県内で広がる生涯学習

インタビュー

県内で広がる生涯学習についてお伝えします。
地域に根ざした取り組みなども生涯学習の一つです。

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楽しみながら技術を活かし、出逢いと感謝を大切にする
かまくら似顔絵倶楽部

今回、取材にご協力いただいたのは、鎌倉・湘南地区のイベントに引っ張りだこの「かまくら似顔絵倶楽部」です。
インタビューでは、会長の青木ゆきおさんと、二人三脚で運営をサポートしている相棒の、やまさき昭さんにお話をうかがいました。小さい頃から絵を描くことが大好きだったお二人が、似顔絵を学び、技術を高め合いながら仲間とイキイキと活動している様子や、イベントで出逢ったたくさんの人々の笑顔を糧に、人生を豊かに過ごされている秘訣を探ってみましょう。

かまくら似顔絵倶楽部の活動拠点「鎌倉市玉縄学習センター(きらら玉縄)」

会を立ち上げたきっかけは、褒められて、嬉しくて、続けたいと思ったから

似顔絵を描くようになったきっかけと「かまくら似顔絵倶楽部」を立ち上げた経緯を教えていただけますか。

青木:退職後は、好きな絵でも描いて楽しもうと思っていた矢先に、市の社会福祉協議会主催の講座パンフレットに、玉縄学習センターで開催される「似顔絵講座」を発見、本当に偶然でした。1999年(平成11年)4月のこと。講座は全3回で、今も教えてくださっているプロのオウスケ先生が講師でした。
講座の中で、課題の作品を提出したら、先生に「上手いじゃないか」と褒められ、「青木さん、このまま終了にしてしまうのはもったいないから、クラブを作ってよ」と言われて、7月に会を結成。
僕が代表して、社会福祉協議会へ登録し、そこから今日まで続いています。講座の卒業生は27人で、その中から似顔絵倶楽部に賛同し参加したのは23人。
ほとんどが60代で、退職してから「何をやろうか」っていう時期、みんな楽しいことを探していましたので、うまくかみ合ったんでしょう。
褒められたことで、「これはいける!」と手ごたえを感じたことがきっかけとなり、原動力にもなったんだと思います。
現役の頃は、新製品開発のエンジニアとして、完成品を代理店などに紹介する時、ホテルを取ったり、料理の手配をしたり、各方面に色々と交渉したり、営業的なサポートをずっとやってきたので、手続き関係は得意でした。
また、海外へ視察に行った時は、帰国後に提出したレポートの中に参加者全員の似顔絵を入れて報告したら、それがものすごくウケて(笑)、好評でした。この時から似顔絵を本格的に始めたいと思っていたんです。

「かまくら似顔絵倶楽部」会長の青木ゆきおさん

絵を描くことは、もともとお得意だったのでしょうか。

青木:3~4歳の頃、親に勝手にお絵かき教室に入れられて、幼稚園から帰ってきたら、近所の教室へ。戦時中だったから、幼稚園もお絵かき教室も、行ったことがある人なんてほとんどいない、84年も前の話。
中学・高校時代は、運動が得意だったんですよ。学問はダメだった。でも、絵や工作は出せば金賞。物を作るとか、絵を描くとか、そういうのは得意だったなぁ。
小さい頃からの夢はエンジニアになることで、工業大学では機械工学を勉強し、就職した会社では、商品開発・設計から、カタログ制作、テレビCMまで担当、取説の挿絵を描いたり、編集やデザインもやりました。
最後の産業用ロボットの会社では社長も経験したので、これまでやってきたことが、今の活動に全部活かされています。

やまさき:私は、絵はただ好きで描いていただけ。高校3年生から25歳くらいまではアマチュアの劇団に入っていて、指人形をやっていたこともあります。仕事は、県警本部の広報でポスターなどの制作を担当していたんですけど、今から15年前、定年になって、これから何をしようかなって考えていたら、ちょうどケーブルテレビで似顔絵教室の募集を見たんです。横浜市栄区の上郷地区センターで講座やりますよって。もともと、絵は好きだったけど、似顔絵というジャンルは初めてだったから、迷わず参加しました。この、上郷の似顔絵教室で先生をしていたのが青木さん。
教え方が良かったので、スーッと頭と身体に入ってきて、すっかりハマっちゃった(笑)。

