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更新日:2019年7月31日

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平成30年度政策研究フォーラム「自治体におけるEBPMの推進に向けて」結果概要

フォーラムのねらい

 当フォーラムでは、「EBPMの黎明期」にあたる時期にあって、実務者にとって必要と考えられる情報を中心に、(1)EBPMの基本的な考え方を概観するとともに、(2)行政における取組事例を踏まえ、今後の対応の留意事項などについて整理し、関係者との問題意識の共有を図った。

1 調査報告ー『根拠に基づく政策運営(EBPM)』ー

 はじめに、EBPMの基本的な考え方や、行政における今後の対応の方向性について、政策研究センターより報告をした。
【調査報告のポイント】(発表資料(PDF:671KB)

(1)EBPMとは
 EBPMは「根拠に基づき政策を運営する」ことである。その点では、これまでの仕事の進め方と本質的には同じことを目指しているが、EBPMは、「社会課題-政策」「政策-成果」の間の繋がりをもっと強く意識するような仕掛け全体を指す。EBPMを進める上では、「データ分析」、「根拠/因果関係」、「成果/検証」の3つがキーワードとなる。
(2)政策の成果の検証手法
 「政策に成果があった」といえるためには、政策の前後の結果を比較する必要があるが、その手法の中では「ランダム化比較試験(RCT)」がもっとも優れているとされる。もっとも、現実社会では、RCTを行うことが可能あるいは適当とは限らない場合もあり、状況に応じて、最も適切な比較手段を講じるべきである。
(3)自治体における対応事項
 自治体では、(a)政策プロセスを工夫して、根拠や成果を重視した議論の場を作ること、(b)データを利活用しやすい環境を整備すること(データの整備、人材の育成、データ分析の支援体制の整備、外部組織との連携・協力)、の2つが対応の柱となる。 
 神奈川県でも、2018年度は「変革の年」として、(a)政策立案・予算編成プロセスにEBPM的発想を導入したほか、(b)データ整備・分析業務の支援の強化や、(c)様々な研修・人材育成策を実施した。

2 国・自治体の取組み

 次に、国・自治体の対応事例や、今後留意すべき事項などについて、有識者・実務家から発表があった。

(1)『EBPMの最近の動向と行政評価局の取組』
総務省行政評価局政策評価課専門官 川瀬仁志氏

川瀬氏

【報告・発言のポイント】(発表資料(PDF:1,106KB)

ア.政策とは、EBPMとは
 効果的な政策を実施していくためには、事前に政策の見通しを立て、不断の見直し・改善を図る必要がある。EBPMとは、エビデンス(政策の効果を明らかにする材料)に基づいて、より効果的な政策立案をしたり、政策の改善をしたりすることといえるが、そうしたEBPMにおいて求められている要素は、昨今、政策効果に関する因果関係等の分析が進展しており、活用の可能性は拡大していると考えられるが、特段目新しいものではなく、法律(政策評価法)でも既に義務付けられていると言えるものである。
イ.府省におけるEBPMの推進状況
 各府省では、EBPMの観点から政策の検証を行い、EBPMの実例創出などを進めている。一方、総務省行政評価局では、各府省のEBPM推進状況を検証しつつ、政策効果の把握・分析手法にかかる実証研究を関係府省と共同で実施している。
 共同研究は今年度4テーマを対象としており、例えば、IoTサービス創出支援事業をテーマとしている。IoTサービス創出支援事業は、国の委託を受け、これまでに34事業が行われている。それぞれの事業は、定性的なデータ収集からRCTによる効果検証まで、案件によって様々な段階にある。全ての事業について、深く効果測定することは困難であることから、5~6事業に
フォーカスして分析を行っている。
 共同研究はいずれも途上ではあるが、これまでの実証事例をみると、EBPMの取組がうまくいくかどうかは、データ解析力の有無等ではなく、端的には、関係府省の改善に向けた意欲の大きさに負うところが大きいのではないかと思われる。
ウ.EBPM活用の留意点
 有効・必要なエビデンスというものは事業によっても異なるし、あらかじめ定義が固まっているものではない。実務担当者は、「政策を改善する」という問題意識や目的に沿って真摯に対応していくことが重要であって、ツールはそのための手段でしかない点には留意すべきである。


(2)『神奈川県庁におけるEBPM推進の取組み~政策レビューにおけるEBPM
の考え方の導入~』
神奈川県政策局総合政策課副主幹 宇佐美康二

宇佐美氏

【報告・発言のポイント】(発表資料(PDF:651KB)

