B5型が2株、エコーウイルス6型が1株、エンテロウイルス以外では単純ヒトヘルペスウイルス1型(HSV-1)が3株分離されました。このことから今シーズンのヘルパンギーナ流行の主因ウイルスはCA10と推測されました。年別による流行状況および主な分離ウイルスをみると、定点あたり報告数のピークは2007年も平年とほぼ同様でしたが、主因ウイルスとなったCA10は4年ぶりの流行でした。ヘルパンギーナは病因となるA群コクサッキーウイルスの血清型が多いことから、毎年主流ウイルスの血清型が入れ替わり、ほぼ一定規模以上の流行を引き起こしているものと思われました(表1)。

表1 ヘルパンギーナ患者からの主な分離ウイルスの年次推移(県域)
2. 手足口病患者の流行状況およびウイルス検出状況

  手足口病の週別患者報告数は、第27週(7/2~7/8)に定点当たり1.0人を越え、第30週(7/23~7/29)に3.05人と比較的中規模なピークを迎え、第33週(8/13~8/19)には定点当たり1.0を下回りました。しかし地域によって局地的流行が見られ、小田原地区では第17週(4/23~4/29)から定点当たり1.0人前後と継続的に流行が見られ、第30週(7/23~7/29)には8.50人とピークを迎えました。また、秦野地区、厚木地区では、第26週(6/25~7/1)あたりから流行がみられ、第30週には秦野地区で12.50人、厚木地区で5.55人とピークとなり、第35週(8/27~9/2)においても流行が続いています。

図2 手足口病定点当たり報告数推移(2001-2007年)

  病原体定点医療機関から搬入された手足口病患者検体の咽頭拭い液51件について上記6種類の培養細胞および哺乳マウスを用いてウイルス分離を行ったところ、現在までにエンテロウイルス(EV)71型が20株、CA16が12株、CA10が5株、CA5が1株、エンテロウイルス以外ではCA16との重複感染でアデノウイルス2型が1株、ワクチン接種後に分離されたポリオウイルス1型が1株分離されました。

表2 手足口病患者からの主な分離ウイルスの年次推移(県域)

  このことから今シーズンの手足口病流行はEV71とCA16による混合流行と推測されました。特に4月下旬から流行が見られた小田原地区では、7月上旬までに搬入された手足口病検体からEV71が分離されており、その後はEV71とCA16の両方が分離されるようになりました。従って、小田原地区の第17週からの局地流行はEV71によるものと推測されました。EV71は神奈川県域においては2003年、2005年、2007年と1年おきに流行がみられています(表2)。EV71は局地的に継続的な流行を引き起こす可能性があり、また重篤な中枢神経性の合併症を引き起こす場合があることから、今後もその発生動向には注意が必要です。

(エイズ・インフルエンザウイルスグループ 佐野貴子)
 
 

  病原体検出  
表 1 病原体検出状況(保健所等別)―平成19年7月

<検出状況>
  • 7月の病原体検出数は合計84件、細菌19件、ウイルス65件であった。
  • 感染症および食中毒発生に伴う行政検査等では細菌が16件、ウイルスが21件検出された。
    前月に比べて検出数が細菌は23件から19件とやや減少し、ウイルスは34件から65件と2倍近く増加した。これは、食中毒様事例、手足口病およびヘルパンギーナ患者からのウイルスの検出数が増加したためである。
  • 病原体定点等の医療機関からの検査では、小児科定点から細菌が3件、ウイルスが41件検出された。
  • 保健所管内別の病原体検出状況は表1のとおりである。



表 2 病原細菌検出状況(臨床診断別)―平成19年7月
<検出状況>
  • カンピロバクター・ジェジュニが食中毒等事例から6件、感染性胃腸炎患者から3件検出された。
  • 腸管出血性大腸菌O157(VT1&2保有)が届出患者の家族より1件、患者の経過観察検便から1件、また、散発事例からO157(VT2保有)が1件、検出された。



表3 病原細菌検出状況(月別)―平成19年7月
<検出状況>
  • カンピロバクター・ジェジュニが、6月に引き続き9件検出された。食中毒事例および病原体定点からの検出が、前年3月(12月を除く)から続いている。
表4 ウイルス・リケッチア検出状況(臨床診断名別)―平成19年7月
<検出状況>
  • 手足口病患者26検体から、コクサッキーウイルスA5型が1件、同A10型1件、同A16型7件、エンテロウイルス71型が9件検出された。感染症発生動向調査では7月の患者報告数は増加を示したが、取り扱い検査数および検出数についても増加した。
  • ヘルパンギーナ患者21検体から、コクサッキーウイルスA5型が1件、同A10型12件、同A16型1件、同B2型1件、同B5型1件が検出された。感染症発生動向調査では7月の患者報告数は増加を示し、6月に比べて取り扱い検査数および検出数は、大幅に増加した。
  • ノロウイルスが、感染性胃腸炎患者から、病原体定点からの1件を含めて4件検出され、食中毒様事例からは14件検出された。
  • ノロウイルス感染による集団発生は3事例あり、感染性胃腸炎は1事例、食中毒様は2事例発生した。その内の1事例は水媒介の疑いによるものであり11件のノロウイルスが検出された。
  • サポウイルスが食中毒様事例から、4件検出され、病原体定点から1件検出された。


表5 ウイルス・リケッチア検出状況(月別)―平成19年7月
<検出状況>
  • ヘルパンギーナ流行の主流ウイルスは、前年はコクサッキーウイルスA4型であったが、本年はコクサッキーウイルスA10型が主流となっている。
  • 手足口病流行の主流ウイルスは、前年はコクサッキーウイルスA16型であったが、本年は5月よりエンテロウイルス71型が多く検出され、7月にはコクサッキーウイルスA16型の検出も増加してきた。
  • ノロウイルスが、昨年10月から毎月検出されている。
  • サポウイルスは4月をのぞき、昨年12月から検出されている。



表6 食品・環境由来の病原細菌検出状況―平成19年7月

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