平成30年度 神奈川県感染症発生動向調査解析委員会報告
平成31年2月19日(火)開催
[出席委員] | |
委員長 | 森 雅亮(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生涯免疫難病学講座 教授) |
副委員長 | 清水 博之 (藤沢市民病院 臨床検査課 医長) |
委員 | 今川 智之 (神奈川県立こども医療センター感染免疫科部長) |
委員 | 岡部 信彦 (川崎市健康安全研究所長) |
委員 | 片山 文彦 (小児科内科落合医院院長) |
委員 | 木村 博和 (横浜市健康福祉局健康安全部医務担当部長) |
委員 | 近藤 真規子(神奈川県衛生研究所微生物部長) |
委員 | 笹生 正人 (笹生循環器クリニック院長 神奈川県医師会理事) |
委員 | 横田 俊一郎(横田小児科医院院長) |
[オブザーバー] | |
長谷川 嘉春(神奈川県平塚保健福祉事務所長) | |
髙崎 智彦(神奈川県衛生研究所長) |
議題
(1)平成30年の感染症発生動向調査(全数疾患、定点疾患)について
(2)平成30年に話題となった感染症について
- ウイルス検出状況について
- 麻しん・風しんの報告状況について
- 百日咳の報告状況について
- カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症(CRE)について
- 梅毒の発生状況について
(3)その他
(1) 平成30年の感染症発生動向調査(全数疾患、定点疾患)について
(全数疾患)
- 平成30年の全数把握疾患について総数は4,597件で、前年3,200件より増加。
- 一類の報告はなかった。二類の報告は結核のみだった。
- 三類感染症は、腸管出血性大腸菌感染症が300件と多くみられた。県域では、保育園児や保護者に感染が広がった事例があった。
- 四類感染症では、E型・A型肝炎が前年度より多く報告が上がっている。特にA型肝炎については、性的接触による感染が問題となっている。レジオネラ症が114件で病型は肺炎型がほとんどだった。
デング熱が22件あり、すべて輸入感染だった。ジカウイルス感染症は今年度報告がなかった。 - 五類感染症について、薬剤耐性菌ではCREが233件と前年123件から増加している。急性弛緩性麻痺が2018年5月から全数把握疾患になり、8名の報告があった。
性感染症では、後天性免疫不全症候群(AIDS/HIV)が75件の報告があり、前年度82件より減ってはいるが、エイズ発症者は25件と報告全体の1/3を占めていた。梅毒は352件で前年よりさらに増加した。その他で多かったのは侵襲性肺炎球菌感染症で225件だった。水痘(入院例)は、前年度15件から53件に増加した。百日咳は2018年1月1日より定点把握疾患から全数把握疾患になり、763件と多くの報告があった。風しんは昨年10件から今年411件と大幅に増加した。麻しんは昨年9件、今年7件だった。バンコマイシン耐性腸球菌は4件、薬剤耐性アシネトバクターは2件だった。
(定点疾患)
- インフルフルエンザは、昨シーズン流行のピークが第6週で、定点当たりの報告数は66.31と高値だったが、今シーズンは第4週に67.94となっている。
- RSウイルスは、前年より報告件数は減少したが、7~8月にかけては増加傾向だった。
- 手足口病は、昨年は多く警報レベルに達したが、今年の報告件数は減少した。
- 伝染性紅斑は20週より多く、全国と比べて報告件数が増加している。
- 流行性角結膜炎は今年報告件数が多い。年齢別では全国に比べて神奈川県は30-40歳代に多かった。
- 感染性胃腸炎(ロタウイルス)は昨年より報告件数が減少した。
- 性器クラミジアは全国よりやや報告件数は少ないが、男女ともに20歳代前半に報告件数が多かった。
- 性器ヘルペスウイルス感染症は全国よりやや報告件数は少ないが、年齢では女性は20歳代前半に、男性は30歳代に報告件数が多かった。
- メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症では全国より報告件数が少なく、年齢では70歳代以上がほとんどだった。ペニシリン耐性肺炎球菌は年齢別でみると1-4歳と70歳以上が多かった。薬剤耐性緑膿菌感染症の報告件数も70歳以上が多かった。
(2)平成30年に話題となった感染症について
○ウイルス検出状況について
- インフルエンザについて。2017/2018シーズンは過去5年間の中で最大の流行が起こった。しかもAH1、AH3、Bという3つの型が検出されていて、Bが最も多かったという特徴があった。
