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2025(令和7)年度 小児慢性特定疾病自立支援フォーラム 開催報告

2025(令和7)年度 小児慢性特定疾病自立支援フォーラム会場全体図

「自立について考えよう」

2026年1月11日、横浜情報文化センターにて、神奈川県主催の「小児慢性特定疾病自立支援フォーラム」が開催されました。

本フォーラムは、慢性疾患を抱える患者や家族が抱く将来への不安について、当事者や支援者から話を聞くものです。当日は、当事者による就労体験談のほか、専門医からは小児科から成人科への移行期医療における自立支援の取り組みが紹介されました。

講演「自立について考えよう 成人移行とは~大人になっていく道のりへの支援」

かながわ移行期医療支援センター センター長 今井富裕さん、移行期医療支援コーディネーター 三浦雅子さん

神奈川の先進的な移行期医療支援

今井さん: 成人期の就労を実現するために重要なのは、小児期からの「自立」です。神奈川県ではそのための体制として、2020年に「移行期医療支援センター」を設置しました。 最大の特徴は、先行して設置されていた「難病相談・支援センター」および「難病情報連携センター」と併設されている点です。3つのセンターが同じ場所に集まることで、シームレスかつスムーズな情報交換が可能になりました。医療機関の直轄ではなく、外部から体制全体を俯瞰して支援するこの仕組みは「神奈川モデル」と呼ばれ、全国的にも先進的な取り組みといえます。

成人移行支援の目的は、小児期発症の慢性疾患を持つ患者さんが、成人期を迎えるにあたって自らの能力や機能を最大限に発揮し、その人らしい生活を送れるようサポートすることです。現在、移行期医療支援センターのホームページでは、移行期医療を提供可能な県内の医療機関や対象疾病を検索できるツールを公開しており、情報は随時更新しています。こうしたノウハウの蓄積は大きく、相談件数は増加の一途をたどっています。最近では、患者さん本人やご家族だけでなく、行政や医療機関から「就労」に関する相談が寄せられるケースも増えています。

2025(令和7)年度 小児慢性特定疾病自立支援フォーラムに登壇する今井 富裕 氏の写真

かながわ移行期医療支援センター
センター長 今井 富裕さん

自立に向けてヘルスリテラシーを磨く

三浦さん: 自立した大人になるためには、「ヘルスリテラシー」を身につけていくことが非常に大切です。これは、日常生活の中で健康に関する適切な判断を下すために必要な能力を指します。具体的には、自分の病気を正しく理解して自己管理を行うことや、治療に対して主体的に参加することなどが挙げられます。ヘルスリテラシーを高めることは、将来の自立した生活に向けた大前提となります。

また、自立において「働くこと」は重要な要素ですが、疾患があることを伝えると採用が見送られたり、目に見えない疾患のために職場での理解が得られなかったりすることもあります。 そこで求められるのが、自身の状況を適切に伝え、周囲が納得できるような説明を行う力、そして雇用主側と必要な就労環境について対等に話し合う力です。これらは、いわば「雇用される能力」を高めるプロセスでもあります。

あわせて、周囲に適切に助けを求める「支援を受ける力」も欠かせません。自分らしさを大切にしながら働くために、まずは今の気持ちや将来の希望を書き出してみることから始めてみてください。それは、より良い就労を実現するための有効な準備となるはずです。

2025(令和7)年度 小児慢性特定疾病自立支援フォーラムに登壇する三浦 雅子 氏の写真

かながわ移行期医療支援センター
移行期医療支援コーディネーター
三浦 雅子さん


体験談1「慢性疾患と共に歩んだ私の進学・就職の道~慢性疾患を抱えて生きる」

飯山 友喜さん(白血病当事者)

「自分の取り扱い説明書」で、自分を知ることから始める

中学3年生で急性リンパ性白血病を発症し、骨髄移植後の合併症によって車椅子生活となりました。入院中は絶望を感じることもありましたが、少しずつ前を向き、進学や就職に挑戦をしはじめました。現在は大成建設で事務職として働きながら、パラリンピックを目指してアーチェリーの練習に励んでいます。

