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更新日:2020年7月21日

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平成28年度政策研究フォーラム「『人生100歳時代の設計図』を考える」結果

平成28年政策研究フォーラムの概要です。

神奈川県政策研究・大学連携センター

はじめに

当フォーラムは、政策研究・大学連携センターによる調査研究の報告や有識者による基調講演、パネル・ディスカッションを通じて、県民一人ひとりが「人生100歳時代の設計図」を自分自身のこととして考えるきっかけをつくることを目的として開催しました。

第一部 

第一部では、「人生100歳時代の設計図」について神奈川県からの説明、神奈川県政策研究・大学連携センターの調査研究の報告、そして、株式会社ニッセイ基礎研究所生活研究部主任研究員及び東京大学高齢社会総合研究機構客員研究員の前田展弘様をお招きしての基調講演を行いました。

【人生100歳時代の設計図について】

(発表資料はここをクリック)[PDFファイル/767KB]

1 超高齢社会の到来

100歳以上の人口は、この50年ほどで約400倍、2050年には約4,600倍になると見込まれる

2 人生100歳時代の設計図

100歳まで輝き続けることができるライフプランを描けるような社会

学び直し、働き方、社会参加など多様な選択肢を考え、示していくことが必要となってくるのではないか

3 取組状況

今年度は、様々な機会を通じて幅広く議論を巻き起こしていく年と位置付け

7月のキックオフシンポジウム、対話の広場

大学、市町村、関係団体等とともに議論を深め、お互いに知恵を出しながら、「人生100歳時代」にふさわしい社会の実現に向けて取組みを進めていきたい

「人生100歳時代の設計図」
 

【「人生100歳時代の設計図」に係るヒアリング調査報告】

(発表資料はここをクリック)[PDFファイル/1.83MB]

1 現状

平均寿命や健康寿命が延び、高齢者はますます元気になっている

多くの人が抱く高齢期のイメージは「老後・余生」を送るもの、であり、若者からすると、遠い未来の話となる高齢期のいきいきとした過ごし方が意識されにくい

2 現状から生じる課題

(1)  個人が抱える課題

地域とのつながりの希薄化は、孤立や孤独死のリスクを高める

定年退職等による生活の変化は、充実感・主観的幸福感の不足をもたらす

(2)  企業等に関する課題

企業等の従業員に対するリタイヤに備えた支援体制の不足

企業等の高齢者の雇用対策の不足

(3)  社会全体の課題

「高齢者」と「現役世代」との間にある世代間の壁

既存の様々な支援の取組みがうまく結びついていない

3 対策

(1)  個人が抱える課題に対する対策

「ゆるやかなつながり」をすすめることで、孤立を防ぐ

考えるきっかけづくり、機会を提供することで、いきいきとした高齢期を送るための後押しをする

(2)  企業等に関する課題に対する対策

企業等の従業員への支援体制を推進することで、従業員の退職後のいきいきとした生活設計につなげる

企業等の高齢雇用に対する意識改革を図り、高齢者が希望どおりいきいきと働ける環境をつくる

(3)  社会全体の課題への対策

年齢に関係なく過ごすことが当たり前の社会を実現し、誰もがいきいきと過ごせることを目指す

既存の支援組織の連携や情報提供を充実させ、相乗効果を目指す

住民の主体的な地域活動を支える体制を作り、地域を盛り上げていく

4 目指すすがた

「社会参加」で生涯をいきいきと過ごす「人生100歳時代の設計図」のすがた

「人生100歳時代の設計図」に係るヒアリング調査報告

 

【基調講演】

前田 展弘氏 株式会社ニッセイ基礎研究所生活研究部主任研究員

東京大学高齢社会総合研究機構客員研究員

「人生100歳時代の設計図の作成に向けてジェロントロジーから学んだこと」

(発表資料はここをクリック)[PDFファイル/3.55MB]

1 ジェロントロジー研究を始めたきっかけ

大学卒業後、就職した企業の業務の中で、社員の様々な悩み事を聞いているうちに、生きること、働くこと、そして歳を重ねることの意味を考えるようになり、ジェロントロジー(老年学)と出会った。

