第36号(平成20年度/2008)

掲載日:2018年3月28日

発刊のことば

神奈川県立体育センター所長 安斉 講一

 

このたび、当体育センター指導研究部の平成20年度の研究報告書をまとめた「体育センターレポート第36号」を発刊する運びとなりました。

昨年度、文部科学省が小学5年生と中学2年生を対象に行った全国体力・運動能力、生活習慣等調査によると、児童生徒の体力は、昭和60年ごろと比べると依然低い水準にとどまっていることが報告されました。なかでも、本県は小学5年生男子の握力と長座体前屈、小学5年生女子の長座体前屈以外は全国と比較して低い現状にあり、子どもの体力・運動能力の一層の向上に向けた取組の必要性が求められています。体育センターとしても、その一端を担い、各種事業を実施しているところでございます。

本号は、指導研究部の研修指導室、スポーツ科学研究室、生涯スポーツ推進室、スポーツ情報室が行った研究と、体育センター長期研修員の授業研究報告により構成されております。これらの研究につきましては、抄録のみの掲載となっておりますが、下記のページに研究報告書を掲載しておりますので、併せてご活用いただければ幸いに存じます。

体育センターは、子どもから高齢者まであらゆる年齢層の方たちが、各自のライフステージにおいて、心身共に豊かな生活を営むことができるよう、県の体育・スポーツ振興の中核機関として県民のスポーツライフを総合的にサポーしております。今後も、心と体の健康つくりを促進し、質の高いサービスを提供していくとともに、指導者及び実践者への支援、スポーツ情報の提供、調査研究に取り組んでまいりますので、益々の御指導、御鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。

最後に、本号掲載の研究推進に、御協力を賜りました皆様に厚くお礼申し上げ、発刊のことばといたします。

 


 

目次

所員による研究

《研修指導室》

《スポーツ科学研究室》

《生涯スポーツ推進室》

《スポーツ情報室》

 

長期研究員による研究

《小学校》愛川町立中津小学校 阿部 幸弘

《中学校》茅ヶ崎市立梅田中学校 新居 博志

《高等学校》県立有馬高等学校 北岡 克明

 


体育学習における技能の系統に関する研究
ー運動の技能の基となる知識を手がかりとしてー
(3年継続の2年次)

研修指導室 野間基子 小野澤克己 江守哲也 石井美乃 瀬戸隆紀 松野明 瀬尾一幸

 

はじめに

今次の改訂における基本的な考え方の礎となる平成20年1月17日の中央教育審議会答申では、「小・中・高校学校の12年間を見通して指導内容の明確化・体系化を図る」ことが提言されている。

今回の改訂では、小・中・高校学校12年間の2年ごとに目標と内容を設定し、「いつ」、「どこで」、「何を」学ばせるかといった発達段階に応じた指導内容の明確化・体系化が図られた。

そこで、本研究では、改訂学習指導要領に示された技能(運動)の内容における[例示]から「何を教えれば、その動きができるようになるのか」といった運動の技能の基となる知識を特定していくことによって、それぞれの段階で身に付けさせなくてはならない学習内容をより明らかにできるのではないかと考え、全ての領域・種目の運動の技能の基となる知識を手がかりとして、発達段階に応じたより具体的な学習内容を明らかにすることとした。それにより教育現場における体育指導充実に資するための指導実践資料作成の基礎資料としたい。

 

内容及び方法

改訂学習指導要領に示された各領域・種目における「技能(運動)」に着目し、解説の[例示]で示されている運動やゲームの様相等を実現するために必要な運動の技能の基となる知識を探り系統的に整理し、配列する。

小・中学校の学習指導要領の改訂を踏まえて解説を系統的に配列し直し、各領域、種目における技能の解説の[例示]に示された運動やゲームの様相等を実現するために必要な運動の技能の基となる知識を特定する。

小・中・高等学校12年間を見通した運動の技能の基となる知識を整理する。

「体育・保健体育学習ハンドブックー小・中・高等学校の12年間の学習内容の整理と学習活動実践モデルー(仮称)」作成のための基礎資料として研究成果をまとめる。

 

研究成果

1 学習内容の系統に関する理論 ー中央教育審議会答申に見る研究の意義ー

平成20年1月17日、中央教育審議会より「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」の答申(以下答申)が文部科学大臣に提出され、基礎的・基本的な知識・技能の習得と、これらを活用する思考力・判断力・表現力等をいわば車の両輪として相互に関連させながら伸ばしていくことが求められ、「教えて考えさせる」指導を徹底し、基礎的・基本的な知識・技能の習得を図ることが重要であると示されている。

基礎的・基本的な知識や技能の確実な定着を図るためには、各学校段階での教える内容を明確にすることが不可欠であり、また、答申では発達の段階に応じた各校種間の円滑な接続に留意することが必要であることも強調されていることから、小学校から高等学校までの指導内容を体系的にとらえる視点が今求められていると考える。

本研究では、小学校から高等学校までの12年間の系統性を考えた学習内容の特定と配列を検討し、体育学習の領域・種目の系統表のモデルを示した。

答申の体育では、「体を動かすことが、身体能力を身に付けるとともに、情緒面や知的な発達を促し、集団的活動や身体表現などを通じてコミュニケーション能力を育成することや、筋道を立てて練習や作戦を考え、改善の方法などを互いに話し合う活動などを通じて論理的思考力をはぐくむことにも資することを踏まえ、それぞれの運動が有する特性や魅力に応じて基礎的な身体能力や知識を身に付け、生涯にわたって運動に親しむことができるように、発達の段階のまとまりを考慮し、指導内容を整理し体系化を図る」と述べている。

したがって、生涯スポーツにつなげるための系統的な体育学習を実現するためには、「わかる」と「できる」を実現することが大切であり、「わかる」そして「できる」ようにするための授業を行うためには、教える内容である「何を学べばできるようになるのか」という知識を教師が持っていることが大前提となる。児童生徒の「わかる」につなげ「できる」ようにするためには、発達段階(身体的発達と知識理解力)とその領域・種目の技能的特性を考慮し、「何を教えればよいのか」ということを「知識」として整理することが大切であると考える。

2 学習内容を特定し、配列するにあたって根拠とした理論

学習内容は、「名称」「方法」「概念(考えの枠組み)」の分類が考えられる。

  • 名称 「覚える」「暗記する」といったまとまり
  • 方法 「練習の仕方」などの方法のまとまり
  • 概念 (考えの枠組み)→その運動が成立する原理・原則、法則性

ここで示した「概念」が、知識として身に付ける重要な学習内容となり、「何を教えるのか」(学ぶのか)の具体の部分にあたると思われる。

学習内容に関する、全般的なとらえ方は次のようなことが考えられる。

  • 学習内容を特定することで、「何を」教えるのかを明確にすることができる。
  • 学習内容には、「名称」「方法」「概念(考えの枠組み)」で分類されるものがある。
  • 学習内容は一般的であり、客観的である。多くの場面や事柄に共通するものであり、抽象的である。健康(運動)に関連することを、一般化したものである。→ 能力として出力されるもの。

本研究でいうところの基となる「知識」とは、学習指導要領の内容に示される「知識、思考・判断」の「知識」と階層を異にする。例えば「バスケットボールのルール」という言葉だけでは、学習内容としては抽象的であるところを、その基となる知識として「ボールを持ったまま3歩以上ステップを踏んだ場合は、トラベリングという反則となり、相手チームのボールになること」等が特定されてはじめて具体的な学習内容(教える内容)となると考えられる。

「運動の技能」については、技術=テクニック、技能=スキル(技術が身に付き、能力として発揮できる状態)と考えれば、技能=学習内容とはならないと思われる。すなわち学習内容(基となる知識)はより具体の技術(テクニック)や、その運動を身に付けるための練習方法や、その運動の必要性や学ぶ価値(おそらく関心・意欲・態度の基となる知識にもつながる)等であると考えられる。

 

研究成果

運動の技能の基となる知識の示し方(表1)は、小学校第1学年から第4学年を「様々な動きを身に付ける時期」、小学校第5学年から中学校第2学年を「多くの運動を体験する時期」、中学校第3学年を「少なくとも一つのスポーツに親しむ時期」に位置付け、改訂学習指導要領の区分を基本として解説の例示を達成するために必要な技術(=学習内容)を項目立てして基となる知識を特定していく。高等学校については改訂学習指導要領解説が示された後に加えることとする。

表1 運動の技能の基となる知識の示し方

学習内容(運動の技能の基となる知識)の書き出し方は、

  • 主部と述部からなる文章で記述する
  • 文体には「~ためには、~こと。」を基本形とする
  • 強制する表現はもちいないこととする
  • 「条件」や「要因」を示す表現とする
  • できばえ、能力、意欲を含めないで記述する

こととし、改訂学習指導要領解説の技能(運動)に示された[例示]を実現するために必要と考えられる具体的な指導内容を特定していくことを整理の基本的な考え方として、次の例のように記載した(表2)。

表2 運動の技能の基となる知識(指導内容)の例

小学校における運動遊び、マット運動領域の前転における技能の基となる知識の系統(一部抜粋)

第1学年及び第2学年

〇ゆりかご、前転がり、後ろ転がり、丸太転がりなど

  • マットに背中を順番に接触させるなどして、いろいろな方向に転がる(解説例示)ためには、あごとお腹を締め、背中を丸めて順番にマットに着いて転がること。

 