長期の入院生活を経て、高校は通信制を選択しました。高校2年生の夏に退院を迎え、病気と向き合いながらこれからの人生をどう歩むべきか、将来について考え始めました。まず取り組んだのが資格取得と大学進学です。車椅子だと「できないこと」に注目されがちですが、資格は「能力の証明」になります。独学で勉強を続け、簿記2級に合格しました。大学進学の理由は、日中動ける体力をつけるためと、医療ソーシャルワーカーを目指すためでした。実習への参加が叶わず挫折を経験しましたが、そこで「目標に届かなくても、積み重ねた過程は決して無駄にならない」と学びました。諦めずに勉強を続けた結果、社会福祉士の国家資格を取得することができました。

就職活動でも多くの壁にぶつかりました。面接にすら進めない日々が続き悩みましたが、障害者雇用専門の就職支援サービスに出会い、転機を迎えました。当初は「人に頼るのは甘えではないか」という葛藤もありましたが、丁寧なサポートを受け、客観的な視点を取り入れることの大切さを知りました。

特に役立ったのが「自分の取り扱い説明書」を作成したことです。自分の強みや弱み、障害の内容、体調に合わせた必要な配慮を言語化することで、自分自身を深く理解できました。企業側にもありのままの自分を伝えやすくなり、結果として自分に合った働き方につながりました。「自分を知ること」は不安を乗り越える土台であり、前に進む原動力になると実感しています。

現在は、勤務時間の調整や通院予定の共有など、職場と連携しながら働き方を工夫しています。自分でできることと、周りの助けを借りること。この二つのバランスを取りながら努力を積み重ねることが、確かな自信と成長につながると信じています。

2025(令和7)年度 小児慢性特定疾病自立支援フォーラムに登壇する飯山 友喜 氏の写真

飯山 友喜さん(白血病当事者)


体験談2「家族で乗り越えた時間とこれから」

飯山 純子さん(飯山友喜さんのお母さま)

失敗から成長する姿を信じて見守る

息子は幼少期、できないとすぐに諦めてしまう一方で、練習に誘っても頑として動かない、良く言えば「意志が固い」一面がありました。中学時代には皆勤賞にこだわり、体調が悪くても学校を休もうとせず、病院へ連れて行くのにも一苦労したことを覚えています。入院生活を経て、自分から高校・大学へと自立への挑戦を始めた息子は、公共交通機関を利用しての通学に私が付き添うことさえ嫌がるようになりました。就職活動では紆余曲折ありましたが、最終的には自らの手で道を切り開きました。

就職と同時に始めたアーチェリーでは、市内大会での優勝や全国大会への出場を果たすまでになりました。初めて親元を離れて遠征・宿泊した際は、本人も緊張していたと思います。その際、つい私が荷造りをしてしまったことが「失敗」のきっかけでした。入浴用車椅子の梱包ルールを守れておらずにトラブルになり、市の担当者から強く注意を受けたそうです。報告を受けた当初は動揺していたようですが、息子は自分で状況を判断して説明し、解決まで導くことができました。助言はしましたが、「失敗」を自分の力でリカバリーすることができた。この経験は、彼にとって大きな自信になったはずです。失敗から学ぶことこそが、成長と自立への道なのだと痛感しました。

今でも、仕事での失敗を話してくれることがありますが、あえて軽く受け流すようにしています。親として甘やかしたい気持ちをぐっと堪え、本人の力を信じて見守り続けていきたいです。

2025(令和7)年度 小児慢性特定疾病自立支援フォーラムに登壇する飯山 純子 氏の写真

飯山 純子さん(友喜さんのお母さま)


体験談3「小児がん患者さんの就労支援」

横須賀 とも子さん(神奈川県立こども医療センター医師、飯山友喜さんの主治医)

