神奈川県衛生研究所

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[2004.09.28掲載]

プールで泳いでクリプトスポリジウムに感染!!

-親水施設( recreational water )におけるクリプトスポリジウム感染について-

解説内容 今回の事例
顕微鏡写真
  クリプトスポリジウムとは?
  プールで感染が起きる理由
  プール使用上の注意点
  海外の状況
   

顕微鏡写真(神奈川県衛生研究所撮影)

今回の事例

今年の8月に、日本で最初のプールを介したクリプトスポリジウム症の集団発生がありました。長野県のスポーツ施設の千葉県と埼玉県からの利用者217人が下痢や腹痛などの症状を訴えました。症状があった人が千葉県に戻って利用した8ヶ所のプールのうち2ヶ所からクリプトスポリジウムが検出され、これらのプールの利用者1人ずつがさらに感染しました。

クリプトスポリジウムとは?

クリプトスポリジウムは原虫という単細胞生物の1種で、人の小腸の上皮細胞に寄生し、そこで増殖します。やがて殻をかぶった4x6μmの大きさのオーシスト(写真)が便とともに排出されます。このオーシストを飲み込むことで感染します。感染してから4~10日後に下痢や腹痛、38℃を越えない発熱、食欲不振、嘔吐などの症状が出てきます。通常、症状は1~2週間続きますが、強弱を繰り返して1ヶ月くらいになることもあります。幼児や高齢者、免疫不全者は症状が重くなることがあり、有効な治療法がないので、特に注意が必要です。

プールで感染が起きる理由

プールの水は、残留塩素の濃度を0.4mg/L以上1.0mg/L以下に保って消毒されていなければならないことになっています。それでもプールを介してクリプトスポリジウム症が集団で発生したのは、クリプトスポリジウムの次のような特徴が関連しています。
1)オーシストはオーシスト壁という殻に覆われていて、塩素などの通常の使用方法での消毒薬は効果がない。
  
したがって、プールの中にオーシストが浮遊していても感染力を失うことはありません。
2)患者の便中には大量のオーシストが排出される。
  多いときは便1g中100,000,000個(1億個)に達すると言われています。
3)少ない数のオーシストを飲み込むことで感染する。
  10個前後を飲み込むことで感染することがあると言われています。
  例えば、500トンの水量があるプールが1gの便で隅々まで汚染されると、コップ1杯(200ml)中に40個、小さじ1杯(5ml)中に1個のオーシストがあることになります。

プール使用上の注意点

したがって、クリプトスポリジウムに感染している人が水泳中に偶発的に排便してしまい、あるいは体に付いたオーシストがプール内で浮遊し、水泳中にプールの水とともに飲み込むことで感染してしまいます。ごく少量の便がプール内に漏れてしまっても、プール全体を汚染するに充分な数のオーシストが含まれていれば集団発生が起きてしまいます。

プールでの感染を予防するには、①下痢をしていたらプールに入らない。②プールに入る前にシャワーでよく洗う。③プールに入る前や水泳中に便意があれば直ぐに排便し、よく洗う。④プールの水はできるだけ飲まないようにする。といったことを守る必要があります。

海外の状況

プールなどの親水施設でのクリプトスポリジウムの集団感染は米国を始めとする諸外国でこれまでに多くの例が報告されていて、海外でも決して珍しいことではありません。米国の疾病予防対策センター(CDC)には年に平均5例前後が報告されていますが、徐々に増える傾向にあり、1999~2000年のまとめでは、飲料水を介したクリプトスポリジウム症の集団発生が1事例に対して、親水施設関連は16事例と圧倒的に多くなっています。