更新日:2014年5月3日

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第41号(平成25年度/2013)

体育センターレポート。事業部の4班が行った研究と、体育センター長期研修員の授業研究により構成されております。これらの研究につきましては、抄録のみの掲載となっておりますが、研究報告書を掲載しておりますので、併せてご活用いただければ幸いに存じます。

発刊のことば

神奈川県立体育センター所長 中村 ふじ

 

このたび「体育センターレポート第41号」を発刊する運びとなりました。

本号は、平成25年度に当センター事業部の研修指導班、調査研究班、スポーツ推進班、スポーツ情報班が行った体育・スポーツ等の調査・研究、及び長期研究員の保健体育科教育研究の報告により構成されています。これらの研究報告は、研究抄録のみの掲載となっておりますが、研究報告書の全文につきましては、当センターのホームページに掲載いたしますので、併せて御活用いただければ幸いに存じます。

さて、当センターは子どもから高齢者まであらゆる年齢層の方たちが、各自のライフステージにおいて、心身共に明るく豊かで活力ある生活を営むことができるよう、県の体育・スポーツ振興の中核機関として県民のスポーツライフを総合的にサポートしています。

特に最近は、黒岩祐治神奈川県知事の推進する「健康寿命日本一」「未病を治す神奈川宣言」の実現にむけ、「3033運動」による運動・スポーツ面からのアプローチに重点的に取り組んでおります。巻末に特集ページを設けましたので、研究報告書の全文と同様に、当センターのホームページと併せてご活用いただければ幸いに存じます。

今後も、心と体の健康つくりをめざす体育・スポーツ活動の推進に向け、質の高いサービスを提供していくとともに、指導者及びスポーツ実践者への支援、スポーツ情報の提供、調査研究に取り組んでまいりますので、益々の御指導、御鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

最後に、本号掲載の研究を進めるにあたり、御協力を賜りました皆様に厚くお礼申し上げ、発刊のことばといたします。

 

 


 

目次

所員による研究

《研修指導班》

《調査研究班》

《スポーツ推進班》

《スポーツ情報班》

 

長期研究員による研究

《小学校》 逗子市立逗子小学校 藤瀬 哲朗

《中学校》 南足柄市立足柄台中学校 川田 真也

《高等学校》 神奈川県立伊勢原高等学校 佐藤 亮太

 

 


県立体育センター長期研究員による授業研究の総括
ー学習カードによる効果的な授業の実現を目指して
(2年継続研究の1年目)

研修指導班 富澤桂子 原 康弘 奥田五成 野秋貴浩 小川雅嗣 田所克哉

 

【はじめに】

県立体育センターでは、昭和58年度から「長期研修講座」をスタートし、昨年度、30年の節目を迎えた。「長期研修講座」は、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の教員が、当センターで1年間の研修及び研究を行う制度で、その研究の柱は体育・保健体育の授業研究であり、これまでに81の研究が報告されてきた。長期研究員による研究内容は、その時代の教育の動向や課題を踏まえた学力観に基づき、児童・生徒の実態に応じた指導内容や指導方法についてである。したがって、これまでの研究成果は、現在においても授業実践に役立つものが数多くあると考える。

一方、この30年間に、学習指導要領は3回改訂され、現行の学習指導要領(平成20、21年改訂)が、平成23年度から小学校で、24年度から中学校で全面実施、本年度から高等学校においても学年進行で実施され、児童・生徒への確実な学力の定着等が求められている。

そこで、本研究ではこれまでの長期研究員による授業研究を一覧として整理し、目的を中心に総括した。(平成25年度)これらを基に、平成26年度は検証授業の指導内容と学習カードの変遷の傾向を明らかにし、検討した上で、広く学校現場で活用できる児童・生徒の学びに即した学習カード等の資料集を作成することとした。

 

【研究内容及び方法】

1 研究の内容

長期研修講座報告書(以下 報告書)の研究内容と検証授業の整理・分析及び、児童・生徒の学びに即した学習カードの収集・整理により資料集を作成する。

2 研究の期間

平成25年4月1日-平成27年3月31日

3 研究の方法

研究対象は、昭和58年から平成24年度までの報告書とする。〈小学校(30)、中学校(29)、高等学校(20)、特別支援学校(2)〉

(1)報告書一覧の作成と分析

ア 報告書の内容を整理した「概要シート(10項目)」(注1)を作成する。
イ 「概要シート」を精選し、「報告書一覧(5項目)」(注2)(以下、一覧)を作成し、分析する。

(2)領域・種目の分析
(3)目的の分析(注3)
(4)キーワードと学習指導要領の趣旨の分析(注4)
(5)代表的な学習カード※5の構成、項目、記述形式の分析
(6)学習カードについての分析
(7)考察と次年度に向けての検討
(8)検証授業の指導内容と学習カードの変遷傾向の整理・分析と「学習カード一覧」の作成・分析(次年度)
(9)学習カードの改善点等についての検討(次年度)
(10)学習カード等の資料集作成(次年度)

(注1)報告書の内容を「研究主題」「副題」「目的」「仮説」「領域」「種目」「単元名」「キーワード」「成果」「学習カード」に分類し、作成年度順、校種別に示した。

(注2)概要シート(10項目)を一般的な授業の構成要素とされる「指導(学習)内容」「教師」「学習者」に着目し、「研究主題と副題」「実践内容と成果」「教材等の工夫」「学習指導方略」「学習への取組み」の5項目に整理した。「指導内容」は学習指導要領の内容が、何らかの工夫された教材等となるため「教材等の工夫」とし、「教師」は児童・生徒の学び方に応じた指導法を意図的に選択することから「学習指導方略」とした。また「学習者」は、研究的に組織された学習に取り組み、学習状況を記録することから、これを「学習への取組み」とした。

(注3)「研究主題と副題」と「実践内容と成果」から「児童・生徒に身に付けさせたい学力」を表す用語を抽出し、観点別学習状況の評価の4観点(小学校は3観点、以下4観点)のカテゴリーに照らし合わせた。

(注4)「研究主題と副題」から散見された研究内容の特徴を表す語句(楽しむ、仲間、課題解決力など)を抽出し、学習指導要領の趣旨(「生涯体育・スポーツ理念」「生きる力」「確かな学力」)のカテゴリーに照らし合わせて校種別、年度別に分類し、分析した。

(注3.4)対象は平成元年度以降と平成10年度以降の学習指導要領の内容を踏まえた研究(小学校18、中学校20、高等学校17)とした。 (特別支援学校は研究数が少ないため、取り上げない)

(注5)平成元年度以降として平成5年度の『サッカー個人用学習カード』、平成10年度以降として平成17年度の『ハンドボール学習カード』を代表的なものと考え、取り上げた。

 

【研究の経過(整理・分析と結果)】

1 報告書一覧の作成と分析

(1)報告書一覧

校種別、年度順で作成した。(表-1)
表-1 報告書一覧〈高等学校〉 一部抜粋
表-1

(2)領域・種目(校種別)等の分析

小学校では運動領域でボール運動系「ゲーム(鬼遊び、ボールゲーム)、ボール運動」が43%、中学校では体育分野で「球技」が47%、高等学校では科目体育で「球技」が65%と、最も多かった。

(3)目的の分析

目的に係る用語は、平成元年度以降※3.4では「関心・意欲・態度」に関するものが全校種で多く(70%以上)、平成10年度以降では「技能」が小学校(38%)と中学校(50%)で、「思考・判断」が高等学校で多かった(46%)。(表-2)


表-2 用語の4観点別・校種別数内訳

(4)キーワードと学習指導要領の趣旨の分析

キーワードでは「生涯体育・スポーツ理念」が平成元年度以降(36)だったが、平成10年度(24)に減少し、替わって「確かな学力」が平成元年度(1)から平成10年度(15)に増えていた。

2 代表的な学習カードの構成、項目、記述形式の分析

平成5年度(平成元年度以降の1例)の記述形式は「選択(3)、自由〈設問無し〉(7)」であった。平成17年度(平成10年度以降の1例)は「選択(1)、自由〈設問無し〉(4)、自由〈設問有り〉(3)、教師の記述(2)」であった。どちらの年度も構成は「ねらい、内容と方法(活動)、評価」で、10項目となっていた。

3 学習カードについての分析

学習カードは、学習者と教師が活動後の評価や学び方を振り返り、学習者が効果的に学習を進めることを助ける学習の材料・資料であり、グループ活動や教師とのコミュニケーションツールとしての機能も持っている。