高齢化が進む日本に、ジェロントロジーを広めたいという強い思いとともに、人生は一度きりなので、何もせず後悔するよりも、チャレンジすることが大切と考え、研究者の道を目指すこととした。

2 「人生100歳時代の設計図」を考えるために

(1) 高齢期(高齢者)の実態

「人生100歳時代」と、かつての人生60年の時代を比べると、20歳以降、大人になってからの人生の長さは倍になっている(人生60年時代:40年、人生100歳時代:80年)。

人生の長さが倍になったことは長寿時代の恩恵であるが、先のことを考えると不安なことばかり考えてしまうのが実態である。人生100歳時代は、よりポジティブに設計するように考えていただきたいと思う。

若い世代からすると、高齢者が身近にいないことから、生活や実態がなかなか見えにくく、高齢者イコール弱弱しいというイメージがあるかもしれないが、実態はそうではない。男性では7割、女性では9割ほどが60代から80代でも自立生活をし、活躍している。

(2) 人生100歳時代の理想の生き方

理想の生き方自体は何か正解があるという話ではなく、人の数だけ正解があるというのが実態。

高齢者の自立度は、元気に活躍できるステージ1、徐々に自立生活が難しくなってくるステージ2、最終的な医療やケアが必要なステージ3、の3つステージに分けることができ、ステージの変化に合わせて自分らしい暮らしを実現していくことが、今日的なサクセスフルエイジングではないかと考える。ステージごとのニーズを満たし、日々楽しみながら、自分が望む暮らし、人生というものをいかに築けるかということが重要。

健康長寿は誰もが望むことであるが、食事・運動・栄養だけではなく、人間関係や社会とのつながりも寿命に影響している、ということは様々な研究の成果で明らかとなっている。そのため、普段の生活をどうつくっていくか、ということが寿命にも影響することを知っておいてほしい。

(3) 人生100歳時代の設計図の描き方

人生100歳時代の設計は、シンプルに考えれば、どこに誰と住んで、何をする、何を楽しむか、そしてお金はどうするのか、といった生活を想像する要素を自分なりに考えていくこと。

決まった方程式はないが、一つの方法論として、まず「生活基盤」をいかに整えるのかを具体的にイメージ(親族の介護や自分の健康状態、お金、住まい等をどう見通すか等)し、その上でそれぞれの、楽しみたいという自らの「自己実現」の部分をいかに満たしていくかを考えていくことが重要。

選択肢は無限にあるが、具体的にどのような選択肢があるかということを知り、そこから考えながら選んでいくことが満足度との関係でも大事である。

3 「人生100歳時代」に向けて

歳を重ねることをポジティブに捉えていくことが大事であり、加齢に価値と希望のある社会になっていってほしい。

自分の夢とは何だろうということを改めて考えていただき、30代、40代…80代、90代と、世代を進むごとに素敵な人生を描き、そこに向かって進んでいくことが大事。

前田氏基調講演2

〔前田 展弘 氏〕
 

第二部 パネル・ディスカッション

第二部の前半では、パネリストの皆様からそれぞれの取組みの報告と「人生100歳時代の設計図」をどのように考えていくかについてのご意見を伺った。

【パネリストからの発表骨子】

1 荻野 佳代子氏(神奈川大学人間科学部人間科学科 教授)

荻野 佳代子氏

〔荻野 佳代子氏〕

【報告のポイント】(発表資料はここをクリック)[PDFファイル/318KB]

(1) 学生のライフキャリア教育への関心

学生の将来展望は意外に短く、目の前の卒業、就職を考えるのが精一杯でその先の結婚や育児など考えられないという学生も多い。

人生のモデルとなる社会人との接点が少なく、身近な親などに限られている学生も多い。

現代は社会の変化が激しく、学生は卒業、就職後の働き方、生き方の先が見えず、不安を抱いている。

(2) ライフキャリア教育の取組み

神奈川大学ではライフキャリア教育を実施している。ライフキャリア教育とは、仕事、結婚、育児などを性別によって役割を固定的に考えることなく、自分が望む働き方・生き方を選択できることを目指した教育であり、県と連携させていただきながら内容を検討してきた。