第3学年及び第4学年

〇前転

  • しゃがんだ姿勢から体を丸めて前方に回転する(解説例示)ためには、両手を肩幅に着け、腰を高く上げて後頭部-背中-尻-足裏の順にマットに着いて回転すること。

 

第5学年及び第6学年

〇安定した前転

  • 前転を連続してする(解説例示)ためには、かかとを尻の下に引き寄せ、かかとが着くと同時に前方を見て、手を前に伸ばして次の前転に入ること。

(注)太字部が、今回、運動の技能の基となる知識として特定した箇所

 

今後の方向性

平成19年度及び平成20年度の研究で明らかにしたことを踏まえて、次のような方針で作業を進めることとする。

  • 改訂学習指導要領解説が小、中、高等学校揃った段階で高等学校の内容を加えて再度整理するとともにアドバイザー、専門家の意見を聴取して内容の精度を高める。
  • 技能に加え、態度と知識、思考・判断においても、可能な限り系統的に基となる知識を特定し配列する。
  • 研究成果を踏まえて指導資料を作成し、技能の基となる知識をよりどころとした学習活動の実践例等を示す。

今後は、このような取組によって、児童生徒が生涯にわたって豊かなスポーツライフの基礎を培えるように、学校において指導計画、評価計画等を作成する際の参考となる指導資料を作成していきたい。

 

<参考・引用>

平成18年度全国都道府県指定都市教育委員会学校体育担当者指導主事研究協議会配付資料ほか

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子どもの体力及び運動能力の向上に関する研究
(2年継続研究の1年次)

スポーツ科学研究室 藤川未来 重本英生 小峰譲二 小橋慎一 中村徳男
研究アドバイザー 日本体育大学 西山哲成

 

はじめに

子どもの体力は昭和60年頃から長期的な低下傾向にあるとともに、自分の身体をコントロールする能力の低下も指摘されている。その原因としては、外遊びやスポーツの重要性の軽視など国民の意識の問題、都市化・生活の利便化等の生活環境の変化、睡眠や食生活等の子どもの生活習慣の乱れといった要因が絡み合い、結果として子どもが体を動かす機会が減少していることが考えられる。

外で遊ぶしかなかった時代とは違い、生活が便利で豊かになり、日常の生活で身体を動かすことが少ない今の子どもたちには、屋外で遊んだり、スポーツに親しんだりする機会を意識的・計画的に確保していくことが必要であり、神経系の発達が著しい幼児期に運動技能の習得・発達の基礎となる基本的運動技能(走る・転がる・跳ぶなど)を数多く経験させ、子ども自身に身体を動かすことの楽しさを発見させ、さまざまな動きを身につけさせることは、その後の体力・運動能力の発達に大きく影響すると考える。

そこで、体力・運動能力の向上を図る幼児向けの運動プログラムを作成し、体力・運動能力測定を実施することでプログラムの効果を検証することとした。

 

内容及び方法

1 情報収集

文献研究

2 運動プログラム作成

幼児期に身につけておきたい基本的運動技能に着目し、『子どもの体力・運動能力向上プログラム』を作成する。

 

文献研究

1 子どもの体力・運動能力の低下

子どもの遊びの環境として必要とされる3つの間「仲間」「空間」「時間」が減少してしまったことが、子どもの体力・運動能力の低下の原因であると考えられる。

(1)仲間:少子化による子どもの数の減少

(2)空間:空地・自然スペースの減少

(3)時間:塾や習い事へ通うことによる自由時間の減少

2 子どものからだの問題

子どものからだのおかしさ、ケガの増加と動きの不器用さが指摘され、子どものからだは従来のように「自然に育って」いかなくなっていると考えられる。

(1)子どもの生活習慣病の増加

(2)肥満傾向児の出現率の増加

(3)アレルギー疾患の増加

(4)首から上のケガの増加

(5)骨折の増加

3 幼児期の発育・発達

人間には運動を身につけるのにとても適した時期が3つあると言われている。その第1期は幼児期、つまり歩き始めた1歳から小学校に入るまでの5年ほどの間で、脳をはじめとして体内にさまざまな神経回路が張り巡らされる時期であり、この時期に適切な運動刺激が与えられれば人間として必要な動きのほとんどを身につけることができると考えられる。

また、幼児期は「模倣」、つまり周りの親や先生、あるいは友達の動きを見て、まねをすることができるようになり、人の動きを見てまねをしようとする能力は、運動を身につけていく上では将来にわたってとても大切な能力になると考えられる。

表1 運動発達段階と運動技術

運動発達段階

分類
(カテゴリー)

初歩的運動の段階
(0歳から2歳)
Rudimentary ovement Phase
初歩的・基礎的運動技能
Rudimentary Movement Patterns
基本的運動の段階
(2歳から7歳)
Fundamental Movement Phase
基本的運動技能
Fundamental Movement Patterns
●平衡系の動作
Stability
Movements
頭・首のコントロール
転がる(寝返り)、腕で支える
座る、かがむ、立つ、立ち上がる
回る、転がる、片足で立つ
バランス立ちをする、ぶら下がる
乗る、渡る、逆立ちをする、浮く
●移動系の動作
Locomotor
Movements
腹を地につけて這う(Crawling)
四つ足で這う(Creeping)
這い上がる、歩く、登る、降りる
走る、止まる、リープ、スキップ
ホップ、ギャロップ、跳ぶ
跳び上がり降り、よじ登る
跳びつく、跳び越える、またぎ跳ぶ
かわす、くぐる、すべる、泳ぐ
●操作系の動作
Manipulative
Movements
手を伸ばす、つかむ、つまむ
はなす、ほうる
投げる、蹴る、打つ
つく(まりつき)、たたく
捕まえる、受ける、運ぶ
担ぐ、下す、押す、引く、漕ぐ

4 基本的動作・基本的運動技能

基本動作は、平衡系、移動系、操作系の3つに分類され、2歳~7歳の基本的運動の段階で身につけるべき基本的運動技能として38の動作が示されている(表1)

5 コーディネーション能力

運動の調整能力は、コーディネーション(協調性、協応性)能力と定義され、神経系が知覚情報に応じて動員する筋を組み合わせ、それらの出力を適切に制御する力であり、素早く動いたり、リズムに合わせて体を動かすことが得意だったりする人の動きに隠されているのがコーディネーション能力であるとされている。

6 平成20年度「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」

「毎日の朝食の欠食、短い睡眠時間、長いテレビ(テレビゲームを含む)視聴」といった生活習慣は、体力向上を抑制する要因となる。

(1)運動習慣・生活習慣と体力の関連

体力合計点と朝食の摂取状況に相関がみられ、毎日食べる集団は体力合計点が高い傾向がみられた。

(2)生活習慣と運動嗜好の関連

運動嗜好とテレビ(テレビゲームを含む)の視聴時間には相関がみられ、運動が好きになるほど1日のテレビ(テレビゲームを含む)視聴時間が短くなる傾向がみられた。

(3)肥満と体力の関連

体力合計点と肥満度に相関がみられ、小学生では肥満度が男子では21.2%、女子では17.9%以上になると、体力合計点が明らかに低い結果となった。

(4)運動習慣・生活習慣と肥満の関連

朝食を毎日食べる集団は、それ以外の集団と比較して肥満度が低い傾向がみられた。

また1日の睡眠時間と肥満度に相関がみられ、1日の睡眠時間が6時間未満になると、肥満度が高くなる傾向がみられた。

7 子どもはどのようにして運動を習得するか

子どもが"新しい動きを身につける"・"新しい動きができるようになる"要因を運動学的に分析すると、自発的分化、模倣による獲得、表象に基づく獲得に分類される。また、幼児が様々な動きを発生させ習得していく過程には、自由に習得をしていく場合と、指導されて習得する場合の二つの方法があり、指導されて身につけた動きは、系統的で効率がよいという面はあるものの、その習得は一般に外発的なものであり、大人が主導し、子どもは受身的に行うだけで、自己発展的に展開する動きとはなりにくいとされている。

 

考察

子どもの体力が低下してきた背景には、少子化や生活様式の変化など、子どもを取り巻く社会が変わってきたことが大きく影響しているということが明らかになった。しかし、子どもの体力向上のために社会を変えようとすることは容易ではない。

子どもの体力・運動能力を向上させるためには、子どもの活動に直接働きかけることと同時に、子どもたちの生活に関わりの深い保護者や保育士など、大人の意識を変えることをめざした取組こそ重要であると考え、『子どもの体力・運動能力向上プログラム』として検証し提案したい。

 

子どもの体力・運動能力向上プログラム

1 運動プログラム

基本的運動技能に焦点をあてながら、"素早い身のこなし"能力の向上をめざす。

2 体力・運動能力測定

運動プログラムの効果を検証するために、体力・運動能力測定を実施する。

測定項目は次のとおりである。

  • 25メートル走
  • 立ち幅とび
  • テニスボール投げ
  • 両足連続とび越し

3 体力・運動能力測定結果のフィードバック

体力・運動能力測定結果を、園及び個人へフィードバックする。

4 アンケート調査

体力・運動能力測定の前後に園および担任と保護者対象にアンケート調査を実施する。

5 子どもの体力や研究に関する情報提供

研究に対する理解を求めるとともに研究等に関わる情報を提供する、体育センターたより「元気に遊ぼう!」を保護者あてに発行する。

 