学習カードの種類(個人用、グループ用、評価用など)は、教師が授業内容や学習形態によって選択し、内容(項目)と分類については、学習者の学び方と記録・評価をどのように記入させるかにより、選択することとなる。

 

【考察と次年度に向けて】

長期研究員の研究を追っていく中で見えてきたのは、各時代の求める「児童・生徒に身に付けさせたい力」の変遷に呼応した研究員の懸命な授業改善に向けた取組みの様子であった。

「研究の目的」に係る用語は、平成元年度以降、「関心・意欲・態度」で多くみられ、これは、昭和62年の中央教育審議会答申の「児童生徒が自ら進んで運動に親しむ態度や能力を身に付ける」という要点を踏まえていた結果と考えられる。平成10年度以降は「技能」が小学校と中学校で、「思考・判断」が高等学校に多く見られ、3観点(「知識・理解」を除く)が均等化している。これは、平成元年度から平成10年度にかけて「楽しさを味わうために必要な技能」から「運動の合理的な行い方を身に付ける」への流れがあったことと、平成3年の指導要録改訂(通知)に「運動や健康・安全についての思考判断」が打ち出されたことが影響していると考えられる。「キーワードと学習指導要領の趣旨」では、平成20年の学習指導要領の趣旨である「確かな学力」が増加し、長期研究員が時代を先取りしながら授業研究を継続してきたことが分かった。「領域・種目等」では、校種ごとに研究領域の特徴が見られたが、その裏付けとなる根拠を断定することはできなかった。「代表的な学習カードの構成、項目、記述形式」は、平成17年度に「学習のねらい」と「評価項目」の設問が明示された記述形式となっていた。ここに、現在の「指導と評価の一体化」を重視した授業研究の流れを見ることができる。「学習カード」の種類、内容(項目)、分類では、教師の指導計画と学習者の学び方に合わせて教師が選択するため、様々な学習カードが散見されることが分かった。

本年度の研究から、学習カードに盛り込まれる項目は、普遍的な「構成(ねらい、内容と方法(活動)、評価)」と「学習のねらい(学習指導要領の内容を踏まえた教師による記述)」と「本時の内容・方法(学習活動)」、「自己評価表(4観点)」であることが分かった。

次年度は、検証授業の指導内容と学習カードの変遷について整理・分析し、広く学校現場で活用できる児童・生徒の学びに即した学習カード(新しいカードの提案も含め)等の資料集を作成したい。

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選手のモチベーションアップに関する研究
ー選手の心に響くモチベーションビデオの作製方法及び作製のためのフレームの開発と提供ー(単年度研究)

調査研究班 入江祐子 天野裕介 倉茂伸治 都丸利幸
研究アドバイザー トレーナーズスクエア株式会社 岩崎由純

 

【はじめに】

スポーツ指導において競技力の向上を目指すためには、基礎体力の向上やスキルアップのトレーニングと併せて、選手のモチベーションを高めるための心理学的なアプローチが大変重要である。そのひとつとして、近年では様々な映像(ビデオ)や画像(写真)を集録したビデオを用いた指導方法が取り入れられている。
ビデオを用いた選手のモチベーションアップは、トップアスリートの選手やチーム、部活動の強豪校等においては既に活用されているが、作製方法の専門的な知識や時間、予算等の関係により一般への普及は難しい状況である。

そこで、初めてでも容易にモチベーションビデオを作製できる手順やフレームがあれば、多くのチームや選手の活用が可能となり、また、これらを開発し提供することが、一般のチームにおけるモチベーションビデオの普及、さらに競技力向上の一助になると考え、本テーマを設定した。

 

【研究の期間】

平成25年4月1日から平成26年3月31日

 

【研究内容及び方法】

  1. 文献研究及び先行研究により、作製するモチベーションビデオに必要な要素や方法等に関する理論について研究する。
  2. 中高生アスリートへのアンケート調査により、やる気が出る画像や音楽、モチベーションビデオの時間等について調査する。
  3. 理論研究とアンケート調査の結果からモチベーションビデオ作製のための要素及び方法等を特定する。
  4. モチベーションビデオの作製と提供を行う。

 

【研究結果】

1 文献研究及び先行研究

(1)モチベーションビデオの視聴の目的について

モチベーションビデオとは、そのビデオを視聴する選手やチーム映像の中から成功プレイを中心に編集し、音楽、言葉を付加したものである。

スポーツ場面を対象としたビデオを用いた研究では自分自身がビデオのモデルとなるSelf-modeling理論を適用して作製したものがある。これに基づいて作製されたモチベーションビデオの視聴は、心理的側面への効果が考えられる。

また、モチベーションビデオ作製に当たっては、使用目的を明確にすることが重要である。

さらに、視聴の目的を達成させるためには、視聴した者が視聴後に共通のコンセプトを持てるようになることが大切であると考える。

(2)モチベーションビデオの視聴タイミングについて

モチベーションビデオの視聴による「やる気や自信の高まりは一過性のもの」である。これは先行研究におけるビデオ視聴タイミングの「試合1時間前」と「試合直前」を比較した結果であり、心理的な変容については同等であったが、パフォーマンスの向上について「試合1時間前」の視聴に有効な結果が示されている。

(3)モチベーションビデオの時間について

チームにおけるモチベーションビデオの時間は「3分から5分が適当」であると示されている。

(4)モチベーションビデオに使用する映像について

モチベーションビデオは「自分たちのチームの映像」を用いることでチームのやる気を高めることができる。

使用する映像は、「自分たちはできる」と思える場面を、さまざまな角度から撮影することが必要である。そのためには、その種目の特性を理解し、チームをよく知っている人が行うことが理想的である。

(5)モチベーションビデオに使用する音楽について

音楽は「作りたいテーマに合った長さと曲の持つストーリー(雰囲気)で決める」ことが必要である。また、選曲に関する注意点は次のようなものがある。

ア 映画のサウンドトラックは音楽の起承転結がはっきりしていて適している。
イ 有名な音楽はそのイメージが強すぎ、音楽に引っ張られてしまうことが多い。
ウ 邦楽は映像に先入観を持ちやすく、歌詞に気をとられやすい。

(6) モチベーションビデオに表示する言葉(以下「言葉」)について

先行研究において、モチベーションビデオへ文字(言葉)を付加することの有用性は述べられているものの、言葉の選び方等についての詳細な記述はない。しかし視聴者への心理的側面に言葉が及ぼす影響は大切であると考え、「ペップトーク」の技法を取り入れることとした。

「ペップトーク」とはやる気にさせる訓話のことであり、目標に向けてモチベーションを高め成功への確信や自信をもたせることを目的としている。

試合直前に指導者が出来ることは、選手の心を引き出すことである。そして、ペップトークはコーチングの最終仕上げで「短く、わかりやすく、行動指針を明確に伝える究極のショートスピーチ」である。

また、ペップトークシナリオの法則ではシナリオを作る際の項目について、7つの工程があると示しているが、これは「起承転結」の4つとしてまとめることもできる。

(7)音楽と画像の関係について

ア 音楽の変わり目やリズムに合わせて場面を切り替えると見る側もビデオに集中しやすくなる。
イ ビデオ映像に選手の好きな音楽をBGMとして編集することにより、さらにやる気を高める効果が期待できる。

2 実態調査

次の内容について中高生アスリートへのアンケート形式による意識調査を行った。

(1)「モチベーションアップ」に関する意識調査

ア 7つの「シーン」のうち「やる気が出る」と思うものはどれかを「とてもやる気が出る」「少しやる気が出る」「変わらない」の3件法で回答させた。その結果、「自分やチームにおける良いプレイの様子」や「応援されている様子」で多くの回答を得た。

イ やる気が出る音楽について、自由記述で回答させた。内容はさまざまであったが、その中でいくつかの音楽やアーティストに対して多くの回答があり、現在の中高生の趣向について大変参考になる結果が得られた。

