インタビュー
県内で広がる生涯学習についてお伝えします。
地域に根ざした取り組みなども生涯学習の一つです。
かけがえのない仲間とともに 生きがいを分かち合う喜び
みうら楽農くらぶ
「趣味の農業講座」実習地にて(三浦市和田地区)
野菜の持つ生命力を感じ、汗を流すことを喜びとする
三浦市市民部文化スポーツ課主催「趣味の農業講座」とはどんな講座なのでしょうか。また、「みうら楽農くらぶ」との関係を教えてください。
石渡:「趣味の農業講座」とは、講義と実習により2年間で体系的に野菜づくりを学ぶ講座です。毎年公募が行われ、現在27期生と28期生が学んでいます。この講座を修了したメンバーで構成され、趣味の農業を楽しむクラブが「みうら楽農くらぶ」です。
つまり、「みうら楽農くらぶ」の皆さんは、全員が講座の修了生なのですね。講座もくらぶも歴史がありますが、誕生の経緯をお話しいただけますか。
渡部:「趣味の農業講座」を始めたのは、平塚農業高等学校初声分校(現・三浦初声高等学校)の教頭を務められた吉野忠男先生です。定年後も社会貢献をしたいと模索する中で、一般の方に生涯教育としての農業を伝えていこうと。三浦市教育委員会の協力を得て、1998年に1期生を迎えスタートしました。講師を務めたのは、吉野先生ご自身です。先生は「この講座は、野菜をつくることが目的ですが、できないからダメということではありません。何よりも野菜の持つ生命力を自分のものにしましょう。そして、汗を流すことを喜びとしましょう」という志をお持ちでした。そして1期生が2年間の講座を修了し、「この講座が終わっても、同窓生で農業の仲間を続けていこう」と、会則をつくり、「みうら楽農くらぶ」が誕生しました。
吉野忠男先生の直弟子 渡部さん(8期生)
吉野先生も1期生の方々も素晴らしいですね。皆さんは何期生なのでしょうか。また、皆さんが講座を受講されたきっかけは?
石渡:私は17期生です。当時、地区の役員をしていたのですが、役員にこの講座の修了生が何人もいらして「すごく良かったよ」と勧められて。ちょっと覗いてみようかなという気持ちになったことがきっかけです。
新名:私も17期生、石渡さんと同期です。私は定年を迎える時に、妻が近所の方からこの講座のことを聞いてきて。四国の大自然の中で育ったものですから、話を聞いて、自然と関われる野菜づくりにすごく興味がわいたのです。
吉水:私は20期生です。以前から野菜づくりに興味があり、山梨県の会員制市民農園で農家の方の指導を受けたり、平塚農業高等学校初声分校の社会人聴講生として学んだりしていました。この高校の授業の圃場(ほじょう)アシスタントが「みうら楽農くらぶ」の方々で、この講座のことを教えていただいたのです。「レベルが高いよ」と言われたのですが(笑)ぜひやりたいなと思い、応募しました。
渡部:私は8期生です。61歳で仕事を定年退職し、義母の介護のために長野県須坂市に移住して、義母が借りていた畑で野菜をつくってみたのがはじまりです。ただ、須坂市は冬の寒さが厳しく、農閑期が長くて。それで5年ほどして、須坂市と姉妹都市である温暖な三浦市に越して来ました。須坂市とは気候が全く違う三浦で、試行錯誤しながら畑に向き合っていたある日、市の広報紙で講座の募集を目にして、迷わず申し込みました。
きっかけはさまざまですね。講座を受講してみて、いかがでしたか。
吉水:私は、この講座を受ける前から野菜づくりの経験はあったのですが、講師の方はもちろん、同期の仲間から学ぶことも多く、とてもプラスになりました。
石渡:私は初心者でしたので、土と水と日光さえあれば野菜はできるものだと思っていましたが、これがなかなか。葉っぱは大きく立派でも、土の中の野菜は小さかったり。忘れられないのは、自分で初めてつくった野菜を口にした瞬間。やっとできたのだ、と喜びが込み上げてきました。