小児がん経験者に十分な就労支援体制を

私は飯山友喜さんの主治医を務めていました。現在、小児がんの5年生存率は上昇しており、多くの患者さんが成人期を迎えられるようになりました。しかしその一方で、がんそのものや治療の影響が年月を経てから現れる「晩期合併症」という健康問題が、大きな課題となっています。

成長・発達や臓器への影響、あるいは二次がんの発症といった「遅発性」の症状は、ちょうど就職などの人生の大きな転換期と重なることが多く、それが当事者を悩ませる要因となっています。

長期の経過観察を続けていく中で感じるのは、ご本人にしか分からない「目に見えにくい不調」の多さです。あるアンケートでは、就労している晩期合併症がある方のうち、約半数が「仕事に影響がある」と回答しています。

こうした困りごとがなかなか周囲に伝わらない背景には、やはり社会全体の理解不足があります。就労支援の枠組みはまだ発展途上と言わざるを得ません。経験者の皆さんが安心して社会に飛び込めるよう、より手厚い支援体制の整備が必要だと強く感じています。

2025(令和7)年度 小児慢性特定疾病自立支援フォーラムに登壇する横須賀 とも子 氏の写真

神奈川県立こども医療センター
医師 横須賀 とも子さん(友喜さんの主治医)


体験談4「慢性疾患との向き合い方~1型糖尿病との生活を振り返ってみて」

陶山 克洋さん(1型糖尿病当事者)

病気を「強み」に変え、自分らしいキャリアを歩む

1型糖尿病は小児期に起こることが多い自己免疫の難病です。血糖測定をしながら生涯にわたってインスリン自己注射を続ける以外に治療法はなく、小児慢性特定疾病の対象ですが、20歳を過ぎると医療費が全て自己負担になるという課題もあります。私は小学校3年生で発症し、病気と共に歩んで35年ほどになります。

現在は大学教員として働いていますが、就職を決めるまでは多くの葛藤がありました。血糖コントロールが必要なため、職業によっては健康上の理由で不合格になる現実があったからです。当初は自衛官や消防士、体育教師といった体を動かす仕事に憧れ、次に病気の経験を活かせる医療職を志しました。迷いの中、最終的に看護大学への進学を選択しましたが、現在は看護師の育成という仕事に大きなやりがいを感じています。

患者が大人になって直面する理不尽な問題は、職業選択の制限だけではありません。20歳からの医療費負担や、厳格な血糖コントロール、生命保険に入れないまま成人してしまうことなど、制度の壁も存在します。それでも、長い時間をかけて、病気であることを自分の「強み」だと捉えられるようになりたいと思うようになりました。それはある意味では「開き直り」に近いかもしれません。日常の何気ない物事に喜びや楽しさを見出し、それを糧に一歩外へ踏み出すことで、病気と真に向き合えているのだと感じています。大学時代に熊本で立ち上げた患者会での啓発活動も、今の私にとって大きな支えになっています。

2025(令和7)年度 小児慢性特定疾病自立支援フォーラムに登壇する陶山 克洋 氏の写真

陶山 克洋さん(1型糖尿病当事者)


支援企業の例 「ソニーの障がい者雇用と自律」

森 慎吾さん(ソニーグループ障がい者雇用担当)

「自立」を超えた「自律」を目指し、個の力を生かす

「障がい者だからという特権なしの厳しさで、健丈者の仕事よりも優れたものを、という信念をもって」。これは、1978年にソニー創設者の井深大が「ソニー・太陽」を設立した際、障がいのある社員へ贈った言葉であり、当時の背景を鑑みると、障がいの有無ではなく、一人の社員として高品質なものづくりを目指すというこの言葉は先駆的でした。この理念を追求するため40年以上にわたり2つのことを大切にしてきました。

一つは、社員自身が「自分でできることはやる」という努力をすること。そしてもう一つは、努力してもできない部分を会社が配慮・工夫することです。つまり「作業に人を合わせる」のではなく「人に作業を合わせる」という考え方。これこそが、公平で合理的な配慮の原点です。