(2)「モチベーションビデオの時間」に関する意識調査

サンプルのモチベーションビデオ(5分17秒’)を視聴させ「ビデオの時間に適していると思う時間」を選択させた。

その結果、ビデオの長さは5分00秒が適しているとの回答が32.7%と最も高かったが、中高生に人気のある音楽を使用していたことによるものと考えられた。

5分以外では、2分30秒が13.5%、3分00秒が11.5%と他に比べ高い結果となっていた。

3 モチベーションビデオ作製のための要素及び方法等の特定

文献研究及び先行研究や実態調査の結果から、モチベーションビデオ作製のための要素及び方法等について特定した。

(1)目的の設定

「チーム競技において、選手達が試合に向けて気持ちを1つに定め、目標に向かって意欲的に取り組むことができる」ことを目的とする。

(2)要素の特定

ア テーマ:「強い心を引き出す」と設定する。
イ 時間:ビデオの時間は「3分程度」とする。画像の再生時間は「1枚5秒」を基本とする。
ウ 音楽:テーマや対象者に合わせて作製者が選曲する。
エ 言葉:前向きに試合へ臨むための短く、ポジティブな言葉を使う。
オ 画像:自分達(選手・チーム・関係者)をモデルとした画像シーンを使用する。

(3)構成方法の特定(組み立て方)

「起・承・転・結」でストーリーを作る。

(4)その他の留意点

視聴タイミングは「試合1時間前」とする。

4 モチベーションビデオの作製

(1)モチベーションビデオ作製要項の作成

特定された要素及び方法等に基づき作製要項をまとめた。(表1)

表1 作製要項

(2)「簡単作製フレーム」の開発と「作製マニュアル」の作成

作製要項に基づき、「簡単作製フレーム」と「作製マニュアル」を考案した。

ア 「簡単作製フレーム」

言葉と画像を貼り付けることでモチベーションビデオが作製できるフレーム。(図1)


図1 簡単作製フレーム

イ 「作製マニュアル」

「簡単作製フレーム」の具体的な活用法を「作製マニュアル」とした。これには「作製の手順」と「作製シート」の2つがある。

(ア)「作製の手順」

「簡単作製フレーム」を使ってモチベーションビデオを作製するための順番を示している。

(イ)「作製シート」

「作製の手順」を参考に、実際に作るビデオのストーリーを考えながら言葉を入力していく。いわゆるモチベーションビデオの設計図である。

(3)「サンプルビデオ」の作製と提供

「簡単作製フレーム」を使い、当センターでサンプルビデオを作製した。また、「モチベーションビデオ作製」セット(「作製要項」「簡単作製フレーム」「作製マニュアル」「サンプルビデオ」)をDVDに収め県内高等学校等に提供する。

 

【まとめ】

「選手の心に響くためのモチベーションビデオ」を効果的に作製するための、「5つの要素とストーリーを作るための構成方法」を作製要項にまとめた。さらに簡単にビデオが作製できるフレーム及び作製マニュアルを作成した。

また、研究を進める中でビデオは形ではなく、作製者の存在が重要であることがわかった。つまり、「ビデオの作製者は、チームの状況をよく知る人であることが望ましい」ということと、さらに作製者の想いを伝えることが「モチベーションアップ」に繋がっていくということである。

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神奈川県総合型地域スポーツクラブ運営の現状と課題(単年度研究)

スポーツ推進班 千葉正範 逸見育磨 池田 剛 大西理也

 

【テーマ設定の理由】

文部科学省は、平成12年9月に「スポーツ振興基本計画」を策定し、「生涯スポーツ社会の実現に向けた、地域におけるスポーツ環境の整備充実方策」を打ち出した。そして「2010年(平成22年)までに、全国の各市区町村において少なくともひとつは総合型地域スポーツクラブを育成する」ことを到達目標に、全国で普及啓発が進められてきた。「総合型地域スポーツクラブ育成状況調査」1)によると、平成25年7月時点で、全国には総合型地域スポーツクラブ(以下総合型クラブという)が、創設済み3,237クラブ、準備中256クラブ、合計3,493クラブが創設された。また、神奈川県においては、平成26年2月1日現在、総合型クラブは、創設済み76クラブ、準備中12クラブ、合計88クラブが県内33市町村のうち25市町村において創設されている。

 総合型クラブは、国民のスポーツ実施率の向上や地域社会の活性化等に寄与するとともに、地域のスポーツ環境を地域住民が主体的に創り出すという意識変革をもたらす等、我が国の地域スポーツの中核を担うものに成長しつつある。その一方で、各総合型クラブの運営においては課題が多数あることも明確になってきている。「総合型地域スポーツクラブ活動状況調査」1)によれば、「クラブの現在の課題」としては、会員の確保や財源の確保、指導者の確保、会員の世代の拡大、活動拠点施設の確保などが挙げられている。県内のクラブにおいても、クラブ会員の規模や予算等その運営方法や形態は千差万別であり、クラブが抱える課題を整理し、傾向を探ることが、総合型クラブの定着化および活動の活性化へと繋がるものと考える。

 神奈川県立体育センターでは、広域スポーツセンター活動事業の総合型クラブ普及・定着化事業として、広域スポーツセンタークラブアドバイザーを配置し、職員とともに地域巡回相談・支援業務を実施している。そこで、県内総合型クラブのより一層の定着化を図るために、クラブ巡回相談の際の復命やヒアリングシートから、各総合型クラブの運営課題等を抽出、分析することで県内総合型クラブ運営の現状を把握し、県内総合型クラブの抱える課題に対する解決方策を探ることが重要であると考え、本テーマを設定した。

 

【研究目的】

県内総合型クラブの運営の現状と課題を整理し、安定したクラブ運営の一助とする。

 

【研究内容及び方法】

1 研究の期間

平成25年4月ー平成26年3月

2 研究の内容

県内創設済み総合型クラブ74クラブ(平成25年6月末時点)の巡回相談時におけるヒアリングシート等を整理、分析することで、安定したクラブ運営への解決方法を探る。

3 対象

県内創設済み総合型クラブ74クラブ(平成25年6月末時点)

4 研究の方法

  • 総合型地域スポーツクラブ活動状況調査の整理
    「総合型地域スポーツクラブ活動状況調査1)」から県内の総合型クラブの概要を整理する。
  • 分析シートの作成
    総合型クラブの課題、問題点、特徴などが抽出できる分析シートを作成する。分析シートはクラブに共通の課題を見出すため、会員規模、活動種目、活動費、活動拠点施設をカテゴリ設定する。
  • 結果の整理分析及び考察
    分析シートを用いて過去3ヵ年に行われた総合型クラブ巡回相談・支援の復命書と、ヒアリングシートを基に整理し、分析考察を行う。

 

【資料の整理分析・考察】

1 県内総合型クラブの概要整理

(1)会員規模

「101-300人」が39.2%、「301-1000人」が31.1%、「1-100人」が24.3%、「1001人以上」が5.4%となっている。

(2)活動種目数

クラブの活動種目数は、「3-5種目」が45.9%で最も多く、「6-10種目」が32.4%で続いている。

(3)活動費

クラブの年間活動費は、「1-1,000千円」が36.5%と最も多く、続いて「10,001千円以上」が14.9%、「6,001-7,000千円」と「9,001-10,000千円」が8.1%となっている。

(4)活動拠点施設

活動拠点施設の種類は、「学校体育施設」が54.1%で最も多く、「公共スポーツ施設」が29.7%、「自己所有施設」が8.1%、「休校・廃校施設」が4.1%、「民間スポーツ施設」が1.4%となっている。

2 分析シートについて

(1)分析シート

分析シートは、復命書およびヒアリングシートから、総合型クラブの課題、問題点、特徴など機械的に抽出できるよう、31の調査項目(表1)を設定し集計するものとした。総合型クラブ運営課題調査項目は、「総合型地域スポーツクラブ活動状況調査1)」での課題や、クラブ巡回の際の復命書とヒアリングシートに挙がった課題等を参考に、広域スポーツセンタークラブアドバイザーと協議の上、決定した。

