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更新日:2020年7月21日

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平成27年度政策研究フォーラム『若者の起業を増やすにはどうしたらよいか』結果概要

平成27年政策研究フォーラムの概要です。

神奈川県政策研究・大学連携センター

はじめに

当フォーラムでは、若者世代が起業しやすい環境を作っていくことは、若者の人生の選択肢を広げるとともに、持続的な経済成長を実現する上で重要である、という問題意識の下、「若者の起業しやすい社会を作る」「起業家の裾野を広げる」ために官民が採るべき施策は何か、について多面的に議論。

第一部 政策研究・大学連携センターの調査報告

第一部では、若者の起業を阻む課題・要因とその対応策例について、当センターから調査報告を実施。

【調査報告のポイント】(発表資料はここをクリック)[PDFファイル/863KB]
1 起業の現状

日本の起業活動は、若者世代を含め、主要国の中では低水準。

2 若者の起業を阻む主な要因

起業の障害となっている要因は概ね次の4つに集約可能。 

若者の起業を阻む主な要因

3 起業支援のための社会環境作り

「起業家教育」など、各要因に対応した解決策を講じていくことが必要。
(1)起業家精神の醸成:起業家との出会い作り、起業体験等
(2)リスクの低減:職業訓練・再就職支援
(3)リソース面の支援:事業計画を重視した融資、支援策の広報の工夫
(4)リターンの引き上げ:イメージアップに向けた広報 等 

スペース

第二部 パネル・ディスカッション

第二部の前半では、起業家、起業支援者、教育者、制度設計それぞれの立場からパネリストの個別発表があった。

【パネリストからの発表骨子】

1 明  素延氏  (産後ヘルパー株式会社代表取締役)

【報告のポイント】(発表資料はここをクリック)[PDFファイル/294KB]
(1) 情報収集が大変で、創業資金、ノウハウも人脈もなかった。
(2) 上記を乗り越えて起業したが、積極性が大事。
(3) 失敗は成功のもと。小さな失敗を沢山してこそ、成功がつかめる。
(4) 起業は幸せな人生を実現する方法の一つ。好きなことで起業すべき。

2 加勢 雅善氏  (NPO法人ETIC. エコシステム・テ゛ィヘ゛ロッフ゜メント・マネーシ゛ャー)

【報告のポイント】(発表資料はここをクリック)[PDFファイル/1.81MB]
(1) 今も昔も若者の起業意識を持ちにくい社会環境となっている。
(2) 適切なかたちでリスクマネーが流れていない。
(3) ロールモデル作りのために少額の助成金も有効。
(4) 起業支援のノウハウを、色々な関係団体に移転していくことが課題。

3 徳田 賢二氏 (専修大学大学院経済学研究科長 教授)

【報告のポイント】(発表資料はここをクリック)[PDFファイル/1.59MB]
(1) 起業のハードルはそもそも高く、経験がものをいう世界ではある。
(2) 現代の若者(「さとり世代」)では、明確にリスク・リターンを比較考量して起業するかどうかを決めている。
(3) 若者にとって自己実現の場。起業支援環境の整備も進んでいる。
(4) 専門性の高い起業家教育はとりわけ重要。
(5) 専修大学は川崎市と協働して、系統的な起業家教育を大学院で提供。

4 高谷 慎也氏 (経済産業省 経済産業政策局 新規産業室 室長補佐) 

【報告のポイント】(発表資料はここをクリック)[PDFファイル/1.76MB]
(1) 米国では起業・ベンチャーが経済を牽引。
(2) 日本でも切れ目なく起業支援策は展開しているが、起業家意識が低い。
(3) 学校教育における人材育成が鍵であり、米国・北欧等では幅広く実施。
(4) 考え方(mindset)、ノウハウ(skill set)と起業機会の3つが重要。
(5) 首長のリーダーシップ次第で政策対応に向けた雰囲気は大きく変わる。

   産後ヘルパー株式会社 明氏ETIC. 加勢氏
〔産後ヘルパー株式会社代表取締役 明氏〕 〔NPO法人ETIC. エコシステム・テ゛イヘ゛ロッフ゜メント・マネーシ゛ャー 加勢氏〕