ア.EBPMの考え方の取込み
 神奈川県では、これまでも総合計画において複数の数値目標を設定し、多角的な分析によって評価を行い、政策改善に結びつけるなど、政策評価のプロセスを実施してきていたが、今年度は、さらにEBPMの考え方を実務に取り込んでいくこととした。
イ.「政策レビュー調書」の見直し
 その最初のステップの一つとして、「政策レビュー」(庁内における政策議論)において、取組と成果の因果関係をより強く意識するようにした。具体的には、政策レビュー用の調書の様式を見直し、(a)「政策目的―政策手段(施策)―事業」の間にある因果関係を明確化するとともに、(b)事業の必要性や有効性については、できる限り科学的・客観的データに基づき説明することとし、そして、(c)予算事業の実施と成果の因果関係やその成果(短期アウトカム)の検証方法を明記するようにした。
ウ.今後の課題
 EBPMの考え方の導入は緒についたばかりであり、因果関係や有効性について客観的なエビデンスが十分に示されたとは言い難く、今後さらなる工夫が必要になる。また、限られた予算やノウハウの下でデータ整備・収集をどのように効率的に行うか、事業を正当に評価するにはどのようにするのかなど、さらに検討すべき課題もある。今後は、こうした点についても、国の動向などにも目を配りながら、EBPMの推進に向けて積極的に対応していく予定にある。

(3)『EBPMの実践に向けて~政策と効果(アウトカム)の考え方~』
東京大学政策評価研究教育センター(CREPE)教授 川口大司氏

川口氏

【報告・発言のポイント】(発表資料(PDF:687KB)

ア.ロジックモデルの有用性~生活保護受給者に対する就職支援を例に~
 ロジックモデルとは、具体的な政策≪政策変数≫とその成果≪結果変数≫との因果関係を論理的に示すもので、政策を評価するうえで有効である。
ロジックモデルを作る際には、(a)様々な学問分野の知見を活かすこと、(b)両変数の間の論理の距離をできる限り短くすることが重要となる。なお、仮に数値化になじまない政策であっても、期待される成果との因果関係を明確にしていくことは有用である。
 具体的には、「就労支援を受けてもらう」のが政策変数、「1年後に就職できた」ことが結果変数となるが、その間のつながりを、「就労支援により技能を高めて就職の確率を上げる」と捉えるのが経済学的な考え方だが、行政学とか教育学とかいろいろな角度でロジックを作る必要がある。また、政策と成果の間のロジックを詰めていくと、中間に「技能を高める」という結果があり、それを測る変数を考えることもできる。政策と結果の測定をどのレベルでやるのか考えるうえでもロジックモデルは有用である。
イ.現実社会における対応~「比較する」観点と「反実仮想」の不可能性~
 政策の有効性を測るためには、「比較する」という観点が重要であるが、全く別のものを比較してしまっては政策の効果は分からない。
 本来は、Aさんが就労支援を受けた時の結果と受けなかった時の結果を比較すべきだが、実際にはどちらか一方のAさんしか存在しないため、現実には両者の比較は不可能である(「反実仮想の不可能性」)。
 したがって、政策を行わなかった他の対象と比較することとなるが、比較対象を選ぶ際には、「セレクション・バイアス」に注意が必要。就労支援に「参加した人と参加しなかった人では元々就労意欲に差があるかもしれず、政策の効果を正しく評価できない。
 そのため、「属性の似た対象」と比べることが大変重要となる。その際に有効となるのが、「無作為割付(RCT)」や「自然実験」という方法だが、いずれも課題があり、必ずしも実現可能なわけではない。行政実務担当者としては、学歴、年齢、地域などの条件を揃えるなど、比較する対象との間で、極力属性が同じようになるように工夫し、なおも残っているバイアスにも注意しながら、結果を解釈していくことが求められる。
ウ.エビデンスをどう政策形成に生かすか~大学関係者の協力~
 いろいろとデータを分析しても、有意な因果関係が見つからない場合もあるし、エビデンスが明らかになったとしても、それをどう政策形成に生かすかというのは難しい。エビデンスを次の施策にどう生かすかを考えるのは行政の役割であろう。なお、自治体が、政策立案のためにエビデンスを集積していく際には、ぜひ企画の初期段階から大学関係者に協力させてほしい。大学が、データ設計の段階から自治体と共同で作業ができると、成果指標の取り方の工夫など、助言できるところが多くなる。


(4)『葉山町きれいな資源ステーション協働プロジェクト~住民協働による
ランダム化比較実験とエビデンスに基づく政策決定~』
神奈川県葉山町政策財政部政策課主査 大前正嗣氏

大前氏

【報告・発言のポイント】(発表資料(PDF:2,491KB)