<参考>

中村和彦 『子どものからだが危ない!』
文部科学省 平成20年度学校保健統計調査
白石豊 『スポーツの得意な子に育つ親子遊び』
『どの子ものびる運動神経・幼児編』
前橋明 『0歳から5歳児の運動あそび指導百科』
東根明人 『体育授業を変えるコーディネーション運動65選』
須賀由紀子 『子どもの身体・運動・遊び-健やかな身体を育む生活文化の探求―』

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競技力向上における基礎体力に関する研究
(3年継続研究の2年次)

スポーツ科学研究室 小峰譲二 重本英生 小橋慎一 中村徳男 藤川未来
研究アドバイザー 慶應義塾大学 大西祥平

 

はじめに

ジュニア競技者の競技力向上を図る上では、心身の発達段階を十分考慮するとともに、科学的理論に基づいた適切なトレーニングを長期的な視点に立って実施する必要がある。

特に中学校・高等学校期においては、各種目の専門的トレーニングを始める前段階として、基礎体力をバランスよく高めるトレーニングに重点を置くことが、スポーツ傷害の予防や競技力を向上させる上で重要である。

体育センターでは競技力向上コースを設け県内の競技団体(運動部、クラブチーム等)や個人競技者を対象に、体力測定及びスポーツドクターによるメディカルチェック、トレーナーによるフィジカルケア等を実施してきた。

そこで本研究は、同コースにおける基礎体力等の測定結果及び活動実態調査の分析をとおして、中学校・高等学校期競技者の基礎体力とスポーツ傷害の状況を把握し、その結果に基づいて、各選手の基礎体力向上とスポーツ傷害の予防と競技力向上支援のための基礎資料を得ることを目的とした。

 

内容及び方法

1 対象

県内競技団体(運動部、クラブチーム等)や個人競技者

2 研究の方法

(1)対象:平成15年度から平成19年度において実施した「競技力向上コース」に参加した中学校・高等学校期競技者

(2)測定項目:形態計測、身体組成、基礎体力

(3)調査項目:メディカルチェック(診察及び評価)スポーツ活動に関する問診、個人属性及び活動実態調査

(4)分析データ:平成15年度から平成19年度までの競技力向上コース参加者(男子814名、女子588名 合計1,402名)を分析の対象データとした。

(5)分析方法:傷害の有無と測定項目の平均差の比較はT検定を、リピーターの測定項目と平均の差の比較には対応のある場合のT検定を、比率の分析にはクロス集計による直接確率計算法を用いた。

 

結果

1 傷害の状況について

対象生徒1,402人に対して、男子364人(44.7%)女子364人(61.9%)の生徒が何らかのスポーツ傷害を持ちながら活動を続けている。

測定結果と傷害状況の関連性を検討するため、男女の種目において医学的評価表において正常と評価された対象者(以下「傷害無し群」と言う)と観察・注意・精査・治療と評価された対象者(以下「傷害有り群」と言う)の2群に分類し、その比較を行なった。

(1)競技種目別傷害状況

競技種目別の分析は、参加人数が比較的多かったバスケットボール男女、バレーボール男女、陸上競技短距離男女、硬式野球男子、陸上競技長距離女子を扱うこととした。

男子で傷害有り群が最も多いのは、硬式野球の94名で、女子は、バレーボールの127名であった。(表1)

表1 競技種目別傷害状況

(2)競技種目別傷害者の割合

男子で障害者割合の高いのは、バレーボール57.6%、バスケットボール42.3%、硬式野球42.2%で、女子は、バスケットボール70.6%、バレーボール66.1%、陸上競技短距離50.0%であった。

2 競技種目別部位別の発生状況について

男子で傷害発生率の高い部位は、下肢部49.7%、腰背部26.9%、上肢部23.6%で、下肢部では膝関節が最も多かった。(表2)

表2 競技種目別部位別の発生状況(男子)

女子は、下肢部63.1%、腰背部25.7%、上肢部11,2%で、下肢部では下腿が最も多かった。(表3)

表3 競技種目別部位別の発生状況(女子)

3 傷害の有無と年齢・形態・体組成の関係について

男子では傷害有り群の年齢が、また、男女とも傷害有り群の体重・体脂肪率が、傷害無し群と比較して有意に高かった。

4 傷害の有無と基礎体力の関係について

男子では傷害有り群の長座体前屈が、また、女子では傷害有り群の反復横とびの平均値が、傷害無し群と比較して有意に高かった。

5 傷害の有無と活動実態調査の関係について

女子では傷害有り群の競技経験月数が、傷害無し群と比較して有意に高く、傷害無し群の練習環境に満足している割合が、傷害有り群と比較して有意に高かった。

6 下肢部と腰背部の傷害の有無と脚筋力、背筋力、上体起こし、長座体前屈の関係について

脚屈曲筋力M/S註1)において、女子では傷害なし群の基準値内割合註2)が、傷害有り群と比較して有意に高く、男子では傷害無し群の基準値内割合が、有意ではなかったが全競技種目で、傷害有り群と比較して高かった。

上体起こし/比体重背筋力において、女子陸上競技短距離では傷害無し群の基準値内割合が、傷害有り群と比較して有意に高く、男子では傷害無し群の長座体前屈が、有意ではなかったが全競技種目で傷害有り群と比較して低かった。

 

考察

  • 傷害あり群の競技暦が長いと考えられる。
  • 体重や体脂肪率が傷害の発生に関与したと考えられる。
  • 基礎体力要素が高くても、傷害の防止にはならないと考えられる。
  • 競技生活の中で同部位への負荷が蓄積され、傷害を発生させていると考えられる。
  • 傷害の発生を防止するには、競技者が満足できるような環境を整える必要があると考えられる。
  • 傷害の防止には、脚屈曲筋力の左右のバランスが大切であると考えられる。
  • 腹筋と背筋の筋力のバランスが、傷害の防止には必要であると考えられる。
  • 長座体前屈は、大臀筋や大腿二頭筋の柔軟性を測定するものであり、腰背部の傷害に関与すると考えられたが、柔軟性が高いだけでは、腰背部の傷害を防止することはできないと考えられる。
  • どんなに体力がある競技者であっても、傷害を有した場合、その競技における体力や技術の向上が停滞することになり、その後の競技に対する影響が大きいため、傷害の防止を意識してトレーニングに励む必要があると考えられる。

 

まとめ

本研究で中学校・高等学校期競技者の基礎体力等の測定結果と傷害状況の関連性について分析した結果、次のことが明らかになった。

  1. 男子では体力が高い選手でも傷害が多かった。このことから、ただ単に、基礎体力を高めても傷害防止につながらないことが示唆された。
  2. 女性は男性に比べ体脂肪率が高く、相対的な体重に対する筋力の低さが傷害の多さに結びつくと示唆された。
  3. 脚屈曲筋力の左右のバランスが重要であることがわかった。
  4. 体幹の部分のバランスを意識したトレーニングが必要であることがわかった。
  5. ケガをしないことが基礎体力の向上につながることがわかった。

本研究において、中学校・高等学校期における傷害の予防は筋屈曲筋力の左右のバランスや体幹の前後のバランスを重視したトレーニングの重要性が明らかになったことから、来年度については、傷害の予防を考慮したトレーニングの推奨プログラムを作成したいと考える。

 

註1)Mは利き手・利き足、Sは利き手の逆手、利き足の逆足を示している。
註2)測定結果の±1SDを基準値としている。

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ウォーキング時における中高齢者の主観的運動強度に関する研究
(3年継続研究の2年次)

スポーツ科学研究室 中村徳男 重本英生 小峰譲二 小橋慎一 藤川未来
研究アドバイザー 法政大学 日浦幹夫

 

はじめに

生活習慣病予防のための健康・体力つくりには、日常の生活において積極的に運動を行い、全身持久性や柔軟性、筋力・筋持久力および身体組成などの健康関連体力を高める必要がある。特に、健康・体力つくりのための運動等を処方する場合、全身持久性の維持・向上が大きな要素となるので全身持久性を測定・評価することが必要になる。

全身持久性を評価し、効果的な目標運動負荷を設定するために使われる一般的な指標としては心拍数が考えられるが、測定のために最大努力に近い運動負荷を与える必要があり、また、運動中に測定が必要になることもある。特に、中高齢者にとっては安全性重視の視点から強い運動負荷をかけずに測定でき、かつ運動実践時に煩雑さの無い方法が望まれる。

安全で簡便な全身持久性の指標としては主観的運動強度(rating of perceived exertion)、(以下「RPE」という。)が考えられる。RPEは生体にかかる運動負荷を運動者がどの程度の「きつさ」として感じているかを測定するものであり、全身持久性の測定・評価および有酸素運動時における効果的な強度設定に際して有用であると考える。

本研究では、ウォーキング時における中高齢者のRPEと生理的運動強度の指標である心拍数との相違と、体力、体組成や運動習慣等との関連性を分析し、中高齢者の運動指導のための基礎資料を得ることを目的とした。

 

内容及び方法

1 対象

平成19年4月から平成20年12月までの40歳以上の「健康・体力つくり支援コース」参加者のうち研究の目的及び測定内容を説明し、研究協力の同意を得た方。

2 測定項目と測定方法

(1)問診表(身体各部症状、罹患暦、通院・入院・手術暦)