学生は授業を通して、自分自身の人生を考えることにより、就職、結婚、育児などのライフイベントを自分の問題としてとらえ直したり前向きに行動するきっかけとなる手応えを感じている。

自分の人生を切り拓いていく中では、色々な人とかかわり、協力しながら生きていくことや、人とつながることが大事であることなどへの気付きもある。

(3) 今後に向けて

次世代を担う若い世代に、自分たちが社会を担っていくのだという自覚と意欲を持ってほしい。

2 片桐 実央氏(銀座セカンドライフ株式会社 代表取締役)

片桐 実央氏

〔片桐 実央氏〕

【報告のポイント】(発表資料はここをクリック)[PDFファイル/2.81MB]

(1) 「人生100歳時代」におけるシニア起業

シニアの起業は、(ア)仕事を通じて人に感謝されるということは、やりがいや生きがいにつながること、(イ)年金プラスアルファの収入源を確保すること、の2点がポイント。

(2) シニア起業の現状

働きたい理由は、(ア)仕事の知識や経験を活かしたかった、(イ)社会に役立つ仕事がしたかった、(ウ)年齢や性別に関係なく仕事がしたかった、ということが上位3位を占めている。

経験を活かして起業される方が約76%であり、未経験の分野に飛び込むということではなく、今までの仕事の流れで、同じ事を続ける方が多い

収入が最優先ではなく、「やりがい」や「生きがい」を重視し、リスクをとらず、身の丈にあった起業をされている方が多い。

そこで「ゆる起業」という概念((ア)楽しいと思える、(イ)やりがい、生きがいを感じる、(ウ)得意分野、(エ)投資はできる限り抑え、利益を追求しない、(オ)健康が一番)をおすすめしている。
 

3 澤岡 詩野氏(公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団研究部 主任研究員)

澤岡 詩野氏

〔澤岡 詩野氏〕

【報告のポイント】(発表資料はここをクリック)[PDFファイル/1.92MB]

「超高齢社会」についてくる言葉はネガティブなものが多い。これは戦後、寿命が60歳であった頃から、一気に進んだ長寿命化に社会や家族のあり方が対応できていないということではないか。

現在は社会のあり方や価値観を変えていく過渡期であり、すべての人間が担い手として、つくりあげていく必要があると感じている。

「人生100歳時代」、長寿命化が進む中で、どのような居場所を人が持ち続ければ豊かに歳を重ねることが出来るのか、どのような居場所が地域社会にあればよいのか、といった視点で研究を進めている。

居場所は(1)家庭、(2)学校、職場、(3)趣味や社会活動の大きく3つに分けられ、高齢期に一番重要となるのが、趣味や社会活動といった第三の居場所をいかにつくっていくか、ということ。

徐々に虚弱化(少しずつ動くのが億劫になったり、肩が痛くなったり)していく後期高齢期において持てる居場所は、徒歩圏・自転車圏内であり、地域にどのような第三の居場所をつくり、いかにここに出番や役割を持ち続けることができるのかが重要なポイントとなる。

生涯現役とは、アクティブに100歳まで生きることではなく、虚弱化していく状況に応じてできることを探し、最後まで続けていく、その素晴らしさを考えていくことから始まる。

安心して豊かに歳を重ねるために必要な地域社会とのつながりを考えると、地域に住む全員が、あいさつのできる人を徒歩圏・自転車圏内に三人以上持つことから、地域の新たな形がでてくるのではないかと思う。

4 牧野 篤氏(東京大学大学院教育学研究科 教授、東京大学高齢社会総合研究機構 副機構長)

牧野 篤氏

〔牧野 篤氏〕

【報告のポイント】(発表資料はここをクリック)[PDFファイル/5.3MB]

