生涯学習コラム
「紅葉坂だより」
「生涯学習」の多様性は、人の数だけ学びがあることを示しています。学習相談員もまた、さまざまな分野にわたって関心を抱きながら日々実践しています。この学びはどこにつながるのか、地域の中でどう活かせるのか、人とどうつながるのかなど、その方向性やあり方にも興味を抱いています。
本コラムでは、さまざまな観点から幅広い生涯学習を紹介しています。
身近な専門家・達人に学んでみよう
2025/03/18
人生100歳時代、より豊かで充実した人生を送るため「生涯学習」への注目度がますます高まっています。生涯学習の一環として美術館や博物館へ足を運ばれ、芸術や文化に触れて学びを深めている方も多いと思います。鑑賞のあと、さらに関連の本を読んだり、作家・芸術家の記念館を訪れたり、史跡や公文書館・資料館などまで足を延ばされている方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、一人で学んでいるとモチベーションの維持も難しく「もっと掘り下げて学びたい」などいろいろ悩みも出てきませんか?
そこで、より専門的な知識を得るために、また次のステップへのヒントを見つけるために、身近な専門家・達人に学ぶ機会をご紹介したいと思います。
美術館や博物館は、展示だけではなく講座やセミナーを開催しているのをご存じでしょうか?第一線で活躍する専門家やアーティストの貴重な話を聴ける機会に出会えるかもしれません。
今回は、実際に参加してきた2つの講座をご紹介します。皆様の参考になればと思います。
【神奈川県立金沢文庫】
講座名:仏師運慶の生涯―史料から読み解く
特別展「運慶―女人の作善と鎌倉幕府―」に関連した講座として開催されました。
平安時代から鎌倉時代を生きた運慶の生涯を文献史料(古文書・古記録・聖教・像内納入文書など)を使って解説するものでした。中でも称名寺が所蔵する「称名寺聖教」は金沢文庫が管理しており、運慶一門が関わった東寺講堂仏の修理・新造についての記述があります。講座の後に展示を見るとその貴重さが実感でき、古文書をもう少し自分で読めるようになりたいと思いました。

【神奈川県立近代美術館 鎌倉別館】
講座名:「神奈川県立近代美術館 鎌倉別館」40周年記念連続講演会(全5回)
第4回「鶴岡八幡宮寺二十五坊跡の現在―古都鎌倉の遺跡地と古都保存法―」
一見、美術館とは関連の無さそうな講座ですが、実は近代美術館 鎌倉別館は二十五坊跡の一角に建設されています。(1962年に県営駐車場として造成された後、1981年に発掘調査が行われ鎌倉別館が建設されたそうです。)
鶴岡八幡宮は廃仏毀釈前まで鶴岡八幡宮寺として神職の他に僧侶も多数おり、彼らの住まいが二十五坊でした。この二十五坊跡に1963年宅地造成の話が持ち上がり、市民の反対運動が起こりました(御谷騒動)。これが日本初のナショナルトラスト運動となり1966年の古都保存法制定につながります。
講座では、市民と業者の攻防が語られ、こんなにも手に汗握るやり取りだったのかと驚きました。改めて、ナショナルトラスト運動の歴史に興味をひかれました。

最後にボランティアガイドによるツアーをご紹介します。
地元に詳しいガイドの方々は、勉強会・研修会で学ばれるだけではなく、日々図書館に通って様々なことを調べてツアーに臨まれているようです。私たちの身近にいる地域の達人です。
【NPO法人鎌倉ガイド協会】
ツアー名:「山ノ内・扇ガ谷の名刹に紅葉を求めて―明月院、海蔵寺、期間限定公開の長寿寺参拝」
紅葉はもちろん、各お寺の起源・歴史・見どころのお話を聞くことができ興味深かったです。特に、こぢんまりした印象の明月院の変遷が印象に残りました。明月院は、平治の乱で戦死した山ノ内首藤俊通の菩提を弔うための明月庵を起源としています。同地に八代執権北条時宗が禅興寺を創建し、室町時代に明月院はその支院となります。禅興寺は寺域を拡大し、足利義満の時代には建長寺の近くまであったそうです。今では山林や宅地になっているところまでお寺の敷地だったのだと思うと、当時の寺院勢力の大きさを伺い知ることができました。

今回参加したイベントは終了していますが、お住まいの近くの美術館・博物館でも様々な講座やセミナーが開催されているはずです。また、ガイドボランティア団体も各地にあります。ホームページなどを定期的に確認すると出かけてみたくなる情報に出会えるかもしれません。是非、身近な専門家・達人に会いに行ってみてください。