神奈川県衛生研究所

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[2010.9.24掲載]

薬剤耐性菌とは
       

薬剤耐性菌とは、治療に使用する抗菌薬が効かなくなっている菌のことをいいます。1種類の抗菌薬が効かなくなっている場合もありますが、複数の抗菌薬が効かなくなっている場合もあり、この場合を「多剤耐性菌」といいます。
  薬剤耐性菌は、いままでもいろいろな菌で問題となっており、代表的なものとしてはペニシリン耐性肺炎球菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌、バンコマイシン耐性腸球菌、薬剤耐性緑膿菌等があります。これらの菌が原因で、肺炎などの症状をおこすことがあります。また、感染していても、症状がない場合(保菌)は、必ずしも治療が必要でないことがあります。

 

いくつかの薬剤耐性菌については、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づいた感染症発生動向調査でサーベイランスを行っています。
感染症発生動向調査について  
☆ 多剤耐性アシネトバクター感染症はこちら
☆ ニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ1(NDM-1)産生多剤耐性菌はこちら
 
<全数把握対象疾患(五類感染症)>
  全数把握とは、診断したすべての医師が最寄りの保健所に届出を行う疾患です。
 
・バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症
  海外では散発的な報告がありますが、日本ではまだ報告はありません。

・バンコマイシン耐性腸球菌感染症

  神奈川県では、年間 10 例前後の報告がありましたが、平成 21 年は 29 例と多くなっており、全国的に増加がみられています。
  平成18年から平成22年第36週(9/6~9/12)までの神奈川県県域(横浜市、川崎市を除く)では32例の報告がありました。男女別では、男性59%、女性41%とやや男性に多く、年齢別では、80歳以上が41%と高齢者が多く占めています。
  遺伝子型別では、VanCが10例の報告があり、そのほかの遺伝子の報告はありませんでした。
<定点把握対象疾患(五類感染症)>
  定点把握とは、指定届出医療機関(神奈川県では11医療機関)が1ヶ月ごとに最寄りの保健所に届出を行う疾患です。
 
・ペニシリン耐性肺炎球菌感染症
  神奈川県では年間150例前後の報告があり、平成15年と平成16年に多くなっています。
平成21年の年齢別では、0~4歳が72%、70歳以上が16%と、乳幼児と高齢者で約90%を占めています。
 
・メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症
  神奈川県では、年間400例前後の報告があり、平成19年が最も多くなっています。
平成21年の年齢別では、70歳以上が66%を占めています。

・薬剤耐性緑膿菌感染症

  神奈川県では、平成17年から増加し、年間10例前後の報告となっています。
  平成21年の年齢別では、50歳以上から報告があり、70歳以上が60%を占めています。
 
☆多剤耐性アシネトバクター感染症
   アシネトバクターは、土壌や河川水など広く自然環境に存在し、健康な人の皮膚などから見つかることもあります。健康な人には、通常、症状を起こすことはありませんが、抵抗力の低下した人などには肺炎などの症状を起こすことがあります。複数の抗菌薬が効かなくなっているアシネトバクターを、多剤耐性アシネトバクターといい、この菌が原因で、肺炎などの症状がある場合を、多剤耐性アシネトバクター感染症といいます。

  日常生活のなかで、健康な人が多剤耐性アシネトバクターに感染する可能性はほとんどなく、心配ありませんが、十分な手洗いをすることで感染を予防することができます。
<参考>
  多剤耐性アシネトバクター感染症Q&A(国立感染症研究所感染症情報センター)
  多剤耐性アシネトバクター (国立感染症研究所感染症情報センター)
  多剤耐性菌について(厚生労働省)
  多剤耐性アシネトバクター・バウマニ等に関する院内感染対策の徹底について
   (平成21年9月6日)(厚生労働省)(PDF)
  ○多剤耐性アシネトバクター・バウマニ等に関する院内感染対策の徹底について(注意喚起)
   (平成21年1月23日)(厚生労働省)
    事務連絡(PDF)
    参考資料(PDF)
   
☆ニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ1(NDM-1)産生多剤耐性菌
   ニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ(NDM-1)とは、カルバペネムを含む各種の広域β-ラクタム薬を分解する酵素で、この酵素を産生する菌は、広範囲の抗菌薬が効かなくなり、多剤耐性菌となります。現在のところ、インドやパキスタンの医療施設で治療した患者が、英国や米国などの医療機関で治療や検査を受けた際に発見されたものが多く報告されています。

  NDM-1は、大腸菌や肺炎桿菌などで確認されており、これらの菌では、NDM-1を産生する場合でも、原則的には健康な人の腸管内や体の表面に付着しているだけでは害を及ぼすことはありません。しかし、別の菌にNDM-1の遺伝子がうつり、新たな多剤耐性菌となる可能性があり、注意が必要です。
<参考>
  ニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ1(NDM-1)産生多剤耐性菌について(厚生労働省)
  NDM-1およびNDM-1産生菌の特徴(日本感染症学会)