県内で広がる生涯学習

インタビュー

県内で広がる生涯学習についてお伝えします。
地域に根ざした取り組みなども生涯学習の一つです。

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生きた手話を学び続ける
手話サークル平の会(ひらのかい)
平塚手話サークル七夕会(たなばたかい)

今回お話を伺ったのは、平塚市の手話サークルで活動している池田さん、相原さん、小林さんの3名の方々です。平塚市では、現在2つの手話サークルが活動しています。もともとは一つのサークルだったそうですが、メンバーのライフスタイルやニーズに合わせ時間を分けて活動するようになっていきました。学ぶ人に合わせて活動の形を変えられるのもサークルの良さだと思います。
手話が、皆さんにどのような学びを与えてくれているのかを伺いました。

左から、池田さん、相原さん、小林さん

「お互いに通じ合えたらいいな」がきっかけです

手話との出会いやサークル活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

池田:私は、個人病院の受付をしていた時に手話と出会いました。病院には、耳の聞こえない方が何人かいらっしゃっていました。はじめは、メモで会話をしていたのですが、その中の一人が手話で「おはよう」と表してくれたんです。それがきっかけで、「手話で会話できたらいいな」と思い、市が開催していた入門基礎コースに申し込みました。

相原:高校生の時にテレビ番組で初めて手話というものを見ました。番組のエンディングに手話の歌があったんですが、当時高校生の私は、意味も分からずにその手の動きを真似していたんですね。その頃、たまたま友人が手話サークルで活動していて、そこに連れていってくれたのが、手話を勉強しはじめたきっかけでした。それから6、7年ほど勉強を続けていました。その後、卒業や引っ越し、結婚と30年余り手話から離れていたのですが、このサークルを見つけて再び手話を学ぼうと飛び込みました。夜のサークルも見学させていただき、私は日中が都合がよかったので七夕会で活動を始めました。

小林:私は、製造業社に勤めています。一緒に働く人の中には、耳の聞こえない方が20名ほどいるのですが、たまたまその方に何かを伝えなければならない機会がありました。その方は、手話を使いながら話してくれたんですが、きっと伝わらないだろうなと思いながら話していたと思います。私も同じように感じていたので、お互いに通じ合えたらいいなと思ったのがきっかけです。

知らない人と話ができた時、勉強していてよかったと思いました

活動を通して得た学びやその学びを活かせる場所はありますか?

池田:活かせる場所というと難しいのですが・・・。サークル活動の中や日常で、耳の聞こえない方と会話ができるようになりました。手話で思いを伝え合えたらと始めた活動なので、それはできるようになりましたね。

相原:いろんなイベントのボランティアをすることはあります。ボランティアといってもお手伝い程度ですが、耳の聞こえない方に状況をお伝えするなどしています。また、日常生活の中でも、手話を知っていたからこその出来事が2度ほどありました。1度目は、美容院で男性の方が金髪にしたいと美容師に伝えている時でした。私も同じく客として、髪を切ってもらっていたんですが、担当美容師が、男性の選んだ色が思ったより明るい色だったので、本当にこれでいいのか迷っているようでした。その後、何人かのスタッフで相談していたので、その状況を男性に伝えてあげたことがありました。2度目は、クリーニング店での出来事です。その頃は、コロナの影響でみんなマスクをしていました。私の前に並んでいる女性が耳の聞こえない方でした。店員の方が色々聞いているのですが、口元が見えず、理解に困っているようでした。そこで、店員の方に「こちらの女性は、耳が聞こえないようなのでマスクを外してもらえますか?」と伝えました。そうするとやりとりができるようになったのです。その後、女性から「手話を話せるの?」と聞かれ、「勉強しているところです」と全然知らない方と話ができました。その時は、勉強していて良かったと思いました。

小林:手話を覚えていくと相手のことが分かり、今までとは違う世界を感じられるようになってきました。それまでは、耳の聞こえない方たちの表現の仕方が強いと感じていたのですが、なぜ強く表現するのかなどもわかるようになってきました。あとは、障がいの捉え方についても、私自身手話を学ぶことでずいぶん変わりましたが、耳の聞こえない同僚とコミュニケーションをとっている姿を見て、周りも変わってきたように思います。自分の周りにも理解が広がっていったとき習っていた意味があったかなと思います。何より、こちらが手話を学んでいることが伝わると、相手から積極的に接してくれるようになったり、顔つきが変わってきたりというのは大きな変化です。お互いに前向きになり、長い時間働くことが、すこし楽しくなったというのはあるかもしれません。

聞こえる人と聞こえない人では、ずれがあるということ

手話の難しいところはどんなところですか?

池田:聞こえる人と聞こえない人で、ズレがあることです。特に会話での感じ方は、必ずしも同じとは限りません。例えば、「今度、一緒にお食事でもどうですか?」という問いに私たちは「行けたらいいですね」と、微妙な感じで答えてしまうことがあると思うのですが、手話では、このような表現が伝わりにくいことがあります。あいまいな表現は通じにくいので、「行く」か「行かないか」、白黒はっきりしてほしいということがあると思います。ですから、先ほど小林さんが話されていたように強い表現になってしまうのかもしれません。それは、声のトーンでは伝わりにくいので、はっきりとした言葉や表情で示すという文化があるんだと思います。ですから、手話を勉強していると通常の会話でも物事を強く、はっきり表しすぎちゃうという難しさもあると思います。

相原:私は、人を指差すしぐさで困ったことがあります。普段の生活でも指を差されると嫌な気持ちになることがありますよね。でも手話では、相手を指差して話します。家族で話す時に、「指差さないで」と言われてしまうんですよね。あとは、やはり表情で表すのは難しいですね。