- 2018/2019シーズンでは、ゾフルーザ耐性について、神奈川県ではAH1で1件検出されており、感染研HPによると全国では96件中2件検出されているが、うち1件が神奈川衛研でもう1件が感染研独自の検査であった。
- 手足口病について、発生件数は少なかったが、検体の依頼は増加しており、コクサッキーウイルスA16型が夏から冬にかけて検出されている。エンテロウイルスA71は春から夏にかけて検出されている。2010年度から昨年度位まではヘルパンギーナの原因であったコクサッキーウイルスA6型が流行の中心だったが、今年度ほとんど影を潜め、従来からの、流行株が主流になっているという状況。
- ヘルパンギーナについて件数は少ないが、コクサッキーウイルスA2,4,5、10が検出されている。
- 咽頭結膜熱について、例年アデノウイルス1,2,3が中心で検出されている。アデノウイルス54型、85型というのが検出されている。
- 流行性耳下腺炎は、今年は少なく1株しか検出されなかった。
- 無菌性髄膜炎について、通常、髄液からウイルスが取れると無菌性髄膜炎となるが、髄液の検体はなかなか収集できず、咽頭ぬぐい液と便をセットとして提出してもらっている。エコーウイルス3型,6型、30型、コクサッキーウイルスB5型は髄液からも検出されてきている。他にエンテロウイルスA71型やヘルペスウイルスが検出されている。
- ウイルス性の感染性胃腸炎はここ数年減少してきており、2018年は51件で、ノロウイルス・サポウイルス・A群ロタウイルス・アストロウイルス・アデノウイルス、これらをセットで検索しているが、16件と非常に少なく、ノロウイルスは4件だった。遺伝子型はG2.2が2株、G2.5が2株であった。
- デング熱は、ほとんどが輸入例。2018年は神奈川県内の報告数が22件、神奈川衛研検査数が10件、陽性数4件、遺伝子型はD1型2株、D2型1株、D3型1株で、全て渡航歴有。
- A型肝炎は2014年に日本では大きな流行があった。その時は魚介類や水を介しての感染が全国的に大流行した訳だが、2015年から2017年までは200件台と減少。2018年は全国で925件、神奈川県でも95件の報告がある。全国的にほとんどがⅠA型。同じⅠA型でも、従来では魚介類や水を介しての感染だったのが、2015年頃から海外で性感染症として流行した。2016年に日本で初めて検出され、その後少しの間はそれほど多くはなかったが、2018年に日本の都市圏のMSMを中心に流行している。神奈川衛研では9症例検査し、うち8例からこのクラスターを検出した。1例はⅢA型で、海外で感染したものと思われる。これ以外にも2017年の流行株も日本では流行している。そんな中、今年の1月、JP-HAV19-00758クラスターが東北、北陸で食中毒として流行した。
- 梅毒の報告数は全国で増加傾向、特に2014年以降は非常に増加している。神奈川衛研ではHIV検査を行っている全ての県域保健所で梅毒の検査も実施しており、2018年の3月~12月までに563件検査をし、うちスクリーニング検査陽性17件、確認検査数16件中15件が陽性(1件は分かっているということで検査せず)で陽性率2.8%であった。神奈川県における2018年の梅毒報告数は352件であった。
○風しん・麻しんの報告状況について
- 2013年には全国的に風しんが大流行し神奈川県でも多かった。その後少なくなってきたが、2018年は全国で2,917名、神奈川県でも412名の報告があった。全国の報告数は、29週あたりから増加し、今年1月になっても減少していない状況。
- 麻しんについて、2015年には35名と減少したが現在増加してきている。3月頃に沖縄で流行し、愛知県でも流行が確認されたが、関東地方ではあまり報告がなく、その後沖縄県でも終息宣言が出されて、その後関東地方で輸入例が単発で出ていた。しかし、今年に入り近畿地方から広がり、しかも神奈川衛研でもウイルスが検出さており、これが3月頃流行していた沖縄のものと遺伝子型が同じ、クラスターも同じである。
- 2018年の神奈川衛研での検査状況としては、麻しんについては従来より届け出があったもの全例について検査しており、風しんに関しては2018年から全例について検査をすることになった。3月の麻しんの流行していた頃、麻疹症例からも風疹症例からもウイルスが取れなかったが、7月位からパラパラと風疹が検出されてきた。関東地方でも報告がありその後現在のように報告数が増加している状況。
