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神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.160

インフルエンザに気をつけよう!!

2014年1月発行

 インフルエンザは冬季に流行する呼吸器感染症で、病原体はインフルエンザウイルスです。38℃以上の急激な発熱で発症し、全身倦怠感、関節痛、筋肉痛などを伴うことが多く、一般的な「かぜ」よりも重症感が強いのが特徴です。通常は一週間程度で回復しますが、インフルエンザに感染した後に脳症や肺炎を起こしたり、既往症(心臓病、慢性呼吸器疾患など)が悪化するなどして命にかかわる場合もあるため、注意が必要です。

インフルエンザ患者報告数の推移

 日本では、例年、お正月休みが終わった後に患者数が急増します。神奈川県域1)も同じで、患者発生のピークは1月末~2月初めとなることが多く、流行の終息は4月頃です。流行の状況は定点あたり患者報告数2)でみることができます。インフルエンザの場合、1.0人を超えると流行期の始まりとみなし、ピークを過ぎた後患者数が減少して1.0人を下回ると流行の終息とみなします。インフルエンザシーズンは、9月から翌年の8月を1シーズンとして集計しています。過去4シーズンの患者報告数の推移(図1)をみてみると、AH1pdm093)によるパンデミック(世界的大流行)が起きた2009/2010シーズンを除き、毎年ほぼ同様の流行パターンをとっています。


図1 神奈川県域のインフルエンザ患者報告数の推移

1)

神奈川県域:横浜市、川崎市、相模原市を除く神奈川県内の市町村です。

2)

定点あたり患者報告数:1週間における指定された医療機関あたり(定点あたり)の患者報告数を表す数値で、この数値によって感染症の流行が把握できます。
3) AH1pdm09 : 2009年にパンデミック(世界的大流行)を起こしたウイルス(influenza A(H1N1)2009pdm)の略称です。
 
 

インフルエンザの診断と治療

 感染症の診断には、検査診断と臨床診断とがあります。インフルエンザの場合、検査診断にはウイルス分離や血清診断が用いられ、1990年代まではこれらの方法で確定診断をしていました。しかし、ウイルス分離は1~2週間程度、血清診断は2~3週間の時間が必要なため、確定診断がつく頃には患者さんは既に回復した後、と言う状況でした。そのため、ほとんどの場合、医師の臨床診断のみに頼っていました。
 しかし、近年はベッドサイドでインフルエンザウイルスを検出できる迅速診断キットが登場し、医療機関でインフルエンザかどうかを容易に診断することが可能になりました。また、以前は対処療法のみに頼っていた治療も、インフルエンザウイルスが患者の細胞内で増殖するのを阻害する作用を持つ抗インフルエンザ薬が登場したことにより、インフルエンザの治療が可能となりました。現在は、医療機関でインフルエンザの迅速診断キットを用いて診断し、抗インフルエンザ薬を処方するのが一般的となっています。

 
 

インフルエンザウイルス調査

 衛生研究所では、流行しているインフルエンザウイルスの型(亜型)を把握するとともに流行しているウイルスの特徴を明らかにするため、ウイルス分離を行っています。ヒトのインフルエンザにはA型、B型、C型がありますが、毎年流行の中心となるのはA型とB型です。さらに、A型インフルエンザにはAH1pdm09とAH3の2種類の亜型があります。AH1pdm09は2009年にパンデミックを起こしたウイルスで、それ以前に流行していた「ソ連型」と呼ばれるAH1はその後検出されなくなりました。一方、AH3は1968年にパンデミックを起こしたウイルスで「香港型」と呼ばれ、現在まで繰り返し流行しています。
 過去4シーズンの検出ウイルスの型別内訳をみてみると、2009/2010シーズンの流行はAH1pdm09がほとんどでした(図2.a)。次の2010/2011シーズンの主流行はAH1pdm09でしたが、AH3とBも加わった3種類の混合流行となりました(図2.b)。2011/2012シーズンと2012/2103シーズンはAH1pdm09がほとんど検出されず、AH3が主流行でBが加わった2種類の混合流行となりました(図2.cおよびd)。


図2 インフルエンザウイルス検出割合

 
 

抗インフルエンザ薬耐性変異株調査

 抗インフルエンザ薬を処方するのが一般的となった現在では、抗インフルエンザ薬を使用することに伴い薬が効きにくいウイルス(薬剤耐性変異株)の出現と流行が懸念されます。AH1(「ソ連型」と呼ばれる亜型)の場合、内服薬であるオセルタミビル(商品名タミフル)に対する薬剤耐性変異株の割合が、2007/2008シーズンには3%程度であったのに、翌2008/2009シーズンにはほぼ100%になりました。このオセルタミビル耐性AH1は、2009年春のAH1pdm09の出現とともに検出されなくなり、以後の流行に影響することはありませんでした。しかし、現在流行しているAH1pdm09、AH3、Bについては調査する必要があります。
 衛生研究所では、国立感染症研究所と連携して薬剤耐性変異株の調査を行っています。2010/2011シーズンに調査したAH1pdm09分離株71株中2株のオセルタミビル耐性変異株が検出されましたが、これらは散発的に検出されただけでお互いに関連性は見当たりませんでした。AH3の場合は、吸入薬のザナミビル(商品名リレンザ)に対して感受性が低下する(薬が効きにくくなる)とされる変異株が見つかっています。2010/2011シーズンに調査したAH3分離株34株中2株がザナミビル耐性変異株でした。これらもAH1pdm09の場合と同様に、散発的に検出されたものでした。また、Bについては、今のところ薬剤耐性変異株は見つかっていません。

 

今季(2013/2014シーズン)の
インフルエンザ流行状況

 さて、2013/2014シーズンの神奈川県域におけるインフルエンザの流行状況ですが、2013年52週(12/23~29)に患者報告数が流行開始目安の1.0人を超えて流行期に入りました。一方、インフルエンザウイルスは、45週(11/4~10)にAH3、46週(11/11~17)に1pdm09、48週(11/25~12/1)にBが、それぞれ初検出されており、以後、数は少ないものの毎週検出され続けています。また、学級閉鎖も報告されており、2校の小学校の集団事例からBが検出されています。本シーズンは、3種類の混合流行となる可能性があると思われます。


図3 神奈川県域のインフルエンザ検出状況

 1月に入ってこれから本格的な流行が始まると思われます。手洗い、うがい等の衛生行動とともに、休養やバランスの良い食事を心がけ、インフルエンザにかからないように気をつけましょう。「インフルエンザかな?」と思ったら、早めに医療機関を受診するとともに、周囲のヒトにうつさないよう、咳やくしゃみが続くときはマスクをするなどの「咳エチケット」を心がけましょう。
 当所の神奈川県感染症情報センターでは、インフルエンザや感染性胃腸炎等の患者情報(週報)や流行しているウイルスの解析情報などもお知らせしてしますので、是非ご覧ください。

         

(参考リンク)

神奈川県感染症情報センター

( 微生物部 渡邉寿美)

       

 

   
衛研ニュース No.160 平成26年 1月発行
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