更新日:2016年5月3日

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第43号(平成27年度/2015)

体育センターレポート。事業部の4班が行った研究と、体育センター長期研修員の授業研究により構成されております。これらの研究につきましては、抄録のみの掲載となっておりますが、研究報告書を掲載しておりますので、併せてご活用いただければ幸いに存じます。

発刊のことば

神奈川県立体育センター所長 中園 雅勝

 

このたび「体育センターレポート第43号」を発刊する運びとなりました。

本号は、平成27年度に当センター事業部が行った体育・スポーツに係る調査及び当センター長期研究員による体育・保健体育科教育研究抄録により構成されています。研究報告書の全文につきましては、当センターのホームページに掲載しますので、併せて御活用いただければ幸いです。

さて、本年8月にリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックが開催され、2020年の東京オリンピック・パラリンピックへ向けて、県内スポーツへの関心が高まりをみせています。当センターにおいても競技力向上や体育・スポーツ活動のサポート機能をさらに充実させようとしているところです。

これからも、当センターは県の体育・スポーツ振興の中核機関として県民の皆様が生涯にわたって体育・スポーツを「する」「みる」「支える」「知る」といった、各自の興味や関心、目的、体力や年齢等に応じた体育・スポーツの楽しみかたを発信していきたいと考えています。

県民の皆様に体育・スポーツ活動の機会を引き続き提供させていただくことにより、誰もが生涯を通じてスポーツに親しむことができる「スポーツのあるまち・くらしづくり」を推進するとともに、スポーツを通して健康で明るく豊かな生活を営んでいただくことを目指していきます。

最後に、本号掲載の研究を進めるにあたり、御協力を賜りました皆様に厚くお礼申し上げます。


目次

所員による研究

《調査研究班》

 

長期研究員による研究

《小学校》 秦野市立鶴巻小学校 内藤 誠

《中学校》 藤沢市立大清水中学校 角田 祐生

《高等学校》 神奈川県立大和東高等学校 熊倉 周平

《特別支援学校》 神奈川県立藤沢養護学校 河手 拓哉

 


学校体育に関する児童生徒の意識調査
―中学生の意識ー

調査研究班倉茂伸治 田所克哉 野秋貴浩 八木岡文絵 鈴木秀夫 山田 裕

研究アドバイザー横浜創英大学こども教育学部教授 落合 優

はじめに

体育センターでは、学習指導要領の改訂に伴い、概ね10年ごとに児童生徒を対象に学校体育に関する意識調査を実施してきた。そこで、今回の学習指導要領(小学校)実施後3年が経過したことを契機に平成26年度から3年継続研究として1年次小学校・2年次中学校・3年次高等学校を対象に学校体育に関する意識調査を行うこととした。今年度は2年次であり、現在の中学生の意識等を明らかにし、これからの学校体育の方向性を探るための基礎資料を得ることとした。

国の調査では、「体育・保健体育の『授業は楽しい』と回答した児童生徒は、運動やスポーツに対する『好き』『大切』『卒業後も自主的に運動したい』といった肯定的な意識が全国平均より高いことがわかった。」1との報告もあることから、本調査においても、体育や保健の好きな生徒の特徴を、探ってみることとした。また、4年後に迫った東京2020年オリンピック・パラリンピック競技大会を盛り上げるために児童生徒のスポーツ観戦やボランティア活動に関する意識等についても検討することとした。

以上のことから、次の3つのトピックの検討を行うこととした。

  1. 体育学習への取組と運動習慣
  2. 保健の授業と体育の授業の関わり
  3. 子ども達の多様なスポーツ参加(する・みる・ささえる)

 

内容及び方法

1 調査期間 

平成27年6月下旬から7月中旬

2 調査方法 

質問紙によるアンケート調査

3 調査対象

公立中学校生徒
1校につき180名(各学年60名)計3,600名

4 抽出校数

横浜市5校 川崎市3校 相模原市2校 横須賀市2校
湘南三浦教育事務所管内2校 中教育事務所管内2校
県央教育事務所管内2校 県西教育事務所管内2校

5 調査人数

  1年生 2年生 3年生 合計
男子 778 721 730 2,229
女子 742 677 676 2,095
合計 1,520 1,398 1,406 4,324

 

結果と考察

1 体育学習への取組と運動習慣

(1)体育の授業が好きな生徒の割合

図1は、「体育の授業が好きですか」の男女別の回答割合を示したものである。「好き」と回答した生徒は男子58.2%、女子38.6%であり、約20ポイントの差があった。

注:以降、「好き」または「どちらかというと好き」と回答した生徒を【○○好き群】、「あまり好きでない」または「好きではない」と回答した生徒を【○○好きではない群】とする。

(2)体育の授業が好きな理由

図2は、【体育好き群】における体育の授業の好きな理由の男女別回答割合を示したものである。

「思いきり体を動かすことができるから」「いろいろな運動・スポーツができるから」「友だちと一緒に運動スポーツができるから」が男女ともに上位を占めた。

(3)体育の授業が好きな生徒の体育学習への取組

図3は、「体育の授業が好きですか」の回答(4件法)毎に「体育の授業でどのように活動しているか」を尋ねた質問に「いつもしている」1)と回答した生徒の割合を、比較したものである。

いずれの質問においても、体育が好きと回答した生徒ほど「いつもしている」の割合が高くなった。

1)選択肢は、いずれの質問においても「いつもしている」、「だいたいしている」、「あまりしていない」、「まったくしていない」の4つである。

(4)体育の授業が好きではない理由

図4は、【体育好きではない群】における体育の授業が好きではない理由の男女別回答割合を示したものである。

体育が好きではない理由としては、「体を動かすことが好きではないから」が最も多く、次いで男子では「体を動かすとつかれる」女子では「校庭や体育館での学習が苦手」であった。

(5)放課後や休日などの運動習慣

図5は、「放課後や休日などの自由時間に体を動かしていますか」の男女別回答割合を示したものである。 

「いつもしている」または「ときどきしている」と回答した生徒は、男子70.7%、女子51.0%であり、男女差は約20ポイントであった。

(6)放課後や休日などに体を動かさない理由

図6は、「放課後や休日の自由時間に体を動かすこと」について、「あまりしていない」または「まったくしていない」と回答した生徒(男子29.3%、女子49.0%)の理由を男女別の割合で示したものである。男女とも上位4つは「他にやりたいことがあるから」、「塾や勉強、習い事で時間がとれないから」、「体を動かすと疲れるから」、「部活動等学校の活動で時間がとれないから」であった。

(1)から(6)のことから次のことが考えられる。

  • 男子の方が、女子に比べて体育好きが多い。
  • 体育の好きな生徒の方が、好きでない生徒と比べて体育の授業に前向きに取り組んでいる。
  • 男子が、女子に比べて放課後や休日などの自由時間に体を動かしている。
  • 放課後や休日に体を動かさない理由は、男女とも、体を動かすことが好きではないこと、疲れることの他、「体を動かすことが他の活動より優先順位が低いことがあげられる。
  • 「体育が好きではない理由」は、「体を動かすことが好きではない」が男女ともに1位であった。

 

2 保健の授業と体育の授業の関わり

(1)保健の授業が好きな生徒の割合

図7は「保健の授業が好きですか」の男女別の回答割合を示したものである。「好き」と回答した生徒は男子14.1%、女子8.3%であった。

(2)保健の授業が好きな理由

図8は【保健好き群】における保健の授業が好きな理由の男女別回答割合を示したものである。保健が好きな理由としては、「保健は生活していくうえで大切に感じるから」、「健康について知るいい機会になるから」が男女ともに上位を占めた。

(3)保健の授業が好きではない理由

図9は、【保健好きではない群】における保健の授業が好きではない理由の男女別回答割合を示したものである。

保健が好きではない理由としては、男女ともに「保健の内容がつまらない」という回答が7割を超え最も多かった。

(4)保健の授業が好きな生徒の体育学習への取り組み

図10は、「保健の授業が好きか」の回答(4件法)毎に、「体育の授業でどのように活動しているか」を聞いた質問において、「いつもしている」と回答した生徒の割合を比較した図である。