ア.プロジェクトの概要
 葉山町では、EBPM的な政策を遂行し、資源ゴミの集積場(「資源ステーション」)における投棄の誤りなどを減らすことに成功した。具体的には、町内会と一体となって、(a)現況調査を行い、(b)ワークショップで対策を検討し、(c)RCTを活用しながら、対応策(候補)の効果を比較検証することによって、効果的な政策を実施することができた。
 プロジェクトの開始にあたっては、住民の協力を得るために事前の説明が非常に重要であることを痛感した。しかし理解を得た後は積極的な協力を得ることができた。
 対策の検討とRCTによる効果検証にあたっても、まず住民と協議しながら段階的な複数の対策を検討し、そのうえで町会の協力によって比較実験を進めた。そしてその結果、持続的な効果のある対策や効果がすぐに消滅する(リバウンドする)対策があることがわかった。
 なお、RCTの際には、比較対象のために、「ゴミの廃棄状況をモニターするだけで、検討した対応策は施さない」というグループも作った。この点については、「せっかく対応策を検討したのだから、モニターするだけではもったいない」という住民の声もあったが、RCTのねらいを説明し、そこは納得していただいた。
 結局、足掛け3年という長い期間がかかったが、結果的にプロジェクトは、住民の協力により、行政単位で行うよりも大きな成果となり、また、ゴミ収集にかかる住民の理解度や関心も高まった。
イ.EBPMのメリット
 今回のプロジェクトについては、住民の協力によって実験費用はほぼゼロに抑えつつ、効果的な対策を見出すことができた。また、EBPMのアプローチによって住民との合意形成・対策の効果の検証などが予めできていたので、予算化の説明もスムーズであった。
 そして、「アウトカム」が実現したということだけでなく、そのうえに「インパクト」として住民の意識向上がみられたことが大きく、ごみの資源化率では県内2位となっている。行政と住民との間の距離が縮まったことが最大の成果であったともいえる。EBPMはまずはやってみることが大事である。
ウ.エビデンスの共有の重要性
 今回のプロジェクトでは、データ等、依拠できるエビデンスを事前にもっていなかったことから、データの作り方の調整のための作業もあって、政策を実現するまでに相当時間や労力を要した部分がある。
 各自治体では、類似した政策課題を抱えているはずであるので、うまくいかなかったケースも含め、自治体がそれぞれ試みた対応の「エビデンス」を広く共有することが望ましい。それができれば、他の自治体ではそれを前提とした上で、より効率的に自らの政策を企画・立案することができるようになろう。


(5)『未来へつなぐあだちプロジェクト~計画策定とデータ活用~』
東京都足立区地域のちから推進部長 秋生修一郎氏

秋生氏

【報告(注)・発言のポイント】(発表資料(PDF:2,289KB)
(注)発表資料のうち、後半(p.51「子どもの健康・生活と生活困難との関係」
以降)を中心に報告。

ア.子供の学力の要因分析
 足立区では、近年改善しつつあるとはいえ、学力が低い、犯罪数が多いなどの課題を抱えており、その根底にある原因が「貧困の連鎖」である。
 子供の学力についてみると、生活保護世帯の方が、一般家庭よりも基礎学力の定着度等が低いという実態がある。一方で、家庭の資源と子どもの学力の関係については、所得水準といった「経済資本」と関係が大きいといわれているが、「社会関係資本」(地域との繋がり、相談できる人がいることなど)や「文化資本」(動物園や音楽会などに連れていく等)の影響も同様に関係が大きいとの研究がある(資料p.13)。
 経済資本の問題は、税制度による所得の再分配など国の役割であり基礎自治体で解決できるものではないが、社会関係資本や文化資本の要因部分であれば、基礎自治体の工夫で改善できる余地があることから、データを活用した政策対応をしようとしてきている。
 なお、こうしたEBPM的な活動にあたっては、そのための予算はなかなか出ない状況であった。そのため、学識経験者の協力を得るとともに、学校を始めとする各方面に足を運び、協力を取り付けることによって、なんとか進めてくることができた。
イ.生活困難世帯と一般世帯との比較
 区内の世帯を生活困難世帯とそれ以外に分けて、子供の健康・勉強・運動習慣や逆境を乗り越える力などについて比較調査したところ、(a)子供の健康や生活は、少なからず生活困難の影響を受けていること、(b)保護者に相談相手がいれば子供の健康リスクが減ること、そして(c)子供が地域活動に参加していると逆境を乗り越える力を培える可能性があること、などが明らかとなった。
 なお、様々な統計データを駆使したとしても、ある事項と子供の貧困との間に(単なる「相関関係」にとどまらない)「因果関係」まで認められるかどうかまでは、明らかにできているわけではない。そこは、学識者の助けも借りながら今後長いスパンをかけて調査分析していくしかないが、首長はもっと短いスパンで政策に対応した成果を求めることもあり、行政官としては、時間軸の異なる両者の間に立ちながら、ここまでのデータ分析からみて有効と思われる政策から始めてみるなど、現実的な対応を行っている。
ウ.その他(データ整備等)
 子供の学びや発達関連では、色々な政策・取組にかかる既存のデータがばらばらに存在している。こうしたことから、多面的に子供の学力や発達状況が把握できるように、学齢簿を軸にしてそれらデータをできる限り紐づけるとともに、数年次に亘る追跡調査などによる分析にも取り組んでいる。
 こうした調査の実施に当たっては、小中学校までしか所管しない基礎自治体では限界があり、上級自治体との連携などを模索しなければならない。また、データの整備・分析を行う上で、学校の成績や健診結果などの個人情報を匿名化しパネルデータ化するところで、教員を含めた学校現場や大学の学識者などとの信頼関係に基づいた連携協力が重要であった。
 なお、平均点だけでみていては学力格差が見えなくなることから、学力低位者の割合などもあわせてみていく必要がある。こうした点を含めて、EBPM的なアプローチには学識者の専門的な知見を吸収することは欠かせない。ただ、学識者とのコラボレーションについては、彼らの関心にもうまく合致するよう、データ整備の初めの段階から参画してもらうなどの工夫が重要である。
 また、庁内のデータ整備・利活用全般を支援すべく、今年度にはCDO補佐(専門職・非常勤)などを雇用したが、庁内でどんなデータがあるのか、どのように繋げられるのか、といった点についてはまだまだ検討途上であり、支援体制の整備は緒についたばかりである。
 他の自治体でも、今回紹介したいろいろな事例を参考にしながら、動き出してみてほしい。立ち止まっていても何も変わらないが、失敗事例も含め、情報共有ができれば前に進めることができる。