専修大学 徳田氏経済産業省 高谷氏
〔専修大学大学院経済学研究科長 教授 徳田氏〕 〔経済産業省 経済産業政策局新規産業室 室長補佐 高谷氏〕

スペース

第二部の後半では、4人のパネリストが集まり、多面的な論点にわたって意見交換がなされた。

【パネル・ディスカッションでの主な発言】

(1)起業家精神をどのように育むか【学校教育における起業家教育】

日本の教育は、実学も重んじているが、主として企業人の養成を主眼としてきたことは否めない。大学など教育機関でも、その反省にたって、起業家育成を意識した教育課程を展開し始めている(徳田)。

日本の学校教育では、高度経済成長期における製造業等を中心とした、優秀なサラリーマンを養成する形をとっており、現代における一人ひとりが新しい価値を創造していく社会においては、教育制度そのものを変革していくことが求められている(加勢氏)。

大学で経営学を専攻していたが、実際に起業しようとする人は周囲に少なく、起業家の知り合いはいなかった。偶々、母が店を切り盛りしている姿を見て、起業を意識した。女性にとって仕事と育児を両立させることは困難であるが、そうした環境の制約が逆に起業を志すきっかけとなった(明氏)。

成長していく過程で、子供の本来持つクリエイティブ性が薄れていっている。小中学校のうちから挑戦する意欲を高める取組みが必要。全ての学校で「起業家教育」を実践することが理想だが、まずはやる気のある学校から実施していくのが現実的(高谷氏)。

若者の起業家教育で必要なことは専門的な知識を提供すること。また、彼らに寄り添って事業化プランを煮詰めていくメンター(インキュベーション・マネージャー)の存在が重要である(徳田氏)。

教育関係者も単独で起業家教育に取組もうと頑張るのではなく、外のいろいろな力も借りて協働していくことが必要。経産省としても協力していきたい(高谷氏)。

【ガッツの必要性】

大事なのは「やる気」であり、失敗を恐れないで、楽しみながら起業することが大切。若い人は、仮に失敗しても立ち直るための時間の余裕があるので、環境さえ整えば若者の起業は増えるはず(明氏)。

「起業マインドがある」ことが「起業したい」ことに即座に繋がるわけではない。「起業マインド」があっても「ガッツ」がなければいけない。これまでに部活動等を通じて自らガッツを身に付ける術を持っている人は、起業して壁にぶつかっても乗り越えられる。ETIC.の紹介するインターン先はベンチャー企業等が多く、非常に厳しい環境のところもあるが、そうした環境に身を置くことで、起業に対するガッツとマインドが身につく(加勢氏)。

移動販売のアルバイトを通じて、当時の社長から「プライドを捨てろ」、「お客さんに対しては10倍低い姿勢で臨め」ということを教わった。初心を忘れないでいれば、どんな困難も乗り越えられる(明氏)。

【起業家マインドの醸成】

座学では限界があるので、出来る限り「起業体験」をすべき。ロールモデルとなる実際の起業家と一緒に働くことで、経営とは何か、起業家とはどういうマインドを持っているのか、身をもって感じることができる(徳田氏)。

若者には、世界に出て課題を抱える地域に出向いて視野を広げてもらいたい(高谷氏)。

(2)リスク(起業に失敗した際の人生のコスト)をどのように軽減するか

起業に失敗したあとに就職しようとしても、大企業の採用担当ではそうした起業経験を正当に評価できないのが実情。したがって、ETIC.では、起業をさせるだけでなく「起業させない」こともしている。起業はリスクを伴うので、安易な起業は勧めないようにしている(加勢氏)。

米国の事例をみると、起業のリスクが低減されていくと起業の平均年齢も下がっていっている。シリコンバレーでは起業することは「リスク」だと考えていない。日本でも、まずはノウハウ・スキルのある30代から40代を中心に起業家の裾野を広げ、起業に関するリスクが減ってきた段階で20代にシフトするという流れが良いのではないか(高谷氏)。