1つの質問を除き、いずれの質問においても、保健が好きと回答した生徒は「いつもしている」の割合が高くなった。この結果は、図3の体育の授業に係る各質問における「いつもしている」の割合と類似している。

(1)から(4)のことから、次のことが考えられる。

  • 【保健好き群】は、【体育好き群】に比べ少ない。
  • 保健の授業が好きな理由の上位は、保健の授業内容に必要性を感じているからである。
  • 保健の授業が好きな生徒も体育が好きな生徒と同様に体育の授業に前向きに取り組んでいる。
  • 保健の授業が好きではない理由の上位は、保健の授業の内容がつまらないからである。

 

3 子ども達の多様なスポーツ参加

(1)みるスポーツ

図11は、「運動・スポーツを見ることが好きですか」の男女別回答割合を示したものである。

好きと回答したのは、男子52.7%、女子40.4%であり、「どちらかというと好き」を併せると、男子79.3%、女子72.3%であった。

(2)ささえるスポーツ

図12は、「ボランティアなどで、運動・スポーツ活動を支えることが好きですか」についての男女別の回答割合を示したものである。

「好き」または「どちらかというと好き」と回答したのは、男子で40.8%、女子で36.2%であった。

図13は、「ボランティアとして、学校以外の運動・スポーツを支えたことがありますか」についての男女別の回答割合を示したものである。「ある」と回答したのは、男子17.7%、女子10.5%であった。

(1)から(2)のことから、次のことが考えられる。

  • スポーツをみることについては、男女とも7割台の生徒が興味を持っている。
  • スポーツボランティア等、スポーツをささえることに興味を持っている生徒は少なく、ボランティア等の支える経験も少ない。

 

まとめ

1 体育学習への取組と運動習慣

体育の授業が好きな生徒は、体育の授業に前向きに取り組んでいることが確認できた。一方、体育の好きではない理由の第1位は男女ともに「体を動かすことが好きではないから」があげられた。

この回答を減らすことは、今後のスポーツライフを考えると、とても大切なこととであり、保健体育の授業をより充実させることが必要と考える。

2 保健の授業と体育の授業の関わり

保健の授業が好きな生徒も、体育の授業が好きな生徒と同様に体育の授業に前向きに取り組んでいることがわかった。さらに、体育だけ好きな生徒や、保健だけ好きな生徒に比べ、体育も保健も両方好きな生徒が、体育の授業に前向きに取り組んでいることもわかった。

本調査から、保健が好きなことは、保健授業のみならず、「体育も保健も好き」という状況を生み、それが、体育の授業への望ましい取組かたにもつながっていると考えることができる。すなわち、「体育も保健も好き」という生徒を増やしていくことが保健体育という教科全体にとって大きな課題の1つと位置づけることができる。

3 子ども達の多様なスポーツ参加

本調査では、スポーツを「みる」ことについては、多くの生徒が興味を持っていることがわかった。一方で、スポーツボランティア等、スポーツをささえることに興味を持っている生徒は少なく、学校以外でのボランティア等のささえる経験も少ないことがわかった。今後は、学校においても意図的・計画的に「ささえる」ことを経験させることが必要がと考える。

今後2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京でのオリンピック・パラリンピックの開催など、本県も世界規模のイベントに携わっていくことになる。そして身近に感じることができるこれらのイベントは、保健体育の教材としての価値を持っていると考える。

中学生の段階から体育理論や体育的行事などで、多様なスポーツ参加があることを学習し経験することで、「する」に加え、「みる」や「ささえる」といった関わりかたにも、生徒が楽しみ、やりがいを見出せるような、教育実践が必要であると考える。

 

引用・参考

1)平成27年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査報告書

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「楽しむ」ことが「できる」ことにつながる跳び箱運動
―跳び箱運動の7つの動きを生かした運動遊びを通して―

秦野市立鶴巻小学校 内藤 誠

はじめに

小学校学習指導要領解説体育編で低学年の運動領域は、「運動遊び」)と示されており、「児童がどんどん遊んで、いろいろな運動を楽しむことが大切」)になる。また、「器械・器具を使った運動遊び」では、「器械運動と関連の深い動きを、意図的に取り組ませ、基礎となる感覚を身に付けさせることが大切」1)となる。

秦野市立鶴巻小学校の3年生に実施した「跳び箱を使った運動遊び」についての実態調査では、約8割の児童が「楽しい」と回答したものの、残りの約2割の児童は「楽しくない」と回答し、その多くは、馬跳びやタイヤ跳びなどの運動遊びはできると感じていることがわかった。

小学校学習指導要領解説体育編によれば、「技能」は、「運動の楽しさや喜びを味わわせながら身に付ける」1)ことが求められている。「できさえすればよいのではなく、それらがもっと運動をしたいという運動への主体的なエネルギーになっていく」3)ような指導が大切であると考える。

三木が跳び箱運動は助走から着地までが異なる7つの動きの組み合わせで成り立っている)と説明していることから、本研究では、7つの動きのつながりを踏まえて、運動の特性に触れる楽しさを運動遊びに取り入れることとした。それが、跳び箱運動の特性に触れる楽しさを味わい、基礎となる感覚を身に付け、技ができることにつながると考えた。また、杉原が「遊び」を「内発的に動機づけられた状態」)と説明していることを踏まえ、本研究では、運動の特性に触れる楽しさを味わいながら活動している状態を内発的に動機づけられた状態であると捉えることとした。

 

内容及び方法

1 研究の仮説

小学校3年生の跳び箱運動において、跳び箱運動の7つの動きの持つ特性を生かした運動遊びを学習過程に位置付けることによって、児童は運動の特性に触れる楽しさを味わい、体の動かし方や身体感覚を身に付け、基本的な技(開脚跳び)ができるようになるであろう。

2 分析の視点

表1 分析の視点と方法
分析の視点
(1)運動遊びについて ア 運動の特性に触れる楽しさが味わえたか
イ 運動の基礎となる体の動かし方や身体感覚が身に付いたか
(2)開脚跳びについて ア 中学年の基本的な支持跳び越し技、「開脚跳び」ができるようになったか
イ 運動遊びが技の学習につながっていたか

3 検証授業

(1)期間

平成27年10月14日(水曜日)から10月30日(金曜日)

(2)場所

秦野市立鶴巻小学校

(3)対象

第3学年3組(36名)

(4)単元名

B 器械運動(跳び箱運動)

(5)学習指導の工夫

  • 跳び箱運動の7つの動きを生かした運動遊び

三木は、跳び箱運動の動きは「(1)助走(2)予備踏み切り(3)踏み切り(4)第1空中局面(5)着手(6)第2空中局面(7)着地」の7つに分けられると述べている。本研究では、跳び箱運動の7つの動きを生かして、跳び箱運動の特性を味わうことのできる運動遊びを4つ構築した。これらの運動遊びを通して、跳び箱運動の特性に触れる楽しさ表2を味わいながら、開脚跳びに必要な連続した体の動かし方や身体感覚が身に付くと考えた。運動遊びの名前は、児童に親しみやすい名前にするという意図と、「ゴムボールみたいに跳ぶ」という意味から「ゴムゴムワールド」と名付けた。表3

ア 「ゴムゴムのロケット」(以下「ロケット」)

「空中に体を投げ出す楽しさ」を味わわせ、「(1)助走(2)予備踏み切り(3)踏み切り(4)第1空中局面」につながる「助走から両足けりで空中に体を投げ出す」動きの獲得をねらった運動遊びである。

イ 「ゴムゴムの両手スタンプ」 (以下「スタンプ」)

「腕で体を支える楽しさ(逆さ感覚)」を味わわせ、「(4)第1空中局面(5)着手」につながる「体を前に投げ出して両手で着手し、体を支えながら腰が肩の高さまで上がる」動きの獲得をねらった運動遊びである。