青木:鎌倉の似顔絵倶楽部を結成してから、10年ちょっと過ぎたころでした。
街での似顔絵活動とか、似顔絵教室で教えていたことなどが評判で、私の活動を見ていた人が、「うちでもやって頂戴」と言ってきたんですよ。それが上郷地区センターで、自分が先生として似顔絵の講座を始めることになりました。
その時、生徒で参加したのが、やまちゃんです。普通は、似顔絵を描くとなると30分くらいかかるのに、やまちゃんは5分で描いちゃって、バツグンに上手い。びっくりしちゃった。

やまさき:ここでも、講座を受講した20人が、同じように、数日間だけで終わるのはもったいないから「続けてみませんか」って言ったら、10人くらいが「やる」っていうので、上郷でも似顔絵倶楽部を立ち上げたんです。10年間くらい、青木さんは鎌倉の会長と掛け持ちしながら先生をやってくれました。
楽しかったんですけどね、上郷の倶楽部はもうなくなっちゃったんです。青木先生も掛け持ちは大変だったし、僕自身も忙しくなってきてしまい、運営していくのは無理だなと。その後、しばらくの間は放置状態でしたが、やっぱり「やりたい」っていう声が出てきて、上郷のメンバーも鎌倉に合流してもらって続けることになりました。

「かまくら似顔絵倶楽部」会長の相棒 やまさき昭さん

似顔絵を描くと、みんなが笑顔になるので。苦労は?まったくないです!

本当に、みなさん講座が楽しかったのですね。活動を続ける中でやりがいや喜びを感じるのはどのような時でしょうか?

青木:とにかく、似顔絵を描かれた人がみんな喜んでくれるんですよ。それがやっぱり一番嬉しい。描くと「わぁ~!面白い!!」とか、「先生、ステキ!」って大きな声で叫ぶから、人が集まり、気分もいいですね(笑)。
最盛期のイベントは年間29ヶ所、みんなで1,000人くらい描きました。倶楽部は今年26年目、モデルは赤ちゃんから高齢の方まで、延べ19,000人以上になります。
私は、お祭りやイベント、老人施設、退職祝い、誕生祝い、結婚式、名刺など、頼まれて描く他、直接知り合いじゃない人からも口コミで頼まれちゃうから、次から次へと広がって、 8,000人くらい描きました。鎌倉市で僕のことを知らない人はいないんじゃないかっていうくらい・・・??(笑)。
やまちゃんは、10年後に入ってきたけど、私より もっと多く、10,000人くらい描いていますよ。追い越されちゃった。

ご苦労や、難しいと感じることはありますか?

青木:全然、苦にならない。もう、楽しくて、楽しみで、毎回、あれもこれもって、夢中でやってきました。そのうち体力が落ち込んでくるのかもしれないけど、やまちゃんが助けてくれるから心配もしていない。今、二人でこの似顔絵倶楽部を支えられているのが本当に楽しい、最高の相棒。
喧嘩することもないし、意見が食い違うこともなく、息もぴったり。僕が気付かなかったことも気付いてくれるし、お願いしたことはやってくれる。「嫌だ」って言わないし、しかも頼んだら期待以上に仕上げてくれますから。次回の宿題とかも、彼が全員にネットで送ってくれたり、教室で映すスライドも、自宅で編集してきて、当日、パッと映してくれるから、さらに盛り上がるしね。

描いてきた宿題(この日は大の里関)の講評をされるオウスケ先生

似顔絵を描いているときの様子は、楽しくも真剣

上手い人が描いた似顔絵を、見て、参考に練習して、さらに技術を磨く

活動を通して得られる「学び」としては、どのようなものがありますか?

青木:自分がうまくできたと思って描いても、やまちゃんがそれ以上にうまく描いてくるんですよ。
例えば、僕がリアルタッチで、彼が漫画タッチに描く。そうすると、色んな技や方法を勉強できる。
自分のパターンだけじゃなくてね。基本は上半身だけを描くんだけど、やまちゃんは実際そこにはない「フリ」を描くんですよ。例えば、図書館の人をモデルに描く時、普段はどんな仕事をしているのか聞き出し、パソコンと本の絵も描き込むとかね。そのあたりのバランスもセンスも最高ですよ。いつも、このフリを全員が参考にしています。