(2)運動・生活習慣等に関するアンケート

(3)形態、体組成の計測

(4)脈拍の測定

(5)フィットネステスト測定

ア 柔軟性:長座体前屈
イ 筋力・筋持久力:30秒上体起こし
ウ 瞬発力:脚伸展パワー
エ 平衡性・脚力:開閉眼片足立ち

(6)RPEの尺度表

本研究では、5から19で表現された15段階RPE尺度表を使用した。

(7)RPEの測定方法

カルボーネン法における運動強度が25%、35%、45%、55%、65%、75%、85%の心拍数時に、被験者の前方に掲示した15段階RPE尺度表から感じるRPEを数字で答えさせ記録した。

 

結果

1 属性

健康・体力つくり支援コースの年代別と性別の属性は表のとおりであった。

表 年代別・性別の属性(単位:人)

年代 男性 女性 総計
40歳代 7 19 26
50歳代 10 44 54
60歳代 44 67 111
70歳以上 29 29 58
総計 90 159 249

2 RPEの運動強度別出現率について

全測定値におけるRPEの運動強度別出現率はRPE13"ややきつい"が最も高かった。続いて、RPE11"やや楽である"とRPE9"楽である"であり、出現率上位3つの運動強度は言葉と数字で表されたものであった。

3 RPEと心拍数について

測定されたすべてのRPEと心拍数との間には0.649の相関係数(かなり相関関係がある)が認められた。また、被験者個々のRPEと心拍数の相関係数は被験者の約7割が0.90以上(強い相関関係がある)であった。

4 RPEと各項目の関係について

分析に当たっては、測定値を有する項目はパーセンタイル順位により低群と高群とし、その他の項目については状況により2群に分類したうえで、カルボーネン法による運動強度と測定値を要因とした二元配置の分散分析を行った。

また、運動強度ごとの2群間の比較にはT検定を行った。

(1)RPEと性差について

RPRと性差の関係を全年齢で比較したところ、男女とも運動強度の主効果が有意であった。また、女性のRPEに低い傾向が見られた。

(2)RPEと形態・体組成について

RPEとBMI、体脂肪率、腹囲、ウエストヒップ比の関係を各項目で低群と高群に分け、全年齢、男女別で比較したところ、すべての項目に関して運動強度の主効果は有意であったが、各項目の低群と高群による主効果は有意でなかった。

(3)RPEとフィットネステストについて

RPEとフィットネステストの関係を各項目で低群と高群に分け、男女年代別で比較したところ、すべての項目に関して運動強度の主効果は有意であった。また、各項目の低群・高群による主効果については、長座体前屈(男性60歳代・70歳以上、女性40歳代・50歳代)、上体起こし(男性60歳代・70歳以上、女性40歳代・50歳代、60歳代・70歳以上)、脚伸展パワー(女性40歳代・50歳代)開眼片足立ち(男性)において有意であり、高群のRPEが有意に低かった。

(4)RPEと粘り強さ、我慢強さ、競争心等について

粘り強さや我慢強さ、競争心等の項目を得点化し低群と高群に分け、RPEとの関係を全年齢、男女別で比較したところ、運動強度の主効果は有意であったが、低群と高群による主効果は有意でなかった。

(5)RPEと生活状況について

生活状況を得点化し低群と高群に分け、RPEとの関係を全年齢、男女別で比較したところ、運動強度の主効果は有意であった。また、低群と高群による主効果は全年齢、男女とも有意であり、高群のRPEが有意に低かった。

(6)RPEと運動習慣・運動暦・運動内容について

RPEと運動習慣、運動暦、ウォーキング実施状況、運動頻度・時間(週3回1回30分)の関係を各項目で状況により2群に分け、全年齢、男女別で比較したところ、すべての項目に関して運動強度の主効果は有意であった。

運動習慣あり群となし群では、T検定においては運動強度ごとの有意差は見られなかったが、運動習慣の有無による主効果は全年齢、男女とも有意であり、運動習慣あり群のRPEが有意に低かった。また、運動暦の有無による主効果は男性では有意でなかったが、全年齢と女性で有意であり、運動暦あり群が有意に低かった。

運動頻度・時間との主効果は全年齢、男女別とも有意ではなかったが、ウォーキング実施状況の主効果は全年齢、男性で有意であり、ウォーキング実施者のRPEが有意に低かった。

(7)RPEと身体状況・疾病状況について

RPEと身体状況と疾病状況の関係を各項目で状況により2群に分け、全年齢、男女別で比較したところ、すべての項目に関して運動強度の主効果は有意であった。

また、身体状況による主効果は全年齢、男女別とも有意でなかったが、疾病状況による主効果は女性のみ有意であり、疾病あり群のRPEが有意に低かった。

5 再被験者におけるRPEの傾向

再被験者のRPEと心拍数の相関については、男性1名、女性5名という少人数ではあるが、1回目(相関係数の平均0.883)、2回目(相関係数の平均0.934)共に相関が高く、RPE尺度表の再現性が高いことが認められた。

また、個人内におけるRPEと心拍数の回帰直線は2回目のRPEが低く推移している被験者が4名いた。

6 再被験者以外の回帰直線の比較

再被験者以外の個人内におけるRPEと心拍数の回帰直線の勾配(傾き)を全年齢、男女別、男女年代別で比較したところ、勾配の平均値は全年齢、男女別ともに等しかったが、ばらつきを示す標準偏差は女性が高かった。また、男女とも40歳代のばらつきがもっとも小さく、70歳以上のばらつきがもっとも大きかった。

 

まとめ

RPEの運動強度別出現率では、男女すべての年代でRPE13"ややきつい"前後の出現率が高かった。このことから"ややきつい"という感覚を頼りに運動強度を自ら調整していけば、安全で効果的な運動が実践できると考える。また、RPEと心拍数の相関についても高い相関関係が認められ、RPEは心拍数と並ぶ有用な指標であると同時に、運動中の"きつさ"を運動強度として設定できるという観点から、中高齢者にとって安全で簡便な指標であるといえる。

RPEと各項目の関係については、すべての項目で運動強度の主効果が有意であり、運動強度がRPEの判断に影響を与える因子であることが明らかになった。また、長座体前屈、上体起こし、開眼片足立ちの高群のRPEが有意に低かったことから、ウォーキング時において柔軟性、筋持久力、脚力がRPEの判断に影響を与える運動要素であることが示唆された。これらの体力要素は健康関連体力に含まれるものであり、柔軟性や脚力を向上させるためのストレッチや筋力トレーニングを有酸素運動と合わせて行うことで、ウォーキングを中心とした有酸素運動での"きつさ"の軽減となり、運動の継続につながると考える。また、男女の歩行形態の違いによるRPEの判断への影響も示唆され、「大股歩行」などRPEを軽減できるウォーキング実践が可能であると考える。

生活状況についてもRPEの判断への影響が認められたことから、中高齢者がウォーキング等の有酸素運動を継続するには、日頃の食事、睡眠、ストレスなど生活習慣等を考慮しながら無理をせずに運動をする必要があると考える。さらに、高齢者については最大心拍数等の個人差が大きいと考えられるので、運動強度を設定する際には、安全に配慮した強度設定を心がける必要があろう。

 

次年度に向けて

15段階RPE尺度表は、言葉と数字に示された奇数の運動強度が相対的に多く出現する傾向があるので、次年度については絵と言葉と数字で示された10段階尺度表を用いて、15段階尺度表と比較しながらRPEと心拍数の関係を明らかにすることを研究課題としたい。

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神奈川県総合型地域スポーツクラブの実態調査
ー神奈川県総合型地域スポーツクラブの発展のためにー
(2年継続研究の1年次)

生涯スポーツ推進室 亀谷学 塩浦健吾 中野久美子 末包博

 

はじめに

平成12年に告示された「スポーツ振興基本計画」(平成18年改訂)では、生涯スポーツ社会の実現のための重点施策として、全国の各市区町村において少なくとも一つは総合型地域スポーツクラブ(以下「総合型クラブ」という)を育成することを到達目標としている。

本県においては、平成21年3月1日現在、13市町、39の総合型クラブが創設されている。未育成市区町村における総合型クラブの育成が求められてはいるが、創設済み総合型クラブや今後創設される総合型クラブが、地域に根づいて継続的に運営し続けるための支援も課題となっている。

そこで、本研究を行うことにより、今後の総合型クラブに係る施策展開のための基礎資料を得るとともに、県内の総合型クラブの普及・定着のさらなる推進のために、本テーマを設定した。

 

内容及び方法

平成16から20年度文部科学省「総合型地域スポーツクラブ活動状況調査」の結果をもとに、平成16~20年度の全国と本県の総合型クラブの活動状況の比較、及び県内9クラブの活動状況と県及び関係市町村等による行政支援との関連性を分析、考察をした。

調査対象は、平成16・17年度(財)日本体育協会育成指定を受けた県内7クラブ「金沢スポーツクラブ」、「さかえスポーツくらぶ」、「NPO法人高津総合型スポーツクラブSELF」、「金程中学校区(わ・わ・わ・クラブ)」、「善行・大越スポーツクラブ」、「寒川総合スポーツクラブ」、「NPO法人スポーツクラブ1994」、及び平成16年度以前より活動していた県内2クラブ「NPO法人かながわクラブ」、「NPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブ」の合計9クラブとした。