3 質疑応答(概要)

質疑応答

Q1:EBPMと従来の行政評価との特徴的な違いは何か。
A1:これまでも行政評価という手法はなされてきてはいるが、EBPMというアプローチで新たに加わった要素としては、例えばRCTのように、パイロットケースでまず政策を試行して、本格的に実施することが挙げられる。また、行政評価の一つである目標管理型評価は広く網をかけて業績の測定をするという要素があったが、EBPMはより手間をかけて効果的な政策を立案することにフォーカスしている点などが挙げられる。


Q2:EBPMを推進しながら行政で事業実施をする際に、適用しやすい事業と適さない事業はあるか。
A2:事業を実施する上で明確な課題がある場合、改善の余地があると考えられる場合は、エビデンスを集められないかなどを検討して、積極的に政策の改善を行っていくべきである。逆に、法的な義務付け等があり、粛々と実施していて、改善の余地が小さい事業や、行政側でのコントロールできないものはEBPMに適さない。


Q3:EBPMを行政で導入する際の有用性と限界は何か。
A3:有用性としては、事業の実施に向けて説得材料として用いることができるという点がある。限界としては、ある政策について、エビデンスがあるから全て実施する(できる)という単純なものではなく、住民の意見、首長・政治家の意向なども勘案しながら総合的に判断して決定していくべきということである。


Q4:EBPMで採用された証拠・データの妥当性は、誰が、いつ、どのように検証するべきか。
A4:エビデンスについては、事前にすべて検証できるものばかりではないが、事後的には、政策の有効性が持続していることによって有効性を確認することもできる。有効とされたある事例が、他のところでは有効ではないことが明らかになることもありうるが、そうした有効ではなかった情報も含め、エビデンスや知見を事後的にためていくことは、事前に検討することと同様に重要である。


Q5:効果を検証するにあたり、政策、施策、事業という階層がある中で、上位の政策になるほど外的な要因の影響が多くなるが、どのように評価していくべきか。
A5:ロジックを明確に整理した上で効果を検証できるものが限られている場合でも、可能な範囲で事業や施策の分析、検証を進め、それらを積み重ねてその上位にある政策を評価し、必要に応じた改善していくことが重要である。


Q6:分析してエビデンスが得られて因果関係が出た場合に、政策へ繋げていくポイントは何か。
A6:予めエビデンスが出たらどのように政策に活かすかを考えてから、データ収集や分析を始めることも一案である。


Q7:政策の効果を検証するまでに、追跡調査など時間がかかることがあるが、スピード感をもって対応していく方法はあるか。
A7:短期間で検証できることはすぐに取り入れつつ、本格的な研究は学者が時間をかけて行うなど、必要に応じて期間を分けて対応していくことも重要となる。また、政治家、行政、学者で求めている成果や時期が異なるので、お互いに理解して協力していくことが大切である。

 

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