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神奈川県微生物検査情報

神奈川県衛生研究所

第161号

2006年4月
(2006年7月18日発行)

 
特集

ヘルパンギーナ、手足口病の今シーズンの流行状況
および昨年までのウイルス分離状況



  ヘルパンギーナと手足口病は、どちらも乳幼児を中心に夏季に流行する急性ウイルス感染症です。今年も流行シーズンを迎えましたので、現在の流行状況と昨年までのウイルス分離状況について紹介します。

ヘルパンギーナの流行状況、ウイルス分離状況
  ヘルパンギーナは乳幼児を中心に夏季に流行する、発熱、口内炎、咽頭痛を主症状とした急性ウイルス性咽頭炎(いわゆる夏かぜ)です。病原体はエンテロウイルスであるA群コクサッキーウイルス(CA)が主な病因であり、CA2、4、5、6、10型などの血清型が多く分離されます。
  今シーズンの神奈川県域(横浜市、川崎市を除く)のヘルパンギーナの週別患者報告数は、第22週(5/29〜6/4)に定点当たり1.0人を超え、第25週(6/19〜6/25)には警報基準値(定点あたり6.0人)も超え、7.07人となっています。今シーズンは例年に比べて非常に早くから流行が始まり、流行規模は昨年を越えつつあり、さらには2001年にせまる大流行の兆しが見られます(図1)。

図1  ヘルパンギーナ定点当たり報告数推移  (2001-2006年)
図1  ヘルパンギーナ定点当たり報告数推移  (2001-2006年)


  昨年の神奈川県域(横浜市、川崎市、横須賀市、相模原市を除く)におけるヘルパンギーナ患者検体からのウイルス分離結果を表1に示しました。2005年は35検体の検査を実施し、ウイルスが分離された26検体のうち15検体からCA6型が分離されたことから、2005年のヘルパンギーナの主因ウイルスはCA6と推測されました。今シーズンのウイルス分離については現在検査中です。


表1  ヘルパンギーナ患者からのウイルス分離数(県域)
表1 ヘルパンギーナ患者からのウイルス分離数(県域)


手足口病の流行状況、ウイルス分離状況
  手足口病は乳幼児を中心に夏季に流行し、手や足および口腔粘膜に現れる水疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス感染症です。発熱は約3分の1に見られますが、38℃以下がほとんどです。主な病原ウイルスはエンテロウイルス(EV)71型とA群コクサッキーウイルス(CA)16型です。
今シーズンの神奈川県域(横浜市、川崎市を除く)の手足口病の週別患者報告数は、第25週(6/19〜6/25)で定点当たり0.64人であり、大きな流行はまだみられていません(図2)。ただ、小田原、足柄上保健所管内では、各定点当たり2.83人、5.00人と、局地的に流行が観察されています。


図2 手足口病定点当たり報告数推移 (2001-2006年)
図2  手足口病定点当たり報告数推移 (2001-2006年)


  昨年の神奈川県域(横浜市、川崎市、横須賀市、相模原市を除く)における手足口病患者検体からのウイルス分離結果を表2に示しました。2005年は46検体の検査を実施し、37検体からウイルスが分離されました。そのうち17検体からCA16型が、13検体からEV71型が分離され、2005年はCA16型とEV71型の混合流行と推測されました。また5検体においては重複感染が見られました。今シーズンのウイルス分離については現在検査中です。


表2  手足口病患者からのウイルス分離数(県域)
表2 手足口病患者からのウイルス分離数(県域)

おわりに
  ヘルパンギーナ、手足口病の感染経路は、主に咳やくしゃみなどによる飛沫感染、接触感染や糞口感染です。感染予防としては、うがい、手洗いの励行や排泄物の適切な処理が重要となります。
  どちらも基本的には予後が良い疾患ですが、エンテロウイルスの特徴として、まれに無菌性髄膜炎や急性心筋炎等を合併することもあります。また、有効なワクチン等がなく、一旦流行すると、流行が拡大するため、特に保育所、幼稚園等の小児の集団生活施設では、感染の広がりに注意が必要です。
  流行監視には患者発生動向の把握と同時に、病原体の分離・同定も重要な情報となります。当所では、ウイルス分離・同定率の向上のため、様々な分離・同定方法を使用し、多様なウイルスを分離することを目的に調査を実施しております。今後とも病原体定点機関の先生方のご協力をよろしくお願いいたします。これからも積極的な流行状況の把握に努めていきます。
(エイズ・インフルエンザウイルスグループ 嶋 貴子)







