神奈川県衛生研究所

衛研ニュース
No.155

風しん大人も注意!!
~神奈川県の2012年患者数は前年の4倍~

2013年3月発行
2012(平成24)年は風しん患者報告数が全国的に調査開始以降最も多くなりました。
2013年になっても流行は続いており、男性患者が拡大しています。地域別では都市部での患者報告数が高くなっています。風しんは麻しんとともに、2008(平成20)年から感染症発生動向調査における定点把握対象疾病(あらかじめ指定した医療機関のみ報告する)から全数把握対象疾病(診断したすべての医療機関が報告する)に変更され、風しんと診断された患者全ての発生状況調査が実施されています。今回は神奈川県における風しんの最近の動向について紹介します。
 
風しんとはどんな病気?
風しんは、風疹ウイルスの感染によって起こる急性の発疹性感染症です。風疹ウイルスは、トガウイルス(Togavirus)科ルビウイルス(Rubivirus)属に属する直径60~70nm(ナノメートル=100万分の1ミリメートル)のRNAウイルスです。流行は春先から初夏にかけて多くみられます。風疹ウイルスは、感染者の咳やくしゃみなどで飛び散ったしぶきを吸い込むことで感染(飛沫感染)し、感染後から症状が現れるまでの潜伏期間は2~3週間です。主な症状としては、全身の発疹(写真)や発熱、耳の後ろや後頭部の下にあるリンパ節の腫れなどが認められます。通常は3日程度で発疹が消えて治りますが、まれに脳炎などの重い合併症が起きることがあります。また、感染してもはっきりした症状が出ない人(不顕性感染者)も15%程度いるとされています。
麻しんとは違うの?
同じ時期に流行する発疹性の疾患に麻しんがあります。麻疹ウイルスは、風疹ウイルスと異なり、パラミクソウイルス(Paramyxovirus)科モルビリウイルス(Morbillivirus)属に属する直径100~250nmのRNAウイルスです。麻疹ウイルスの感染力は非常に強く、風しんよりも症状が重く、重度の合併症を引き起こすこともあると言われています。また、免疫を持っていない人が感染した時には、ほぼ100%発症すると言われています。
 
神奈川県の風しん患者発生状況
神奈川県における風しんの患者報告数は、2008年~2010年にかけ減少傾向にありました。しかし、2011年には63人と大幅に増え、2012年にはさらに約4倍の259人に増えました。2013年に入っても患者報告は続いており、第1週(12月31日~1月6日)から第9週(2月25日~3月3日)までの累積患者報告数は168人にのぼり、2012年の年間報告数の半数を越えています(図1)。また、2012年第25週(6月18日~24日)から毎週患者報告があり、流行の季節性がはっきりとせず、一年を通して患者発生が見られるようになってきています(図2)。


 
地域別では、神奈川県は全国的には東京都に次いで2番目に患者報告数が多く、東京都に隣接する千葉県と埼玉県を加えた1都3県で、全国の報告数の約5割を占めています。神奈川県内の保健所設置市(横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市、藤沢市)および県域の保健福祉事務所(HWC)別では、横浜市が113例(43.6%)で最も多く、次いで川崎市71例(27.4%)であり、両市で全体の約7割を占めています。茅ヶ崎HWCは14例(5.4%)、藤沢市および大和HWCは12例(4.6%)となっています。足柄上HWCは1例、秦野HWCは2例、小田原HWCは4例で、神奈川県の東南部からの報告が多く、神奈川県西部からは少数です(図3)。
 
特に、男性患者が多いのはなぜ?
神奈川県の2012年の風しん患者を男女別でみると、図1に示すように男性が75.3%を占めています。さらに、男性の20歳代から40歳代年齢群が151人で、男性報告数の77.4%であり、男女を含めた全報告数の58.3%を占め、この年代の男性患者が多くなっています。一方、女性は15歳から29歳の年齢群が43人で女性報告数の67.2%を占めています(図4)。
 このように患者の多くが20~40歳代の成人男性であり、女性は15~20歳代の割合が高い現象は、風しんワクチン接種と関係があるとされています。風しんワクチンの定期接種は、1977(昭和52)年から1994(平成6)年まで女子中学生だけに定期接種が行われていました。そのため、現在20~40歳代の男性や15~20歳代の女性は予防接種の機会が少なかったため、以前に風しんに感染していなければ、風疹ウイルスに対する抗体はほとんど持っていないとされています。
 風しんはワクチンで予防が可能ですが、風しん患者のワクチン接種歴の有無をみると、接種歴無し(30.1%)と不明(57.1%)で約9割を占めています(図5)。当所微生物部では麻しんが疑われた患者についてウイルス検査を実施しています。2012年1月~12月の54例の麻しんが疑われた患者では、麻疹ウイルスは検出されませんでしたが、13例から風疹ウイルスを検出しています。風疹ウイルスの検出された13例のうち12例がワクチン接種歴無し(2例)あるいは不明(10例)で、残り1例は1回のみの接種でした。
 
先天性風疹症候群に注意
妊娠初期の女性が風疹ウイルスに感染すると、ウイルスが胎盤を介して胎児に感染して、生まれた子が先天性風疹症候群と呼ばれる病気にかかることがあります。先天性風疹症候群の3大症状は、先天性の心疾患(心室中隔欠損など)と白内障そして難聴です。3大症状以外には、網膜症や血小板減少性紫斑病、発育遅滞(低出生時体重)などがあります。先天性風疹症候群患者は、2012年全国で5例報告されていますが、神奈川県での報告はありませんでした。
ワクチン接種で感染予防
風しんは風しんワクチンを受けることで予防可能な疾患です。特に妊娠を希望する女性で風しんの抗体がない方や抗体価が低い方、ワクチン接種歴が不明な方は、風しんのワクチン接種が重要です。また、同居の家族の方も抗体がない場合にはワクチンを受けておくことが大切です。
麻しん・風しんワクチンを受けることで、麻しんと風しんを予防することができます。
 
感染症情報センターからのお知らせをご覧ください
神奈川県感染症情報センターでは、当所ホームページに風しんに関する情報をはじめとして、インフルエンザ、感染性胃腸炎やマイコプラズマ肺炎など多くの感染症の発生状況についての情報をお知らせしています。今後も迅速に感染症発生状況を把握・解析し、感染症の予防、流行拡大の防止などに役立つ情報提供に努めてまいります。
 
(本文中のデータは2013年3月6日現在です。)
 
参考リンク
神奈川県感染症情報センター
麻しん・風しん(厚生労働省ホームページ)
 
 

(企画情報部  齋藤 隆行)

   
衛研ニュース No.155 平成25年3月発行
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