(1) 「高齢社会」とは

高齢社会というと、高齢者のことばかりが議論されているが、超高齢社会となっても、高齢化率は最大でも4割程度と予測されており、残り6割は高齢者ではなく、中壮年や若者、子どもたちだ。高齢者のことだけでなく、子どもたちは超高齢社会をどのように生きていったらよいのかということまで考えなければならないと思う。

その意味では、高齢社会は高齢者だけの社会ではなく、すべての人々が新しい社会的な価値をつくり出していく存在となるというとらえ方をする必要がある。

(2) 「少子化社会」「人口減少社会」とは

今から100年前には、生まれた子どものうち3割が1歳になれず亡くなっていた。だから人々は多産だった。人間の社会は多産多死が基本的な在り方だった。しかし、今では1歳未満どころか、子どもは生まれればおとなになると信じられる社会となっている。私たちは、そういう社会をつくってきたのであり、その結果の「少子化社会」なのだから、「少子化社会」とは決して悪い社会ではない。

しかし現在、合計特殊出生率1.4に対して、希望出生率は1.8であり、結婚している人に話を聞いても2.3人は子どもが欲しいという人が多い。皆が希望どおり産める社会であれば、こんなに急速に人口減少にはならないのだが、産めない社会となってしまっていることを、どう考えるかということが重要。

(3) 新しい社会のモデル

私たちは、工業化にともなって人口が急増し、社会がどんどん大きくなって経済が発展し続けるという、いわば拡大再生産が継続する社会を経験してきた。だから逆に、少子高齢・人口減少社会のモデルを持っていない。その点で私たちは自分の観念を変えつつ、新たなモデルをつくっていなかければならない時代に入った。

あと40年ほどで、総人口の10人に1人が要介護になる時代がやってくるとの予測がある。施設介護ではカバーしきれないので、コミュニティで受け入れて共生し、さらには健康寿命を延ばすことを考えなければならない時代に入っている。

高齢者が元気である要因として、運動・栄養があるが、そこに社会参加が加わるとさらに健康寿命が延びるとの研究結果がある。高齢者の社会参加を促す仕組みをつくっていく必要がある。

自分は社会の中で生きている、人とともに認めあう関係の中にいるということを実感しながら新しい社会をつくること、その基盤をどうつくるのか、このことを考えなければならない。

スペース

第二部の後半では、4人のパネリストにそれぞれ個人がどのように「人生100歳時代の設計図」を描いていくのか、及び社会として何を改善していくべきかという視点でお話をいただいた。

【パネル・ディスカッションでの主な発言】

前田氏:ライフプランなど、若者へ向けたメッセージを荻野氏へ伺いたい。

荻野 佳代子氏

〔荻野 佳代子氏〕

荻野氏:今の若い方々は社会に出る上で不安が大きいが、彼らに対して思うことは、視野を広げることの重要性であり、そのためには、色々な人と関わるという経験がとても大事だということである。特に今の学生は高齢の方と触れ合う機会がほとんどないことも多いが、いったん関われば多くを学んでくる。上の世代の方に積極的に飛び込む意欲がその第一歩になると考えている。大学が異なる世代間でコミュニケーションをとり、多世代で学ぶ場所になることも大事だと思う。

現在は職業キャリアが60歳までの約40年間だが、今の若者世代は80歳くらいまでの60年間働くことになるかもしれない。そのため、一つの会社でのキャリアにこだわらず、複数のキャリアを視野に入れてスキルを身につけること、特に変化において自分で選択をする能力、新しい環境に適応する能力を身につけなければならない。またこれまでは、一つの会社で年功序列により所得や地位が上がることで自分が認められたと感じられたかもしれないが、今後はかなわないかもしれない。変化のなかで意欲を維持していくことや自分なりの軸をもち、自分で自分を幸せにしていく力が必要になるのではないか。

人生100歳時代の社会を想定した場合、若者を育てる、バックアップするという視点が大事である。若い世代にはさらに次の世代につなぐ力が必要であり、その意欲や力を育てるために年齢に関わりなく、様々な世代の方が融合できるかたちをつくっていくことができたらよい。
 

