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特集 Life vol.2

コロナに負けない!
「マスク作りに奮闘~それぞれのカタチ」

公郷かりがね作業所、わたぼうし作業所、神奈川県ほか

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コロナに負けない!
「マスク作りに奮闘~それぞれのカタチ」

世界中で猛威をふるう新型コロナウィルス感染症。日本でも多くの感染者が確認され、政府が緊急事態宣言を発令する事態になりました。宣言が解除された今も、第二波の到来が懸念され、日本経済の低迷も長引くと予測されています。社会的状況の変化は、障がい者が働く福祉事業所にも影響しました。発注が激減したり、売り場となっていた施設が閉鎖したり、イベントの中止で出店の機会を失うといった事態です。こうした状況を受け、社会貢献活動の一環として「マスク作り」に力を入れる福祉事業所があります。この難局を乗り越えようと、マスク作りや販売に情熱を注ぐ姿を取材しました。

ケース1

「手作りマスク作りに専念」公郷かりがね作業所

「今はマスク作り1本で運営しています」と話すのは、横須賀市公郷町で知的障がい者の社会参加の支援を行う「公郷かりがね作業所」副施設長の大芝志美子さん。手作りの可愛らしいマスクを見せてくれました。コロナ禍前は陶芸品を中心に、ビーズ製品や手さげカゴ、台ふきんなど様々な物を利用者と一緒に製作していたといいます。とりわけ、皿やはしおき、一輪挿しといった陶芸品が人気で、微笑みを浮かべた猫のイラストが評判でした。絵付けを担当していたのは利用者の飯田尚美さん。この道25年以上のベテランです。大芝さんは「飯田さんの技術は誰もまねできない職人技なんです」と称えます。

副理事長の原田巖さんと大芝志美子さん
副理事長の原田巖さんと大芝志美子さん
可愛らしい陶芸品の数々
可愛らしい陶芸品の数々
絵付け担当の飯田■■さん
絵付け担当の飯田尚美さん

100円で販売したところすぐに完売

マスク作りを始めたのは今年2月。横浜港沖にダイヤモンドプリンセス号が停泊し、日本にも新型コロナウィルス感染症の恐怖が迫っていた時期でした。大芝さんは「はじめは利用者の感染を心配する保護者のリクエストを受け、スタッフがマスクを作りました。その後、ふだんお世話になっている地域の方々に恩返しをしたいと思い、(施設前の)玄関先にマスクを並べて100円で販売したところ、あっという間に売り切れたんです」と説明します。その後も、できる範囲内でマスクを作っては玄関先に並べていたところ、「うちの分も作って欲しい」といった依頼が届くようになります。そこで、施設で手掛ける商品を、一旦マスク1本に絞る決断に至りました。

一人ひとりができる作業を分担して行う写真1
一人ひとりができる作業を分担して行う写真2
一人ひとりができる作業を分担して行う

1日最高で200枚販売 累計3,000枚以上を製作

量産体制を整えるため、これまでスタッフだけで行っていたマスク作りを利用者も行えるよう工程を細分化。「ゴムを通す」「袋詰め」などのチーム分けを行いました。副理事長の原田巖さんは「最初は1日10枚を作るのがやっとでしたが、生産できる枚数が徐々に上がりました」と説明します。1日最大で200枚を販売した日もありました。原田さんは「玄関先にマスクを並べるのを待つ方々で行列ができていたときは驚きました。口コミで広がっていたようで、遠くから来たお客様もいましたよ」と振り返ります。マスクの需要が増えるに連れて大変だったのが、マスクを作る材料を確保することでした。原田さんは、付き合いのある仕入れ先にできる範囲内で材料を融通して頂くなどして乗り切ったと話します。また、マスクは1種類だけではなく、子ども用や大きめサイズなど、需要に合わせてバリエーションを増やしました。これまでの製作枚数は3,000枚以上になるといいます。

玄関先に並べたマスク
玄関先に並べたマスク

利用者の表情明るく 活気づく作業所

マスクが売れるのを目の当たりにした利用者からは、自然と笑顔がこぼれました。これまで以上に製品作りへ積極的にもなったといいます。大芝さんは「みんなの表情が明るく、いきいきしてきたのが分かるんです」と話します。「連日テレビなどで新型コロナウィルス感染症のニュースが流れますから、利用者の方々は当然、今の状況を知っているわけです。必要とされているマスクを自分たちが作っていることが、嬉しいのだと思います」。作業所では今、住民からのリクエストを受け、夏用のマスク作りに励んでいます。大芝さんは「今できることを利用者の方々と力をあわせて行っていきたい」と目を細めました。

取材先:公郷かりがね作業所
特定非営利活動法人れんげが運営する障害福祉サービス事業所。横須賀市内の寺院・妙真寺が支援している。知的障がい者に働く場や地域とのつながりを提供。現在はマスクに絞って製作しているが、陶芸品やビーズ製品、台ふきんなども取り扱っている。
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ケース2

「ピンチに広がる支援の輪」わたぼうし作業所

新型コロナウィルス感染症が拡大する中、「支援の輪に救われています」と話すのは横須賀市坂本町の「わたぼうし作業所」代表の松﨑由美子さん。平成元年の設立以来、障がい者への働く場の提供や生活支援を行ってきました。牛乳パックを利用した手透きハガキや名刺、ふきんなどを受注生産しているほか、支援者から寄せられた商品を販売し、利用者の工賃に充てています。秦野市の陶芸家に指導を受けて製作されるお地蔵様像も、作業所の名物です。現在、10人の方を受け入れていますが、心臓病などの疾病を抱える利用者もおり、重症化した際に受け入れられる病院も少なく、新型コロナウィルス感染症には大変な危機感を持っているといいます。「食事、トイレの介助、衣服の着脱、手洗い、歯みがきなど、濃密な関わりが多く、利用者の方々に決して移してはいけませんし、我々スタッフも感染するわけにはいきません」と説明します。