やまさき:私は、せっかくだから、モデルの人が持つ「雰囲気」も描きたい。その人の笑顔がどれだけ引き出せるかを大事にしています。そうすると、話しながら描いている時間がお互いに楽しくなるんですよね。ただ絵を描くだけじゃなくて、その時間、その空間も楽しく、共有できるっていうのが、対面で描く似顔絵の醍醐味。
常に、コミュニケーションの取り方を学んでいます。切磋琢磨っていうのかな。

青木:そして、我々のそんな姿を見て、また倶楽部のみなさんも支えてくれるんですよね。
技術面でいうと、人の顔には法則があって、輪郭を描けば60%完成。目、鼻、口、眉毛のパーツを基本通りに配置することで似てくる、これを繰り返して練習するんです。
ここまでくるにはね、私自身、ものすごく勉強しましたよ。みなさんに教えるということは、みなさん以上に知識や技術がないとダメでしょう?
似顔絵の本もたくさん買いました。本の作者に連絡して、会いに行って、直接教えてもらったこともあります。ある時は、日本一のプロに教えてもらおうと、教室にお呼びし、似顔絵描きのコツを実践で指導していただき、先生の本を全員に配って参考書にしたこともあります。会を盛り上げるためには、人に尽くすこと、親切を心がけることが大切です。どんなことがあっても人との繋がりがあれば、すべてうまくいく。縁ですし、財産です。

やまさき:似顔絵とは少し離れますが、健康面で青木さんに助けられたことが何度もあるんです。この方は、本当に色んなことを勉強されていて、身体の仕組みや知識もだけど、病院の情報とか良い先生もたくさん知っているから、「何とかならないか?」って相談したら、「東京のこの医者に行きなさい」「いい病院があるよ」って紹介してくれて、そこへ行ったら、本当に辛かったのが一発で良くなりました。ウワサで聞いただけじゃなくて、実際にその人を直接知っているから、確実なんですよ。手術となると失敗の可能性だってあるから、よっぽど自信がないと人に紹介なんてできないじゃないですか。身近に、勉強好きで知識が豊富な人がいるって、ありがたいですよね。

インタビュー中も、終始笑顔が絶えないお二人

これから何かを始めたい人に、メッセージをお願いします。

青木:死ぬまで勉強。好奇心をなくしたらダメです。それと、やっぱり健康ね。今87歳ですが、100歳まで元気に頑張りたい。この会を維持するために、自分の健康管理を十分にして、みんなに協力してもらおうと思っています。
それと、できるだけお金をかけないこと。倶楽部の会費は月2,000円。鎌倉市の中で一番安いんじゃないかと思います。
お祭りで似顔絵を描く時は、交通費と教材費や技術料として今は1枚1,000円頂戴しています。プロとして商売にしている方だと何千円もかかるでしょう?イベントでは出店料も払うので、ほとんどボランティアでやっています。あんまりお金をかけないから、長く続けられているんじゃないでしょうか。
最後に、人とのコミュニケーションには「ありがとう」っていう、この5文字が大事。なんでもいいから「ありがとう」。よくわからなくても「ありがとう」。これが一番大事です。

取材に訪れた日は、私をモデルに、みなさんが似顔絵を描いてくださるというサプライズがありました。完成した作品が黒板に掲示され、個性豊かに彩られた自分の似顔絵がずらりと並べられた様子は感無量。心を込めて描かれた似顔絵には、見る人を楽しい気持ちにさせてくれるパワーがありますね。倶楽部の和やかな雰囲気にも、気分はほっこりです。「かまくら似顔絵倶楽部」のみなさま、ありがとうございました。お話をうかがった会長の青木さんとやまさきさんの仲良し名コンビは、お二人の出逢いも、それぞれの似顔絵との出逢いも、偶然ではなく必然だったのではないかと思わされるような絆の強さを感じました。これからも学びを深めながら似顔絵の技術を向上させて、たくさんの笑顔や人との繋がりが、鎌倉の街に明るく広がっていくことでしょう。

2025/09/12

黒板に掲示された作品たち

プロフィール

かまくら似顔絵倶楽部

結成は1999年(平成11年)7月、現在の会員数は20名。鎌倉市玉縄学習センターを会場に、毎月第1・3金曜日に集まっています。お祭りやイベントなどの活動範囲は湘南地区。楽しい人生の過ごし方として、自分たちの似顔絵技術を活かし、思い出に残る似顔絵を描くこと、そして似顔絵活動を通じて人との出逢いを広げ、明るい社会づくりに貢献することを目標にしています。

かまくら似顔絵倶楽部のみなさん