新名:講座では、収穫した野菜を皆で料理をして楽しむ収穫祭もあります。自分たちでつくった野菜ですから、喜びもひとしおでした。
学んだことを次世代に伝えていく そこにも多くの学びがある
2年間の講座を修了した方が入会する「みうら楽農くらぶ」の活動内容を教えていただけますか。
石渡:「趣味の農業講座」の講義と実習指導を、くらぶのメンバーが担当しています。今度は後輩の指導にあたるわけです。現在、20名の方が担当しています。
新名:私は講義を担当していますが、講義の内容は、吉野先生が講義のために著した『野菜の学校』というテキストに基づいています。1年目は野菜づくりとは何ぞやという「総論」、2年目は例えばトマト、ナスといった作物ごとの「各論」です。そこに自分が畑で学んだこと、調べたことをプラスしてお話しています。
吉水:私は講義を担当して5年目になりますが、講義をするためには自分自身も勉強しなければなりません。本やインターネットで調べるだけでなく、農家の方にお話を伺うこともあります。毎回、初めて知ることがあり、教える中にも学びを感じています。
渡部:私は、「あなたは経験があるから」と言われて教えることになったのが運の尽き(笑)。今も続いているのは、教えることも面白いから。吉水さんもおっしゃったけれど、教えるとなれば、知識を増やすべく、常にアンテナを高くしています。
手前が吉水さん(20期生)
会員制市民農園「クラインガルテン」で学んだ経験も
畑での実習指導はどんなことを。
吉水:三浦市の協力により、講座では一人5m四方の実習地が確保されています。実習では課題作物があり、1年目はミニトマトとナス、秋にはカリフラワーとブロッコリー、白菜。野菜によって適している土壌も違いますから、畑では実際に酸度計を使って土の状態を調整します。
新名:細かなことも、一つずつ伝えていきます。そうして、2年間の講座を終えた皆さんの成長した姿を見るのは、感慨深いものです。
学んだことを生かして次の世代に伝えていく仕組みが、まさに理想的ですね。
渡部:このシステムも、吉野先生が始められました。講座が始まった当初は先生が指導されていましたが、5期生からは、先生がアシストしながら修了生、つまり、くらぶのメンバーが指導にあたり、最終的には、くらぶのメンバーだけで運営していく形になったのです。先生は「実験」とおっしゃっていました。先生は2012年にご逝去されましたが、今もこうして脈々と続いていると知ったら、天国でびっくりされるでしょうね。
石渡:現在では、「趣味の農業講座」の指導のほかに、三浦市市民部文化スポーツ課からの受託事業として、「親子農業体験教室」の運営も、くらぶのメンバーが担当しています。サツマイモ、トマト、トウモロコシなどを育て、収穫まで行います。また、三浦初声高等学校都市農業科の圃場アシストも、メンバーが交代で行っています。
野菜づくり、健康づくり、そして 仲間づくり
くらぶでは、講座の指導などのボランティア活動のほかに、定例会も開かれていますね。こちらではどんなことを。
新名:毎月1回、くらぶの全メンバーが集まって行う定例会では、活動報告だけでなく、毎月順番に一人か二人、自分が今取り組んでいることについて発表します。例えば、自分が今つくっている野菜のことでも、それ以外のことでもいいんです。
新名:いろいろな話を聞いて、本当に勉強になりますよ。
吉水:メンバーがつくった川柳を発表するコーナーもあります。そして15分ほどメンバー同士が自由に情報交換できる自由時間も設けます。仲間とのおしゃべりが弾むこの時間が大切なのです。定例会のほかに、新年会や暑気払いなどの親睦会、研修旅行もあります。昨年は、野菜研究センターの見学に千葉まで足を延ばしました。また、年に一度、外部講師を招いて講演会を開催しています。