前田氏:片桐氏は自身も転職を経験し、シニア起業を支援する会社を設立したが、当時はどのようなライフプランを描き、現在は将来に向けてどのようなことを考えているのかをお伺いしたい。

片桐 実央氏

〔片桐 実央氏〕

片桐氏:認知症になった祖母の介護をきっかけに、セカンドライフで働き続けることの大切さを感じ、27歳で起業した。20代のうちは人生を3年スパンで考え、これまで勉強してきたことを次のステージに活かすにはどうしたら良いか、ということを思いながら生活をしてきた。

30代になったこれからは、企業経営者として、3年と言わずに長期的にこの事業を続けていきたいと思っている。100歳時代と言っても、いきなり100歳を思い描くのは難しいと思うので、3年とは言わなくても、短期間で区切ってライフプランを考えていければと思う。

50代、60代の方は、「再就職」、「再雇用」、「起業」という3つの選択肢を天秤にかけてライフプランで悩んでいる方が多い。若いうちは「起業」か「再就職」という2択になるかもしれないが、50代、60代の方は並行して、再就職しながら起業をする、週2日は再雇用で、週3日は起業する、といった人生を歩んでいる方がいる。

ただ、起業を選んだ場合には、起業したいアイディアを見つけるのに時間をかけてほしい。というのは、50代、60代の方はアイディアを見つけるのに悩む方が非常に多く、経験が豊富でも、いざこれから自分が起業して何をやるのかとなると悩んでそこで止まってしまう方が実際多いからである。

社会の課題として考えるとすれば、アイディアを実際の事業計画にすることを支援する場面が少ないのが問題だと思う。50代、60代の方は定年まで一生懸命仕事をしているが、起業準備をしようとすると、会社に対して裏切っているような気持ちがあり、起業セミナーに来るということに対してもすごく躊躇して不安に思う方が多い。今後、日本の未来として「起業準備している」ということを会社の中で話題にできるような社会にできれば、起業準備が積極的に進められ、セカンドライフとしてスムーズな起業ができるようになるのではないか。
 

前田氏:高齢期の居場所をいかに確保するのかということが重要だと思うが、なかなか居心地のよい場所が見当たらなく苦労している方が少なくないと思う。澤岡氏に改めて「居場所」をどのようにしたら作れるのかをお伺いしたい。

澤岡 詩野氏

〔澤岡 詩野氏〕

澤岡氏:「居場所」を考える上で一番必要なのは、人とのつながりや活動、そういったものを人生60年時代を前提にした価値観ではなく、人生100歳時代を前提とした考え方、価値観に変えてくこと。実際に地域を回って話を聞くと、居場所をつくろうとしても、「地域」「活動」「ボランティア」「地域貢献」という言葉が重くのしかかり、深く考えすぎて、動けなくなっている方が多く見受けられる。「ゆるやかなつながり」「ゆるやかなかかわり」という部分で、徒歩圏・自転車圏、この散歩の途中に3人に挨拶できるつながり、それが最初の一歩になるのかなと感じている。

また、皆さんに持ってほしい視点は、人生100歳時代だと、例えば65歳から高齢期が始まったとすると35年、もしかすると40年という長い期間を考える必要があり、その時誰もが等しく歳を重ねていくことで進行していくいわゆる虚弱化に立ち向かい、付き合っていかなければならない中で、「居場所」をいかに持ち続けるか、といった視点である。

その中でも、今までやってきたことを100%同じようにやっていくことを「生涯現役」とするのではなく、「生涯現役」とは、それぞれができることを、その状況に応じて長く、ゆるやかに続けていけることであって、これこそが生涯現役として素晴らしい姿だと価値観を変えていかなければならないと感じる。