 

結果と考察

1 平成16から20年度全国と本県の総合型クラブの活動状況の比較

(1)会員数及び活動種目数等について

会員数については、全国、本県ともに増加している。会員の年代別人数は、全国では5年間を通して「19から59歳」が最も多く、次いで「小学生以下」が多い。

本県では、「小学生以下」の会員が最も多く、「中高生」の会員を加えると全体の半数以上を占める。

全国では各年代ともほぼ均等に増加しているが、本県では「19から59歳」と「60歳以上」が大幅に増加しており、その伸び率は顕著である。

活動種目数等については、全国では5年間を通して「10種目以上」が最も多く、次いで「6から9種目」が多い。

本県では、平成16~18年度までは「6から9種目」が最も多かったが、平成19年度以降は「3から5種目」が最も多く、次いで「6から9種目」が多い。

これらのことから本県の総合型クラブは、小中高生の会員を対象に創設され、単一種目が主体であったが、この5年間で「多種目、多世代型クラブ」に発展していることがわかった。

(2)広報活動について

全国では5年間を通して「広報誌の発行」が最も多く、ついで「パンフレット等の作成」が多い。本県では、平成16年度は「広報誌の発行」「ホームページの開設」が多かったが、平成18年度からは「パンフレット等の作成」が最も多くなった。これは平成18年度から体育センターが「神奈川県総合型クラブ連絡協議会」を組織し、協議会を開催する中で効果的な広報について、情報交換を行ったことや、体育センターにおいて実施したネットワーク事業でホームページの充実の仕方や、効果的な広報活動についての研修会を開催したことが要因であると推測される。

(3)活動拠点施設の使用形態について

全国では平成16年度には施設を所有するクラブや施設管理委託を受託しているクラブが合わせて8.5%あり、若干ではあるが年を追うごとに増加している。

本県では、平成16から18年度は全クラブが借用施設で活動しており、平成19年度に施設管理を受託するクラブが1クラブ、平成20年度に施設を所有するクラブが1クラブ出てきたが、借用施設を使用するクラブは未だ94.4%という状態である。また、全国と本県のクラブの課題を比較すると、「活動拠点施設の確保(維持)」が、全国に比べ本県が高いことから、本県のクラブが活動場所を確保するのに苦慮していることがわかった。

(4)スポーツ指導者数及びクラブマネジャー配置について

スポーツ指導者数については、全国では平成16から18年度までは平均1クラブ30名前後であったものが、平成19・20年度は23人と減少している。

本県では、平成16から19年度までは1クラブ15名前後であったものが、平成20年度には21名に増加している。これは、平成18年度に創設された総合型クラブの会員数が平成19年度に飛躍的に伸びた(約3倍)ことを反映していると思われる。

クラブマネジャー配置について、全国では平成20年度現在61.4%の配置であり、本県では70.3%である。全国に比べ、本県の配置している割合は10ポイントほど高い数値を示している。本県では平成14・15年度に、文部科学省の「広域スポーツセンター育成モデル事業」を受託し、当初から「クラブマネジャー養成講習会(平成19年度より地域スポーツクラブコーディネートに関する研修会に変更)」を開催し、クラブ指導者の育成・養成、クラブマネジャーの養成や必要性等の研修を行ってきたことによると推測される。各クラブが質の高い指導者を確保し、クラブマネジャーを配置しようと努力し、それにより安定したクラブ運営を目指していることが推測される。

2 平成16から20年度県内9クラブの活動状況からみた行政支援の関連性

(1)県内9クラブの活動状況の推移

「法人格取得」は、5年間を通して2クラブから4クラブに増え、クラブが地域住民に向けてクラブ運営等の信頼性を高めるとともに、行政との連携の強化を図かろうとしている。また「クラブハウスあり」は、5年間で1クラブから5クラブになった。これは、市町村が総合型クラブの活動に理解を示し有閑施設を提供していることによる。しかし、全てのクラブがクラブハウスを有するにはさらに市町村等にその必要性を理解してもらわなくてはならない。

(2)県内9クラブの活動状況を調査した中で、次の3クラブの活動状況が行政支援により、大きく変容していることがわかった。

ア 金程中学校区「わ・わ・わ・クラブ」

平成19年度に会員数が急激に減少し、平成20年度には増加していることがわかった。聞き取り調査により、減少原因は、日本体育協会の支援を受け創設はしたが、クラブの運営に係わるリーダーが不在だったため活動が少なくなったことであった。増加原因については、川崎市からの地域巡回指導・相談事業等、市の事業受託、他スポーツ団体との事業の連携推進、体育センターからの総合型クラブ普及定着化事業「地域巡回指導・相談事業」、総合型クラブ連絡協議会などによるものと思われる。また、クラブ運営に係わる人材の確保や地域でのクラブの認知度が向上したこと、クラブ間のネットワーク化が進み、他クラブの運営に関するノウハウ等を吸収したことにより、安定したクラブ運営に向けた取り組みが行なえるようになったことも要因であると推測される。

イ NPO法人高津総合型スポーツクラブSELF

平成18~20年度で会員数、指導者数が飛躍的に増加していることがわかった。聞き取り調査により、川崎市の支援・助言によるNPO法人取得、市の体育館の管理受託(平成18年度)により、クラブスタッフの経済的な安定が得られたこと、体育センターの支援による総合型クラブ普及定着化事業「地域巡回指導・相談事業」、総合型クラブ連絡協議会によりクラブ間のネットワーク化が進み、安定したクラブ運営に向けた取り組みが行なえるようになったことが要因であると推測される。

ウ 善行・大越スポーツクラブ

平成18から19年度で会員数が飛躍的に増加していることがわかった。聞き取り調査により、藤沢市の支援・協力によるクラブハウス獲得、社会体育振興協議会からの運営協力、地域自治会との連携推進等が要因であった。さらに、体育センター事業でのPR、総合型クラブ普及定着化事業「地域巡回指導・相談事業」、総合型クラブ連絡協議会による、地域におけるクラブ認知度の向上も効果的に機能したと推測される。

 

まとめ

本研究により総合型クラブの今後の広報活動のあり方、活動拠点に関する課題など、様々な問題点が明らかになった。

また、県内9クラブの活動状況から、県や市町村行政等による財政面での支援はもとより、広報活動の支援やクラブ間の事業連携なども効果的であることがわかった。

体育センターでは、総合型クラブネットワーク事業として、総合型クラブ広報誌の作成やホームページの充実に努めているが、県民へ総合型クラブの認知度を高め、理解を深めていくためにも、広報活動の創意工夫や充実は必要不可欠である。

また、平成20年度よりクラブアドバイザーを設置し「地域巡回指導・相談」を行っているが、今回の調査で明らかになった課題や問題点等を含め、各クラブの活動状況の把握や情報収集をより綿密に行い、一層各クラブのニーズに応えられるよう今後も支援を進めていきたい。

 

今後の方向性

平成18年9月に改定された「スポーツ振興基本計画」では、体育センターがその機能を有する広域スポーツセンターは、総合型クラブの創設や運営、活動とともに、スポーツ活動全般について効果的に支援するということが課題として掲げられている。その施策遂行のためにも、広い視野での総合型クラブや県民の生涯スポーツ振興への支援方策を構築していきたい。

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スポーツ指導者の質と水準に関する観点別評価基準の開発

スポーツ情報室 磯貝靖子 水野昌享 黒岩俊彦 田所克哉
横浜国立大学 海老原修

 

はじめに

多様化する県民のスポーツニーズに対応するため、高度な専門的知識と実践的指導力を兼ね備えたスポーツ指導者の育成は不可欠である。

しかし現状では、スポーツ指導者が身に付けておきたい基礎・基本の知識・技能等について、統一した指標が示されていない。そのため、スポーツ指導者が有する知識や指導技術等を自ら振り返り、何をどのレベルで身に付けているのか、また不足しているのかを具体的に判断することが難しい状況にある。

そこで、スポーツ指導者が身に付けておくことが望ましいと思われる基礎・基本の知識・技能等を体系化すると共に、その水準を自己評価することができる観点別評価基準を開発し、スポーツ指導者の資質の向上を支援することが必要であると考え、本テーマを設定した。

 

内容及び方法

1 研究内容

スポーツ指導者として身につけておくことが望ましいと思われる基礎・基本の知識・技能等の項目(観点別評価基準)について体系化するとともに、その水準を自己評価することができる観点別評価基準を開発する。

2 研究方法

(1)観点別評価基準の開発

ア 文献研究及び先行事例等資料収集
イ 意見交換会の実施
ウ スポーツ指導者の観点別評価基準の作成

(2)作成した評価基準(質問紙法)による調査

ア 調査期間

平成20年10月下旬から平成20年12月上旬

イ 調査の方法

質問紙法によるアンケート調査

ウ 調査対象者

県スポーツ指導者連絡協議会及び県スポーツリーダーバンク登録指導者 1544人

エ 標本回収率

有効回収標本数 640サンプル
有効回収率 41.4%

 