表1  ヒト由来病原体検出状況―平成18年4月
            発生保健所





       検出病原体
 区分
食中毒および感染症発生に伴う行政検査 病原体定点 ※1 菌株
精査
平塚
保健
鎌倉
保健
小田
原保
健所
茅ヶ
崎保
健所
三崎
保健
秦野
保健
厚木
保健
大和
保健
足柄
上保
健所
津久
井保
健所
藤沢
市保
健所
相模
原市
保健
横須
賀市
保健
県域
外か
らの
依頼
※3
小計 小児
眼科 基幹
細菌 腸管出血性大腸菌(EHEC)   2   2                     4         4
その他の大腸菌 ※2                         1   1 2       3
カンピロバクター  ジェジュニー                         1   1 2       3
A群溶血レンサ球菌                                 3       3
ウエルシュ菌         80                     80         80
小     計   2   82                 2   86 7       93
ウイ
ルス
ムンプス                                 2       2
アデノ 3                                 4       4
アデノ(型未決定)                                 1       1
単純ヘルペス 1                                 1       1
ロ   タ                       1       1 8       9
ノ   ロ   10 4   3     17             2 36         36
小     計 10 4   3     17       1     2 37 16       53
10 6   85     17       1   2 2 123 23       146
※1:病原体定点の検出数は藤沢市、相模原市、横須賀市も含めた定点の合計を計上した。
※2:EHEC/VTEC・ETEC・EIEC以外の大腸菌 ※3:関連調査
    検出概要
  •  4月の病原体検出数は146件、細菌93件、ウイルス53件であった。
  • 表1では、食中毒および感染症発生に伴う行政検査(細菌86件、ウイルス37件検出)、病原体定点からの検査(細菌7件、ウイルス16件検出)に分けて示してあります。
  • 食中毒および感染症発生に伴う行政検査の分野では、ウエルシュ菌検出が80件、ノロウイルス検出が36件と多数の検出数となっています。これらはすべて集団発生事例からの検出でした。



表2 病原体検出情報(疾患別) −平成18年4月
疾患名             検出病原体 腸管
出血
性大
腸菌
  感
染症
つつ
が虫
RS
ウイ
ルス
感染
咽頭
結膜
感染
性胃
腸炎
手足
口病
ヘル
パン
ギー
麻し
ん(
成人
麻し
んを
除く
流行
性耳
下腺
イン
フル
エン
ザ様
流行
性角
結膜
無菌
性髄
膜炎
成人
まし
A群
溶レ
ン菌
咽頭
淋菌
感染
百日
その
有症
苦情
食中
合計
細菌 検査検体数 15       18           1     4 1 1     107 147
腸管出血性大腸菌 4                                     4
病原大腸菌         2                       1     3
カンピロバクター ジェジュニー         2                           1 3
A群溶血レンサ球菌                           3           3
ウエルシュ菌                                     80 80
                                         
小 計 4       4                 3     1   81 93
ウイ
ルス
検査検体数       6 47 1     2     1 1       7   155 220
ムンプス                 1     1               2
アデノ 3       4                               4
アデノ(型未決定)         1                             1
単純ヘルペス 1           1                           1
ロ タ         9                             9
ノ ロ         10                           26 36
小 計       4 20 1     1     1             26 53
4     4 24 1     1     1   3     1   107 146
※ 4月より横須賀市、相模原市、藤沢市の検体が含まれています

    検出概要
  • 4月は、感染性胃腸炎患者からのロタウイルスの検出が9件と多かった。
  • 疾患別検出状況においても、4月は集団発生事例を含む感染性胃腸炎および食中毒からの検出数が多かった。
  • 感染性胃腸炎では細菌およびウイルスが検出され、検出病原体も多種類にわたった。
    なお、4月は感染性胃腸炎に対して細菌の検出率は22.2%であり、ウイルスの検出率は42.6%であった。

    細菌検出状況
  • A群溶血レンサ球菌が咽頭炎患者から3件検出されているが、その血清型はT1(1件)およびT4(2件)であった。これらは全国の上位検出数の50%を占めるT12、T1およびT4のうちの血清型であった。
  • 腸管出血性大腸菌は、4月には4件検出された。そのうち2件は茅ヶ崎保健所管内の腸管出血性大腸菌患者発生届に伴った関係者の検査からO157:H7(VT1,VT2保有)が検出され、他の2件は鎌倉保健所管内の患者の経過観察の検査からO28ac:HNT(VT2)が2回(2件)検出された。

    ウイルス検出状況
  • アデノウイルス3型が咽頭結膜熱患者6件から4件検出されている。型はいずれも咽頭結膜熱の主な病原体であり、日本では3型が一番多く分離されている。


    ウエルシュ菌食中毒事例
      茅ヶ崎保健所管内において、4月15日から4月17日、病院給食施設においてウエルシュ菌を原因とする食中毒事例が発生した。
      患者は96名であったが、そのうちの患者78名、調理従事者、3日間の保管食材、ふき取り検査および排水についても検査をしたところ、患者70名、調理従事者10名、保管食材1品目(エビボールのスープ煮)からウエルシュ菌が検出された。
      菌が検出された患者70名及び調理従事者10名の便、保管食材1品目をRPLA法により検査したところ患者64名、調理従事者9名、保管食材1品目からエンテロトキシンが検出され、エビボールのスープ煮が原因食品と推定された。また分離した菌株はPCR法で毒素遺伝子が確認された。 

