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[2004.3.11掲載]

食品安全基本法の制定と残留農薬基準の改正について

理化学部 食品汚染物質グループ 岸 美智子

● 内容


《食の安全確保の仕組みが変わりました》
   今年5月に食品安全基本法が制定されました。平成14年度は、前年のBSE(牛海綿状脳症)問題に引き続き、中国産野菜の残留農薬問題、国内の未登録農薬問題等”食の安全”への信頼を揺るがす事態が相次いで明らかになり、安全なものを安心して食べたいという消費者の声が一段と大きくなった年でした。
   食品関連企業においては、信頼をとりもどす対策として、産地や生産者名等の情報を提供したり、全製造工程を遡ってたどることができるトレーサビリティシステムの導入や自主検査体制の強化が進められています。
   国では『食の安全』を確保する仕組みとして、新たに食品安全基本法を制定し、食品安全委員会(http://www.fsc.go.jp)を発足させるとともに、また食品衛生法を大幅に改正しました。

表1.食品安全確保に係わる施策策定の基本方針


  • 科学的知見に基づく健康影響評価の実施とその結果に基づく策定

  • 情報及び意見の交換の促進
  • 関連行政機関の密接な連携
  • 試験研究体制の整備、情報収集及び教育、学習、知識、理解の振興
  • 表示制度の適切な運用の確保
  • 環境に及ぼす影響の配慮


《何が変わったのか?》
   食品安全基本法は、これまで生産側面と消費側面に分かれて行われていた、食品安全確保に関する施策を、総合的に推進するために制定されました。施策策定は、1.国民の健康保護を最優先する2.すべての供給行程で対策をとる3.健康影響は未然防止するの3点を基本理念とし、基本方針は下記の枠内に示したとおりです。これらは食品の安全確保に臨んで留意されてきた事柄であります。  
   今回注目されるのは、国、地方公共団体、食品関連事業者の責務とともに消費者の役割が明記されたことです。また行政機関とは独立した食品安全委員会が設置されたことです。
   食品安全委員会は、研究者により構成された生物系、化学物質系、新食品系の3つの評価チームが、科学的な健康影響評価(リスク評価)を行うとともに、施策を審議し、実施状況を監視するなど、総合的食品安全確保の中核機関となります(図1)。

図1.食品安全委員会の組織と機能

   これは食品の安全確保の方法として国際的にも推奨されているリスク分析手法を取り入れたものであります。リスク分析手法においては、あるリスク(危険)に対し、図2に示すようにリスク評価(リスクアセスメント)、リスク管理(リスクマネージメント)、リスクコミュニケーションの3要素それぞれが独立して機能することが基本です。リスク評価の結果は、リスク管理機関に通知または勧告され、リスク管理機関はリスクを低減下するための対策を決定し、実施しなければなりません。リスクコミュニケーションは、すべての関係者の参加を前提とするため『国、地方公共団体及び食品関連事業者の責務並びに消費者の役割』が明記されました。  

図2.リスクアナリシスの3要素とその関係

   科学的な健康影響評価は、これまでも国公立研究機関、大学及び企業の研究者によって行われてきました。リスク管理を行う機関も従来と変わりません。しかし、行政から独立して、安全対策の中核となる食品安全委員会が設置されたことで、検討内容が透明化され、リスクコミュニケーションが円滑に行えるシステムができました。  
   食品の安全に係わるすべての人々の間で、情報及び意見の交換が活発に行われ、安全確保のレベルアップが図られることが期待されます。消費者にも意見表明の機会がありますので、情報を理解し、議論に参加することが望まれます。

《残留農薬基準はポジティブリスト方式になります》 
   食品衛生法が改正され、残留農薬等に係わる基準も『残留基準が設定されていない農薬は残留してはならない』というポジティブリスト方式に変更になります(平成18年度実施)。  
   残留基準が設定されている農薬は、平成15年5月現在で、229種であります。しかし国内で使用が認可されている農薬は約400種あり、世界中では約700種が使用されています。  
   食品衛生法による農薬残留基準は、法律で使用が許可され、また使用実態が多い農薬から順次定められてきました。基準となる残留濃度の設定は、毒性評価結果に基づいて決まるADI値(一日摂取許容量)と一日平均摂取量から決定されるため、時間がかかります。世界各国から農産物が輸入されている現状では、使用されている農薬それぞれについて評価を行い、残留基準の設定を待っていたのでは、現存するかも知れないリスクの排除に間に合いません。また、これまでのように、基準の無いものは規制の対象としない制度では、リスク排除において充分とは言えません。そこで前述したようにポジティブリスト方式が採用されることになりました。

《食の安全・安心を回復するために》
   食品安全基本法ができ食品衛生法が改正されても、故意または不注意により、法を逸脱する危険性は、いつでも存在します。 
   また、安全性が確保できる基準を定めても、実際の状況を監視し、検証する手段がなければ、違反品を排除する事はできません。
   当所は本年6月に茅ヶ崎市へ移転し、質量分析検出器付ガスクロマトグラフィ(GC/MS)や質量分析検出器付液体クロマトグラフィ(LC/MS/MS)など新しい分析機器が導入されました。現在、平成18年から実施されるポジティブリスト方式に基づいた違反品の排除に向け、監視や摘発に使用できる分析方法の開発等準備をすすめています。
   今回改正された食品衛生法では、『農薬、飼料添加物及び動物用医薬品の成分を残留基準を超えて含有する食品は、製造、輸入のみならず、加工、使用、調理、保存も販売もしてはならない』とされ、食品関連事業者の管理責任が、これまで以上に問われることになります。  衛生研究所でも、農薬に限らず食品に残留する化学物質を監視する事業を推進し、食品の安全を確保することで、県民の皆様に安心して食生活を楽しんでいただけるよう、体制を整えたいと努力していきます。




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