スポーツ指導者の観点別評価基準の開発

1 文献研究及び先行事例等資料収集

(1)スポーツ指導者資格について

資格の種類が多く複雑であり、資格により身に付けている知識・技能も多種多様である。

(2)神奈川県の現状について

スポーツ指導者の活用促進は大きな課題である。また主体的に指導力を向上させる取組として、指導者の指導力に対する統一した基準が必要である。

(3)「指導者の評価」の先行事例について

自己評価として「カリフォルニア州の教育スタンダード」、内部評価として「横浜スタンダード」、外部評価として「満足度調査」がある。

2 意見交換会における主な意見

(1)人づくりを意識した言葉かけが必要

(2)活動する地域における文化への協力・理解が必要

(3)指導種目などに応じた項目の工夫が必要

3 スポーツ指導者の観点別評価基準の作成

スポーツ指導者が身につけておくことが望ましいと思われる基礎・基本の知識・技能について8つの大項目に対して、50の小項目による「スポーツ指導者の質と水準に関する観点別評価基準」を開発した。

(1)基本的素養 ―6項目―

可能性への期待、期待される人間性、応答的な人間関係、協力的な人間関係、実践的指導力の向上、地域の役割・理解

(2)知識・理解 ―9項目―

基礎的な知識・技能、系統的な指導計画の作成、知識・用具の理解と分析、指導計画作成・指導方法、評価の理解、ICT使用、基礎条件・発達、要支援者への理解、スポーツマンシップの指導

(3)指導1目標・計画 ―6項目―

指導目標の設定、指導計画・日案の作成、指導計画・日案の修正、知識・用具の準備・開発、指導計画の作成、体験指導の計画

(4)指導2実施 ―6項目―

指導の実習、個別指導、グループ指導、指導時間の有効活用、練習方法や用具の選択、発展的・補充的な課題

(5)指導3評価 ―4項目―

評価方法とその活用、即時的な評価・フィードバック、目標に基づいた評価、活動状況の適切な把握・記録

(6)指導4観察・分析 ―9項目―

話し方・聞き方・指名の仕方、プリント等の活用・記録ノート指導、技能・用具の活用・利用、指導者と参加者の関わり、個への支援、指導評価、マナー・約束、活動記録、活動分析

(7)指導現場の経営・運営 ―6項目―

参加者との良好な信頼関係、指導環境の整備、公正な指導環境風土の構築、規律の確立・維持、いじめ・不登校等への対応、要支援者への対応

(8)組織理解と運営への協力 ―4項目―

組織・運営の理解・協力、組織における役割分担の理解、安全性・事故防止への理解、事故対応等への理解

 

開発した観点別評価基準による調査への考察

1 単純集計から推測できること

(1)スポーツ指導者が考える自身の知識・技能等の能力

スポーツ指導者は、現在身についていると考えている自身の知識・技能等の能力が、不十分とは感じていないまでも、十分であるとも考えていないことがわかった。

(2)スポーツ指導者が重要視する内容

多くのスポーツ指導者は、「社会がスポーツに望む役割」を重要視して指導を行っていることがわかった。

(3)無回答が多かった項目で使用した言葉

「不登校」「要支援者」「即時的」「フィードバック」「規律」「ICT」といった言葉を使用した項目において、無回答が多かった。

(4)単純集計から推測できること

スポーツ指導者にとってあまり馴染んでいない言葉を使用した項目は、無回答が多くなったと考えられる。

2 自己評価と各項目の必要性の有無によるクロス集計から推測できること

設定した50項目に対する自己評価と50項目の必要性の有無をクロス集計し、カイ二乗検定を行った。

(1)50項目のうち38項目について、「必要あり」と回答した群と「必要なし」と回答した群には、今回設定した項目についての自己評価に、明らかな差がみられた。

(2)自己評価で必要なしと回答した割合が多い「ICT使用への理解」「要支援者対応の必要性」「体験指導の計画」といった項目において、必要なしと回答した群ほど、内容の理解が不十分であった。

(3)クロス集計から推測できること

必要なしと回答したスポーツ指導者は、項目の内容を知らない、又は、十分に身につけていないことが推測される。したがって、スポーツ指導者が必要なしと回答したことを理由に不要な項目と判断することはできないと考える。今後、項目を精選するためには、参加者側の意見を反映させた項目の検討が必要と思われる。

3 指導対象者別クロス集計から推測できること

指導対象の異なる群を比較することは、参加者の意見を推測するひとつの手段であると考えられることから、指導する対象者を「子どものみ」「大人のみ」「子どもと大人の両方」の3つの群にわけて、50項目に対する自己評価をクロス集計し、カイ二乗検定を行った。

(1)50項目のうち34項目について、「子どものみ」を指導対象とするスポーツ指導者と、「大人のみ」を指導対象とするスポーツ指導者と、「子どもと大人の両方」を指導対象とするスポーツ指導者の間には、明らかな差がみられた。

(2)クロス集計から推測できること

指導対象者が異なると、スポーツ指導者自身が身につけておくことが望ましいと考える内容も異なるが、スポーツ指導者が必要であると考える内容以外にも、スポーツ指導者が身につけておくべき内容は存在することが推測される。また、参加者がスポーツ指導者に身につけておいてほしいと望む内容とも、異なることが推測される。

 

観点別評価基準に関する今後の方向性

開発した観点別評価基準による自己評価と、各項目の必要性の有無について調査を行い、今後の改善及び活用方法の方向性・課題が明らかになった。

1 観点別評価基準の必要性について

スポーツ指導者が自らの指導をこの評価基準により振り返り、すでに身についている知識・技能についての再確認や、新たな知識・技能を身につける研鑽のきっかけづくりとして活用することが望まれる。また、県立体育センターとしても、スポーツ指導者研修等のあり方や支援の方向性を検討する必要がある。

2 項目の精選について

開発した評価基準における判断基準は、指導を振り返る基準として有効であると思われる。

50項目の内容は、指導を振り返る項目として必要であると考えるが、スポーツ指導者に理解されやすい表現の工夫が必要である。

「社会がスポーツに望む役割を果たすために、スポーツ指導者が身につけて欲しい資質」を反映させた項目づくりや、スポーツ指導者からスポーツ指導を受ける参加者が、スポーツ指導者に身に付けておいてほしいと望む知識・技能とは何か、そういった意見を反映させた項目の精選が必要であると考える。以上のことを踏まえ、今後の活用とさらなる改善について検討をすすめていきたい。

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体をスムーズに動かすことを目指した低学年の体育学習
ー多くの基本的動作を取り入れた運動遊びを通してー

愛川町立中津小学校 阿部幸弘

 

はじめに

現在、子どもたちの体力・運動能力の低下傾向が長年にわたって続き、子どもたちの動きのぎこちなさや、ある種目においては力を発揮するが、他の種目になると力が発揮できないといった運動能力の偏りについても指摘されている。これは、幼児期や小学校低学年の時期に遊びの中で自然と身に付いていた「とぶ・わたる・まわる」などといった数多くの基本的動作が、時間・空間・仲間の欠如などによる遊びの減少によって、十分に身に付けられなくなったことに原因があると推測される。

これらのことから、本来は遊びの中で子どもたちが自然と身に付けてきたものを、学校等において意図的に身に付けさせていくことが必要であり、低学年の体育学習においては、運動遊びを中心に、多くの動きを経験させ、神経系を発達させていくことが重要であると考える。

そこで、多くの動きを経験させ、神経系を発達させることができるような授業を提案したいと考え、次のような仮説を立て、本研究に取り組んだ。

 

研究の仮説

多くの基本的動作を取り入れた運動遊びを行わせることによって、多様な動きをひき出すことができ、子どもたちは体をスムーズに動かすことができるようになるであろう。

 

検証授業の実際

1 期間

平成20年9月30日(火曜日)から10月23日(木曜日)8時間扱い

2 場所

愛川町立中津小学校

3 対象

第2学年1組(33名)

4 単元名

基本の運動「忍者にへんしん!」

5 ねらい

運動への関心・
意欲・態度

いろいろな運動遊びに楽しく取り組もうとす

る。また、順番やきまりを守って仲よく遊ん

だり、遊ぶ場所や器械・器具の安全に気を付

けながら遊んだりしようとする。

運動についての
思考・判断

いろいろな運動遊びの行い方を知るとともに、

運動遊びをより楽しくするための動きづくり

や場づくりを工夫している。

運動の技能

いろいろな運動遊びを行うための基本的動作

ができる。

6 学習の道すじ

ねらい1: 多くの基本的動作を取り入れた運動遊びを行い、基本的動作を身に付ける。
ねらい2: 児童主体のグループ活動を行い自分たちで運動遊びをより楽しく工夫する。
ねらい3: 身に付けた基本的動作や経験した多くの動きをいかす。

7 単元計画

8 多くの基本的動作について

小学校低学年の時期には、「多くの動作の習得」に取り組んでいく必要がある。体育科学センターは、動作に関わる動詞の分析と幼稚園、保育所で見られる子どもの動作をもとに84の動作を基本的動作としてまとめている。表1は、これをさらに類似した動作ごとに分類し整理したものである。今回の授業では、この中から「器械・器具を使った運動遊び」に適当であると考えられる13種類の基本的動作を単元前半にすべての児童が経験できるようにした。

表1 身に付けるべき基本的動作

 