そうした意味で提案したいのは、県などで地域活動の猛者で素晴らしいことをやっている人だけを表彰するだけでなく、たとえば最後は寝たきりになっても、地域の子どもをちょっと目配りしているおばあちゃんなど、目立たなくても自分ができることをその状況に応じてゆるやかに続けていることで地域に役立っている、そういう方も素晴らしいと表彰するなど、自治体としても「生涯現役」には様々な姿がある、という価値観を変えていくムーブメントを起こしてほしいと思う。

 

前田氏牧野氏が考える理想の社会に向けてどのようなところを改善していく必要があるのかを伺いたい。

牧野 篤氏

〔牧野 篤氏〕

牧野氏:理想の地域社会ということについては、よくわからないところもあるが、つながりをつくる、もう一度つくり直す、つくりだすといったことが必要なのではないかと考える。私たちが重視しなければならないのは、次の3点。1点目は、価値の「豊穣性」、つまり様々な価値がこの社会でうまれ、組み換えられ、常に新たな価値へと変化していく、そういう豊かさを重視していかなければならないということ。2点目は、経済のベースとして市場の在り方をどう考えるのか、さらにそこから小さい「社会」をたくさんつくるということを考える必要があるということ。そして3点目は、そうした小さい「社会」を自分たちでつくりだして自分たちで経営していくこと、自分たちの取組がどんどん実現していく楽しさを自らのものにしていくという意味での「楽しい自治」を考えていく必要があるのではないか、ということである。

ものが売れなくなった要因としていわれることは、「豊穣性」が昔に比べ乏しくなったということだ。この場合の「豊穣性」とは人間関係といいかえてもいい。例えば、人は自分が天涯孤独だ、誰ともつながっていないという状況にあると、生理的な欲求が満たされればよく、よりよいものを求めようとしなくなってしまう。これに対して、人とつながっていると、いい車を買って家族や仲間を喜ばせたいと考えるなど、よりよいものを求める傾向にある。これを専門的には、「人は人の欲望を欲望する存在である」という。人は、他人の欲望が満たされる喜びを自分の喜びにしたいと願う存在だということである。その喜びは他人とのつながりの中で生まれるものだ。現在の私たちは孤立する、人々との関係が切断されることで、「豊穣性」の乏しい社会、つまりものが売れない社会をつくってしまったのではないだろうか。豊かな人間関係があると、私たちは、お互いに想像力を働かせて、あの人はこれが好きだろう、自分はこれが好きだからといった関係をつくって、自分が嬉しくなるように、ものを選択して買っていく。そこには他人に対する想像力と社会に対する信頼が存在している。これが、市場の本来の在り方なのであり、私たちは改めて市場を人と人とをつなげるものとして、紡ぎ直さなければならないのではないだろうか。

また、従来の日本の社会つまり製造業中心の社会は、皆が同じように働いて、お金を儲け、中流階級になって、ということをベースとしてつくられた社会だった。教育も、極論すれば、みなが同じように動く人間つまり労働者と消費者をつくることが役割であり、そうすることで日本は工業社会を発展させてきた。しかし、今はその基盤である経済そのものが多様化してしまっており、皆が同じである状況では対応しきれない社会となった。

こういう新たな社会で、自分たちはそれぞれに異なっているということを前提にして、豊かな価値をつくりだす営みを進めなければならない。この社会では、一つの基準にもとづいて競争して勝つのではなく、違う価値がぶつかりあう中で、新しい価値をつくりだす力を持った人材が求められてくる。

そうしたことを実現していく楽しさを自らのものとするため、「楽しい自治」を考えていく必要がある。受身ではなく、行政に依存するのでもなく、積極的に社会をつくりだし、それを経営する楽しさを自らのものにしていく。こうしたことがこれからは求められてくるのではないかと思う。

 

前田氏:パネル・ディスカッションを終えるに当たり、一言だけ申し上げたい。皆さんが自分自身の「人生100歳時代の設計図」を作成することは有意義なことであるが、それだけで終わってしまうともったいない。描く設計図を現実にするためには、皆さん一人ひとりが考え方を変えていくとともに、社会も変えていかなければならない。個人と社会が双方向で「人生100歳時代の設計図」に取り組んでいくことを期待している。

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