    ノロウイルスを原因とした集団発生事例
      ノロウイルスによる集団発生は、4月は5事例であった。そのうちの3事例は仕出し屋、宗教施設等における食中毒様胃腸炎の集団発生であり、ノロウイルスが26件検出された。また、感染性胃腸炎の集団発生は2事例あったが、そのうちの1事例は学校給食による事例で、ノロウイルスが10件検出された。いずれも遺伝子群はGUであった。
      なお、食中毒様胃腸炎とは食品を介して発症する場合の取り扱いであり、それ以外を原因と推定される場合は感染性胃腸炎として取り扱っている。



表3 ヒト由来病原菌検出状況(月別) −平成18年4月
 
                  月


 菌種・型別














1
7







1
8


腸管出血性大腸菌(EHEC)   2 1 6 4 5       18 1   3 4 8
毒素原性大腸菌(ETEC)           3       3          
その他の大腸菌※※   13   2 2 1   1   21 4 3 1 3 11
パラチフス A菌                              
サルモネラ O4群                              
サルモネラ 07群           5       5   4     4
サルモネラ O8群                         1   1
サルモネラ O9群   1     1   1 2   5     1   1
O1&O139以外のコレラ菌                              
腸炎ビブリオ         24 7       31          
エロモナス キャビエ         1         1          
カンピロバクター ジェジュニー   2 8 15 8 5 5 6   49     7 3 10
カンピロバクター コリー                              
黄色ブドウ球菌           1   3   4          
ウエルシュ菌 28   8             60       80 80
セレウス菌   1               1          
赤痢菌 D群                              
A群溶血レンサ球菌  2 4           1 1 9 4 4 5 3 16
マイコプラズマ ニューモニエ       3     4 1   8   1     1
                               
    合    計 30 23 17 26 40 27 10 14 1 215 9 12 18 93 132
※ 平成18年4月より横須賀市、相模原市、藤沢市の検体が含まれています
※※:EHEC/VTEC・ETEC・EIEC以外の大腸菌

    検出概要
  • 腸管出血性大腸菌および病原大腸菌は、ほぼ毎月検出されているが、同一の血清型が検出されているというわけではなく、4月はO157:H7(VT1,VT2保有)、O28ac:HNT(VT2)が検出された。
  • 4月のウエルシュ菌80件は食中毒の発生に伴うものである。
  • カンピロバクタージェジュニーは、毎月のように検出されており食中毒由来がほとんどであるが、4月は病原体定点からの検出であった。
  • A群溶血レンサ球菌は、平成18年1月〜4月の患者報告数の多いことを反映して、昨年を上回る検出数となっている。




表4 ウ イ ル ス 検 出 状 況 (月別) −平成18年4月
      疾 患 名






 検出ウイルス
 

 

 

 

 

 












 

 

 

 







インフルエンザ AH1                 6 6 19 19 6   44
インフルエンザ AH3                 3 77 136 35 1   172
インフルエンザ B                   105          
パラインフルエンザ 1                     1 1     2
R  S               1   1   1     1
ポリオ 3   1               1          
コクサッキー A2                   1          
コクサッキー A4       1           1          
コクサッキー A5         1         1          
コクサッキー A6   2 9 12           23          
コクサッキー A9             1     1          
コクサッキー A10     1       1   1 3          
コクサッキー A12       1           1          
コクサッキー A14     1   1         2          
コクサッキー A16     4 4 2 4   1 1 17          
コクサッキー B3       1           1          
エコー 3     2 1           3          
エコー 6     2             2          
エンテロ 71   1   5 5     1 1 13          
パレコー 1             1     1          
ラ イ ノ           1       1          
ムンプス   5 10 2     2 1 1 21   1   2 3
アデノ 1                         1   1
アデノ 2   1 1 1           4   1     1
アデノ 3     1   1   1 1 1 8   2 2 4 8
アデノ 4                   1   1     1
アデノ 5   1               1          
アデノ 40/41               2   2          
アデノ(型未決定)                           1 1
単純ヘルペス 1     1       2     4 1     1 2
ロ   タ 1 12             1 27 1   22 9 32
小 型 球 形                              
ノ   ロ 2 17 7       1 21 44 237 80 13 13 36 142
サ   ポ   31               31          
合   計 3 71 39 28 10 5 10 40 59 610 238 74 45 53 410
※ 平成18年4月より横須賀市、相模原市、藤沢市の検体が含まれています

    検出概要
  • インフルエンザウイルスは、3月まで検出されたが、4月に入り検出例はなかった。
  • 咽頭結膜熱(プール熱)の主な病原体とされているアデノウイルス3型が年間を通じて検出されており、全国情報ではアデノウイルス感染症、上気道炎、インフルエンザと診断された患者からも検出されている。4月は咽頭結膜熱からの検出であった。
  • ノロウイルスの3月、4月の検出は食中毒様の胃腸炎事例および感染性胃腸炎事例からの検出であった。
  • ノロウイルスが食中毒事例、集団発生事例を反映し4月は最多の検出件数となっている。



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