渡部:講演会は、農業に関することだけでなく、例えば、海外青年協力隊で南米で活動された方のお話など、大変興味深く拝聴しました。生涯学習なので、農業だけにこだわりません。学びが広がります。
副会長の新名さん(17期生)
実に生き生きと活動されていますね。くらぶの魅力は、どんなところにあるとお感じになりますか。
石渡:現在、会員は72名。これだけの人数がいると、農業以外でも、同じ趣味の人が何人もいるものです。ワイワイやっているうちに話が合い、友達の輪が広がって。
吉水:野菜づくり、健康づくり、仲間づくりですよね。
新名:種から植えて苗をつくって、畑に植えて。時には病気で枯れてしまったり、虫がついたり獣が来たり。豪雨や台風の予報を聞いて畑に行くと、皆、畑を走り回って必死に対策をしている。仲間たちも大変な思いをしながら、野菜づくりに打ち込んでいるのです。そんな姿から力をもらえます。
吉水:「今、台風対策してきたよー」とLINEで連絡を取り合ったりしていますよね。
何かを始めたいと考えながらも、一歩が踏み出せない方へのメッセージになりそうなお話ですね。
新名:誰もが何か好きなことがあるはずです。そこに飛び込んでみるといいと思います。そこできっと仲間ができて、全く違う世界が広がっていく。私は定年後、趣味の農業を始めた第二の人生の方が絶対的に充実しています。
渡部:私も三浦に越して来た時は、妻以外、知り合いは一人もいませんでした。このくらぶのおかげで、かけがえのない仲間を得ることができました。
本当に素敵なくらぶですね。くらぶを運営していく上で、大切にしていることは?会長の石渡さんいかがでしょうか。
石渡:何より大切にしているのは、皆さんが仲良くやっていくこと。そのために、さまざまな意見に耳を傾けるようにしています。時には、私一人で先走ってしまうこともあるのですが、そんな時は皆さんがブレーキをかけてくれる。その時は「え?」と思うのですが、人の意見というのは、後になって沁みてくるものですね。先日、新しく入ったメンバーに「月に一度の定例会が本当に楽しみで、毎月心待ちにしています」と言っていただいて、本当に嬉しかったです。このくらぶが、ずっと続いていってくれることを願ってやみません。
会長の石渡さん(17期生)
インタビューでは、こちらには書ききれないほどのたくさんのお話を伺いました。例えば、「野菜づくりのチャンスは一年に一度。失敗を取り戻せるのは翌年です。来年は工夫してもっといいものをつくりたい、次は新しい品種にも挑戦したい、という思いでやっています」というお話もあり、自然を相手にした尽きることのない探求心に触れ、背筋が伸びる思いでした。かといって、ガチガチに野菜づくりだけにこだわるのではなく、さまざまな分野の学びを仲間と分かち合う。「生涯学習」の懐の深さを感じました。野菜づくりを始めたきっかけはそれぞれですが、共通しているのは、趣味の農業を愛し、仲間と学ぶことを愛し、くらぶを愛していること。四半世紀前にこの活動を立ち上げた吉野先生も、皆さんの様子を空の上から目を細めてご覧になっていることでしょう。
2026/07/29
1期生から続く会報紙「みうら樂農だより」は
280号を超えました
プロフィール
みうら楽農くらぶ
三浦市市民部文化スポーツ課主催「趣味の農業講座」(2年制)を受講し、修了したメンバーで構成される趣味の農業を楽しむくらぶ。発足は2000年、現在の会員は72名。最近は女性メンバーも増えています。ボランティア活動として「趣味の農業講座」の講義と実習指導、「親子農業体験教室」の運営、県立三浦初声高等学校都市農業科の圃場アシストを行うほか、定例会、外部講師による講演会、親睦会、研修旅行なども行っています。
左から、吉水さん、石渡さん、渡部さん、新名さん