ウ 「ゴムゴムのパラシュート」(以下「パラシュート」)」

「高所から跳び下りる楽しさ」を味わわせ、「(5)着手(6)第2空中局面(7)着地」につながる「着手した両手が跳び箱から離れた後、体を起こしながら着地に向かう」動きの獲得をねらった運動遊びである。

エ 「ゴムゴムのバズーカ」(以下「バズーカ」)

他の3つの運動遊びで身に付けた動きによって「足・手・足の運動の順次性で跳び越す楽しさ」を味わわせ、「助走から跳び箱を跳び越すまでの動きをつなげる」ことをねらった運動遊びである。

 

結果と考察

1 運動遊びについて

本研究では、「運動遊び」を次のように定義した。

  • 運動の特性に触れる楽しさが味わえる活動(内発的動機づけの傾向が高い活動)
  • 運動の基礎となる体の動かし方や身体感覚が身に付く活動

(1)運動遊びについて

ア 運動の特性に触れる楽しさが味わえたか

本研究では、櫻井の作成した「内発的―外発的動機づけ測定尺度」)を参考に、運動の特性に触れる楽しさを味わうことができたかについて測る指標としての「内発的―外発的測定尺度」を作成した。そして、事前との比較において事後における運動遊びの動機づけの傾向が高かった時、「運動の特性に触れる楽しさが味わえた」と判断した。

<結果>

図1は事前と事後の結果を、クラス平均で比較したものである(最高12ポイント)。「ゴムゴムワールド」の全ての運動遊びが、事前を上回った。

表4は学習カードから、「ゴムゴムワールド」に関する記述を抜粋したものである。記述から、それぞれの運動遊びを楽しんでいる様子が伺える。 

記述内容
  • ゴムゴムのロケットがおもいっきり跳べて楽しかった。
  • ゴムゴムのスタンプで、コウモリ(コウモリのイラストを貼ったクッション)に当たらずにできた。
  • ゴムゴムのパラシュートが楽しかった。
  • バズーカができたこと。今日一番うれしかったこと。
表4 学習カード「今日の一言(抜粋)」

<考察>

これらの結果から、「ゴムゴムワールド」を通して、運動の特性に触れる楽しさが味わえたと考えられる。それぞれの運動遊びで講じた手立てが運動の特性に触れる楽しさを味わわせることにつながったと考えられる。また、児童に「できた」という出来映えを感じさせることにもつながったと考えられる。

イ 運動の基礎となる体の動かし方や身体感覚が身に付いたか

「ゴムゴムワールド」の授業映像を分析し、跳び箱運動の7つの動きを生かした次の動きが見られるようになったかを見取った。表5

<結果>

図2は、表5で示した動きが見られた児童の推移を運動遊びごとにまとめたものである。「ロケット」「スタンプ」「バズーカ」について、6、7時間目に35名の児童に動きが見られた。「パラシュート」について、6、7時間目に34名の児童に動きが見られた。

<考察>

ほとんどの児童に跳び箱運動の7つの動きを生かした動きが見られたことから、運動の基礎となる体の動かし方や身体感覚が身に付いたと考えられる。場の設定に加え、動きのリズムをオノマトペにして取り入れたことが、効果的に働いたと考えられる。

(2)開脚跳びについて

ア 中学年の基本的な支持跳び越し技、「開脚跳び」ができるようになったか

児童が開脚跳びに取り組む映像を分析し、跳び箱の段数や長さ、幅に関係なく、次の3観点が見られた時、開脚跳びができたと判断した。

(1) 助走から「両足をそろえて踏み切る」こと
(2) 脚を左右に開き、「跳び箱の半分より奥側に両手で一緒に着手をする」こと
(3) 着手後、「目線を進行方向に移して遠くを見ながら跳び箱を跳び越える」こと

<結果>

図3は、開脚跳びができた児童数の推移をまとめたものである。第1時は開脚跳びができた児童は17人であったが、第7時は35人に増加した。

<考察>

7時間の授業を通して、開脚跳びができるようになったと考えられる。「ゴムゴムワールド」で身に付けた連続した体の動かし方や身体感覚が開脚跳びに生かされたと考えられる。

イ 運動遊びが技の学習につながったか

第1時の開脚跳びの様子から、児童を表6のように分類し、運動遊びと技のつながりについて検証する。

第1時(10月14日)の様子 分類 人数
開脚跳びができていなかった 跳べない群 18人
開脚跳びができていた 跳べる群 17人
表6 本研究における児童の分類

(ア)「跳べない群」の運動遊びと技の出来映えについて

開脚跳びができるようになることに最も有効であったと考えられる運動遊びについて検討する。有効であったと判断する方法は次のとおりである。
(1)開脚跳びができるようになった日を基準とする。
(2)基準日以前で、基準日に一番近い日に表5で示した動きが見られた運動遊びを見取る。

なお、「バズーカ」は他の3つの運動遊びで身に付けた動きをつなぎ合わせることを目的とした活動であることから、ここでは「ロケット」「スタンプ」「パラシュート」の3つについて、検討することとした。

<結果>

表7は、「跳べない群」の児童が跳べるようになった跳び箱と、有効であったと考えられる運動遊びについて、まとめたものである。ここでは跳び箱を、「ショート(横向きの跳び箱か横向きの跳び箱とほぼ同じ長さの跳び箱)」と「ロング(縦向きの跳び箱か縦の長さとほぼ同じ長さの跳び箱)」に分類した。

ショートに有効であったと考えられる運動遊びは、「スタンプ」が5人で一番多く、ロングに有効であったと考えられる運動遊びは、「ロケット」が6人で一番多かった。

表7 有効であったと考えられる運動遊びについて
跳び箱 有効であったと考えられる運動遊び
ロケット スタンプ パラシュート
ショート 1人 5人 2人
ロング 6人 4人 3人

<考察>

これらの結果から、ショートで開脚跳びができるようになるために有効だったのは「スタンプ」での学習であり、両手で着手して体を支え、腰を高く上げる動きを身に付けることができることが大切だと考える。

ロングでは、助走の勢いや両足けりで空中に体を投げ出す動きがより必要であり、本研究では「ロケット」で身に付けた動きが大切になると考えられる。

  • 「跳べない群」の抽出児童Aの様子について

跳べない群から児童を1人抽出して映像分析を行い、運動遊びで表5の動きが見られた日と開脚跳びができたと判断した日の関係から、運動遊びと技の学習のつながりを検討する。

<結果>

表8は抽出児童Aの運動遊びと開脚跳びの様子について、まとめたものである。「ロケット」の動きが見られるようになった日(第6時)に縦4段の跳び箱で開脚跳びができるようになった。

 
表8 抽出児童Aの学習の様子について

抽出児童
A

ロケット スタンプ パラシュート 開脚跳び
第1時 縦4段 ×
第2時 × × ×
第3時 × × 縦4段 ×
第4時 × 縦4段 ×
第5時 × × 縦4段 ×
第6時 縦4段
第7時 縦4段

注)/はその活動が未実施だった日

<考察>

抽出児童Aの開脚跳びの課題は「助走から両足踏み切りで空中に体を投げ出す」動きにあったと考える。第4時の「ロケット」をVTRから見ると、助走の勢いがなく、踏み切りでは足を前後に開いたような片足踏み切りであった。そのため、うまく空中に体を投げ出すことができずにいた。しかし、第6時では助走に勢いがあり、両足をほぼそろえて踏み切ることができるようになり、空中に体を投げ出すことができるようになっていた。このことから「ロケット」を通して身に付けた動きが生かされ、その日の開脚跳びにつながったと考えられる。

(イ)「跳べる群」の抽出児童Bの様子について

「跳べる群」から児童を1人抽出して映像分析を行い、運動遊びが技の出来映えの向上につながったかについて検討することとした。

<結果>

表9は抽出児童の運動遊びと開脚跳びの様子について、まとめたものである。第2時の「ロケット」と比較して第6時は、高く体を投げ出す様子が見られるようになった。第2時の「スタンプ」と比較して第6時は腕で体を支えて腰が高く上がる様子が見られた。同じ日の「チャレンジタイム」では、助走から両足けりで高く体を投げ出し、足の高さが腰の高さとほぼ平行になりながら着手をして跳び越す、大きな開脚跳びの動きが見られた。

