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特集 Work vol.7

地域の伝統を後世に残す

NPO法人厚木つばきの会「つばき作業所」

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地域の伝統を後世に残す

厚木市にある障害福祉サービス事業所「つばき作業所」は、隣接する伊勢原市の郷土玩具「大山こま」と、独楽を回す際に必要な「こま紐」の制作に取り組んでいます。また、事業所運営のさらなる発展を目指して、オリジナル独楽の開発にも挑戦を続けています。

江戸時代から親しまれている「大山こま」

日本遺産に認定されている「大山詣り」の地である、伊勢原の大山。この地の土産物として江戸時代から親しまれているのが「大山こま」です。よく廻ることから〝金運がついて廻る〟といわれる縁起物で、昔ながらの伝統を守り、職人によって丹精をこめて作られています。

伝統ゆえに難しいのが「技術の伝承」。大山こまを江戸時代から制作している「金子屋」は、作り手の高齢化や後継者不足を踏まえ、将来への課題を抱えていました。

伝統工芸品を障害福祉サービス事業所が作る

「つばき作業所」の理事長、横見守明さんが、同事業所立ち上げ前に勤めていた事業所で、紐づくりの軽作業があり、中々売れなかったこま紐を金子屋へ訪問販売に伺った際、即日契約となったのが事の始まりです。

ちょうどこの時、横見さんの事業所でも大きな課題を抱えていました。日頃の業務を1つの企業から仕事を請け負っていましたが、リーマンショックの煽りを受けて、その業務が一気に失注してしまいました。依存傾向だったことを反省し、将来に向けて「自分たちの力でオリジナルのモノを作り、地道にやっていく」ことを決意したタイミングでもありました。

独楽づくりを通して、利用者にやりがいの提供と工賃アップを目指し、購入者も楽しく遊べる〝皆に喜ばれるモノづくり〟としてスタートしました。

「こま紐」づくりから始まった「大山こま」制作
「こま紐」づくりから始まった「大山こま」制作

その後、定年を迎えた横見さんは前事業所から業務を引き継ぎ、自ら障害福祉サービス事業所「つばき作業所」を開所しました。これまで以上の「こま紐」を作ろうと、神奈川県立産業技術総合研究所などに相談し、紐の先端が〝ほつれにくい〟制作方法を考案。こうした姿をみていた金子屋から「教えられることは全て教えます」という信頼を得て、つばき作業所では現在、「大山金子屋推奨品」として大山こまの制作・販売を行っています。

大山こまに加え、自主製品「立志独楽」の開発

大山こま制作で得たノウハウを生かし、受託事業に依存するのではなく、自分たちの力で事業運営をしていく手段の一つとして自主製品の「独楽」づくりに力を入れることになります。

製造業に30年勤務していた横見さんは、当時の同僚や、地域課題の解決に取り組むNPO法人らにも相談をし、新たな独楽づくりを進めました。2年半にわたる、さまざまな試行錯誤を経て、回転する独楽がひとりでに倒立し、持ち手の軸が地面側に逆転して回転し続ける「からくり玩具」を開発。〝志を立てる〟という意味を込めて、その名を「立志独楽」と名付けました。

独楽自身がひとりでに倒立する不思議を楽しめる「立志独楽」
独楽自身がひとりでに倒立する不思議を楽しめる「立志独楽」

自主製品のブランディングに挑戦

立志独楽を地域で披露した際に、子どもたちが目を輝かせて楽しむ姿が見て、立志独楽の良さを証明することにつながりました。

これを次なるステップ「販売」へと展開していくためのブランディングに取り組もうと、2019年に全国の遊びのスペシャリストが選ぶ玩具のコンテスト「グッド・トイ アワード」に応募。最終選考までいきましたが、「色落ち」が原因となり、あと一歩のところで受賞を逃してしまいました。

これを受け、2020年では「無垢材」を素材に変え、色落ちしないよう改良。また、親亀・子亀の置物をヒントに「独楽も重ねたら面白いのでは」と、〝五段重ね独楽〟を開発し、出品しました。結果は見事受賞を手にし、これまでにないほどの発注依頼がきました。

グッド・トイ2020を受賞した「立志独楽」と「五段重ね独楽」
グッド・トイ2020を受賞した「立志独楽」と「五段重ね独楽」

クラウドファンディングに成功

2020年はグッド・トイだけでなく、独楽制作に不可欠な木工旋盤装置が老朽化し、商品制作が困難になることを見越した「クラウドファンディング」にも挑戦。仲間と共に文章やリターン品などの検討を重ね、作り上げていきました。目標金額を50万円に設定したところ、最終支援額は58万円となり、成功裏に終えました。

この資金で購入した新たな木工旋盤装置は、グッド・トイ受賞の影響で急上昇した注文と重なり、幸先の良いスタートとなりました。

クラウドファンディングに成功し、購入した木工旋盤装置
クラウドファンディングに成功し、購入した木工旋盤装置

モノづくりを通じて、感動を提供したい

グッド・トイ受賞により問合せがあったのは注文依頼だけでなく、「伝統産業を残すための障害福祉サービス事業所の活用」についても相談を受けました。横見さんは「伝統産業は全国各地で高齢化・後継者不足に悩んでいることが分かりました。私たちの活動がモデルとなって、障害福祉サービス事業所が伝統品の技術継承になれば嬉しいです。今は、地産地消につながるパンにも挑戦中です」と新たなモノづくりへの意欲を見せていました。

取材先:NPO法人厚木つばきの会「つばき作業所」
元・自動車部品の設計、製造、品質保証の木工チームが総力をあげて、試行錯誤をしながら立志独楽と五段重ね独楽を作りました。
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