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特集 Hit vol.1

めざせ!ヒット商品

就労継続支援B型事業所
「サンメッセしんわ」(平塚市)

特集タイトル画像

ヒットの秘訣は「持続性」と「生産性」
一番大切にしているのは「利用者中心」にできること

新しい平塚名物といっても過言ではない「湘南みかんぱん」。製造しているのは社会福祉法人進和学園の就労継続支援B型事業所「サンメッセしんわ」(平塚市)。みかん色のパン生地とあんには、西湘地区の青摘み(間引きされる)みかんの果汁がたっぷり詰め込まれ、約50種類のパンを製造する同所を代表とするヒット商品になっています。

試行錯誤を重ねること1年半、販売から約5年。一事業所のパンがなぜ「名産品」とまで呼ばれるようになったのか―。秘密に迫ります。

きっかけは7年前
みかん農家の活性化を目的に始まった

地元のNPO法人から「みかん栽培が盛んな大磯町、二宮町で間引き、廃棄されてしまう青摘みみかんを使用したパンを作れないか」と依頼があったのが2012年。そこから「サンメッセしんわ」の挑戦が始まります。事業所を開設した当初から製パンの実績があったものの、「利用者が中心になって作れるもの」「はやりすたりがない普遍的なもの」「大量生産が可能なもの」は何か―。クリームパン、デニッシュ系など10種類ほどの試作を繰り返し、利用者さんが「丸型」の成形が得意なこと、同所のあんぱんに根強いファンがいたこと…それらをふまえ“あんぱん”に賭けることが決まります。

あんぱんに決まったものの、今度は「みかんあん」づくりに苦戦します。全国からみかんあんを取り寄せ、試食を繰り返し、現在のあんが完成。パンの皮にもみかん果汁と平塚産の小麦を取り入れ、地産地消、農福連携(農業と福祉の連携)のパンが出来上がりました。商品開発時に「平塚のお土産になれば」というコンセプトがあったため、パッケージにもこだわります。インパクトをもたせるため、昔電車で売られていた“冷凍みかん”のネットを使用。酸味が際立つ唯一無二のみかんぱんが完成しました。

完成するまでは「あんぱんでは地味」「インパクトに欠ける」といった批判も多く、完成当時も「特に手応えがあったわけでなく売れるのかな、という感じでした」と職員で製パン責任者の中村公紀さんは振り返ります。そんな心配をよそに、完成から約一年後の2015年に平塚逸品研究会の「逸品グランプリ」に輝くと、同年の「第4回全国逸品セレクション」で準グランプリを受賞。この二つの賞をきっかけに数々のメディアで取り上げられ「知名度が大幅に上がった」といいます。「湘南ひらつか名産品」にも認定され、2017年からは平塚市のふるさと納税返礼品として全国へ配送されるようになりました。

みかんぱんを製造中の写真

適材適所はどの職場でも同じ
知名度を上げて工賃に反映させていきたい

「湘南みかんぱん」は週に1回、朝7時半頃から仕込みを始め、約7時間かけておよそ800個を焼き上げます。パンづくりに携わっているのは利用者12人と職員3人。成形の時間帯に取材に訪れると、進和学園の理念「本人中心」のとおり、それぞれが生地を分割し、丸め、あんを包み、形を整える…黙々と、丁寧な作業が続いていきます。みかんぱん開発当時からパン作りを担当する利用者は「パンは季節によって水の量や温度を変えなければいけないのが難しい。でも、うまくできた時や『美味しい』と言ってもらえた時はうれしいです」と話します。中村さんは「ハンデのあるなしに関係なく、誰にでも得手不得手があると思います。いろいろな障がいがあっても、それぞれに見合った工程に配置し、ケアできれば一般の人たちと変わらない仕事ができることを多くの人に知ってほしい」と力を込めて話します。

サンメッセしんわでは、「湘南みかんぱん」以外にも平塚市内の小学校給食に平塚産のトマト、小松菜を使ったパンなど年間約45,000食を製造。大口の受注にも対応できるように6年前からは大型冷凍庫を導入し、生産計画を立て、毎日の仕事量が同等になるように工夫が凝らされています。近隣のレストラン約20カ所から注文が舞い込むなど売上も右肩上がりに伸びているそうです。

トレイに並ぶみかんぱんの写真 みかんぱんを製造するスタッフの写真

認められる場所

「認められる場所を提供することで、利用者はやりがいや生きがいを感じることができる」と、言葉に力を込める萩原さん。障がいを理由に、自己実現の機会を奪ってはいけない―。そんな思いが、活動の根底にあります。利用者の多くが、施設に通うようになることで表情が豊かになり、中には車椅子を使わなくても歩けるようになった人もいるそう。日々成長をみせる利用者の姿は、萩原さんたちスタッフの大きなやりがいにつながっています。「その人がハッピーになれば、家族もハッピーになる。トライアンドエラーを繰り返しながら、共生社会のあるべき形を模索していけたら」

中村さんは「『地産地消』は一般企業だと開発や生産管理の点で難しい面もあり、福祉事業所だからこそできることなのかもしれません。開発の苦労はありましたが、地元を中心に各地のイベントにも呼んでもらえるようになったという利点もあります」といいます。今後の目標は横浜市などで開催されているパン祭りに出店すること。販売アイテムとして「みかんぱん帽子」を作ったり、オリジナルPRソング「湘南みかんぱんロックンロール」を演奏したりと、PR活動にも力を入れる。「もっと多くの人に湘南みかんぱんを知ってもらいたい。仕事に見合った評価=給料(工賃)を上げ、利用者のモチベーションにつなげるようにしていきたいです」と話してくれました。

丁寧にみかんぱんを成形する写真 完成されたみかんぱんの写真
取材先:サンメッセしんわ(就労継続支援B型事業所)
「一人には一人のひかり」をモットーに1958年に創立した社会福祉法人進和学園が2003年に開設。働くよろこびを大切に「自分で選んで決める」が基本方針。製パン、製菓、クリーニング、弁当づくりなどに取り組んでいる。
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