(2)分析シートを用いた集計

総合型クラブ運営課題調査項目について、総合型クラブ巡回相談・支援の復命書および、ヒアリングシートに、記載がある事項を整理し集計する。

(3)カテゴリ設定

ア 小規模クラブと大規模クラブの課題の傾向を探るため、会員規模を「1-100人」「101-300人」「301-1000人」「1001人以上」とする。

イ 種目の多いクラブと少ないクラブの課題の傾向を探るため、「2-3種目」「4-6種目」「7種目以上」とする。

ウ 活動費の多いクラブと少ないクラブの課題の傾向を探るため、「1-3,000千円」「3,001-10,000千円」「10,001千円以上」とする。

エ 拠点場所ごとの課題の傾向を探るため、「学校体育施設」「公共スポーツ施設」「民間スポーツ施設」「その他」とする。

表1 総合型クラブ運営課題調査項目

3 運営課題調査項目集計結果分析および考察

全てのカテゴリで割合の高かった項目を順番に並べると、「8.学校と連携することが重要であると考えている」、「1.法人格が必要であると考えている」、「28.種目数を増やすことが重要であると考えている」、「2.会員を増やすことが重要であると考えている」、「9.種目協会や市町村地区自治会などの地域の組織と連携(協力)すること(「認知されること」)が重要であると考えている」、「29.活動する施設(グラウンド、体育館等)確保が重要であると考えている」となった。

ア 会員数「1-100」人(N=18)のクラブにおいて、「2.会員を増やすことが重要であると考えている」は10クラブである。一方で、「5.地域住民のニーズを知ることが重要であると考えている」はなかった。規模の小さいクラブでは、会員を増やしたいと考えているが、地域住民のニーズを知ることが重要であるとは考えていない傾向があることがわかった。
会員数「1001以上」人(N=4)のすべてのクラブにおいては、「22.toto助成が重要であると考えている」、「28.種目数を増やすことが重要であると考えている」、「30.活動を補完する施設(クラブハウス、倉庫等)確保が重要であると考えている」の項目に該当した。このことからクラブ運営への意識が高いことが推察される。

イ 種目数「7種目以上」(N=27)のクラブにおいて、「3.会員の世代(性別)を広げることが重要である」は17クラブであり、種目数の多いクラブは、多世代へ活動を広げる意欲が高いことがうかがえる。

ウ 活動費「1-3,000千円」(N=27)のクラブにおいて、「13.クラブ運営を行う人材(後継者やボランティアなど)発掘が重要であると考えている」は12クラブである。「14.有償のマネジャーや事務局員の配置が重要であると考えている」は1クラブであることから、活動費が比較的少ないクラブにとっては、クラブ運営をボランティア等に頼る傾向がうかがえる。

エ 活動拠点施設「学校体育施設」(N=42)のクラブにおいて、「8.学校と連携することが重要であると考えている」は36クラブである。活動の拠点として使用している学校との連携は欠かすことができない。また、活動拠点施設「公共スポーツ施設」(N=22)においても「8.学校と連携することが重要であると考えている」は15クラブである。各クラブでは学校施設を使用するだけでなく、地域スポーツと学校教育との連携等の意識や、地域が子ども達を支援する意識が高まってきていることも考えられる。

 

【まとめ】

本研究結果から、県内の総合型クラブの課題がより明確になってきた。多くのクラブで「会員を増やすことが重要である」と考えているが、一方で「地域住民のニーズを知ることが重要である」と考えているクラブは少ないことがわかった。クラブ会員を増加させるなど、クラブを発展させたい気持ちはあるものの、その具体的な解決策を得ることができていない現状がある。

運営を行う体制として、「クラブ運営を行う人材の発掘が重要である」と考えながらも、「有償のマネジャーや事務局員の配置が重要である」「クラブ運営に関わる人たちのモチベーションを上げる方策を得ることが重要である」などと考えているクラブは少ない。これは総合型クラブの永続可能な運営体制としては未発達な状態であることの表れであろう。さらに、指導者についても、「有資格指導者を確保することが重要である」「現有指導者に、資格取得させることが重要である」などと考えているクラブは少ない。スポーツ振興基本計画(H24.3)で明示されている指導者の充実に向けて、運営者がその重要性を理解し、各クラブにおいて充実を図る必要がある。

県内74クラブの年間活動費平均額は、20,550千円(神奈川県立体育センター調べ)であり、全国のクラブの平均額4,790千円の4倍を超えている。74クラブのうち41クラブが日本スポーツ振興くじ助成(toto助成)を受けており、助成終了後も見据え、自主財源率を高め、長期的に健全な財政基盤を作る必要がある。

県内総合型クラブの半数以上が、学校体育施設を中心に活動しており、学校との連携は不可欠である。しかし公共施設や民間施設を利用しているクラブにとっても、「学校と連携することは重要である」と考えている。これは施設の使用に関することだけではなく、地域スポーツと学校教育との連携等の意識や、地域が子ども達を支援する意識が高まっていることが考えられる。広域スポーツセンターは、各クラブの意識を捉え、学校との橋渡しをすることも必要である。

県内総合型クラブの運営者の方々は、多くの情熱を傾け、勉強し、より良いクラブを目指して日々努力をしている。そのクラブが、スポーツを通して地域の好循環を生み、「新しい公共」を担い、地域住民のコミュニティの核となることが出来るよう、広域スポーツセンターとして継続して支援し、各総合型クラブの定着化を図っていきたい。

 

【引用文献】

1)文部科学省スポーツ・青少年局スポーツ振興課(2013)平成25年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査結果概要「平成25年度総合型地域スポーツクラブ育成状況調査」、「平成25年度総合型地域スポーツクラブ活動状況調査」

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3033運動モバイル・アプリケーション・プログラムの開発等に関する研究
(2年継続研究の1年目)

スポーツ情報班 渡邉陽介 奥津賢一 須田敏弘

 

【研究テーマ設定の理由】

急速な高齢化が進む中、神奈川県では、平成13年を「希望の年」とし、年間を通じた「生涯スポーツフェスティバル」を開催し、その一環として、県民が運動やスポーツに親しみ、健康で明るく豊かな生活を送るために、1日30分・週3回・3ヶ月間継続して運動・スポーツを行うことを啓発する3033(サンマルサンサン)運動キャンペーンをスタートさせた。これ以降、神奈川県教育委員会スポーツ課及び神奈川県立体育センター(以下、「体育センター」という。)生涯スポーツ課スポーツ情報班では、「3033生涯スポーツ推進会議の開催」「子どもや高齢者を対象とした3033運動の奨励」「3033運動普及員の養成」「3033運動講習会の開催」「3033運動キャンペーンイベントの実施」といった取組みを継続的に行ってきた。しかし、これまでの3033運動推進事業における目標は、3033運動の県民への“周知”が主眼となっており、運動実践者の実態や運動習慣の定着度等は把握できていないのが実情である。

一方、近年の情報発信の主流はコンピュータ利用形態のソーシャル化・クラウド化・モバイル化等の影響により、マスメディアからパーソナルメディアへ、単方向から双方向へとシフトしつつある。また、情報の送受信方法においても、スマートフォンやタブレットといったモバイル端末の普及により、情報端末が設置してある場所で情報を送受信する時代から、情報端末そのものを携行する時代となった。

3033運動の広報については、これまで体育センターホームページやメールマガジン等の電子媒体及び、チラシ・リーフレット・広報誌等の電子媒体で情報発信してきたが、モバイルコンテンツによる情報発信については、平成24年6月に導入した体育センター公式ツイッターのみに留まっている。昨今の情報発信技術の進化に伴い、行政機関が扱う情報についても、モバイル端末に特化した情報形態の創出が今後不可欠と考えられる。

そこで、本研究では、3033運動の“周知”から“実践”・“継続”へとシフトしたモバイル・アプリケーション・プログラム(以下、「モバイルアプリ」という。)を開発し、急速に普及しているモバイル端末による情報発信・提供を通じて県民の日常生活の運動化を図ることで、運動・スポーツ実施率の上昇や健康・体力の向上、健康寿命の延伸、生涯スポーツ社会の実現といった目標達成の一助になるものと考え、本テーマを設定した。

 

【研究目的】

3033運動を“実践”・“継続”するための具体のツールとして、3033運動普及啓発用モバイルアプリを開発し、広く県民に配信提供することにより、生涯スポーツ社会実現を図るための調査研究を行う。

 

【研究内容及び方法】

1 研究の期間

平成25年4月から平成27年3月

2 研究の内容

<1年目>

3033運動モバイルアプリ開発に向けた3033運動に関する意識調査の実施(認知度、実施率、モバイルアプリの県民ニーズ等について)及びプログラムの開発

<2年目>

3033運動モバイルアプリの頒布及び効果測定

3 研究の方法(1年目)

