就職氷河期世代の活用
~未開拓の人材資源~

就職氷河期世代をめぐる新たな動向

2020年度から3ヵ年で行われてきた就職氷河期世代支援も、今年度からは「第二ステージ」として継続されており、国の優遇施策や地方自治体の取り組みにより、就職から定着までの切れ目のない支援や個々人の状況に寄り添った支援が現在進められているところです。また、40、50代となっている就職氷河期世代は、キャリアや老後に対する危機感も相まって、「リスキリング」の意識が高くなっています。

先日発表された令和5年度の「骨太の方針」では、就職氷河期世代をはじめ、女性や高齢者の労働参加の増加・所得の向上、中小企業・小規模事業者やスタートアップ企業の生産性向上、さらには官民連携を通じた社会課題解決への取り組みなどが求められています。

時代背景に翻弄され、困難な状況下で働き続けてきた就職氷河期世代。新卒時点で非正規率が高かったことや、無業状態になった人が多かったことから、その後のキャリア形成にも影響を及ぼし、賃金水準が低い状況となっています。しかし、その就職氷河期世代を職場で活用し、職場の活性化や事業推進に役立てているケースも出てきています。

今回と次回のコラムでは、就職氷河期世代支援のなかで生み出された幾つかの事例をご紹介します。その上で、自社でどのように就職氷河期世代を活用していくべきかを問い直したいと思います。

松田さんのストーリー: 就職氷河期世代が描く再スタート

松田さん(仮名・40代前半)は新卒時に就職活動で納得がいかず、一旦フリーターとして幾つかの職場で働いてこられました。2000年代半ばに第二新卒として中小企業のソフトウエア開発の仕事に未経験ながら就きました。その後は派遣社員でひたすらプログラミングなどの仕事に従事。正社員としての勤務も望んできましたが、リーマン・ショックによる雇用環境の悪化、ようやく景気が持ち直した2010年代半ばではすでに30代半ばとなっていました。

彼の人生が大きく転換したのは、2020年に始まった就職氷河期世代支援が契機でした。松田さんは自身の経験と技術をより大きく活かすため、正社員として新しい環境で働きたいと、公的な就労支援機関に相談。キャリアカウンセラーとともに新たな仕事を見つける決断をしました。

現在、松田さんは2021年に採用された企業で、正社員として新人や若手社員の教育や指導に携わり、非正規ではありましたが長年培ってきた現場での経験と知識は、転職先の企業で大いに役立っています。彼は、チーム内での異なる視点や経験を持つ人々をつなぎ、職場での協力的な風土を生む存在となっています。その背景にあるのは、何度も挫折に直面する中で、多様な立場の人と出会い仕事をしてきた多くの氷河期世代が持つ体験なのかもしれません。

鈴木さんのストーリー:ライフ・エクスペリエンスから生まれる新たな価値

就職氷河期世代専用の相談窓口に連絡を取って就職活動を行い、現在は介護サービス事業所で働く鈴木さん(仮名・40代後半)。

彼女は新卒では事務職で地域の企業に就職したものの20代で体調を崩し、その後は家事手伝いをしつつ一時期、非正規労働者として働きながら地域活動、さらには高齢となった親の介護にも深く関わってきました。職務経歴書には一般的に記載されないこうした経験は、鈴木さんにとって、他人の悩みや喜びを深く理解する力を高める体験であったとともに、地域やケアについて具体的に学ぶ体験でもありました。

例えば、彼女が地域活動の中で地域の子どもたちとも交流した経験は、現在の仕事で、様々な顧客の視点を理解し、より良いサービスを提供するために役立っています。また、親の介護経験から得た洞察は、高齢者やその家族が抱える課題に対する共感を生み、解決策を考える力を身につけるきっかけとなりました。

就職氷河期世代に限らないかもしれませんが、仕事経験だけを評価するのではなく、仕事外の経験も含めた「ライフ・エクスペリエンス(人生経験)」を重視することが、職場の活性化や新たな価値を生み出すことや、人手不足解消にも繋がります。また、組織の成長に寄与するだけではなく、新たなビジネスチャンスを生む可能性も秘めています。鈴木さんは立派な戦力となって働いておられます。

田中さんのストーリー:リサイクル活動から生まれた転機

エコロジカルな事業を展開するスタートアップ企業で働く田中さん(仮名・40代後半)は、彼が非正規雇用者であった期間、地域のリサイクル活動で培った経験が、今日のビジネスでの活躍につながっています。

田中さんがかつてボランティアとして参加したリサイクル活動は、地元の家庭から収集した廃プラスチックを手作業で洗浄、分別するというものでした。彼はこのボランティアの経験から、廃棄物を再利用する可能性を見出し、それをビジネスでも取り組めないかと考えてきました。2020年から始まった就職氷河期世代支援を受けて、田中さんは職を得ることができました。産業廃棄物をプリンター用の高品質な資材にするという事業会社です。

田中さんは自分が20代や30代の頃、どのような仕事をしても面白みを感じませんでしたが、腰を据えて働くきっかけがないだけでした。国や自治体の就職氷河期世代に対する積極的な支援が始まったことにより、田中さんが就労相談できる機会を偶然にも得られたのは幸運だったかもしれません。今は、廃棄物の社会的問題を解決するとともに、新たな経済的な価値を生み出す事業に取り組んでいます。

就職氷河期世代の活用

就職氷河期世代は、特有の経験と視点を持つ一方で、仕事の経験が少ない、または不安定な就労状況であったという共通の背景を持っています。しかし、先ほど挙げた事例を見ると、彼らが持つ「ライフエクスペリエンス(人生体験)」が企業の価値創造にも、大きく寄与する可能性があるといえます。

企業は就職氷河期世代の人材を活用すべきと考えます。彼ら彼女らの経験や視点を十分に理解し、それを活かす環境を作り出すことが重要です。また、就職氷河期世代自身も、自身のスキルや経験をどのように価値あるものとして売り込むかを考える必要があります。

次のコラム記事では、「自社にマッチする人材をどのように見極めるか」、その手法をまとめます。

著者・藤井

藤井 哲也(ふじい・てつや)

株式会社パブリックX代表取締役。1978年生まれ。大学卒業後、規制緩和により市場が急拡大していた人材派遣会社に就職。問題意識を覚えて2年間で辞め、2003年に当時の若年者(現在の就職氷河期世代に相当)の就労支援会社を設立。国・自治体の事業の受託のほか、求人サイト運営、人材紹介、職業訓練校の運営、人事組織コンサルティングなどに従事。2019年度の1年間は、東京永田町で就職氷河期世代支援プランの企画立案に関わる。2020年から現職。しがジョブパーク就職氷河期世代支援担当も兼ねる。日本労務学会所属。