表9 抽出児童Bの学習の様子について

抽出児童
B

ロケット スタンプ パラシュート 開脚跳び
第1時 縦4段
第2時
第3時 縦4段
第4時 縦4段
第5時 縦4段
第6時 縦4段
第7時 縦4段

注)/はその活動が未実施だった日
注)◎は○だった動きがさらに上達したもの

<考察>

抽出児童Bには「ロケット」と「スタンプ」の動きが有効に働き、大きな開脚跳びにつながったと考えられる。第2時の「ロケット」では、両足けりがまだ弱く、体を投げ出した後、ゆるやかに落下しながらマットに手をついていたが、第6時になると両足で強くけることができるようになり、空中で体が高い位置を保ったまま、マットの高い位置に手をつくことができていた。このことから、両足けりで体を投げ出す動きが高まり、大きな開脚跳びの前半の動きを身に付けることにつながった。第2時の「スタンプ」では着手の後に体を支えて腰が肩の高さまで上がって両足が跳び箱の横を通過する様子が見られたが、第6時では、より前傾した体勢で体を支えることができるようになり、着手の後に腰が肩の高さまで上がって両足が跳び箱の上を通過する動きが見られた。このことから、着手して体を支えて腰を高く上げる動きが高まったと考えられる。

研究のまとめ

1 研究の成果

跳び箱運動の7つの動きを生かした運動遊びを学習活動に位置付けることは、児童が運動の特性に触れる楽しさを味わい、開脚跳びに必要な体の動かし方や身体感覚を身に付け、技ができるようになることに有効であった。

また、7つの動きを生かした運動遊びは、技の出来映えを向上させることにも有効で考えられる。特に「空中に体を投げ出す楽しさ」を味わわせことを狙った運動遊びが有効であると考えられる。

2 課題

児童の技術的課題によって、技ができることに有効な運動遊びは異なる。どのような運動遊びが効果的であるかを見極め、適切な方法を取り上げて支援することが重要であると考える。

また、実態把握は活動中も常に行うべきであり、実態に合わせて意図的に運動遊びを変化(進化)させていくことが重要であると考える。

3 今後の展望

(1)運動の特性に触れる楽しさが味わえる運動遊びの構築

運動の特性に触れる楽しさについて検討し、その特性が味わえるような運動遊びを構築していくことが大切であると考える。

(2)運動遊びを跳び箱運動の学習に系統立てて生かす

各学年の発達段階に応じて運動遊びの指導を生かすことは、運動の特性に触れる楽しさを味わわせるとともに、運動の基礎となる体の動かし方や身体感覚を身に付けさせたり高めたりすることにつながると考えられる。

さらに、それぞれの運動遊びが連続した動きにつながることを理解させることができれば、児童が運動遊びの場を技を身に付けるための練習の場として捉えることが可能になると考える。

 

引用・参考

1)文部科学省『小学校学習指導要領解説 体育編』 2008年9月 pp.13-16,p.46

2)文部科学省『学校体育実技指導資料 第10集 器械運動指導の手引』2015年3月 p.34,p.77

3)三木四郎『新しい体育授業の運動学』明和出版2005年3月 p.77

4)杉原隆「遊びとしての運動の重要性」『幼児期における運動発達と運動指導-遊びの中でこどもは育つ-』ミネルヴァ書房 2014年5月 p.34,p.37

5)櫻井茂男ら「内発的―外発的動機づけ測定尺度の開発」『筑波大学心理学研究 第7号』筑波大学心理学系 1985年3月 pp.43-54

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ゴール前の空間に走り込む動きができる球技:ゴール型「バスケットボール」の授業
―動くべき位置を可視化した「スリーサークルボール」の発展型ゲームを通して―

藤沢市立大清水中学校 角田祐生

はじめに

中学校学習指導要領解説における球技:ゴール型 第1学年及び第2学年は、「攻撃を重視し、空間に仲間と連携して走り込み、マークをかわしてゴール前での攻防を展開できるようにする。」)とある。

本研究の対象である大清水中学校第2学年の生徒にバスケットボールに関する事前アンケートを行ったところ、バスケットボールに好意的ではない理由として「どこへ動けばよいのかわからない」ことを挙げていた。これは「ボールを持たないときの動き」が理解できていないことを示している。

その「ボールを持たないときの動き」を身に付ける手立てとして「スリーサークルボール」が岡田らに考案されている。攻撃側のボールを持たないプレーヤーの動くべき位置が可視化され、パスを受けるための動きを改善するために有効なことが確認されている。)しかし、この「スリーサークルボール」は、サークルに入ったプレーヤーがボールを受けて得点するゲームであるため、「ゴールへの方向性が限定されていない」2)ことが課題として指摘されている。

本研究では、「スリーサークルボール」の発展型ゲームとして、ゴール前に走り込むべき位置を可視化した、「スリーサークルボールシュート」をゴール型「バスケットボール」の学習に取り入れ、ゴールへの動きの方向性を理解させることによって、ゴール前の空間に走り込む動きができるようになると考えた。

 

内容及び方法

1 研究の仮説

中学校2学年の球技:ゴール型「バスケットボール」の授業において「スリーサークルボール」の発展型ゲームとして、ゴール前に走り込むべき位置を可視化した「スリーサークルボールシュート」を用いた授業を展開することで、ゴール前の空間に走り込む動きができるようになるであろう。

2 分析の視点

表1 分析の視点及び観点
分析の視点 観点
(1)空間に走り込む動きができたか ハーフ
コート
ア 3対0でのサークルに走り込む動きの変容(守備者なし)
イ 3対3でのサークルに走り込む動きの変容(守備者あり)
オール
コート
ウ 3対3でのサークルに走り込む動きの変容(守備者あり)
エ 試しのゲームと最終ゲームでのサークルに走り込む動きの変容
オ 事前アンケートで「どこへ動けばよいのかわからない」と回答をしていた生徒の、サークルに走り込む動きの変容
(2)空間に走り込む動きを理解できたか 「『ゴールへの方向性を意識した走り込む動き』の目的を理解することができたか」についての回答、記述の変容(理解度チェック)

3 検証授業

(1)期間 

平成27年9月17日(木曜日)から10月9日(金曜日)

(2)場所 

藤沢市立大清水中学校

(3)対象 

第2学年3組(38名)

(4)単元名 

球技:ゴール型「バスケットボール」

(5)学習指導の工夫

ア 動くべき位置の可視化

全ての学習活動で、動くべき位置をコート上にラインテープで示した。(○は走り込むべき位置、×は走り込む前にいるべき位置)

イ スリーサークルボールシュート

「空間に走り込む動き」を身に付けるための、段階的なドリルゲームとして行う。

表2-(1)スリーサークルボールシュート(ハーフコート×印スタート)
コート図 行い方

ゴール下サークル(6)(7)(8)の位置に走り込んだ味方がパスを受ける。

(サークルの次は、必ず外1から5にパスを出さなくてはいけない。)

時間は20秒間。ブザーが鳴ったらシュートする。

学習活動 ねらい

3対0

守備者なし

  • 攻撃者のみにすることで難しさを軽減
  • 空間に走り込む動きを特定

3対3

守備者あり

  • 攻防の段階を踏んでの学習
表2-(2)スリーサークルボールシュート(ハーフコートセンターラインスタート)
コート図 行い方

スリーサークルボール

シュートのスタート位置をセンターラインから行う。

学習活動 ねらい

3対0

守備者なし

  • オールコート展開への段階を踏んでの学習

3対3

守備者あり

  • オールコート展開への段階と攻防の段階を踏んでの学習

ウ 走り込みシュート

走り込みシュートは「空間に走り込む動き」の理解を深め、段階的に動きを身に付けるためのドリルゲームである。

表3 2人組での走り込みシュート

【ねらい】

ゴール前の空間に走り込む動きを理解し、できるようにする。

コート図 行い方(正面から)