起業に失敗した人を評価する仕組み(コミュニティ)を構築することが必要。県内の中小企業でもそうした人材を求めるところはたくさんあると思うので、起業家の経済的なリスクを減らす意味でも、是非そうしたネットワークの構築をしてほしい(加勢氏)。

徳田氏の発表にもあったように、近頃の「さとり世代」は合理的であり、リスクとリターンを比較考量して物事を判断する傾向が強い。したがって「起業することはリスクではない」という状況を作れば、起業は増える(高谷氏)。

若者には、起業のリスクを乗り越えたところに大きな価値、リターンが待っているということをぜひ知ってほしい(徳田氏)。

(3)情報・ノウハウ不足への対応(情報提供、支援窓口の整備)

多くの専門家、メンターのハンズオン指導を得られる「プラットフォーム」の中で支援していくことで、起業に失敗するリスクを軽減できる(徳田氏)。

起業もスタートアップ時や成長期などの段階に応じてニーズが異なるため、それぞれの段階に適した支援の仕組みを構築することが必要。当県でそうした仕組みはベンチャー一般には構築されているように、各自治体を中心に新分野にも同様の仕組みを構築してほしい(徳田氏)。

起業に必要な準備を行うため、支援員・相談員からの支援を求めていたのに、相談窓口からは「まずは起業準備をしっかりしてから」といわれるなど、本末転倒の対応であった。自分と同じような境遇の「起業希望者」を支援するインキュベーション・オフィスが不足しているのではないか(明氏)。

世の中には起業支援の仕組みは相応に整備されてきているが十分に認知されていない。ワンストップ窓口(一つの場所に相談を持ち込めば解決できるような仕組み)の構築や、起業支援に際して必要なメンター等の確保が重要(徳田氏)。

政府では、これまでのベンチャー支援策をつなげ、もっと省庁横断的で分かりやすくみせることを計画している(高谷氏)。

学生一人一人を個別に指導する、少人数による起業・専門教育が必要。大学でも、極力一人一人のキャリアを育てていく教育を目指している。但し、大学で可能なのはあくまで起業準備までの専門教育であり、起業は他の連携機関との共同作業になる(徳田氏)。

ETIC.のような支援実績のある団体から官民がノウハウを継承することが重要。ソーシャル・ビジネス、アプリ開発など、若者が得意とする新規分野における起業支援はもっと充実できる(徳田氏)。

(4)資金不足等への対応(融資先・支援先の「目利き力」の向上)

【目利きの必要性】

資金を色々な起業家に幅広く提供して支援する「ばら撒き」を否定するわけではないが、どこにばら撒くか・支援するかを判断する「目利き」は必要。その選定プロセスは、起業経験の豊富な起業家に担ってもらうのが適当(加勢氏)。

【金融機関の対応】

NPO、新規事業に対して一定期間での返済を求めることは厳しいという意見があるが、金融機関が返済の見込みが立たないところに融資しないのは当然である。簡単な審査で融資を通すとなると、借入先でモラル・ハザードが起きる点には留意しなければならない。金融機関側としては、借り手の将来性等を明確に判断することで融資判断をする必要がある(徳田氏)。

金融機関は総じて「返済できるか否か」で融資の可否を判断しているが、新規事業については返済力の判断が十分出来ていない。金融機関のやり方自体は否定しないが、新規事業の事業内容をもっと重視した融資スタイルに変えるべき(加勢氏)。

【ベンチャー・キャピタル(VC)の対応】

日本のVCの投資額は米国VCの20分の1程度に留まっているが、1件あたりの金額が少なければ、それだけ起業家側の大きな成長は見込めない関係にある(高谷氏)。

VCは、歴史的には金融機関系が多く、職員も親銀行等から出向して数年して戻ることから、起業支援スキルは十分有していなかった。今の独立系VCの支援スキルは成長途上にあるため、国としてはそうしたVCをしっかりと支援していきたい(高谷氏)。

産後ヘルパー(株)ETIC. 加勢氏

専修大学 徳田氏経済産業省 高谷氏

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