(1)3033運動アンケート調査の実施・集計・分析

より良いモバイルアプリを開発するために、全30問マークシート方式で3033運動やモバイル端末に関するアンケート調査を行った

(2)3033運動モバイルアプリの開発

3033運動モバイルアプリの開発については、学校法人岩崎学園情報科学専門学校及び横浜医療情報専門学校の学生及び教員とスポーツ情報班によるプロジェクトチームを発足し、研究協議を重ねながら開発を進めた。

ア 役割

体育センター 3033運動、体育・スポーツ、健康に係る情報提供及び助言
岩崎学園 モバイルアプリ開発に係る技術提供

イ プロジェクトメンバー

体育センタースポーツ情報班 研究担当2名
岩崎学園 教員9名・学生26名(情報科学専門学校5名、横浜医療情報専門学校21名)

プロジェクト会議を重ねながら意見交換を進めた結果、情報科学専門学校は1グループ、横浜医療情報専門学校は2グループでそれぞれのモバイルアプリを開発することとなった。

4 3033(サンマルサンサン)運動の概要

(1)3033運動とは

神奈川県が推奨する、健康で明るく豊かな生活を営んでいただくために、1日30分、週3回、3ヶ月間継続して運動やスポーツを行い、運動やスポーツをくらしの一部として習慣化する取組みである。

(2) 「めざせ!3033運動で健康寿命日本一!!」パンフレットとの連動

神奈川県はこれまで3033運動を、多くの県民に周知してきた。健康寿命の視点から見ると、神奈川県の健康寿(注1)(平成22年)は男性70.9歳(全国12位)女性74.36歳(全国13位)となっている。この健康寿命を、運動の継続によって延伸させるために、新たに投入するものが、1:チャレンジ!階段のぼり、2:イキイキ!大また歩き、3:スッキリ!スキマストレッチの3つのプロジェクトである。働き盛りではあるが、他の世代に比べて運動の実施率が比較的少ない30-50代の日常生活に運動を取り入れ、習慣化させることにより、県民の3033運動実践者の増加、健康・体力水準の向上、生涯スポーツ実践者の育成をめざす。

(注1)健康寿命…健康上の問題がない状態で日常生活を送ることができる期間のこと。(厚生労働省)

 

【結果・考察】

1 3033運動アンケート調査の実施・集計・分析

(1)県民ニーズの調査

県民の運動実施状況や3033運動の認知度、モバイル端末の利用率、健康アプリに対するニーズ等を把握し、プログラム開発に反映させるために、3033運動アンケート
を作成し、3033運動講習会等の場面でアンケートを実施した。

その結果、日ごろ運動不足を感じている方の割合が全体の72%もいることがわかった。また、運動実施率が低い理由として、「時間がない」、「機会がない」という回答が全体の82%を占めた。3033運動モバイルアプリは、このような時間や機会のない方の日常生活の中に、手軽に運動を取り入れるきっかけを与えるツールになり得ると考える。また、39%の方が「3033運動をまったく知らない」と回答したため、モバイルアプリの機能の一部に、3033運動の概要や関連資料を入れ込むこととした。1日30分週3回の運動実施の可能性については、72%の方が肯定的な回答をしている一方で、否定的な回答をした28%の方にモバイルアプリを活用して運動習慣に対する意識を変えてもらえるような広報が必要である。

全体の半数以上がスマートフォンまたは小型PC・タブレットを使用している一方で、そのうちモバイルアプリを利用していない方が68%もいることが分かった。高い利便性と操作性を兼ね備えたモバイルアプリを開発し、県民の潜在的ニーズをどれだけ引き出せるかが、目標達成のための課題となる。使ってみたい健康アプリについては、突出して数値を伸ばしたモバイルアプリはなく、階段のぼり関連アプリを除いて嗜好が分散した。それぞれのニーズを補完できるようなマルチファンクション型のモバイルアプリを開発することが理想となる。

2 3033運動モバイルアプリの開発

アンケート結果を基に、多くの県民が気軽に利用でき、運動を継続しやすいモバイルアプリの開発を行った。開発したモバイルアプリの概要は次のとおりである。

(1)情報科学専門学校によって開発されたモバイルアプリ

ア アプリ名:「-3033運動促進アプリケーション-THREE CIRCLE」

日常生活の中に「大また歩き」を習慣づけるアプリ。身長を入力すると自動的に理想の大また歩きの歩幅が計算される。GPS機能により地図上に現在地が示され、目的地を長押しすると、目的地までの歩行ルートと大またでの歩数が表示される。スタートボタンを押すことで加速度センサーが万歩計の役割を果たし、目的地までの実際の歩数がカウントされる。計算された歩数以内に目的地まで到達すると「成功」となり、画面上のおたまじゃくしが成長する。成功体験を増やしてカエルまで育てようとする面白さが継続率を高める。

他の機能として、体育センターホームページへのリンク、3033運動関連資料の閲覧、運動不足度のチェックや運動アドバイス等が附加されている。

(2)横浜医療情報専門学校によって開発されているモバイルアプリ

横浜医療情報専門学校は2グループで開発を進めたが、現在のところ、まだ開発途中の段階である。以下に試作品の概要を示す。

ア アプリ名:「目指せ、芦ノ湖!歩いて健康になろう!」

多くの県民が、継続的に「ウォーキング」に取り組むことができるよう開発されたモバイルアプリ。万歩計機能を搭載し歩数、歩行時間を計算することができる。また、身長、体重の入力によって歩幅を算出し、その歩幅から歩行距離を計算して横浜から芦ノ湖までを擬似的に歩くことができる。距離を重ねていくにつれ、画面内のカエルが増えていき、途中地点を知らせてくれる。芦ノ湖までの具体的な行程のイメージがつかめ、ウォーキングを継続しやすい仕組みになっている。併せて、健康に関するアドバイスや消費カロリーも表示される。横浜から芦ノ湖までの、景勝地等を歩くことにより、親しみを感じながら活用してもらえるよう配慮されている。機能も比較的シンプルに仕上がっており、ユーザーフレンドリーなアプリになっている。

イ アプリ名:「-みんなの3033運動- 習慣付けの鍵 相乗効果 一人よりもみんなで」

ターゲットを働き盛りに設定し、このモバイルアプリが日常生活の中で運動・スポーツの習慣づけの鍵となるよう、また1日30分、週3回、3ヶ月を意識することができるように開発したモバイルアプリである。端末内のスケジュール機能と連動し、日々の運動量を記録していくことで、継続的に運動に取り組めるよう工夫されている。さらに、3ヶ月間の運動継続を達成した際に、オリジナルの壁紙が入手できる等、モバイルアプリ内で使うことのできる様々なプレゼント機能を搭載する予定である。

以上の3つが、プロジェクトチームで開発した3033運動モバイルアプリである。いずれのモバイルアプリも、カエルのキャラクターと相まって、使っていると楽しくなるような魅力のあるモバイルアプリに仕上がっている。また、「くらしの中に運動を」という、日常生活の中で無理なく運動を習慣化する3033運動の要素をしっかり含んでいる。このモバイルアプリを活用し、手軽に楽しく運動内容や運動時間を記録することで、運動への高い意識を維持することができ、運動を継続するための一助になると考える。

3 課題及び今後の方向性

これらのモバイルアプリをアンドロイド市場に参入させ、多くの県民に活用してもらえるよう、効果的な広報を行い、デモンストレーションの機会を多く持つことが喫緊の課題となる。また、動作に不具合等が見つかった際のメンテナンスや定期的なアップデートの実施等、技術的なサポート体制の構築を図ること、モバイルアプリ活用者の効果測定及び、SNS等を活用した運動実践者のネットワーク・コミュニティの構築を検討することも今後の方向性として位置づけていかなければならない。

開発当初、アプリ市場への参入はアンドロイドのみを予定していたが、他国に比べてユーザーの割合が高く、多くの携帯電話事業者が取り扱っているアイフォンも無視し難い存在である。しかし、アイフォン市場は、経費面や参入に係る審査基準面等で、アンドロイド市場よりも参入が困難であり、また、プログラム自体も、今回の開発言語であるJavaがそのままアイフォン上で完全に動作する保障はない。今後、それらの課題を解決し、いずれのモバイル端末でも動作するモバイルアプリの完成も併せて検討していきたい。

 

【まとめ】

本研究で開発した3033運動モバイルアプリは、情報発信形態の変化に伴う時代の流れに合致しており、体育センターと岩崎学園それぞれの知的・技術的財産を融合させたことにより実現した。3033運動の“実践”・“継続”をめざした具体のツールとして、県民にこれらのモバイルアプリの活用を促し、健康寿命の延伸や生涯スポーツ社会の実現といった目標の達成に少しでも近づけるよう、他の3033運動推進事業と合わせて全県的な取組みを行っていきたい。

