平成29年度 神奈川県感染症発生動向調査解析委員会報告
平成30年2月20日(火)開催
[出席委員] | |
委員長 | 森 雅亮(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生涯免疫難病学講座 教授) |
副委員長 | 清水 博之 (横浜市大市民総合病院医療センター 小児総合医療センター 助教) |
委員 | 今川 智之 (神奈川県立こども医療センター感染免疫科部長) |
委員 | 岡部 信彦 (川崎市健康安全研究所長) |
委員 | 片山 文彦 (小児科内科落合医院長) |
委員 | 木村 博和 (横浜市健康福祉局健康安全部医務担当部長) |
委員 | 近藤 真規子(神奈川県衛生研究所微生物部専門研究員) |
委員 | 笹生 正人 (笹生循環器クリニック院長 神奈川県医師会理事) |
委員 | 横田 俊一郎(横田小児科医院長 神奈川小児科医会長) |
[オブザーバー] | |
八ッ橋 良三(神奈川県小田原保健福祉事務所長) | |
高崎 智彦(神奈川県衛生研究所長) |
議題: |
(1)平成29年の感染症発生動向調査(全数疾患、定点疾患)について |
(2)平成29年に話題となった感染症について
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(3)その他
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(1) 平成29年の感染症発生動向調査(全数疾患、定点疾患)について
(全数疾患)
- 平成29年の全数把握疾患について総数は3200件で、前年3310件より減少した。
- 一類の報告はなかった。二類の報告は結核のみだった。
- 三類感染症は、腸管出血性大腸菌感染症が267件と多くみられた。
- 四類感染症では、レジオネラ症が101件で病型は肺炎型がほとんどだった。
- 五類感染症について、薬剤耐性菌ではカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症が123件と前年116件から増加している。バンコマイシン耐性腸球菌は6件、薬剤耐性アシネトバクターは1件だった。
性感染症では、AIDSが82件と横ばいで、梅毒は322件で前年よりさらに増加した。その他で多かったのは侵襲性肺炎球菌感染症で238件だった。麻しんは10件、風しんは9件で、前年並みだった。
(定点疾患)
- インフルフルエンザは、平成28年と29年を比較すると流行のピークが1週早くなっているほかは、前年と同程度の経過。今シーズンは平成29年47週に流行開始となり、年が明けてからは、例年になく流行している。
- RSウイルスは、例年秋~冬にかけて流行がみられるが、平成29年は第27週、7月初旬より報告が増え始め、32週、8月初旬にピークとなり、報告数も多かった。
- 手足口病は、前年は報告が少なかったが、平成29年28週、7月中旬に警報レベルを超え、第31週、7月末から8月初めにピークとなった。
- 伝染性紅斑は43週以降に前年より報告が多く、全国と比べても多くなっている。
- 感染性胃腸炎(ロタウイルス)は1週から20週頃まで前年より多く報告された。
(2)平成29年に話題となった感染症について
○ウイルス検出状況について
- 2016/2017シーズンはインフルエンザの流行は例年よりも1か月早く流行が始まり、AH3型が主であったが、1月末からB型も増加した。最終的にはAH3型が422件、B型88件AH1pdm09が11件検出されている。今シーズンは10月からAH3型が検出されたが流行は11月頃からAH1pdm09が主流となり、その後B型が増えてきた。B型のほとんどは山形系統である
- その他のウイルスの検出状況だが、手足口病は平成28年と比べて平成29年度に大きな流行がみられており、CA6型、EV71型が多く検出されている。検出株は10年位前ではCA16が主流であったが、2011年にヘルパンギーナの原因ウイルスであるCA6型が手足口病患者から検出され始め、2013年以降ほぼ毎年CA6型による流行が続いており、2017年に大流行している。通常手足口病は夏場に流行するが、10月以降12月にかけても流行が続いており、このときはEVA71型が検出されている。
- 咽頭結膜熱は本来夏に流行が見られるがここ何年かは一年を通して流行している状況である。
○カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症(CRE)について
- 平成28年、29年の神奈川県の報告について、菌種別ではEnterobacter cloacae 49件、Enterobacter aerogenes 45件でほとんどを占めた。その他、Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxytoca、Serratia marcescens などが報告された。神奈川衛研で菌株も集めており、途中経過で27検体中10検体からカルパペネマーゼが検出されている。
○梅毒の発生状況について
- 2006年から2016年までの神奈川県の感染症発生動向調査から梅毒の報告についてNESIDを用いて分析した。神奈川県の梅毒報告数は2012年(50例)より漸増し、2016年には290例となった。ちなみに2017年は322例とさらに増加。最近3年間(2014年~2016年)の累計報告は557例で、男性355例(63.7%)、女性202例(36.2%)、男性が女性よりやや多い状況。性別年齢群別にみると男性は20から40歳代幅広い年齢層、女性は20歳代の報告が多かった。病期別では、早期顕症梅毒(I期、II期)376例(67.5%)、晩期顕症梅毒15件(2.7%)、無症候162例(29.1%)、先天梅毒4件(0.7%)であった。年齢別性別等の傾向をみても神奈川県は全国と同じく増加傾向であった。特に女性では妊娠出産世代である20歳代の報告数が突出しており先天性梅毒の恐れがあるため対策が必要と思われる。神奈川県としては保健所のHIV検査や学校向けの性感染症予防講演会などの性感染症予防対策などを継続して行っていく必要がある。この3月から神奈川県健康危機管理課のさらなる対策としてHIV検査時に梅毒検査の追加実施をする予定。
- 全体の傾向として、女性は若年齢層、男性は年代広い傾向である。なるべく早く検査することが重要でそれは周知していく必要がある。
(3)その他
○県内感染症対策における感染症担当者の人材育成へのとりくみと体制強化について
- 背景として、2019年ラグビーワールドカップ、東京2020年オリンピック・パラリンピック等の国際行事があり、マスギャザリングを控えている。多くの人が訪日し、海外からの感染症の流入リスクが高くなることが想定されるため、平時の感染症発生動向を正しく把握する必要がある。
- 目的として、現在、県域担当者への専門的機能研修等が少なく、人材育成の強化が必要と考えられる。そこで、研修会等を開催し、担当者のレベルアップを図り、迅速で的確な業務遂行により、感染症・結核対策を強化することを目的とする。また、平成30年に感染症サーベランスシステム[NESID](感染症発生動向調査システムと結核登録者情報システム)が新たなシステムに変更されるため、新たなシステムへ対応する研修として実施する。
- 実施した結果は、好評で、継続実施を望む声が多かった。実施した結果、来年度予算化され、継続的な開催が可能となった。
- このような事業は、素晴らしい報告、成果だと思う
○感染症リスク評価書について
- 東京2020年オリンピック、パラリンピック競技大会開催時の感染症サーベイランス体制の手順書を作成してほしいとの厚生労働省から要望があった。今回、神奈川県の感染症リスク評価書としてたたき台として作成した。