自社にマッチする人材を見極めるには

仕事経験だけではなく、「ライフ・エクスペリエンス(人生経験)」を聞く

就職氷河期世代の採用において、仕事経験だけでなく仕事外の経験も重要であることはこれまでのコラムで述べてきました。「ライフ・エクスペリエンス」とは、個人が仕事や仕事以外で経験したさまざまな事柄や活動の総称です。これらの経験が仕事にどのように生かされるかを見極めることは、就職氷河期世代の人材採用の鍵となると考えています。

例えば、介護の経験を持つ人は、人間関係の構築や効果的なコミュニケーションスキルを身に付けていることがあります。また、子育てを経験した人は、時間管理やマルチタスク能力を養っていることがあります。さらに、ボランティア活動に参加した人は、相互協力やリーダーシップ、問題解決の能力を高めているかもしれません。趣味や日常的なオンライン経験も、コミュニケーション能力や技術スキルの向上に繋がるでしょう。

面接時には、具体的なエピソードを交えた質問をすることで、求職者の「ライフ・エクスペリエンス」を引き出すことができます。いくつか質問例をご紹介します。

・「介護の経験があるのですね。その中でどのような気付きがありましたか? それらが、この会社の仕事に役立つかもしれないことはありますか?」
・「子育てを経験したことがあるのですね。その中でこれまで困難なことも多かったと思うのですが、その時どのように取り組みましたか?」
・「あなたの介護や子育ての経験が、新たなスキルの習得につながったと考えられることはありますか?」
・「ボランティア活動に参加していたのですね。そこで得た経験や成果は、あなたの仕事にどのように生かされていますか?」

こうした質問を通じて、求職者に自身の経験を具体的に語っていただくことで、「ライフ・エクスペリエンス」を人事担当者として探って頂きたいと考えています。

就職氷河期世代との面接で重視すべき3つのポイント

しかしながら、挫折した経験、逆境の時代のことを初対面の選考の場面で話して頂ける方もそれほど多くはないでしょう。

他方、「挫折した経験」や「逆境経験」は、求職者にとっては自己の成長した瞬間・経過と言えます。人事担当者としてはぜひ聞き出したいところです。そこで、これらをうまく引き出すためには、人事担当者として以下の3つのポイントに注意を払うことが求められるのではないかと考えています。

1.安全な環境を提供する:まず、面接の場を安全で快適な空間とすることが重要だと思います。就職氷河期世代が抱える「自分にとっての負の経験」の共有に対する不安を和らげるために、共感的かつ尊重的な対話を心掛けたいです。

2.自己認識の促進:求職者が自身の経験の価値を理解できるように導くことが大切です。挫折や逆境を共有して頂くだけにとどまらず、そのマイナス面をどのようにポジティブに捉え直すことができるのかが重要です。人事担当者としては、「この経験を通じて何を学びましたか?」という問いかけにより、求職者は自己でも認識を深めて、マイナスの経験から得た知識やスキルを具体化できるかもしれません。

3.強みの見つけ方を伝える:求職者が挫折や逆境というマイナスの経験から得たポジティブな自身の強みを認識し、それを言葉にすることができるようにすることも大切です。「あなたが経験した困難な状況で、どのようなスキルや能力が役立ったと感じますか?」と問うことで、彼ら自身が強みを認識し、それを自信に変えることできると考えています。

就職氷河期世代支援には筆者も現場で長く従事してきましたが、本当に多様な人がいると考えています。それぞれの個性と経験を尊重し、その中に秘められた可能性を引き出していきたいと思います。

ピアカウンセリングを取り入れた新たな選考法

それでもうまく求職者の経験を聞き出せないこともあるかと思います。そんな時、お勧めしたいのが「ピアカウンセリング」を活用した選考です。これは筆者が就労支援機関で企画したイベントです。就職氷河期世代の求職者同士が自分の経験をシェアし、マイナスの経験だと自身では考えていたものが実はポジティブな経験であったと自身の認識を捉え直すことができるものでした。

就職氷河期世代の求職者同士であれば、共有する時代背景や経験が多く、話しやすい環境を作りやすいでしょう。この考え方を選考に取り入れることで、求職者の真の強みを引き出すことが可能だと考えています。

具体的には、グループ面接やディスカッションの形式で実施することを考えてみましょう。求職者同士が自身の経験を共有し、互いの経験に対するフィードバックを行います。これにより、他者からの視点を通して自己の経験を再評価し、新たな自己理解に繋げることができます。ピアカウンセリングを選考に取り入れることで、人事担当者はそこから得られた求職者の強みを知ることができるはずで、求職者に寄り添いつつも、自社にマッチする人材を見極める採用が実現できます。

職務経歴書から読み取る「ライフ・エクスペリエンス」

面接の場面ではなく、その前段階の職務経歴書では「ライフ・エクスペリエンス」を把握することはできるのでしょうか。筆者はかねてより、仕事外経験も含めた「第2のジョブカード」、「ライフ・エクスペリエンスカード」のようなものの普及の必要性を提唱しています。一般的な職務経歴書やキャリアシートでは、仕事に関する情報が主に記載されている一方で、仕事外の経験はほとんど記載されていないからです。とは言え、現状では仕事経験中心の職務経歴書やキャリアシートが一般的だと思いますので、どのようにしてこれらの書類からライフ・エクスペリエンスを読み取ることができるのかを考えてみたいと思います。

まず、個々の経歴をただ見るのではなく、それがその求職者の人生全体のどの部分に位置するかを把握することが大切だと考えています。就職氷河期世代の中には、仕事とは関係ない期間があるかもしれません。その期間に何をしていたのかを深堀りしてみることで、仕事以外の経験が見えてくるかもしれません。

         

次に、自己PR欄や志望動機の部分に注目しましょう。ここには、彼らが自身をどのように表現し、何を重視するかが記されています。趣味やボランティア活動など、仕事以外の活動を通じて培ったスキルや経験が記述されているかもしれません。キャリアカウンセラーや就職の指導をされる方によっては、こうした部分の記述をしっかりと書くように指導されている方もいます。ぜひ求職者のこれまでの人生を踏まえた記述を見て頂きたいと思います。このほか、特技や資格の項目も見逃さないで頂ければと思います。

以上の視点を持つことで、職務経歴書からも「ライフ・エクスペリエンス」の一部を読み取ることができるかもしれません。人事担当者としては、一面的な視点でなく、多面的な視点で求職者を見ることが求められています。人手不足解消だけではなく、個々人の多様な経験を見て、自社の成長や職場の活性化に好影響を与えてくれる人材を見極めて採用いただきたいと考えています。

著者・藤井

藤井 哲也(ふじい・てつや)

株式会社パブリックX代表取締役。1978年生まれ。大学卒業後、規制緩和により市場が急拡大していた人材派遣会社に就職。問題意識を覚えて2年間で辞め、2003年に当時の若年者(現在の就職氷河期世代に相当)の就労支援会社を設立。国・自治体の事業の受託のほか、求人サイト運営、人材紹介、職業訓練校の運営、人事組織コンサルティングなどに従事。2019年度の1年間は、東京永田町で就職氷河期世代支援プランの企画立案に関わる。2020年から現職。しがジョブパーク就職氷河期世代支援担当も兼ねる。日本労務学会所属。