 

【謝辞】

本研究の実施にあたり、モバイルアプリ開発にご協力いただきました学校法人岩崎学園情報科学専門学校・横浜医療情報専門学校教務部長、川上隆先生をはじめとする諸先生方、学生の皆さま、アンケートにご協力いただきました団体、回答者の皆さまに深く感謝いたします。

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状況に応じた動きがわかってできる ベースボール型ボール運動
ー「どこまで走るか・どこでアウトにするか」に焦点化したゲームを取り入れた段階的な学習過程を通してー

逗子市立逗子小学校 藤瀬 哲朗

 

【はじめに】

これまで私が実践してきた「ベースボール型」授業を振り返ると、基礎的な技術を高めるための反復練習と公式ルールに準じたゲームが指導の中心であった。実際のゲームでは、技能の高い児童が活躍し、そうではない児童は、反復練習した技術を発揮する機会が少ないという状況が見られた。これは基本的な技術さえ身に付けさせれば、必然的に活躍の機会が訪れ、児童はゲームを楽しめるという思い込みに原因があったと思われる。また、事前の実態調査の結果から、児童は「状況に応じた走塁と守備」について、わかりづらさを感じていることが明らかになった。

そこで、学習指導要領に示されている「簡易化されたゲーム」に着目し、児童がわかりづらさを感じている「どこまで走るか・どこでアウトにするか」という課題に焦点化したゲームを考案し、学習過程を段階的に設定すれば、「状況に応じた走塁と守備」がわかってできるようになると考えた。

本研究では、小学校高学年の「ベースボール型」において、課題に焦点化したゲームを取り入れた段階的な学習過程を通して、児童が「状況に応じた動き」がわかってできるようになったかを検証し、「ベースボール型」の授業モデルを提案することを目的とした。

 

本研究におけるキーワードを以下のように定義付けた。

「焦点化したゲーム」

複雑なゲーム状況の判断の対象を焦点化したり、その選択肢を減少させたりすることを通して戦術的課題をクローズアップする「誇張」の視点で修正したゲーム

「段階的な学習過程」

児童にとっての学習内容である課題が少しずつステップアップしていくように、教師が意図的に学習活動を設定した学習過程

「状況に応じた動きがわかってできる」

ゲーム状況の中から、「何を把握すればよいか(状況の把握)」がわかり、その状況において「どんなプレイが最適か(プレイの決定)」がわかり、「決めたプレイを実行できる(プレイの実行)」こと

 

【内容及び方法】

1 研究の仮説

小学校高学年のベースボール型において、「どこまで走るか・どこでアウトにするか」に焦点化したゲームを取り入れた段階的な学習過程をつくることにより、状況に応じた走塁と守備がわかってできるようになるであろう。

2 分析の視点

(1)何を把握すればよいかわかったか(走塁と守備の両面において)
(2)どんなプレイが最適かわかったか(走塁と守備の両面において)
(3)決めたプレイを実行できたか(走塁と守備の両面において)

3 検証授業の計画

(1)期間

平成25年10月18日(金曜日)から11月8日(金曜日)

(2)場所

逗子市立逗子小学校

(3)対象

第5学年3組(35名)

(4)単元名

ボール運動 ベースボール型

(5)単元の目標

〔()内は6学年での目標となる事項〕

ア 次の運動の楽しさや喜びに触れ、その技能を身に付けることができるようにする。

  • 簡易化されたゲームで、ボールを打ち返す攻撃や隊形をとった守備によって、攻防をすること。【技能】
イ 運動に進んで取り組み、ルールを守り助け合って運動をしたり、(場や用具の安全に気を配ったりする)ことができるようにする。【態度】
ウ (ルールを工夫したり、)自分のチームの特徴に応じた作戦を立てたりすることができるようにする。【思考・判断】

(6)単元計画

(7)指導の工夫

ア 焦点化したゲームの段階的設定について

指導内容を明確化し、課題を各ゲームで焦点化し、それが多く出現するようなゲームづくりを行う。またルールの変化に従い、学習課題がステップアップしていくゲームを6段階設定し、順を追って「状況に応じた動き」が身に付くようにする。

イ 焦点化したゲームの場の工夫について

児童一人ひとりのゲームにおける活動時間とプレイ機会を多く確保するため、毎時間3コートをつくり、常に6チームが同時にゲームに取り組めるようにする。

ウ 「チームタイム」について

毎時間2回戦で行うゲームの回と回の間に、攻守の課題について考えるチームタイムを設ける。毎回話し合う観点を示し、「状況に応じた動き」の共通のイメージづくりができるように促す。

 

【結果と考察】

1 何を把握すればよいかわかったか(状況の把握)

事前・事後アンケートで「どこまで走るか決めるときに、あなたは何を見て決めますか」「どこでアウトをとるか決めるときに、あなたは何を見て決めますか」を質問した結果(図1)、走塁場面で「打球の行方」・「守備の動き」、守備場面で「ランナーの位置」・「仲間の動き」という適切な回答ができた児童の割合が、事後に増加した。またこの結果を、当初「状況に応じた動き」について自信のあった児童とそうでなかった児童とに分けて分析した結果、自信があった児童だけでなく、自信がなかった児童も理解を深めたことがわかった。これらの結果から、児童は状況に応じて「どこまで走るか・どこでアウトにするか」を決めるために「何を把握すればよいか」わかるようになったと考えられる。また、このためには、授業者が指導内容を明確化し、授業において児童から出た意見をクラス全体で共有し、視覚的に示していくことが重要であると考える。


図1 「何を見て決めるか」への自由記述回答の事前・事後比較(n=35)

2 どんなプレイが最適かわかったか(プレイの決定)

事前・事後アンケートで走塁と守備の一場面について図示(図2)し、その場面における最適なプレイについて選択回答形式で質問した結果、全5問において適当な回答をした児童の割合は、事前の70%前後から事後の95%前後に伸びた。また、それぞれの質問で選択した理由を尋ねたところ、「ランナーが2塁に向かっているから」等の記述が得られ、把握した状況を根拠に決定していることがわかった。ここから、状況の把握とプレイの決定には密接なつながりがあることが確認できた。これらの結果から、児童は状況に応じて「どこまで走るか・どこでアウトにするか」を決めるために「どんなプレイが最適か」わかるようになったと考えられる。また、このためには、焦点化したゲームの中で動きの共通イメージについて学び合う場を設定し、プレイの決定を繰り返し経験させることが重要であると考える。


図2 最適なプレイを選択回答する質問の例

3 決めたプレイを実行できたか(プレイの決定)

学習課題が「どこまで走るか・どこでアウトにするか」になった5時間目から8時間目のゲームについて、VTRからプレイの出現率の分析を行った結果(図3・4)、走塁場面において状況に応じた動きができたプレイ出現率が徐々に増加し、最終的に83%になった。守備場面における状況に応じた動きができたプレイ出現率は、ルール変更のあった7時間目に一度減少したが、最終が72%となり5時間目に比べ増加した。これらの結果から、児童は状況に応じて「どこまで走るか・どこでアウトにするか」を決め、「決めたプレイを実行」できるようになったと考えられる。また、このためには、プレイのイメージを繰り返し試すことのできるゲーム時間と充分なプレイ機会の確保が重要であると考える。


図3 VTR分析 走塁場面のプレイ出現率の推移
(A:走るか止まるかの判断が適切で、走塁に成功したプレイ)


図4 VTR分析 守備場面のプレイの出現率の推移
(A:打球に近い守備者が捕球し、アウトにする場所の選択が適切だったプレイ)

 

【まとめ】

本研究では、次のことが明らかになった。

  • ベースボール型学習の手立てとして、誇張の視点で修正した焦点化したゲームを取り入れた、段階的な学習過程は有効だった。
  • 「状況に応じた動き」がわかってできるようになる学習過程において、指導内容の明確化、共通のイメージづくりのための学び合いの設定、充分なプレイ機会の確保は重要な要素となる。