A×3から○8へ走り込む、パスを受けてシュート。

B×1から○8へパス。

  • なお、走り込む角度を変えることも行った。
 

【ねらい】

ゴール前の空間に走り込み、よりボールに近づく動きを理解し、できるようにする。

コート図 行い方(正面から)

A×3から○8へ走り込み、さらに○6へ走り込む。パスを受けてシュート。

B×1から○6へパス。

  • なお、走り込む角度を変えることも行った。
注)得点は、シュートイン2点、リングに当たると1点とする。

 

表4 (応用)3人組での走り込みシュート

【ねらい】

走り込む動きとつなぐ動きを理解し、仲間と連携して走り込むようにする。

コート図 行い方

A×5から○7に走り込み、さらに○8へ走り込む。パスを受けてシュート。

B×1から×2へつなぐために動く、その後○8のAへパス。

C×3から×2のBにパス。

A×3から×2のBにパス。×3から○8へ走り込む。パスを受けてシュート。

B×2でパスを受け○8のCにパス、×2に再度〇8からパスを受け、○8に走り込んできたAにパス。

C×4から○8へ走り込む。パスを受け×2のBに返す。×1へつなぐために動く。

注)得点は、シュートイン2点、リングに当たると1点とする。

 

結果と考察

1 結果

(1)空間に走り込む動きができたか

ア ハーフコート3対0でのサークルに走り込む動きの変容

図2は、2時間目、4時間目、6時間目に実施したスリーサークルボールシュート(ハーフコート3対0)をVTRで分析し、「サークルに走り込む動き」の平均回数の変容を示したものである。2時間目が3.3回、6時間目が5.6回となり、2.3ポイント増加した。

イ ハーフコート3対3でのサークルに走り込む動きの変容

図3は、6時間目と7時間目に実施したスリーサークルボールシュート(ハーフコート3対3)をVTRで分析し、「サークルに走り込む動き」の平均回数の変容を示したものである。6時間目が4.4回、7時間目が4.3回とほぼ変わらなかった。

ウ オールコート3対3でのサークルに走り込む動きの変容

図4は、7・8・9時間目に実施したオールコート3対3のゲームをVTRで分析し、1試合における「サークルに走り込む動き」の回数の変容を示したものである。全体の平均は、7時間目が3.8回、9時間目が7.4回(2分間に換算)となり、3.6ポイント増加した。

エ 試しのゲームと最終ゲームでのサークルに走り込む動きの変容

図5は、1時間目と9時間目に実施したオールコート3対3のゲームをVTRで分析し、1試合における「サークルに走り込む動き」の平均回数の変容を示したものである。1時間目が6.3回、9時間目が14.8回となり、8.5ポイント増加した。

オ 事前アンケートで「どこへ動けばよいのかわからない」と回答をしていた生徒(12人)の、サークルに走り込む動きの変容(*:p<0.05 **:p<0.01)

図6は、1時間目、7時間目、9時間目に実施したオールコート3対3のゲームをVTRで分析し、「サークルに走り込む動き」の平均回数の推移を示したものである。1時間目が0.3回、9時間目が2.3回(2分間に換算)となり、2.0ポイント増加した。平均値に有意な改善が認められた。

(2)空間に走り込む動きを理解できたか

図7は「どう動くか」について、「サークルに走り込む動き」を答えた割合を事前と事後で比較したものである。事前では56.8%であった正解率が事後では84.2%となり、27.4ポイント増加した。

2 考察

これまでの(1)空間に走り込む動きができたか、(2)空間に走り込む動きを理解できたかについての結果から、次のことが考えられる。

  • 「空間に走り込む動き」を理解して動くことができるためには「可視化が有効」である

可視化の有効性は先行研究で確認されており、本研究においてもゴール型「バスケットボール」の授業に取り入れることで、有効性が再確認できた。「ゴールへの方向性」を付加して行ったところ、仲間がどこへ動くかが分かりやすくなり、仲間との連携した動きがスムーズになったと考える。

  • 「空間に走り込む動き」を習得させるためには、「工夫したルール」により段階的に学習を進めて仲間と連携していくことが大切である。

「工夫したルール」として、人数を減らす(3人)ことや、プレイ上の制限として「ドリブルなし」「マークマンを決める」「守備制限」などを行った。これらのことにより、バスケットボールの難しさを軽減し、学習の目的の明確化を図ることができたと考える。

また、守備者がいる状況での学習は特に、「仲間との共通理解」が大切であると考える。

  • 「スリーサークルボールシュート」を用いた授業を展開することで、「空間に走り込む動き」ができるようになる。

「スリーサークルボールシュート」を単元の中心として行い、更に段階的に動きを習得するためのドリルゲーム(走り込みシュート)を行ったことで、単元の後半に計画したタスクゲーム<オールコート3対3>において、「空間に走り込む動き」が多く見られたことから「空間に走り込む動き」への理解が段階的に進んでいくことに有効であったと考える。

 

研究のまとめ

1 可視化の有効性

(1)走り込むべき位置(3つのサークル)

目で見て分かるようにしたことで、動くべき位置に走り込む動きを理解することができた。

(2)走り込む前にいるべき位置(5つの×印)

目で見て分かるようにしたことで、どこから走り込むのかがわかったり、ボールをつなぐために仲間と連携する動きを生み出すことができた。

2 工夫したルール

(1)時間:20秒

限られた時間とすることで、空間に走り込む動きの、回数を増やすことに意識して取り組むことができた。

(2)プレイヤーの人数(3人)

人数を少なくすることにより、各自の役割が明確化され、役割を果たそうとする自主的な動きを生み出すことができた。

(3)プレイ上の制限1(ドリブルなし)

パスでボールをつないでいくこととなり、パスをつないでいくために、「ボールを持たないときの動き」を重点化した取り組みができた。

(4)プレイ上の制限2(マークを決める)

常にゴール前に留まっている守備者がいないことから、ゴール前の空間を見付けて走り込む動きを引き出すことができた。

3 スリーサークルボールシュートの成果

表5 スリーサークルボールシュートの種類及び成果
種類 成果
段階的ドリル
ゲーム

3対0

(守備者なし)

走り込む動きに特化して行い、仲間の動きに対応した走り込む動きなどを行うことができた。

3対0

(守備者なし)

2人組での
走り込み
シュート
走り込む位置、よりボールに近づく動きを理解することができた。
3対3

(守備者あり)

3人組での
走り込み
シュート
仲間の動きに対応した走り込む動きや、つなぐ動きを理解することができた。

3対3

(守備者あり)

×印
スタート
×印を目安にして走り込む動きを身に付けていくことができた。
センターライン
スタート
より実践的に走り込む動きにしていくことができた。

4 今後の展望

本研究は球技:ゴール型「バスケットボール」の授業を通して、「スリーサークルボールシュート」を段階的に取り組むことにより、ゴール前の空間に走り込む動きを身に付けさせることができた。これは、第3学年の例示に示されている「ゴール前に広い空間を作りだすために、守備者を引きつけてゴールから離れること」「パスを出した後に次のパスを受ける動きをすること」につながると考える。

「動くべき位置」を可視化した「スリーサークルボールシュート」の活用で、ゴール前の動くべき位置への意識が高まった。次へのステップとして「守備者への対応」など、マークをかわして走り込むことを第3学年に計画していくべきである。このような実践から、「空間を作りだすなどの動き」を「守備者の状況に合わせた動き方」と身に付けさせ、仲間と連携したゴール前での攻防を楽しむことを味わわせたいと考える。

 

引用・参考

1)文部科学省「中学校学習指導要領解説 保健体育編」 東山書房 2008年9月

2)岡田雄樹、近藤智靖、末永祐介、宗像洋 「小学校6年生の体育授業を対象としたハンドボールに対するスリーサークルボールの有効性の検討」 『日本体育大学スポーツ科学研究』pp.31-39 2013年

