近年、性感染症である梅毒患者の報告数が急激に増加しています。2022年の報告数は10月23日現在で10,141人に達しており、感染症法での調査が始まった1999年以降で最多であった2021年の7,983人(暫定値)を上回り、過去最多を更新しています。性別では、男性は女性の約2倍の報告数となっています。年代では、男性は20歳~40歳代が多いのに対し、女性は20歳代の若年層で増加しています。
梅毒は経過中、一時的に症状が消失する時期があり、感染したことに気付かない人も多くいます。無治療のままでは症状が悪化する可能性がありますが、現在では早期発見・早期治療により完治が可能となっています。今回は梅毒について、皆さんに知っておいていただきたい情報をご紹介します。
梅毒とは?
梅毒は、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum )という細菌に感染することで引き起こされる感染症です。
梅毒トレポネーマは感染力が強く、感染者の皮膚粘膜病変の滲出液と、接触者の皮膚や粘膜の小さな傷との直接接触により感染が起こります。ヒトが唯一の宿主で、主に性的接触により感染が広がりますが、キスで感染する可能性もあります。また、妊娠している人が梅毒トレポネーマに感染すると、胎盤を通して胎児に感染し、死産、早産などを起こすことがあり、若年女性の梅毒報告数の増加に伴い、先天梅毒の発生数の増加が報告されています。
図2 梅毒トレポネーマの蛍光写真
(しらかば診療所 井戸田一朗先生よりご恵与)
梅毒の症状
梅毒の症状は、感染後の経過期間により、出現する部位が異なります。時間の経過とともに症状が局所から全身に広がっていきます。一時的に症状が消える時期もありますが、治療をしないと症状が悪化して現れることがあります。病期は早期梅毒(第1期、第2期)と後期梅毒(第3期)、無症候性梅毒(症状がない時期)などに分かれます。
早期梅毒
第1期: |
感染から約3週間の潜伏期間を経て、梅毒トレポネーマが感染した部位(陰部、口唇部、口腔内、肛門等)にしこりができます(初期硬結)。何日かすると中心部に潰瘍ができます( |
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第2期: |
感染から3か月くらいすると、梅毒トレポネーマが血流に乗って全身に広がり、手のひら、足の裏、顔などの全身に淡く赤い発疹が現れます。小さなバラの花に似ていることから「バラ疹」とも呼ばれます。発疹に痛みや痒みはなく、数週間で再び症状が消失しますが、治療しなければ、体内に梅毒トレポネーマが潜伏した状態になります。 図3 手のひらに出現したバラ疹 |
後期梅毒
第3期: |
感染から無治療で3年以上経過すると、皮膚、筋肉、骨、内臓にゴムのような腫瘍ができます。さらに無治療で10年以上経過すると、梅毒トレポネーマに全身の臓器や神経が侵され、精神神経症状、脳梗塞、心不全など死に至る症状に進行します。 |
無症候性梅毒
臨床症状は出現していませんが、梅毒抗体検査で陽性となり、治療が必要と判定された状態を示します。
- 梅毒に罹患すると粘膜に炎症を起こすため、HIVなどの他の性感染症にも感染しやすくなります。
- 梅毒は治療で完治した場合でも、再度感染することがあります。
- 梅毒は一時的に症状が治まったり、症状が出ない人もいます
梅毒の治療法と予防法
梅毒にはペニシリン系の抗菌薬が有効です。これまでの飲み薬による治療(早期梅毒であれば2~8週間の内服)に加えて、2022年1月からは注射薬による治療も可能となりました(早期梅毒であれば単回筋注のみ)。梅毒トレポネーマは体内に潜んでいるため、確実に治療するためにも、医師の指示に従い、自己判断で治療を止めないことが重要です。 |
梅毒の検査を受けるには?
梅毒の検査法は血清学的検査である梅毒抗体検査が一般的です。梅毒抗体検査は患者血清中のTP抗体(梅毒トレポネーマに対する抗体)およびSTS抗体(菌体組織が破壊されて生じるカルジオリピンに対する抗体)を検出することにより、総合的に診断されます。
梅毒の症状がある場合には、医療機関(男性:泌尿器科・皮膚科・感染症内科、女性:婦人科・皮膚科・感染症内科)を受診し検査を受けてください。症状は無くても感染リスクがある場合には、全国の保健所において無料・匿名でHIV検査と同時に梅毒抗体検査を受けることが出来ます。
神奈川県の状況と保健所での梅毒抗体検査
神奈川県でも梅毒患者の報告数は急激に増加しています。2022年は10月23日時点で406人となっており、2021年を既に上回っています。梅毒トレポネーマに感染した契機を調べると、性風俗産業の利用歴や従事歴、パートナーの梅毒感染判明、手術前検査などが多い傾向にあります。
神奈川県の保健所ではHIV検査と同時に梅毒抗体検査が無料・匿名で受けられます。また、検査してから約1時間で結果が判明する「即日検査」も実施しています。詳しい情報は、ウェブサイト『HIV検査・相談マップ』で検索してみてください。
【参考文献/参考リンク】
- 国立感染症研究所 感染症発生動向調査 週報(IDWR)
- 国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)
- 国立感染症研究所 感染症疫学センター・実地疫学研究センター・細菌第一部,感染症発生動向調査で届け出られた梅毒の概要(2022年4月6日現在)
- Kanai M, et al. Increase in congenital syphilis cases and challenges in prevention in Japan, 2016-2017. Sex Health. 2021 May;18(2):197-199. doi: 10.1071/SH21004.
- 日本性感染症学会梅毒小委員会,梅毒診療ガイド
- 福島一彰:今村顕史,細菌性疾患 梅毒―現代の梅毒 2018―,モダンメディア 64巻8号2018,173-183.
- 国立感染症研究所 梅毒とは
- 神奈川県 感染症情報センター
(微生物部 佐野貴子)
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