本研究の成果を踏まえ、小学校高学年のベースボール型ボール運動の授業モデルを提案する。

「状況に応じた動き」という課題は、ベースボール型のゲームにおいて多様に存在し、それが児童にとって、わかりづらさの一要因になっている。このことから本研究では、主に「どこまで走るか・どこでアウトにするか」に焦点化したゲームを学習過程に段階的に取り入れ、その結果、焦点化した内容について指導の効果が得られた。

しかしながら、今回焦点化した「どこまで走るか・どこでアウトにするか」という課題は、ベースボール型に含まれる「状況に応じた動き」の一側面でしかない。したがって、多様な「状況に応じた動き」をわかってできる児童・生徒を育てていくには、小学校から高校までを見通した段階的、系統的な学習指導をデザインしていく必要がある。そのための更なる実践研究の積み重ねが、今後へ向けた課題と言えるだろう。

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「教えて考えさせる授業」によって理解が深まる保健学習
ー「説明活動」「チラシづくり活動」を通してー

南足柄市立足柄台中学校 川田真也

 

【はじめに】

近年、子どもたちの周りでは、生活習慣病の若年化、喫煙や飲酒・薬物乱用、性に関する問題などが、大きな課題となっている。健康問題の解決を目指し、新しい中学校学習指導要領の保健体育科の目標に、「健康の保持増進のための実践力の育成」が示され、解説では、その育成を図る方法として、知識の習得を重視した上で、知識を活用する学習活動を積極的に行うなど指導方法を工夫するよう示された。

しかし、中学校における保健分野の授業の状況を見てみると、(財)日本学校保健会が行った調査では、約88%の生徒は「保健の学習は大切だ」と感じているものの、「授業の内容がわかった」と感じている生徒は約55%、「考えたり工夫したりできた」と感じている生徒は約32%にとどまっており、今後はさらなる指導方法の工夫が必要であると言える。またこれは、説明しながら板書するというスタイルで授業を行ってきた自分にもあてはまる。

そこで本研究では、市川(注1)が提唱している、「教えて考えさせる授業」を活用し、さらに具体的な活動として「説明活動」と「チラシづくり活動」を取り入れ、生徒の理解を深めさせることができる授業づくりを目的とした。「教えて考えさせる授業」とは、生徒の予習・教師の説明による「教える」場面と、理解確認・理解深化・自己評価による「考えさせる」場面で授業を構成する授業方法である。また、その理解確認の場面で「説明活動」を、理解深化の場面で「チラシづくり活動」を取り入れることにより、生徒は、学習した知識の確認や新たな知識の獲得を行い、さらにそれらの整理や関連付けなどの学力を発揮し、理解を深めることができると考えた。

 

【内容及び方法】

1 研究の仮説

保健分野の授業において、「教えて考えさせる授業」を行うことによって、理解を深めることができるであろう。さらに、その「理解確認」と「理解深化」の場面では、『説明活動』と『チラシづくり活動』が有効となるであろう。

2 分析の視点

(1)「教えて考えさせる授業」についての有効性

(2)理解確認としての「説明活動」の有効性

(3)理解深化としての「チラシづくり活動」の有効性

(4)目指す生徒の姿の達成状況(理解が深まったか)

3 検証授業

(1)期間

平成25年9月26日(木曜日)から10月30日(水曜日)

(2)場所

南足柄市立足柄台中学校

(3)対象

第3学年2組(34名)

(4)単元名

保健分野「健康な生活と疾病の予防」

(5)学習過程

(6)「説明活動」について

4人一組のグループをペアに分けて、教師から提示された問題について、相互に説明したり、聞いたりすることを通して、理解度を確認するとともに、知識の整理や関連付けを図ることとした。

「説明活動」のながれ

ア A4サイズのホワイトボード、赤と黒のペン、キーワードカード(例:たばこの煙、有害物質)を配付。

イ ペアで話し合い、キーワードカードを使って、文章になるように、言葉を書き足しながら説明を考える。
(注)キーワードカードは、単元が進むごとに枚数を減らし、自分の言葉によって説明することを目指した。

ウ 完成した説明の文章をもう一方のペアに見せながら、説明を行う。説明を聞いたペアは、必要に応じて、赤のペンで説明に補足を加える。

(7)「チラシづくり活動」について

4人一組のグループで教師から提示されたテーマについて、同世代の中学生に伝えるためのチラシをつくることを通して、獲得した知識を総合的に活用し、理解を深めていくこととした。

「チラシづくり活動」のながれ

ア 予習プリントで事前にチラシで扱いたい内容やレイアウトの案を個人で考える。

イ グループで予習プリントを持ち寄り、チラシで扱う内容やキャッチコピー、メッセージなどを話し合う。

ウ チラシの記事を書く分担を決め、吹き出しなどの枠が印刷された用紙に記事を書いたり、教師の説明用のスライドを印刷した資料から、図や表を切り取ったりしながら記事を作成し、チラシを完成させる。

エ チラシ完成後、お互いのチラシを見て、内容について感じたことを付箋に書き、チラシに貼り付ける。

 

【結果と考察】

1 「教えて考えさせる授業」についての有効性

(1)予習は有効であったか。

事後アンケートの「予習プリントを行うと、学習の見通しを持つことができるため、安心して授業に参加できた」(4件法)では、97%の生徒が肯定的な回答※2をした。

(2)教師の説明はわかりやすかったか。

学習カードの自己評価の「教師の説明はわかりやすかったですか」(4件法)では、8時間の平均で89%の生徒が「思う」と回答をした。

(3)理解確認ができたか。

学習カードの自己評価の「確かめの問題について、今回の学習で得られた知識を生かして、仲間に説明することができましたか」(4件法)では、「思う」との回答が1時間目の45%から、7時間目には81%に増加した。

(4)理解深化ができたか。

学習カードの自己評価の「チラシづくりにおいて、仲間の意見を聞き、自分の考えが深まることがありましたか」(4件法)では、「思う」との回答が、4時間目の63%から、8時間目には88%に増加した。

(5)自己評価ができたか。

学習カードへの自己評価の記入状況は、すべての時間において、全生徒が記述欄にも記述していた。

(6)「教えて考えさせる授業」の授業展開は有効であったか。

事後アンケートの「今回の授業の進め方」の感想の内容を「肯定的」、「どちらでもない」、「否定的」の3つに分けた割合では、97%の生徒が肯定的な感想の記述が見られた。

これらのことから、「教えて考えさせる授業」は保健学習において有効であったと考えられる。

2 理解確認としての「説明活動」の有効性

ホワイトボードを用いた特定の相手への「説明活動」は理解確認するのに有効であったか。

事後アンケートの「二人で協力して説明することは、思考を深めることにつながった」(4件法)では、94%の生徒が肯 定的な回答(注2)をした。また、「仲間の説明を聞くことで理解が深まった」では、91%の生徒が肯定的な回答(注2)をした。

これらのことから、「説明活動」によって生徒は、理解の状態を確認することができたと考えられる。

3 理解深化としての「チラシづくり活動」の有効性

不特定の相手への「チラシづくり活動」は理解深化するのに有効であったか。

事後アンケートの「グループで協力してチラシをつくることを通して、思考を深めることができましたか」(4件法)では、91%の生徒が肯定的な回答※2をした。また、「他のグループがつくったチラシを見ることによって、理解が深まった。」(4件法)では、91%の生徒が肯定的な回答をした。

このことから、「チラシづくり活動」によって、生徒は、理解の深まりが図られたと考えられる。

4 目指す生徒の姿の達成状況(理解が深まったか)

(1)理解が深まったか。

事前・事後アンケートの「保健の授業で学習した内容は、理解できましたか」(4件法)では、「できた」との回答が、事前の19%から79%に増加した。(図1)


図1 「保健の授業で学習した内容は、理解できましたか」の回答

(2)学習を振り返り、日常生活の中で実践的に活用することができたか。

事後アンケートの「学習したことを生活の中で生かしたことがありましたか」(2件法)では、53%の生徒が「ある」と回答をした。また、47%の生徒が「ない」と回答したが、今後の生活で生かそうと思っていることの記述では、「将来、お酒を飲む時に授業で習ったことに気をつけながら飲みたい。」など、成人後の自分に、直接関係してくることについて挙げている傾向が見られた。

これらのことから、生徒は授業を通して理解を深めることができたと考えられる。

 