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仲間と連携した守備ができる球技:ベースボール型の授業
―守備の判断の選択肢を限定した段階的なゲームを通して―

神奈川県立大和東高等学校 熊倉周平

はじめに

高等学校学習指導要領解説保健体育編・体育編では、球技の各型のねらいについて「勝敗を競う楽しさや喜びを味わい、作戦や状況に応じた技能や仲間と連携した動きを高めてゲームが展開できるようにする」)ことが示されている。

神奈川県立大和東高等学校の第1学年女子のソフトボール選択者に、これまでの学習の中で経験したソフトボールのゲームでの楽しさについてアンケート調査を行った結果、個人の技能を発揮することでは楽しさを味わっているが、守備における役割の中で仲間や相手とかかわりながら技能を発揮することについては、楽しさを味わえていない傾向であることが分かった。

このことは、滝澤・岩田がベースボール型ゲームの学習指導の難しさとして述べている「ルールが非常に複雑で、運動技術的にも戦術的にもプレイの課題性が高く、ゲームの本質的な面白さを保障しにくいこと」)が原因であると考える。また、岩田は「子どもたちのレベルで攻守の均衡を保ち、リズムのある攻守の交代を生みだしていくためには、まずは守備側に着目していくのが1つの考え方」)と述べている。さらに、ベースボール型ゲームの面白さを生みだす特徴的な判断について、「ランナーが早いか、それともフィールディングが早いかを特定の塁上で競い合うことに向けての判断」)であるとしている。

このことから本研究では「ボールを持たないときの動き」の中で守備の連携にかかわる判断に着目し、その役割に応じた行動を選択することができるようにするために、守備の判断の選択肢を限定し、段階的なゲームを構築して指導することが、守備において仲間と連携したプレイを展開することにつながると考えた。

 

内容及び方法

1 研究の仮説

高等学校第1学年の球技:ベースボール型の授業において、守備における役割に応じた判断の選択肢を限定したゲームを学習活動に取り入れて指導することで、仲間と連携した守備ができるようになるであろう。

2 分析の視点

表1 分析の視点及び観点(抜粋)
分析の視点 分析の観点
ボールを持たないときの動きが身に付いたか 味方からの送球を受けるために、走者の進む先の塁に動くことができたか
仲間と連携した守備でゲームが展開できたか ア 役割(捕球役とベースカバー役)の選択ができたか
イ 役割の選択の基となる知識が身に付いたか

3 検証授業

(1)期間

平成27年9月14日(月曜日)から10月21日(水曜日)

(2)場所

神奈川県立大和東高等学校

(3)対象

第1学年7・8組
ソフトボール選択者 女子17名

(4)単元名

球技:ベースボール型「ソフトボール」

(5)学習指導の工夫

ア メインゲーム

本研究では、ゲームにおける守備の人数と塁の数を限定することで、守備における役割の選択として、(1)捕球役となるのかベースカバー役となるのか、(2)ベースカバー役としてどの塁に動くのかの2つが求められるようにした。また、捕手は打球に対する捕球役になることは非常に少ないことから、捕手がベースカバー役となることの多い本塁は設置せず、塁の数は最大で3つとした。このため、走者が進むのは3塁までとなるゲームをメインゲームとし、次年度以降の学習とのつながりを考えて、一般的なルールのソフトボールと同じように走者がアウトになるか3塁に到達するまでは、塁上に留まることとした。

その他、フェアグラウンドの角度を60度(通常は90度)とすることで、3塁から1塁までの距離を短くし、1人当たりの守備するべき範囲を縮小した。このことは、送球にかかわるボール操作を緩和し、守備機会を多く確保することもねらいとした。

イ タスクゲーム

タスクゲームは、守備の人数と塁の数を増加させることにより、守備における役割の選択を複雑化するように段階的な学習ができるようにすることとした。

また、守備の人数に合わせてフェアグラウンドの角度を変化させて縮小した。

表3 タスクゲームのねらいとルール

(ア)ストップ・ザ・ラン1

(イ)ストップ・ザ・ラン2

(ウ)キャッチ&チョイス1

(エ)キャッチ&チョイス2

 

結果と考察

1 結果

(1)ボールを持たないときの動きが身に付いたか

図3は、3・7・14時間目に実施した試しのゲーム及びメインゲームをVTRで分析した、走者の進む先の塁への動きの成功率の推移を示したものである。3時間目と14時間目で比較すると、42.2ポイント上昇した。

(2)仲間と連携した守備でゲームが展開できたか

ア 役割の選択ができたか

(ア)打球に一番近い守備者が捕球役となり、他の守備者が正しい組み合わせで走者の進む先の塁に動くことができたか

図4は、3・7・14時間目に実施した試しのゲーム及びメインゲームにおいて、仲間と連携した守備の成功率の推移を示したものである。3時間目と14時間目で比較すると、66.7ポイント上昇した。

(イ)打球に一番近い守備者が役割を選択できたか

図5は、3・7・14時間目に実施した試しのゲーム及びメインゲームにおいて、打球に一番近い守備者が捕球役を選択できた割合の推移を示したものである。3時間目と14時間目で比較すると、24.0ポイント上昇した。

(ウ)ベースカバー役が正しい組み合わせで走者の進む先の塁に動くことができたか

図6は、3・7・14時間目に実施した試しのゲーム及びメインゲームにおいて、捕球役以外の守備者が正しい組み合わせで走者の進む先の塁に動くことができた割合の推移を示したものである。3時間目と14時間目で比較すると、42.8ポイント上昇した。

イ 役割の選択の基となる知識が身に付いたか

(ア)役割の優先順位についての問いに対する正答率

図7は、役割の優先順位についての問いの正答率を示したものである。優先すべき役割を「捕球役」、その役割ではない人が行うべき役割を「ベースカバー役」と回答した生徒が88.2%(15人)であった。

(イ)ベースカバー役についての問いに対する正答率

図8は、捕球役以外の守備者がどの塁へ動くべきかについての質問の正答率を事前と事後で比較したものである。事後では正答率が100.0%となった。

2 検証のまとめ

これまでの結果と考察から、次のことが明らかになった。

1つ目は、守備の人数を少なくしたことが技能を行使する機会を保障し、捕球役でない場合はベースカバー役の役割を果たさなければならないという意識につながった。また、自らの役割を果たすことが仲間との連携プレイを生むことへつながり、その結果、技能が向上した。
2つ目は、仲間と連携した守備が分かってできるようになったことである。守備の判断の選択肢を限定するため、守備の人数を限定したタスクゲームで段階的に指導することで、チームの中での役割を明確にしたことが、仲間と連携した守備でゲームを展開することに有効であったと考えられる。

 

研究のまとめ

1 研究の成果

守備における役割の選択に着目し、守備の人数と塁の数を限定したことで、ゲームでの守備における役割が明確になり、仲間と連携した守備でゲームを展開することの質を高めることに有効であった。

表4に各ゲームの工夫による成果をまとめた。

表4 各ゲームの工夫による成果
ゲームの種類 成果
ストップ・ザ・ラン2(ストップ・ザ・ラン1は未実施)
  • 捕球役とベースカバー役の選択ができるようになった。
  • 守備側と走者が競争していることが理解できた。
キャッチ&チョイス1
  • 進塁を阻止するために、ベースカバー役としてどの塁に動くべきかの選択ができるようになった。
キャッチ&チョイス2
  • 打撃前の走者の状況に応じて、進塁を阻止するために、ベースカバー役としてどの塁に動くべきかの選択ができるようになった。
メインゲーム
  • 一般的なルールのソフトボールに近いゲームの中で、状況に応じて走者の進む先の塁へ動くことができるようになった。
  • 進塁を阻止するためにベースカバー役として、走者の進む先の塁への動きの理解が深まった。
  • 打撃前の走者の状況に応じた走者の進む先の塁への動きで、仲間と連携した守備を発揮し、ゲームを展開できた。

