戻る
印刷用はこちら(PDFダウンロード形式)pdf

神奈川県微生物検査情報


神奈川県衛生研究所

第174号

平成19年8月31日発行
病原体検出は平成19年4月分


話題

 

6月に発生した有症苦情(食中毒疑い)の2事例について

   衛生研究所地域調査部の三分室(小田原、茅ヶ崎、厚木)では、それぞれの管内で食中毒様症状を呈した発生事例について原因菌の検索を行っています。その中で食中毒と特定できなかった事例について紹介します。

事例1
 (概要)平成19年6月4日、保健所は、5月25日に鳥料理店で友人と飲食を共にした2名が食中毒様症状(発熱、下痢、嘔吐)を呈した旨の連絡を受け、発症者2名の検便および当該料理店の調理施設のふきとり10件、調理従事者5名の便について、食中毒菌検査を実施した。発症者2名及び従事者1名の便からCampylobacter jejuni を検出したが、3名の血清型(Penner)は、G群、P群、R群と異なった血清型を示し、同一感染源との特定は出来なかったため有症苦情扱いとなった。

Campylobacter 食中毒について)
  Campylobacter 食中毒では、食品が複数の血清型の菌に食品が汚染されている例も報告されている。そのため発症者からのCampylobacter の血清型が異なっていても原因菌とする例も見られる。今回の発症者1名は大量に鳥レバーを摂取しており、鳥一羽のレバーは限られた量でもあることから、複数羽の鳥レバーを摂取した可能性が高いと考えられ、異なった血清型が検出される可能性があった。今回のふきとり検査では、Campylobacterは不検出であったが、当該料理店では、先般、同様な事件が発生し、喫食者、従事者から血清型の異なるCampylobacter jejuni を検出したことがあり、Campylobacterが調理環境を汚染している可能性も否定できない。

 

事例2
  (概要)平成19年6月7日、診療所医師から下痢症状を呈した従業員1名の検便の結果、病原大腸菌 O6が検出された旨の連絡があり、保健所が食中毒調査を行ったところ、患者の所属する事業所の社員寮4カ所で食中毒様症状を呈している者が27名いることが判明した。
   保健所では、発症者22名、社員の給食調理従事者8名の検便、検食24件と飲料用ウォータークーラー水4件、病院を受診した発症者3名由来の菌株、計61件の検体について食中毒菌及びウイルス検査(検便のみ)を実施した。その結果、菌株3検体と発症者4名の検便より腸管毒素原性大腸菌(ETEC)O159:H34が検出され、ブタ型耐熱性エンテロトキシン遺伝子(STp)が確認された。給食調理従事者、検食、ウォータークーラー水からはETECは検出されなかった。食品や水からのETECの分離はきわめて困難であるとされている。喫食等の疫学調査の結果では食中毒事例とする充分な根拠を得ることが出来ず有症苦情となった。

  診療所から病原大腸菌O6であるとされた菌株は、当所の再検査の結果ETEC O159:H34(STp陽性)であることが判明した。病院などで病原大腸菌とされた菌を再度確認するとO抗原が異なることがあるが、これは大腸菌診断用血清によるのせガラス凝集テストを生菌のみで決定し、加熱菌を用いて確認されてないために起きてしまった可能性があり、注意が必要である。

(地域調査部 茅ヶ崎分室 後藤喜子)
 

  病原体検出  
表 1 病原体検出状況(保健所等別)―平成19年4月

<検出状況>
  • 4月の病原体検出数は合計79件、細菌34件、ウイルス45件であった。
  • 感染症および食中毒発生に伴う行政検査等では細菌が32件、ウイルスが31件検出された。
    3月に比べて検出が細菌は3件から32件と増加し、ウイルスは54件から31件と減少した。
  • 病原体定点等の医療機関からの検査では、細菌が2件、ウイルスが14件検出された。細菌及びウイルスともに小児科定点からの検出であった。
  • 保健所管内別の検出状況は表1のとおりである。



表2 病原細菌検出状況(臨床診断別)―平成19年4月
<検出状況>
  • カンピロバクター・ジェジュニが食中毒事例から14件され、感染性胃腸炎患者からは1件、カンピロバクター・コリ1件が同時に検出された。
  • 黄色ブドウ球菌が食中毒事例から検出された。なお、この事例ではカンピロバクター・ジェジュニ、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ、ノロウイルスが同時に検出された。



表3 病原細菌検出状況(月別)―平成19年4月
<検出状況>
  • カンピロバクター・ジェジュニが、4月は検出が16件と増加した。平成18年12月を除いて毎月検出されている。





表4 ウイルス・リケッチア検出状況(臨床診断名別)―平成19年4月
<検出状況>
  • ノロウイルス感染による集団発生は4月に入って減少し、1事例の発生であった。
  • インフルエンザウイルスの検出数はAH1型1件、AH3型1件、B型2件と4月に入って減少した。
  • 小児科定点からの感染性胃腸炎患者から、ロタウイルスが4件、ノロウイルスが4件検出された。
  • 手足口病患者2件のうち1件の咽頭拭い液からコクサッキーウイルスA16型とアデノウイルス2型が同時検出された。

表5 ウイルス・リケッチャ検出状況(月別)―平成19年4月
<検出状況>
  • 4月に入り発生動向調査ではインフルエンザの患者報告数は急激に減少しが、インフルエンザウイルスの検出数でもAH3型、B型ともに減少した。今シーズンで初めてAH1型が検出された。
  • ノロウイルスは、4月は前月の検出数とほぼ同じで、35件検出された。
  • ロタウイルスが12月から毎月検出されている。



表6 食品・環境由来の病原細菌検出状況―平成19年4月

戻る