【研究のまとめ】

本研究では、次のことが明らかになった。

「教えて考えさせる授業」の授業展開では、「教える」場面と「考えさせる」場面をはっきりと分けたことにより、生徒の学習行動が明確になったことが考えられる。

また、生徒は予習によって、学習の見通しを持つと同時に、市川の言う「生わかり」状態になり、知識の獲得がスムーズになった。さらに、「説明活動」や「チラシづくり活動」でその知識の活用が図られ、理解を深められたと考えられる。

これらのことから、「教えて考えさせる授業」は、保健学習の授業においても有効であったと言える。

「説明活動」と「チラシづくり活動」では、口頭による説明やチラシでわかりやすく伝えるための工夫を行うこと、仲間との意見交換、他のグループが作成したチラシを見ること等により、知識の整理や関連付けが図られ、さらに、学習したことを自分の生活に結び付けることなど、理解を深められたと考えられる。

課題として残ったことに次の2つがあり、今後の取り組みに生かしていきたい。

  • 「説明活動」や「チラシづくり活動」を充実させるためには、時間の確保が必要であること。
  • 教師が学習内容について、何を教え、何について考えさせるかなどの授業のねらいを明確にすると共に、指導内容の精選を図ることが必要であること。

(注1)東京大学大学院教育学研究科教授 市川伸一
(注2)「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の回答

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「何を見るか」「どこへ動くか」を理解し、フリーでパスを受ける動きが身に付くサッカーの授業 
ーボールを「つなぐ」「進める」「シュートする」ための段階的な学習を通してー

神奈川県立伊勢原高等学校 佐藤亮太

 

【はじめに】

今年度より年次進行で実施されている高等学校学習指導要領において、球技「ゴール型」の技能は、「状況に応じたボール操作と空間を埋めるなどの連携した動きによって空間への侵入などから攻防を展開すること。」と示されており、同解説では、ボール操作とボールを持たないときの動きとして指導内容が整理されている。

一方で、筆者のサッカーの授業を振り返ってみると、ボール操作を中心に展開し、練習での技能向上は見られたが、ゲームにおいては、身に付けたはずの技能を発揮させることができず、「動きが少ない」、「ボールに集まる」などの様子が生徒に見られた。そこで、生徒を空間に侵入させて、フリーでパスを受けさせることができれば、ボール操作と空間を埋めるなどの連携した動きによって攻防を展開できるのではないかと考えた。

そのために、L・H・シマルが示した攻撃のコンセプトを基に、「つなぐ」「進める」「シュートする」の3つの目的に応じた学習を、パスを受ける難易度から段階的に設定し、各段階で説明と条件付けられたゲームを行うことによって、生徒に「何を見るか」、「どこへ動くか」を理解させ、フリーでパスを受ける動きを身に付けさせることができ、ゲームにおいてボール操作と空間を埋めるなどの連携した動きによって攻防を展開することにつながるものと考え、本主題を設定した。

また、仮説の検証を通して、攻撃におけるボールを持たないときの動き、フリーでパスを受ける動きを身に付けさせる指導について提案したいと考えた。

(注)本研究では「フリーの状態」を相手に影響されずに、ボールをコントロールできる状態と定義した。

 

【内容及び方法】

1 研究の仮説

サッカーの授業において、ボールを「つなぐ」「進める」「シュートする」ための学習を段階的に設定し、説明と条件付けられたゲームを行うことによって、「何を見るか」「どこへ動くか」を理解させ、フリーでパスを受ける動きを身に付けさせることができるであろう。

2 分析の視点

(1)次の3つの学習段階で、「何を見るか」「どこへ動くか」を理解し、フリーでパスを受ける動きが身に付いたか。

ア「つなぐ」ために、パスを受ける(5・6時)
イ「進める」ために、ボール保持者よりも前方の空間でパスを受ける(7・8時)
ウ「シュートする」ために相手DFとGKの間の空間でパスを受ける(12・13時)

(2)ゲームの中で、「何を見るか」「どこへ動くか」を理解し、フリーでパスを受ける動きが身に付いたか。

3 検証授業の計画

(1)期間

平成25年9月2日(月曜日)から10月11日(金曜日)

(2)場所

神奈川県立伊勢原高等学校

(3)対象

第3学年 サッカー選択者(女子24名)

(4)単元名

球技 ゴール型「サッカー」

(5)単元の目標 (技能のみ記載)

次の運動について、勝敗を競う楽しさや喜びを味わい、作戦や状況に応じた技能や仲間と連携した動きを高めてゲームが展開できるようにする。

ゴール型では、状況に応じたボール操作と空間を埋めるなどの動きによって空間への侵入などから攻防を展開すること。

(6)単元計画

(7)指導の工夫

「つなぐ」「進める」「シュートする」ための3段階の学習を設定し、各段階で「何を見るか」、「どこへ動くか」を説明し、身に付けるべき動きが明確になる条件付けられたゲームを行った。

ア 「つなぐ」ためのパスを受ける動き(5・6時)

  • ボール保持者からのパスコースを作る動きの獲得を目指した4対2のパス回しゲーム。
  • 三角形を意識。

イ 「進める」ためのパスを受ける動き(7・8時)

  • ゴール方向を意識し、ボール保持者よりも前方でパスを受けることを目指した4対4+1フリーマンゲーム。
  • 動きの優先順位の学習

ウ 「シュートする」ためのパスを受ける動き(12・13時)

  • 相手DFとGKの間の空間でパスを受けることを目指したシュートゾーンを設けた5対5のゲーム。
  • スライドを使用した動きの学習

(注)授業VTRを活用し、空間・動きの確認(12時)

 

【結果と考察】 2 分析の視点(2)のみ記載

1 「何を見るか」「どこへ動くか」を理解できたか。

図1は、「ゲーム中に状況把握するための見るべきもの」の事前・事後での正答割合の比較である。事前では、正答割合が、33%と他に比べ低かった「スペース」についても、事後には、90%を超えるなど、ほとんどの生徒において、5つの項目が知識として定着し、「何を見るか」を概ね理解できたと考えられる。


図1 [5つの見るべきもの]の正答割合(n=24)

図2は、「パスをもらおうとする時、どのようなところに動きますか」の事前・事後での正答割合の比較である。(正答例:スペースに動く)事後において、正答率は100%であり、「どこへ動くか」を理解できたと考えられる。

これらのことから、「何を見るか」「どこへ動くか」を概ね理解できたと考えられる。


図2 「パスをもらおうとする時、どのようなところに動きますか」の正答割合(n=24)

2 フリーでパスを受ける動きが身に付いたか。

図3は、「つなぐ」「進める」「シュートする」ためのパスを受ける動きの1分間の1人あたりの平均出現数を、2時間目と15時間目に行った6対6のゲームで比較した図である。いずれの動きも15時間目に平均出現数が増加した。

また、図4は、1分間の1人あたりのパスを受ける動きの出現数である。15時間目では、21名の生徒が、フリーでパスを受ける動きを1分間あたり1回以上出現させることができた。0回であった3名の生徒はGKであり、この3名の生徒も他の時間ではフリーでパスを受ける動きを出現させることができていた。これらのことから、フリーでパスを受ける動きが身に付いたのではないかと考えられる。


図3 「つなぐ」「進める」「シュートする」ためのパスを受ける動きの1分間の1人あたりの平均出現数(n=24)

(注)各動きの出現についての判断は、筆者とサッカー経験25年の体育センター所員の2名で行い、1分間の1人あたりの出現数は、個人の出現数をその所属チームのボールコントロール時間(分)で除して求めた。


図4 1分間あたりのフリーでパスを受ける動きの出現数

 

【まとめ】

以上のことから、「つなぐ」「進める」「シュートする」ための段階的な学習で、説明と条件付けられたゲームを行うことは、「何を見るか」「どこへ動くか」を理解させ、フリーでパスを受ける動きを身に付けさせるために有効であったと考えられる。そして、各段階における見るポイントや動きのポイントの提示、身に付けるべき動きが明確になる条件付けられたゲームの考案、さらには空間や動きの確認のためのVTRの活用など、教師にとっては指導内容を、生徒にとっては学習内容を明確にすることができる指導方法が、生徒間での課題の共有化につながり、複数の者が連携して行うパスを受けるという技能の向上に効果があったと考えられる。

また、今回の学習では、空間を見付けて動くことに重点を置いたが、今後は、意図的に空間を作り出す動きを身に付けられる学習へと発展させていきたい。

最後に、仮説検証等を踏まえて修正した「フリーでパスを受ける動きが身に付く3段階の学習のポイント」を提案する。

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