結果と考察

1 多様な動きをひき出すことができたか

単元後半(6・7時間目)に、教師の設定した場において活動を行った後、グループで話し合い、自分たちで場を変化させたり、動きを変化させたりしながらオリジナルの修行場をつくるグループ活動(運動遊び)を行った。表2は、教師設定の場において出現した基本的動作と動き、さらに児童主体のグループ活動で新たに出現した動きについてまとめたものである。

表2 教師が設定した場において発現した動きと児童主体のグループ活動時に新たに発現した動き(6時間目)

教師設定の場においていろいろな動きが発現し、児童主体によるグループ活動においては、さらに新たな動きの発現が見られた。この結果から、多様な動きをひき出すことができたと考えられる。

2 体をスムーズに動かすことができるようになったか

(1)円滑さの分析

図1図2に示したように、平均台をわたるのに要した歩数の平均は9.3歩から7.9歩へ減少し、67%の児童が歩数を減少させた。これは、1時間目には平均台という不安定な場をわたる(あるく)ために歩幅を狭くしてバランスをとっていた児童が、8時間目には平均台の上においても日常的な「あるく」動作に近い歩幅でバランスが取れるように動作が円滑になったからであると考えられる。


図1 平均台をわたる歩数


図2 平均台をわたる歩数の変化人数

(2)すばやさ(効率的)の分析

図3図4に示したように、平均台をわたる時間を減少させた児童の割合は81%、跳び箱をのり越える時間を減少させた児童の割合は55%であった。これは、1時間目よりも余分な動きが減少し、ずばやく(効率的に)体を動かせるようになったからであると考えられる。


図3 平均台をわたる時間の変化人数


図4 跳び箱をのり越える時間の変化人数

(3)自己評価の分析

図5に示したように、1時間目から7時間目において85%以上の児童が動きのめあての達成に関して「とてもできた」「少しできた」と自己評価している。また、図6に示したように、単元終了時のアンケート項目「最後の忍者テストでは、最初よりも上手に動けたと思いますか」に対して、97%の児童が「とても思う」「少し思う」と回答している。これらの結果から、児童が自分の動きが良くなったと感じていることがわかる。


図5 動きのめあてに関する自己評価


図6 「最初よりも上手に動けたと思いますか」

 

まとめ

1 研究の成果

多くの基本的動作を取り入れた運動遊びを行うことが、多様な動きをひき出すことや体をスムーズに動かすことができるようになることに効果的であるということが明らかになった。

2 今後の課題

  • 基本的動作を取り入れた運動遊びの充実
  • 基本的動作を取り入れた年間カリキュラムの作成

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グループの力を生かし、意欲的に取り組む長距離走の授業
ー自分に合った効率の良い走りと心理的サポートに着目した学習を通してー

茅ヶ崎市立梅田中学校 新居博志

 

はじめに

現行の学習指導要領では、心と体を一体としてとらえることを重視し、「積極的に運動に親しむ資質や能力の育成」、「健康の保持増進のための実践力の育成」及び「体力の向上」の3つの具体的な目標が相互に関連しているという重要なねらいを明確に示している。

しかし、現在の子どもたちは、体力・運動能力が長期にわたり低下傾向にあり、運動をする子としない子の二極化傾向が問題とされている。また、近年の核家族化、少子化の中で物質的には、比較的恵まれている子どもたちではあるが、精神的に弱く、ストレスを抱えていることも少なくない。

そこで本研究では、個人種目の長距離走を仲間と協力し合いながらグループで学習を進めることで、個人では苦しくて、きつく感じられていたことにも、より意欲的に取り組むのではないかと考えた。そして、技能面での教え合い活動により、自分に合った効率の良い走りを身に付け、心理面での支え合い活動により、お互いが「やってやろう」と思う気持ちをもつことができると考えた。そして、これらの学習を通して、長距離走の特性を味わい、内発的動機付けを高めることにより、意欲的に長距離走に取り組むことができるのではないかと考えた。

 

研究の仮説

グループ活動を通して、自分に合った効率の良い走りと相手の状況に合ったサポートを行うことにより、意欲的に長距離走の学習に取り組むことができる。

 

検証授業の実際

1 期間

平成20年9月22日(月曜日)から10月10日(金曜日)8時間扱い

2 場所

茅ヶ崎市立梅田中学校

3 対象

第2学年A、B、C、D組(134名)

4 単元名

陸上競技「長距離走」

5 ねらい

運動への関心・
意欲・態度

長距離走の特性に関心をもち、楽しさや喜びを味わえるように進んで取り組もうとする。また、互いに協力して練習や競技をしようとし、勝敗に対して公正な態度をとろうとすると共に、練習場の安全や体の調子など、健康・安全に留意して練習や競技をしようとする。

運動についての
思考・判断

自分の能力に適した課題をもち、その解決を目指して、練習の仕方や競技の仕方を工夫できるようにする。また、記録の向上に合わせて効率の良い走りや言葉かけができるようにする。

運動の技能

長距離走の特性に応じた技能を身に付けると共に、その技能を高め、競技したり記録を高めたりすることができるようにする。

運動についての
知識・理解

長距離走の特性や学び方、技術の構造、合理的な練習の仕方などを理解すると共に、競技の方法を理解し、知識を身に付けることができるようにする。

6 学習の道すじ

ねらい1: 長距離走への関心を高め、自分に合った効率の良い走りを見付ける。
ねらい2: 自分に合った効率の良い走りを身に付け、仲間に対してのサポート方法を探る。
ねらい3: 身に付けた力を仲間と共に発揮し、記録へ挑戦する。

7 単元計画

8 長距離走の特性を味わわせるための工夫

(1)技能面(自分に合った効率の良い走り)の手立て

自分に合った効率の良い走りを見付けるために、効率の良い走りについての知識や自分の体の状態を知る学習をした。また、今まで意識することがなかった腕振りやストライドについて、今までとは違う感覚を仲間と感じ合い、実際に気付いた内容を活用(ペース走)しながら、技能ポイントを自分の言葉で整理したり、ペア同士で見合い、アドバイスしたりすることで自分に合った効率の良い走りを身に付けるようにした。

(2)心理面(相手の状況に合わせたサポート)の手立て

相手の状況に合わせたサポートができるようにするために、自分がかけられて嬉しい言葉や勇気付く言葉の種類を選べるようにした。また、ランナーは、自分の走りの姿やかけてほしい言葉をシートに記入することで、支援者はいつ、どのように声かけをすればよいのかを明らかにした。さらに、ランナーの走行中の心や体の状態がわかるようにハンドシグナルでサインを交わせるようにした。

 

結果と考察

1 自分に合った効率の良い走りを身に付けることができたか。

図1図2に示したように、効率の良い走りの理解において「腕振りの役割やピッチとストライドの特徴に気付いた」と授業後に回答した生徒がともに98%であった。また、その中で自分に合ったものに気付いたと回答した生徒は「腕振り」が81%、「ピッチとストライド」が90%であった。これは、今まで意識することがなかった腕振りやストライドについて、これまでとは違う感覚を仲間と見合ったり、アドバイスし合ったりする中で、得られた気付きであったことが生徒の振り返りから推測される。


図1 腕振りの役割への気付き


図2 ピッチとストライドへの気付き

図3に示したように、自分に合った効率の良い走りを見付けることができたと回答した生徒は79%であった。また、最初の記録と比べてねらい3での記録が伸びた生徒は96%であった。これは、技能ポイントを絞りこみ、PDCAサイクルを繰り返す学習を通すことで、多くの生徒が自分に合った効率の良い走りを身に付けることができたと考える。


図3 自分に合った効率の良い走りを見付けることができたか

2 相手の状況に合わせたサポートを行うことができたか。

図4に示したように、感情サインを仲間と交換することで、ランナーのその時の状況(気持ち)がわかったと回答をした生徒は85%であった。その理由で一番多かったのは、「どのようなアドバイスをすればよいのか役に立った」といった内容の記述であった。このことからも今回行った感情をグラフ化したことは、自己や仲間の心や体の状態に気付くのに有効であったといえる。


図4 感情サインを仲間と交換してみて

図5に示したように、最後まで頑張り通すことができたと回答した生徒は89%であった。また、最後まで頑張り通すことができなかったと答えた生徒は、最終的に1人もいなかった。「つらい」「苦しい」といった印象をもつ生徒が多い中、最後まで頑張り通すことができたのは、互いにサポートし合うことで意欲的になれたと生徒の多くが感想を表していた。

また、心理的なサポートをすることでポジティブになれたといった内容の記述をした生徒は89%いたことがわかった。このことからもサポートは、心の安定や共感性といった点で、とても大きな効果が得られたことがわかる。


図5 最後まで頑張り通せていたか

また、サポートをすると仲間がそれに応えてくれたり、記録が速くなったりする姿を見て、共に喜ぶことができる。そういったことからもサポートは「する側」にとっても「よし、自分も頑張ろう」という思いをもつことができたと推測される。このような結果からサポートは「する側」にとっても意欲を増すということがわかる。 以上のことから、グループ活動を通して、自分に合った効率の良い走りと相手の状況に合ったサポートを行うことにより、意欲的に長距離走の学習に取り組むことができるようになったと考える。

 

まとめ

1 研究の成果

長距離走の特性を味わわせるために、技能的側面と心理的側面の両面から働きかける今回の研究は有効であったと考えられる。

技能的側面では、ペース配分を含めた、「自分に合った効率の良い走り」を見付けていく学習を行った。効率の良い走りは「エネルギー消費が少なく、速く走れること」であり、長い時間、運動を継続する長距離走にとっては重要なポイントである。