私たちは、仕事を通じて「自立」してほしいと考えていますが、それは単に独り立ちすることだけではなく、社員としての「自律」を目指すことでもあります。完成品を作るプロとして自分を律して働く、ということです。

これから就労を考える皆さんに、3つのヒントを伝えたいと思います。「なぜ働くのか」「どこで何をしたいのか」そして「自分なりの働き方は何か」をぜひ考えてみてください。

ソニーには「多様な個が集まり、常識と非常識がぶつかり合う中からイノベーションは生まれる」という文化があります。疾病や障がいに関係なく、必要な配慮の下で一人ひとりが持っている力を発揮してほしい。ここで言う「持っている力」とは、あなたにしかない経験からの自分なりの考え方、努力して学んだことです。誰もが自分なりの経験をしています。是非子どもの頃からしっかりと自分の糧にして、社会へ羽ばたいてほしいと願っています。

2025(令和7)年度 小児慢性特定疾病自立支援フォーラムに登壇する森 慎吾 氏の写真

森 慎吾さん(ソニーグループ障がい者雇用担当)


意見交換

小児期からの「意思決定」の訓練、「自分事」として捉える力

最後に、鎌倉保健福祉事務所三崎センター保健福祉課長の森千惠子さんを司会に迎え、活発な意見交換が行われました。「自立」とは何か、それを見守る家族の思い、就労の壁、そして「かながわ移行期医療支援センター」の役割について、それぞれの立場から改めて語り合いました。

自立を意識した転機について、飯山友喜さんは「高校3年生のとき、神奈川リハビリテーション病院で、車椅子を利用している先輩方の生活に触れたことが大きな転機となりました。実際に「こんな働き方がある」「こんな生活ができる」というモデルケースを知ったことで、お手本がない中でも視野が広がり、「できないこと」よりも「できること」に目を向けられるようになりました」と振り返ります。

また、1型糖尿病当事者の陶山さんは「患者会のサマーキャンプで、同じ病気を持ちながら働いている先輩たちに出会い、「自分も仕事ができる」と確信を持てるようになりました。自らそのような場に参加できたことが、自立への最初の一歩だったと感じています。ロールモデルの存在の大切さを実感したことで、私自身が患者会を立ち上げるきっかけにもなりました」と、ロールモデルの重要性を語りました。

今井さんは、センターに寄せられる相談の現状を踏まえ、「今回の登壇者は、早い段階から自立心が育ってきたモデルケースです。一方で、実際には将来の展望を持てないまま、就職を目前にして初めて悩み始めるケースも少なくありません。「自立」とは何かを小児期から自分自身で考え、意思決定する経験を積み重ねていくことが、将来を具体的に思い描くうえで極めて重要です。センターとしては、このようなモデルケースに至るまでの過程で、どのような相談や支援が必要なのかを考えていく必要があります。今回の機会は、小児期から自立に向けて取り組むべきことが多くあると認識していただく良い機会になったと思います」と指摘しました。

移行期医療支援コーディネーターの三浦さんは、「自分で決断するということは、たとえ失敗しても、誰かのせいにはできないということです。だからこそ、初めて人生を「自分事」として捉えられるようになります。時には親とぶつかることがあっても、自分の意思を伝えることは決して悪いことではないと思います。うまくいかなくても構いません。まずは自分の気持ちを言葉にしてみることが、自立への第一歩になるのだと思います」と締めくくりました。

2025(令和7)年度 小児慢性特定疾病自立支援フォーラム意見交換の様子
2025(令和7)年度 小児慢性特定疾病自立支援フォーラム 開催概要
日時 2026年1月11日(日) 13:00~16:15
場所 横浜情報文化センター
内容 講演/体験談/意見交換
主催 神奈川県 福祉子どもみらい局 子どもみらい部 子ども家庭課
公開:2026年3月
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