小林:手話自体、覚えることは大変です。ですが、私もやはり、表情は難しいと思います。ニュアンスというか、笑顔でいれば何とかなると思って生きてきたのですが、悲しい話を笑いながらしたり、手話の表現と違う表情をしたりすると、それでは伝わらないと講師に指摘されることがあります。そこが難しいところです。

交流から学ぶ

サークル活動を通して広がった学びについて教えてください。

相原:私が手話に出会った40年前と今とでは、手話を取り巻く環境が全然違ってきています。昔は、耳の聞こえない方が前に出ることが少なかったように思います。平塚市は、聴覚障害者協会の方々が積極的に活動されているので、耳の聞こえない方が講師となり、私たちの活動を支えてくれています。

池田:サークル同士の交流もありますが、聴覚障害者協会と七夕会、平の会、三者での交流会もあります。一緒に旅行に行ったり、カラオケに行ったり、日帰りツアーなどのイベントをすると普段関わりのない人とも出会うことができます。カラオケは、私も初めは驚きましたが、好きな人もたくさんいらっしゃって、私の歌を手話で表現してくれたりすると、「そうやって表現するのか」と、交流から学ぶこともとてもたくさんあるんですよ。

2025年はデフリンピックが開催されますが・・・。

池田:残念ですが、デフリンピックの認知度は低いですよね。11月に開催されるんですが、多くの人がその存在を知りません。約100年の歴史があるにも関わらず…。ですから、代表選手たちは、多くが自費で海外遠征に行ったりしているようです。ボランティア募集もあり、こちらは定員を超えた申込みがあったみたいですが、知っている人と知らない人の差が大きいんですよね。少しでも多くの人に知っていただきたいですし、サポートできればと思っています。今年のデフリンピックは、折角日本で開催されるので是非みなさん行ってほしいですね。。

東京2025デフリンピックのチラシ

仲間ができるとやめられないものです

これから何かを始めようとしている人へのメッセージをお願いします。

小林:自分がそうでしたが、初めの一歩を踏み出すのはめちゃめちゃ勇気がいるものです。ですが、踏み出したらできちゃうもので、始めてみたらスーッと流れにのることができました。しかも、踏み出す前の悩みよりも、踏み出して始めた時の喜びの方が大きかったなと思っています。悩んでいるなら、飛び込んでみてはどうでしょうか。

相原:サークル活動では、同じものをみんなで学ぶということが楽しいですね。手話に限らず、その楽しさを知ってほしいです。横のつながりができ、仲間ができるとやめられないものです。

池田:絶対に知り合えない人と出会えたり、他の市の人と勉強したり、活動が広がり楽しいです。

平塚が手話であふれる街になってくれたら

今後、サークル活動をどのようにしていきたいですか?

池田:最近は、ドラマの影響で、手話に興味をもつ人、サークルに入りたいという人が増えてきました。小学校、中学校でも学ぶ機会があると思うのですが、手話という言語が普及し、社会全体に広がってほしいです。

相原:学校では、福祉体験などで手話と出会う機会があります。手話との出会いが広がることで、平塚が手話であふれる街になってくれたらいいと思います。会としては、せっかく手話を学ぶのであれば、学び続けることで日常的に手話を使えるようになってほしいですね。勉強だけでなく交流などを通して楽しく学べる場になってほしいと思います。

池田:手話は、国際手話というものがあったり、国内でも地域によって表現が違ったりします。ですから、覚えなければいけないことがたくさんあるんですよね。平塚は、聴覚障害者協会の方から直接学ぶことができるので、『生きた手話』を学べる環境があります。なので、学び続けてほしいなと思います。

左から、手話サークル「平の会」「七夕会」のサークル紹介チラシ

振り返ったときに結構頑張ってきたなと感じられること

生涯学習とは何でしょうか

相原:学校の先生に言われてやる勉強と違って、自分からやるものだと思います。生きがいですかね。

小林:学ぶことは、生きる上での活力になると思います。また、自分にも周りにも刺激を与えてくれるものでもあると思います。始める前にはわからなくても、振り返ったときに結構頑張ってきたなと感じられることが生涯学習じゃないかなと思います。

池田:「生涯学習とは」を一言で説明するのは難しいですが、私たちにとって手話はそういうものになってきています。やめられないというか・・・そうですね、やめられません。

人のことをより深く知りたいと思った時、その人が使用する言語を知っているということはとても大きなアドバンテージになります。それは、外国語を学ぶことと同じで、改めて言語としての手話を学ぶことの重要性を感じました。インタビューの後、平塚市福祉会館で実施されていたサークル活動と入門講座の様子を見学させていただきました。教室には発声禁止の表示がありましたが、静かな空間ではなく、手話による講師と参加者の会話が飛び交い、非常に盛り上がりを感じました。インタビューでも語られていましたが、手話が街全体、県全体に広がっていくことを願っています。

2025/05/01

プロフィール

手話サークル平の会

2024年(令和6年)4月に創立50周年を迎え、平塚市聴覚障害者協会の協力のもと、手話の勉強や交流活動を行っています。毎週木曜日、19時から20時半に活動しており、90名を超える会員が在籍しています。

平塚手話サークル七夕会

1978年(昭和53年)4月に設立し47周年になります。
毎週火曜日、10時から12時に活動しており、会員は50名が在籍しています。平塚市聴覚障害者協会に協力を頂き、平塚在住の方を中心に勉強会や交流会で楽しく手話を学んでいます。

左から、池田さん、相原さん、小林さん