2 今後の展望

今回の単元では、守備における役割として捕球役とベースカバー役を取り上げたが、ベースボール型ゲームの守備における役割として、中継やバックアップの役割についての学習が残されている。

高等学校3年間の学習を通して、一般的なルールのソフトボールのゲームにおいて連携した守備ができるよう、守備における役割を発展させつつ攻撃側の学習を組み合わせて学習計画を作成し、実施していきたい。

 

引用・参考

1)文部科学省 『高等学校学習指導要領解説保健体育編・体育編』 東山消防2009年12月 pp.63-73

2)滝澤崇、岩田靖 「体育におけるベースボール型ゲームの教材づくりの傾向と課題-『戦術中心のアプローチ』の視点からの分析-」 『信州大学教育学部付属教育実践総合センター紀要『教育実践研究』』 2004年pp.101-110

3)岩田靖 「ベースボール型ゲームの教材の系統性を探る」『体育科教育』 大修館書店 2011年5月pp.10-14

4)岩田靖 『体育の教材を創る』 大修館書店 2012年2月pp.127-129

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人間関係形成能力の育成に着目した球技:ゴール型の授業
―特別支援学校知的障害教育部門高等部におけるソーシャルスキルトレーニング(SST)の活用―

神奈川県立藤沢養護学校 河手 拓哉

はじめに

厚生労働省は、知的障害者の3年以内の離職率(再就職者を含む)はおよそ4割である)と報告している。また、中嶋は、離職理由として一番多かったのは「本人の問題」であり、さらにその内訳を見てみると、「人間関係」に関連する回答が一番多いと述べている。)さらに、東京都教育委員会は、進路担当が就職の決め手と考えた能力は人間関係形成能力であると報告している。)このように、生徒達が、自ら社会生活を送るためには、自立活動はもとより教育活動全体を通して人間関係を構築できるように指導していくことが求められる。

近年、他者と上手にコミュニケーションをとるための知識と技術である)ソーシャルスキルを獲得する困難さを軽減・克服するための支援方法として、対人行動を習得する練習である「ソーシャルスキルトレーニング(以下、「SST」という)」が注目され、特別支援学校の様々な教育活動の場面で活用されている。)しかしながら、現在の特別支援学校の体育・保健体育科の授業は、個々の運動能力の向上には有効であるが、集団で行う運動への取組が敬遠されがちなため、仲間意識の高まりなどといった本来の運動の持つ楽しさを味わわせることが十分にはできていないと考える。

そこで、本研究では、個々の人間関係形成能力の課題を踏まえ、SSTを活用した授業及び役割分担を明確にした球技:ゴール型のゲームを展開することで、学年全員で同じ種目を同じ空間で行うことが可能となり、友達と協力して運動する態度やコミュニケーションを必要とするパスの技能を向上することができると考え、本主題を設定した。

 

内容及び方法

1 研究の仮説

個々の人間関係形成能力の課題を踏まえ、SSTを活用した授業及び、役割分担を明確にした球技:ゴール型のゲームを展開することで、学年全員で同じ種目を同じ空間で行うことが可能となり、友達と協力して運動する態度やコミュニケーションを必要とする技能を向上することができるであろう。

2 分析の視点

表1 分析の視点及び観点
分析の視点 観点
人間関係形成能力の育成 生徒の人間関係形成能力は育成されたか コミュニケーションの基礎的能力に係る評価の変化
  • コミュニケーションの基礎的能力に係る評価(事前・事後)
  • 個別指導計画・個別プロフィールによる実態把握と事前・事後のコミュニケーション能力に係る評価による実態の変化
ソーシャルスキル尺度による評価の変化
  • ソーシャルスキル尺度の評価(事前・事後)
  • 個別指導計画・個別プロフィールによる実態把握と事前・事後のコミュニケーション能力に係る評価による実態の変化
生徒の授業での取組姿勢の変化
  • 学習カードの記述内容の変化
生徒の授業での変容
  • 事後アンケートの自由記述
人間関係形成能力の育成に関する教員の意識は変化したか 人間関係形成能力の育成について
  • 事前アンケート
保健体育授業に対する考え方の変化
  • 事前アンケート(高等部全体)
  • 事前・事後アンケート(高等部2学年)の変化
コミュニケーションを必要とするパスの技能の向上 コミュニケーションを必要とするパスの技能の成功率は高まったか
  • VTR分析

3 検証授業

(1)期間

平成27年9月8日(火曜日)から10月9日(金曜日)

(2)場所

神奈川県立藤沢養護学校 体育館

(3)対象

高等部 第2学年(41名)

(4)単元名

いろいろなスポーツ「球技:ゴール型」

(5)学習指導の工夫

ア 各グループのねらいとSST

学年全体で同じ学習活動に取り組むが、個々の課題を基に、ねらい及び各活動の役割を2グループに分けて示して、取り組んだ。なお、ゲームでの活動を通してソーシャルスキルを練習することをソーシャルスキルゲーム(以下、SSG)という。

表2 単元計画におけるSST及びSSGの計画
  グループ ねらい SST SSG
1 A どんなことをやるか知ることができるようにする

挨拶をしなかったら

本時のSSGでは『握手』と『挨拶』が重要であることを伝える

ドーンじゃんけん

じゃんけんによる陣取りゲーム

B 単元の見通しを持つことができるようにする
2 A 名前を呼ばれたら反応できるようにする

名前を呼ばないと

相手の反応を求める時には、相手の名前を呼ぶことが必要であることを伝える

ネームパス

名前を呼んで、反応があったらパスをし、名前を呼ばれたら反応するボール受け渡しゲーム


ラン&ネームパス

ネームパスに動きを加えたボール運びゲーム

B 仲間の名前を呼んで反応を待つことができるようにする
3 A 仲間と動きを合わせることができるようにする

一緒に動かないと仲間のことを考えないと

仲間と協力して活動するときは仲間の気持ちを考えることが必要であることを伝える

フープde玉入れ

ペアで一つのフープに入って行うボール運びゲーム

B 仲間の特性を知り、リードすることができるようにする
4 A やさしく相手に触れることができるようにする

強く叩くと相手の気持ちを考えないと

仲間に触れるときは力を加減する必要があることを伝える

タッチリレー

仲間の背中をタッチする伝言競争

B 相手の気持ちを考え、やさしく相手に触れることができるようにする
5 全体 仲間とコミュニケーションをとりながら楽しむことができるようにする

進撃のパスパス

「友達と協力して」をねらいとし、球技:ゴール型のパスによる攻撃に着目したボール運びゲーム

イ ペアラジオ体操

ペアラジオ体操は、筑波大学の長谷川教授が考案し、これを基に、藤沢養護学校高等部2年生の生徒たちの実態に合わせて簡易化した。特別支援学校の生徒の中には、友達と動きを合わせて行うことが難しい生徒もいるが、ラジオ体操の動きを基本としているので、動きやすく、覚えやすいという利点がある。

ウ 最終ゲーム(進撃のパスパス)

最終ゲーム(進撃のパスパス)は簡易化されたルールで展開される球技:ゴール型とした。これは学年集団全員で取り組めるように設定した。また、1クラス1チームとしてクラス対抗戦が行えるようにした。次にボール操作を、パスに特化することにより、ねらいであるコミュニケーション能力の育成を図ることができるようにした。

攻撃

  1. A(2人同時スタート)はBの名前を呼んでパスしシュートゾーンの手前まで走る。
  2. パスをもらったBは目印の方向へ走り、走ってきたAにパスを返す。
  3. AとシュートゾーンにいるCは守備者にタッチされないようにパスし合い、ゴールマンであるDにパスをする。自分でボールを持ちこんでDにパスを行うか、Cとパス交換をしながらDにパスをする。シュート後、Aはスタート地点に戻る。
  4. Dはキャッチできたら、ゴールカゴにシュートする。

