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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.179

感染症の流行ってなあに?
~感染症発生動向調査について~

2017年3月発行

毎年、冬頃になるとインフルエンザや感染性胃腸炎の流行を知らせるニュースが流れます。ニュースを聞いた方の中には、どうやって感染症の流行を調べているのかと疑問に思っている方もいるかもしれません。そこで、今回は、感染症の流行を調べる方法について解説します。


感染症の流行を調べる方法は?

日本には、国内の感染症の状況を監視(サーベイランス)するための調査システムがあります。それを「感染症発生動向調査」と呼んでいます。調査によって得られた感染症情報を国民に提供することで、感染症のまん延の防止に役立てています。
具体的には、対象となる感染症の現在の発生状況を過去のデータと比較して、流行の兆しや例年との違いを早期に発見します。それをもとに、速やかに流行警報などを出して、感染予防対策の啓発を行い、感染症の拡大防止を図ります。(図1)


図1感染症発生状況の監視(サーベイランス)の目的

この調査は、1981年から18種類の感染症を対象にはじまりました。1999年からは「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づく調査となりました。その後、2006年から「感染症サーベイランスシステムNESID(National Epidemiological Surveillance of Infectious Diseases)」により、国が中央データベースで情報を一元的に管理しています。

感染症発生動向調査のシステムとは

感染症発生動向調査は、医療機関、保健所、地方感染症情報センター、中央感染症情報センターが協力して行っています。神奈川県では、基幹地方感染症情報センターを神奈川県衛生研究所に置き、国立感染症研究所の中に中央感染症情報センターがあります。(図2)
「感染症発生動向調査」には、大きく分けると「患者情報」の調査と「病原体情報」の調査の2つがあります。そのほか、獣医師が届ける動物の感染症調査もあります。


図2 神奈川県における感染症発生動向調査の流れ

患者情報の調査方法

患者情報の調査対象となる疾患は、2017年3月現在、全部で110疾患あり、一類から五類までに分類されています。(表1)一類から四類までの全疾患と五類の一部疾患は、すべての医療機関で届出が必要な「全数把握対象疾患」、五類の残りの疾患は決められた医療機関(指定届出機関:「定点」)で届出が必要な「定点把握対象疾患」です。
対象疾患を診断した場合、医師は保健所に届出を提出し、保健所は地方感染症情報センターにオンライン報告をします。地方感染症情報センターでは情報を確認し、国の中央感染症情報センターへオンラインで報告します。中央感染症情報センターでは、定期的にデータを集計し、集計データが再び地方感染症情報センターへ戻ります。国および地方感染症情報センターは、その情報を解析して、国内および地域の感染症の発生状況について一般に公開しています。

類型 性格 疾患名
一類
(7疾患)
危険性が極めて高い エボラ出血熱など
二類
(7疾患)
危険性が高い 結核、中東呼吸器症候群(MERS)、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)など
三類
(5疾患)
危険性は高くないが、特定の職業で集団発生を起こす可能性がある コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症など
四類
(44疾患)
動物、飲食物などを介してヒトに感染する A型肝炎、ジカウイルス感染症、デング熱、日本脳炎、 マラリア、レジオネラ症など
五類(全数把握
22疾患・
定点把握
25疾患)
感染症の発生状況を収集・分析し、国民に情報提供する必要がある ≪全数把握疾患≫
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症、後天性免疫不全症候群、侵襲性肺炎球菌感染症、梅毒、麻しんなど
≪定点把握疾患≫
インフルエンザ、感染性胃腸炎、流行性耳下腺炎、急性出血性結膜炎、性器クラミジア感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症など
 その他 新型インフルエンザ等感染症(新型インフルエンザ、再興型インフルエンザ)
指定感染症(一~三類感染症と同程度の危険があると政令で定めた既知の感染症)
新感染症(ヒトからヒトに感染し、危険性が極めて高い未知の感染症)

病原体情報の調査方法

「病原体定点」となっている医療機関では、対象疾患を診断した場合、患者から咽頭ぬぐい液・血液・尿・便などの検体を採取します。その検体を地方衛生研究所に送り、感染症の原因となる病原体の種類や特性(血清型、遺伝子型など)を詳しく調べます。調査結果は、検体提供を行った医療機関に報告するとともに、国の中央感染症情報センターに集めて解析した後に還元されます。

流行の目安となる警報・注意報を知ろう

定点把握対象疾患では、警報や注意報の基準値となる「定点当たりの報告数」が疾患ごとに決められています(定点当たりの報告数=地域の定点医療機関からの総報告数÷地域の定点医療機関の数)。警報レベルは大きな流行が発生または継続しつつあると疑われることを指します。注意報レベルは流行の発生前であれば今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性が高いこと、流行の発生後であれば流行が継続していると疑われることを指します。

流行情報を利用してみよう

神奈川県感染症情報センターでは、感染症発生動向についての週報、月報や、微生物検査情報をホームページで公開しています。(図3)また、国立感染症研究所では、感染症発生動向調査週報 (IDWR:Infectious Diseases Weekly Report)に対象感染症の全国での発生状況を、病原微生物検出情報 (IASR:Infectious Agents Surveillance Report)に病原体検出情報の速報をホームページで公開しています。
都道府県、市町村などでは、これらの感染症情報から、地域の感染症の発生状況を確認し、対象疾患が警報や注意報レベルを超えた場合には公表します。それが、感染症流行のニュースのもとになっているのです。
皆さんも感染症のニュースで気になることがあったら、神奈川県感染症情報センターや国立感染症研究所のホームページをのぞいてみてください。最新の感染症の流行状況や感染症対策についての情報が得られます。

図3 神奈川県感染症情報センターの情報公開(ホームページより)

 

(参考リンク)

(企画情報部 大塚 優子)

   
衛研ニュース No.179 平成29年3月発行
発行所 神奈川県衛生研究所(企画情報部)
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