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[2004.3.11掲載]

中国製ダイエット用健康食品の健康被害

理化学部 薬事毒性グループ 小島 尚

● 内容


 
《過去の健康食品による健康被害》
   平成14年の夏、連日のように新聞やテレビで中国製のダイエット用健康食品を利用した人たちに、肝障害を初めとする健康被害が発生していることが報道されました。これまでにも、その標榜する効果を高めるため、健康食品に医薬品成分を添加した事例が報告されています。神奈川県では昭和50年代から、健康食品への医薬品成分の混入を監視していますが、痩身効果を謳った製品では緩下薬のセンナやダイオウ、強壮強精効果を謳った製品ではクエン酸シルデナフィルや局所麻酔薬、抗アレルギー作用を謳った製品ではステロイドホルモン、また、血糖制御効果を謳った製品では経口血糖降下薬などの様々な製品に多様な医薬品成分が添加されていたことを報告しています。毎年、医薬品成分の検出事例がみられ、その種類や件数は増加する一方です。特に、平成8年の夏、健康茶"寧紅減肥茶"から塩酸フェンフルラミンを検出した事例は全国に先駆けるものでした。塩酸フェンフルラミンは覚せい剤と類似した構造を持ち、副作用に重篤な循環器障害が報告されている向精神薬に分類される中枢性食欲抑制薬です。当時、マスコミでも盛んに報道され、社会的に影響の大きな事例で、その様子は衛研ニュース76号に掲載されています。

《N-ニトロソフェンフルラミンは何?》 
   昨年の中国製ダイエット用健康食品には、当初、表示成分に肝機能障害を起こす成分はなく、また、健康被害が報告された検体を厚生労働省が実際に分析しても、肝障害の原因となる物質は判明しませんでした。 しかし、死亡事例を含め健康被害は拡大する一方であり、海外でも健康障害が発生していることが報道されました。このような事態を受け、健康被害の原因物質は特定できていない状況ではありましたが、広く一般に注意を喚起するため厚生労働省も健康被害が発生した商品名を公表する異例の措置をとりました。それと並行して含有成分の検討がすすめられた結果、フェンフルラミンを化学的に修飾したN-ニトロソフェンフルラミンを含むことが判明しました。しかし、この誘導体に関する情報はほとんどなく、健康への影響や毒性に関する資料もありませんでした。重篤な肝障害を発症した商品に共通してN-ニトロソフェンフルラミンが含まれていたことから、厚生労働省ではこの化学物質を健康被害の原因物質と捉え、医薬品成分に加え薬事法による取り締まりを行いました。平成15年4月現在、死亡者4名、健康被害874名が報告されまています。その内訳は「御芝堂減肥こう嚢」、「せん之素こう嚢」及び「茶素減肥」の3品目が3名の死亡者を含む425名の健康被害を出し、肝障害を含む健康被害が報告された製品が40製品、また、健康被害は報告されていないがN-ニトロソフェンフルラミンを含む製品が12製品に及びました。また、一昨年から、中国製のダイエット用健康食品から乾燥甲状腺末が検出される事例が報告されていましたが、今回の製品の中にも、乾燥甲状腺末を含む製品が報告されました。また、全国的な調査結果から、製品が新しくなるほどN-ニトロソフェンフルラミン含有量が増加する傾向にあり、同一名称でも含有量や成分が異なるなど性状に差異があることが報告されました。そして、もっとも特筆すべき点は既存の医薬品成分ではなく、ドラッグデザインした新規の化学物質を原因とすることでした。

《神奈川衛研の対応》
   当所でも得られた情報を基に試験体制を整えました。医薬品成分の含有を試験する場合、標準品としての医薬品が必要となります。今回、新規の化学物質であることから、N-ニトロソフェンフルラミンについて国立医薬品食品衛生研究所から分析方法や物質に関する情報がネットワークなどを通じて公表されました。その資料と塩酸フェンフルラミンをニトロソ化して調製したN-ニトロソフェンフルラミンとの比較を行い、標準品として使用できることを確認しました。神奈川県でも健康被害の発生が医療機関などから薬務課や保健所に報告されました。実際に使用され、当所で分析した検体は通信販売など国内業者からや、インターネットで個人輸入により入手された製品などで、入手ルートは異なっていましたが、被害の多かった3製品が検体の半分を占め、形状はカプセルがほとんどでした。液体クロマトグラフ-質量分析計やガスクロマトグラフ-質量分析計などによる精密分析を行い、19検体中10検体からN-ニトロソフェンフルラミンを、また、3検体はフェンフルラミンのみを検出しました。N-ニトロソフェンフルラミンを検出した製品では1検体を除いてすべての検体からフェンフルラミンが検出され、微量であることから原料に由来すると考えられました。同一製品名でも検体によりN-ニトロソフェンフルラミン含有量が異なりました。さらに、乾燥甲状腺末も8製品から検出されました。試験方法は乾燥甲状腺末中に存在する甲状腺ホルモンを液体クロマトグラフ-質量分析計で測定しましたが、煩雑な前処理を必要とするため、迅速な試験が求められていました。当所において、乾燥甲状腺末を形態学的に観察する方法を確立し、一次スクリーニングでより迅速な試験結果が得られるように改良を行いました。実際に試験した結果や得られた調査結果を厚生労働省がまとめ発表しましたが、神奈川県で初めて医薬品成分が検出された製品もその中にありました。また、平成8年に問題となった塩酸フェンフルラミンが添加された製品が今でも流通していました。

《なぜ!N-フェンルラミンを入れたの?》
   なぜ、N-ニトロソフェンフルラミンを添加したのでしょうか? おそらく、塩酸フェンフルラミンの分析方法では化学的に修飾したN-ニトロソフェンフルラミンは検出できないためと思われます。意識的に標榜する食品の効果を高めようとした巧妙な方法であり、さらに、より強い効果を求めた結果、新しいものほど含有量が増加したものと考えられます。平成15年初め、N-ニトロソフェンフルラミンの動物実験の結果が発表され、肝機能障害が起こることが確認されました。このような成分を添加した製品から健康被害を未然に防止するには、「飲むだけで痩せられる」、「食べても痩せられる」など安易な宣伝文句にのらないことが重要です。健康食品はあくまで食品であり、医薬品のような効果を期待することはできません。また、個人輸入や海外土産などの健康食品には潜在的リスクがある場合があり、公的機関や報道機関からの正確な情報に注意する必要があります。

《今後も調査します!》
   今後も、当所では健康被害の未然防止、被害の拡大防止のため、医薬品成分を添加した食品や流通する化学物質や植物などに健康被害の原因となるような製品がないか、情報収集や試験調査などを行い、安全で健康な暮らしづくりに役立つよう努めます。 著作権は神奈川県衛生研究所に帰属します。




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