また、グループ学習の「教え合い」の中で、一人で走っていたのではわからないことを客観的にアドバイスし合うことによって、気付いたり思考したりして理解力が高まったと考えられる。さらに、「教え合い」「支え合い」は、アドバイスをされる側だけではなく、する側にとっても、技能面の高まりや心理面の高揚に大きな効果があることが多くの生徒の感想からも得られた。今回の検証授業を通して、学習意欲を高める方策として、技能を習得させるために、多くの気付きの中から思考させ、知識を身に付けることで、「わかる」から「できる」という学び方が重要であるということに改めて気付かされた。

2 今後の課題

  • 充実した指導計画の作成
  • 技能面(自分に合った効率の良い走り)と心理面(相手の状況に合わせたサポート)の高まりをさらに実感するための手立て

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リズム感のあるラリーを楽しむ卓球の授業
ーピッチ音やイメージ映像を活用した反復練習を通してー

神奈川県立有馬高等学校 北岡克明

 

はじめに

本校における卓球選択者の傾向は、体育の授業に対してあまり積極的な姿勢が見られない生徒が多く、技能レベルのばらつきも大きい。実際の授業では、ミスを恐れるあまり打球の軌道が山なりでリズムも安定しない様相が見られ、多くの生徒は卓球の特性であるスピード感のあるラリーやスリリングなせめぎ合いのあるゲームをするための基本技能が身に付いていないため、卓球の楽しさを十分に味わえていない状況にあった。そこで、今回の研究では卓球の特性を味わうための大前提である「ラリーを続ける楽しさ」に着目し、低い軌道でスピード感があり、一定のテンポで打球を打ち合う「卓球特有のリズム感のあるラリー」の実現を目指すこととした。

具体的には、映像による視覚からのアプローチと打球音による聴覚からのアプローチによって、目標とする「リズム感のあるラリー」のイメージをはじめにインプットする。さらに、イメージされたリズムをピッチ音に置き換えて反復練習をすることで、生徒は卓球独特のリズム感でラリーを続けようとし、自ずと基本的な技能が獲得されるのではないかと考えた。これらの取組によって、個人技能が徐々に高まって種目の特性を味わうことができるようになり、スポーツの楽しさの体験を実現することが、継続的にスポーツを実践する意欲の高まりにつながってくれることを期待したい。

 

研究の仮説

経験者の少ない卓球の授業において、ピッチ音やイメージ映像を活用した反復練習を行うことによって、リズム感のあるラリーを続けるための基本技能が向上するであろう。

 

検証授業の実際

1 期間

平成20年9月22日(月曜日)から11月21日(金曜日)13時間

2 場所

神奈川県立有馬高等学校

3 対象

第2学年2、3組(25名)

4 単元名

球技(卓球)

5 ねらい

運動への関心・
意欲・態度

卓球の特性であるリズム感に関心をもち、その技能を発揮できた時の楽しさや喜びを味わおうとする。

グループでの自分の役割を自覚し、その責任を果たして、進んで練習に取り組むような協力的な態度をとろうとする。また、練習場などの安全を確かめ、健康・安全に留意して練習に取り組もうとする。

思考・判断 自分の体力や運動技能に応じた課題を設定し、その課題を解決するために練習の方法を工夫することができる。また、自分と相手の技能にあったラリーを行うことができ、その中から新たな課題を見付けることができる。
運動の技能 自分の課題や能力に応じて、ラリーを続けるために必要な各種のストロークの基本技能を身に付け、さらに、リズムよく打球することができる。また、その技能を生かしたラリーができる。
知識・理解 卓球の特性に応じた、技術の構造、技能を高めるための効果的な練習方法、ルールなどについて言ったり書き出したりしている。

6 習の道すじ

ねらい1: 自分の技能レベルを把握し、ラリーを続けるための課題を見付ける。
ねらい2: ラケットを使ってボールを自在にコントロールする技能を高める。
多球練習の方法を覚える。
ねらい3: ストロークの基本動作を身に付ける。
ねらい4: リズム感のある打球感覚を身に付ける。
ねらい5: ラリーを続けるための対人技能を高める。
ねらい6: 獲得した技能を生かして、ラリーを楽しむ。

7 単元計画

8 指導の工夫

(1)「イメージ映像」について

「リズム感のあるラリー」を達成するため、練習前に理想的なラリーの映像を見てイメージを膨らませてから練習に取り組む手法をとった。そのことで、技能のポイントが理解しやすくなり、目標達成への課題も明確になったと思われる。

今回の授業の大きな特徴として、打球音だけを聞いて「卓球独特のスピーディーなリズム感」をイメージする聴覚からのアプローチでリズム感を高めていく試みを行った。音のイメージは実際に打球練習を行っている時にも脳裏に残り、体が自然にリズムを刻みながら動こうとする効果として現れたと考えられる。

 

(2)「ピッチ音」について

ピッチ音は、電子音のメトロノームを使用した。練習の目的に合ったピッチを設定し、音に合わせて打球練習を行った。今回の授業の目標である「リズム感のあるラリー」を実現するためには、打球の軌道を低くコントロールして打ち合うことができる技能を獲得する必要があった。技術的レベルの差が大きい集団が効果的に学習するために、打球のタイミングを規制して動作を反復しながら技能の定着を図る手法を取り入れ、ピッチ音に合わせて打球を繰り返すことによって、徐々に低い軌道の打球が多くなり、ラリーにリズム感が生まれる結果につながったと考えられる。

 

結果と考察

1 フォアハンドストロークの基本動作が身に付いたか

図1図2に示したように、生徒は多球練習によって常に技能のポイントや課題を意識して練習を行い、正確な動作を効率よく身に付けることができたと考えられる


図1 多球練習は基本動作の獲得に役立ったか(事後アンケート)


図2 フォアハンドの基本動作が身に付いたか(事後アンケート)

2ラリーが続くようになったか

単元の前半では山なりの打球が多く、リズム感のあるラリーはあまり見られなかったが、図3に示したように、ピッチ音に合わせて一定のリズムでラリーをしようとしたことで、低い軌道の打球が続けて打てるようになり、その結果、図4に示したように、ラリーの回数測定の記録は回を重ねるごとに飛躍的に向上した。


図3 ピッチ音はリズム感を高めることに役立ったか(事後アンケート)


図4 ラリーの平均回数の推移

3 ラリーを続ける楽しさを味わえたか

図5を見てもわかるように、ラリーの回数が増えるほど感想に「楽しさに関するコメント」が多く記述されていることから、生徒はラリーが続くことで楽しさを感じていたと考えられる。また、前述のように今回の授業ではリズムの安定がラリーの継続につながるような取組を行ってきたので、ここでのラリー回数の増加はリズム感が高まった結果であると考える。これらのことから、獲得した技能によってリズムよくラリーをできるようになったことが、図6に示した全ての生徒が「ラリーを続ける楽しさを味わえた」と回答した結果につながったと考えることができる。


図5 「ラリー回数」と「楽しさに関するコメント」の相関(学習ノート)


図6 ラリーを続ける楽しさを味わえたか(事後アンケート)

 

まとめ

1 研究の成果

(1)「技能の高まり」について

今回の授業は、反復練習を中心に行い、継続的にラリーの成果を確認するスキルチェックを実施した。まさに技術練習中心の授業であったと言える。今回のグループでは、ゲーム中心であったこれまでの授業で「技能が高まった」と感じられていた生徒は多くなかった。しかし、図7に示したように、今回の授業内容においては全ての生徒が「技能が高まった」と感じることができた。また、図8に示したように、技能が向上したことで「体育の授業が好き」と感じる生徒が増えたことも見て取れる。


図7 体育の授業で技能が高まったと感じるか(事前・事後比較)


図8 体育の授業が好きか(事前・事後比較)

(2)「継続的なスポーツ実践への意欲」について

今回の授業は、体育があまり得意でない生徒にとっても意欲的に参加できる内容であったと感じている。図9・図10に示したように、今回の授業を経験したことで、生徒たちが将来に向けたスポーツへの意欲をもつことができるようになったと考えられる。


図9 今回の授業を通じて継続的にスポーツをする意欲をもてたか(事後アンケート)


図10 将来行うならどの種目か(事前・事後比較)

2 今後の課題

今回の単元では、「リズムよくラリーを続ける」ことに重点を置いて授業を行ったため、「せめぎ合いを味わうようなゲーム」を体験することはできなかった。本来であれば、3年間を見通した単元計画をしっかりと立て、学習指導要領の学習内容に沿って「獲得した技能を発揮してゲームを楽しむ」ことを実現できるような授業展開を行うことが望ましく、卓球がもっている特性や魅力をさらに味わうことができるように進めていく必要があると考える。

今回の単元では、「リズムよくラリーを続ける」ことに重点を置いて授業を行ったため、「せめぎ合いを味わうようなゲーム」を体験することはできなかった。本来であれば、3年間を見通した単元計画をしっかりと立て、学習指導要領の学習内容に沿って「獲得した技能を発揮してゲームを楽しむ」ことを実現できるような授業展開を行うことが望ましく、卓球がもっている特性や魅力をさらに味わうことができるように進めていく必要があると考える。

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本文ここまで
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