Life

特集 Life vol.7

「いのち」でツナぐ

社会福祉法人 進和学園、株式会社研進

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「いのち」でツナぐ

平塚市内に障害福祉サービス事業所など18施設を運営している「(社福)進和学園」を中心に進めているプロジェクト〝いのちの森づくり〟。16年目を迎えた同事業は、様々な植樹イベントや学校、企業などに出向き、育てた苗木の提供本数は30万本を突破しました。「森づくりは人づくり」と掲げるその活動内容を紹介します。

「いのちの森づくり」を行うきっかけは、個の尊重と共生。

進和学園の就労拠点「しんわルネッサンス」の植栽を、2006年春、色々な種類が混ざり合い多様性に富む「自然の森」の再生を提唱された宮脇昭氏(生態学者・横浜国立大学名誉教授)の指導により行ったことが「いのちの森づくり」との出逢いでした。

一方、進和学園では、半世紀近く自動車製造などに携わるホンダ(本田技研工業㈱)から委託を受け、障がいのある方が自動車部品組み立て作業に励んでいます。ホンダの伝統コミュニケーション「ワイガヤ文化」(ワイワイガヤガヤと意見を出し合うのが語源)を若手社員に継承すべく、宮脇氏を招いて、ホンダ各工場の緑化を行ったという話を聞いたのが、障がい者の就労支援メニューとして「いのちの森づくり」を取り入れるきっかけとなりました。人間社会も「自然の森」と同じく、「個の尊重と共生」が重要であることを学びました。

第7回湘南国際村めぐりの森植樹祭(2013年)
第7回湘南国際村めぐりの森植樹祭(2013年)
宮脇昭先生による植樹指導
宮脇昭先生による植樹指導

宮脇氏が提唱された〝潜在自然植生〟は、その土地本来の樹木である「ふるさとの木」を見極めて、苗木を育て、主体となる樹種を中心に混植・密植して本来あるべき自然の森(本物の森)を創生することです。

自然の森は、厳しい環境においても長持ちし、管理コストも最小限に止めることができます。主体となるシイ、タブ、カシ類は深根性、直根性のため、地中深くまっすぐに根を張って様々な災害から命を守ってくれることから、東日本大震災の被災地をはじめ、海外にまで採用され、「ミヤワキ・メソッド」と呼ばれています。

「進和学園いのちの森づくりプロジェクト」がスタート

2006年10月、「いのちの森づくり」プロジェクトのキックオフ集会を行いました。ボランティアの方々の指導を得て、近くの湘南平において「ドングリ拾い」を行い、育てることとしました。

翌春、ドングリは芽を出し、ポットに移し替えて栽培を続けました。2~3年すると、30センチを超えた苗になります。2年後の2008年、神奈川県建築士会に初の出荷が決まります。翌2009年からは、小学校や企業での森づくり、公園や道路の植栽、海岸線の防潮林なども加わり、その活動は幅を広げていきます。

苗木を栽培拠点 進和学園「どんぐりハウス」
苗木の栽培拠点 進和学園「どんぐりハウス」
発芽したドングリ(アラカシ)
発芽したドングリ(アラカシ)

「どんぐりブラザーズ」が誕生

進和学園では、苗木の栽培を委託し工賃を還元する「苗木の栽培委託スキーム」も設けています。また、苗木の栽培以外にも植樹地のメンテナンスとして欠かせない「育樹(除草)」についてもノウハウを提供しています。

このノウハウを広める中で生まれたのが仲間たちの存在です。2012年に(社福)湘南の凪・えいむ(逗子市)、(社福)県央福祉会 パステルファームワーキングセンター(相模原市)が賛同し、導入してくれたのを皮切りに、現在は県内外の障害福祉サービス事業所等の10以上の団体が「どんぐりブラザーズ」として、作業に励んでいます。

多くの皆様からご支援頂いている「いのちの森づくり友の会」基金が、彼らの活躍の場を支えてくれています。

どんぐりブラザーズの活動 苗木の栽培・植樹・育樹(除草等の保全作業)
どんぐりブラザーズの活動 苗木の栽培・植樹・育樹(除草等の保全作業)

「単独で成り立つ活動ではありません。小さな力が集まって大きなものになっていきます。この活動が障がいのある方たちの就労として、ディーセント・ワーク(働き甲斐のある人間らしい仕事)になるものと確信しています」と(株)研進の出縄貴史代表。

教育の場にも採用

育てた苗木たちは、県内はもちろん、東日本大震災の被災地での植樹など、次々に活躍。幼稚園や小学校といった現場でも採用されるようになり、園児や児童らとともに植樹を行いながら環境問題や共生社会を伝えられる「教育プログラム」の一環としても実施されるようになりました。

教育との連携:学校の森づくり(校庭緑化)・ポット苗づくり体験・いのちの森づくり教室
教育との連携:学校の森づくり(校庭緑化)・ポット苗づくり体験・いのちの森づくり教室

生きるとは・・・

地球環境対策が叫ばれる中、環境保全団体や企業、教育機関とかかわる人が多く、付加価値も高いことから〝森づくり〟は注目のコンテンツになっています。その最大の理由は「人づくり」につながること。自然にある木と同じように、互いに他者を尊重しながら切磋琢磨してこその組織や社会を〝森〟に例えながら、人がどのように生きるべきかを伝えています。

宮脇昭先生を囲んで 「どんぐりブラザーズと植樹大作戦(湘南国際村)」(2013)
宮脇昭先生を囲んで 「どんぐりブラザーズと植樹大作戦(湘南国際村)」(2013)

宮脇氏は2021年7月16日に逝去。「自然の森は色々な種類が混ざり合っている。仲の良いものだけ集めても駄目。人間社会も同じ。混ぜる・混ぜる・・・」。宮脇氏が伝えてきた多様性と共生の理念は、いのちの森づくりを通して、今も世界で広がっています。

取材先:社会福祉法人 進和学園、株式会社研進
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