- 神奈川衛研での遺伝子型:風疹ウイルスは2012から2014年は2Bが流行していたが、今年2018年の流行は1Eで、60株検出され流行のタイプが異なっていた。麻疹ウイルスはD8がほぼ毎年検出されており、2018年には神奈川県では検出がなかった。2019年にD8で沖縄株と類似のものが5件程検出されている。B3、H1は海外で感染したものと思われる。
- 風しんの報告数:昨年7月から流行している。2018年は413件、2019年第6週では既に72件という状況。年齢別性別報告数では男性の方がワクチンを打っていないということもあり、多くなっている。最高齢は88歳。保健所別報告数で、横浜市・川崎市が多く県域では厚木・秦野・大和が多くなっている。予防接種の有無について調べたところ、有の人も罹患しているが、圧倒的に無の人が罹患している。有の人でも1回しか接種していない人の発症が多い。
- 麻しんの報告数:2018年12月より麻しんの流行が続いている。2008年までは3,500件と非常に多かったが、予防接種対策がとられ、年間100件超えるか超えないかという状況だった。2015年3月27日に「麻疹排除国」に認定された後は神奈川県としてはずっと一桁の報告数であった。2019年6週で7件になり、昨年1年間を超える報告数となっている。週別報告数を見ると、昨年末から年明けに急増している。現在の状況が継続するなら、排除国認定の取り消しになるかもしれない。
- MRのワクチン接種率:厚労省の全国のデータ(2017年度最終評価)によれば、接種率95%を超えることを目標としているが、県内市町村では達成していない市町村がある。しかし、一部の市町村に聞き取りをしたところ、地域の問題・転入転出の問題などがあり、正しい数字が上がっていないことが分かった。この数字が独り歩きしてしまって90%きっているところは指摘等という話になってしまうので、今後検討が必要。
○百日咳の報告状況について
- 百日咳について。2018年1月から定点疾患から全数把握対象報告疾患に変更された。神奈川県では、昨年764件の届出があった。男女別では女性が多く、年齢では5~10歳未満、10~15歳未満の順で多く、今まで定点では成人の届出は出てこなかったが、全数になってから届出があった。最高齢は80歳代。保健所別では横浜・川崎が多いのはもちろんだが、県央の大和・厚木・秦野の順に多くなっている。神奈川県内の予防接種の有無については、40歳未満では予防接種歴「有」が多く、40歳以上は「不明」が多い。予防接種をしているのに発症している人が非常に多く、神奈川県内のみならず、全国的にも同じ傾向。4回接種しているにも関わらず発症している人が多いという状況。
- 発生動向調査システムのデータに基づき「2018年第1週から第46週に神奈川県内で報告された百日咳感染症の分析」を行ってみた。県域のみの扱いだが、推定感染経路別では家族からの感染が一番多く、家族内だと兄弟・母親の順に多く3位が父親であった。県域の医療機関別報告数は、保健所によって1か所の病院しか報告がなかったり、特定のクリニックのみの報告しかない等、報告医療機関に偏りがあった。また、県域の診断方法別報告数では、IgMの検出のみで届出がされている医療機関が多い保健所があったり、全てLAMP法で検出して報告されている保健所があったり等、保健所によって診断法別報告数でも偏りがあった。
また、県全体でも県域でも予防接種をしていても発症している人の報告が多くあり、全国と同様の傾向で、今後の課題である。考察としては地域によって報告数や報告医療機関・診断方法に偏りがあるので、この内容を保健所に報告して百日咳感染症対策の一助としてもらえたらと思う。
○カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症(CRE)について
- 報告数が年々増えており、2017年から2018年にかけては110件増加している。横浜市川崎市が多く藤沢市が急に増えている。秦野では大学病院がルーチンで行っている影響と考えられる。男女別では男性が多く60歳以上で非常に多く85%以上を占めている。菌種別報告数ではエンテロバクター属が多い。
○梅毒の報告状況について
- 梅毒の報告数は年々増加している。男性は20代から50代が87%、女性は20代が圧倒的に多い状況。今年先天性梅毒の方が1例生まれているというのが今年の特徴。女性に関しては100歳代の方が入所時検査で実施したら陽性だったという報告がある。男性は病型別にするとⅠ期Ⅱ期が非常に多く、女性では無症状の方が非常に多い状況。
以上