守備

  1. 守備者アは、Aがボールを持ったらBにパスするのを防ぐ。攻撃側は2人いるため、行ったり来たりして防ぐ。
  2. 攻撃者がシュートゾーンに入ったら、守備者イは、攻撃者にシュートをさせないようにし、その際ボールを保持した攻撃者にタッチできたら、防御成功とする。
  3. 守備者がボール保持者にタッチできた場合は、攻撃者からボールをもらい、「守備用ボールカゴ」に返しにいく。

 

結果と考察

(1)人間関係形成能力の育成

ア 生徒の人間関係形成能力は育成されたか

(ア)コミュニケーションの基礎的能力に係る評価の変化

検証授業の事前と事後に実施した「コミュニケーションの基礎的能力に係る評価」

事前と事後の評価時に満点を示した19人を除いた22人の評価の結果、事前よりも事後において、数値が上がった項目数が下がった項目数を上回った生徒を「アップ」、それ以外を「変化なし」とし、その人数を集計した。「全項目」において、「アップ」を示したのが、およそ68%(15人)であった。

(イ)ソーシャルスキル尺度による評価の変化

「コミュニケーションの基礎的能力に係る評価」において満点を示した19人と、事後において満点を示した2人を加えた計21人の「ソーシャルスキル尺度による評価」の結果、事前よりも事後において、数値が上がった項目数が下がった項目数を上回った生徒を「アップ」とし、その人数を集計した。「コミュニケーションスキルに関する項目」において、「アップ」を示したのが、67%(14人)であった。

(ウ)検証授業の効果として考えられる生徒の変容

検証授業を実施した藤沢養護学校高等部2学年全教員を対象に行った事後アンケートにより、友達とのかかわりなどで生徒の変容があったかを調査した。

表3 事後アンケート 検証授業後の生徒の変容(自由記述)
自由記述(抜粋)
本来持っている思いやりの心や相手のことを手助けする面が短い時間でしたが表面、行動に出せるようになった生徒がいました。
準備体操を進んでやるようになった生徒がいて、友達と一緒に活動することの楽しさを学べたのではないかと感じた。友達の名前を呼び、それに応える態度も相手をよく見る(観察する)きっかけになったようです。
授業の中での友達への言葉かけが増えた。相手に対して優しいパスをしようとか、声をかけようとする意識が見られた。体育の振り返りで意見が出るようになった。
「名前を呼ぶ」だけでなく身振りでも、コミュニケーションを図っていたことが印象に残った。
日常ではクラスメイトでもほとんどかかわりがみられなかった生徒が、授業ではかかわる様子が見られた。
苦手な生徒とも一緒に、協力することの大切さが分かったと思います。

検証授業後、授業や日常生活において、友達とのかかわりなどで生徒の変容があったかを調査した結果である。検証授業後、保健体育の授業において、今までかかわりの少なかった生徒同士のかかわる様子が見られるようになったと言える。

<考察>

これらの結果から、今回実施したSSTを活用した授業は、生徒の人間関係形成能力に刺激を与え、コミュニケーションスキルの向上に効果があったと考える。

イ 人間関係形成能力の育成に関する教員の意識が変化したか

事前・事後アンケート
対象:藤沢養護学校高等部2学年全教員(15人)

現在、御自身が行っている(かかわっている)『保健体育(体育実技)』はどのような授業であると思いますか。」

表4 保健体育授業の「ねらい」の捉え方の変化の集計結果(n=14)
  事前 事後
(a)友達と協力する態度(協調性)を身につけさせる

79%

(11人)

86%

(12人)

(b)人のために行動できるようにする

57%

(8人)

93%

(13人)

(c)コミュニケーション能力を身につけさせる

79%

(11人)

93%

(13人)

(d)マナーを身につけ、他者へ配慮できるようにする

64%

(9人)

93%

(13人)

<考察>

これらの結果から、人間関係形成能力にかかわる設問(a)から(d)について事後アンケートで肯定的な回答をした教員が増えたことにより、多くの教員が保健体育(体育実技)の授業が体力の向上のみを目的にするのではなく、人間関係形成能力の育成についても十分にその効果があり、それを実感できたと考える。

(2)コミュニケーションを必要とする技能の向上

球技において、最もコミュニケーションを必要とする技能は「パス」であると考え、そのパスの技能が、検証授業で取り組んだゴール型「進撃のパスパス」において、第4時の『ためしのゲーム』と第8時の『最終ゲーム』での一定時間内の成功本数を比較した。


ア コミュニケーションを必要とするパスの技能の成功率は高まったか

パスの成功本数では60本の増加が見られた。また、チームごとの集計を見てみても、総数の増加が見られなかったチームも含め、すべてのチームで成功本数の増加が見られた。

イ Bグループの生徒からAグループの生徒への働きかけによって生じたパスの成功本数

図2より、働きかけによるパスの成功本数は、81本増加している。また、8時間目のパスの成功本数のうち237本(図1参照)のうち、234本が働きかけによる成功であった。

<考察>

これらの結果から、全てのチームのパスの技能が向上したと言える。そのためには、Bグループの生徒が、Aグループの生徒に対し、どこまで思いやりを持ってパスを出せるかということが重要であり、Bグループの生徒の技能・態度の向上が、チームの技能向上に大きくかかわっていると考える。

 

研究のまとめ

1 生徒の人間関係形成能力は育成されたか

個々の人間関係形成能力の課題を踏まえ、SSTを活用した授業及び役割分担を明確にしたゲームを展開することは人間関係形成能力の育成に有効に働いた。

2 人間関係形成能力の育成に関する教員の意識は変化したか

SSTを授業の柱として態度中心のねらいを持ち、学年集団全体で同じ空間で同じ学習活動に取り組むことにより、生徒たちの人間関係形成能力の育成に有効に働き、教員の意識にも変化がみられた。

3 コミュニケーションを必要とするパスの技能の成功率は高まったか

SSTを取り入れた授業をつくり、Bグループの生徒にAグループの生徒をサポートすることを指導していくこと、相手への思いやりを大切にすることを指導していくことは、コミュニケーションを必要とする技能(パス)の成功率を高めることができた。

4 今後の展望

(1)SSTついて

特別支援学校では、SSTを活用した授業が、各教科や領域で展開されており、それが日常生活における対人関係の行動と結びついている。体育の授業においても、態度面の指導に着目し、生徒同士のコミュニケーション能力と人間関係形成能力の向上を図る展開が求められる。

また、SSTにより、トラブルが起こりやすい場面を抽出し、その防止策について、具体的な体験を通して学んだことは、集団でのゲームの場面には活用し易く、今回の授業においては大変有効であった。
今後は、SSTの説明内容を精選し、時間を有効に活用するとともに、動画を用いたりする等、更なる工夫が必要であると思われる。

(2)ゴール型簡易型ゲーム「進撃のパスパス」について

本研究では、生徒たちの実態を踏まえ、「進撃のパスパス」というオリジナルのゲームを考案した。「友達と協力する」という態度の学習として行った今回の検証授業においては大変有効であった。当初、オリジナルであるがために、サポートする教員の多くに戸惑いが見られた。「球技=既存の種目」と考えるのではなく、生徒の実態に合わせゲームを構築することにより、学習の効果を高めることを可能にすると思われる。特定の種目の習得に目を向けるのではなく、スポーツ・運動をすること自体が楽しいと感じることができるような体育授業をつくりあげていくことが大切であると考える。

 

引用・参考

1)「平成20年度障害者雇用実態調査結果 再集計」厚生労働省障害者雇用対策課

2)中嶋学「知的障害者の離職から再就職についての一研究」

3)「知的障害特別支援学校におけるキャリア教育の推進」 東京都教育委員会 2009年3月

4)「特別支援教育ソフト 子どものためのソーシャルスキルトレーニング『君ならどうする』」http://www.sstsoft.com/(2015年8月1日アクセス)

5)居村恵子「ソーシャルの育成と指導の実際から知的障害養護学校高等部生の就労支援に向けてから」2007年3月

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