そのため、4月からゴールデンウィークまでの緊急事態宣言下は、作業所を休業しました。

名物のお地蔵様像
名物のお地蔵様像
支援者から寄せられた商品
支援者から寄せられた商品

支援者から届いた手作りマスク

そんな先の見えない状況下で、作業所をとりまく支援の輪に救われました。以前に作業所が出展したイベントで知り合った横須賀市内在住の95歳のおばあさんとその娘さんからは、手作りのマスクが届きました。以前からお財布や定期入れ、靴下、帽子、マフラー、紙人形などを手作りしては、「作業所で販売して、利用者の工賃に充ててほしい」と寄付してくれており、その品々の出来栄えは「大変素晴らしい物」だといいます。

今回のマスクも、「作業所が今大変だろうから」というおばあさんの愛情が詰まった寄付です。ほかにも、茅ヶ崎市内の支援者など各方面から「販売して工賃に充ててほしい」と手作りのマスクが届きました。こうした支援の輪に呼応するようにスタッフや利用者の保護者も力をあわせ、手作りマスクを作り始めました。

集まった様々な手作りマスク
集まった様々な手作りマスク
布巾を活用し内製化したマスクも
布巾を活用し内製化したマスクも

力を合わせ、作業所でもマスクを製作

緊急事態宣言解除後は、作業所を再開。集まった手作りマスクを施設の前に置き、安値で販売しています。スタッフと利用者で手すき和紙を使ったマスクを作り、顧客にプレゼントも始めました。布マスクにステンシル染めを施し、横須賀市社会福祉協議会のボランティアセンター経由で市内の児童養護施設「春光学園」へ寄付もしました。

感染症の感染防止策として、施設内でソーシャルディスタンスを取り、各自マスクを着用し、利用者やスタッフが一度に集まらないよう人数を制限しています。先日は日産追浜工場の方から、フェイスシールドの寄付も受けました。

玄関先に並べたマスク
広く距離を確保して作業
玄関先に並べたマスク
施設前で商品を販売

松﨑さんは「作業所が休みの間、お家で介助されていた保護者の方々は大変だったと思います。普段作業所で行っている牛乳パックはがしを在宅で取り組んだり、近くの公園を散歩したりと、『自粛期間中も生活リズムを崩さないように気を付け、笑顔で過ごしています』と保護者の方々から連絡を頂いたときは頭が下がる思いでした」と振り返ります。「また、この状況下で『何かわたしたちにできることがあれば言ってくださいね』と心配してくださる支援者の方々がたくさんいます。こうした思いに応えていきたい」と話しました。

手作りマスクを手に持つ松﨑由美子さん
手作りマスクを手に持つ松﨑由美子さん
取材先:わたぼうし作業所
身体障がい者を対象にした福祉事業所として平成元年に設立。現在は障がいの種類に限定することなく、幅広く受け入れている。牛乳パック再利用の手すきはがきやメッセージカード、ステンシル染め布巾、マスク、ビーズ小物など、扱う商品は多岐にわたる。
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ケース3

「#リスペクトでつながろう」マスクが誕生
神奈川県と県内障害福祉サービス事業所

神奈川県では「ともに生きる社会かながわ憲章」の理念を広めるため、憲章の理念に賛同いただいた企業や団体と連携するプロジェクト、“#リスペクトでつながろう”コラボを展開しています。その第3弾として、マスク作りに取り組む県内の障害福祉サービス事業所と連携した「#リスペクトでつながろう」マスクが誕生しました。参加事業所ごとにマスクのデザインは異なりますが「#リスペクトでつながろう」のロゴデザインを使用し、憲章の理念の普及と、憲章の実現をマスク作りに込めています。県内の障害福祉サービス事業所では、利用者が、新型コロナウィルス感染症の状況下における社会参加の一環として、地域を支えるためのマスク作りに取り組んでおり、マスクの売り上げの一部は、工賃として利用者に還元されます。

平塚市役所1階に店舗を構えるひらつか障がい者福祉ショップ「ありがとう」では、今回の「#リスペクトでつながろう」マスクのうち、平塚市内の「貴峯荘ワークピア」(社会福祉法人貴峯)と「サンメッセしんわ」(社会福祉法人進和学園)が製作したマスクを販売しています。貴峯荘ワークピアのマスクは、生地全体に憲章のロゴデザインがあしらわれています。布立体型マスクと布ブリーツマスクの2タイプがあり、好みに合わせて選択できます。サンメッセしんわのマスクは、さらし木綿を使用しており、涼しい着け心地。憲章のロゴデザインがワンポイント添えられています。

障がい者福祉ショップ「ありがとう」
障がい者福祉ショップ「ありがとう」
左が「貴峯荘ワークピア」製作、右が「サンメッセしんわ」製作
左が「貴峯荘ワークピア」製作、右が「サンメッセしんわ」製作

生み出したマスクが役立つ喜びを実感

ありがとう会長の髙橋眞木さんは「どちらのマスクも、県とのコラボ商品ということもあり、皆さんの興味を惹いています」と話します。この日はサンメッセしんわで実際にマスク作りを行った秋本美奈子さんと長谷川由美子さんの2人が店頭に立ち、手作りマスク販売のお手伝いをしていました。秋本さんははじめてのマスク作りだったため、長谷川さんらに教わりながら製作。「最初は難しかったけど、ちょっとずつ慣れました」と笑顔で振り返ります。サンメッセしんわの庭野勉施設長は「一生懸命作ったものが、社会のお役に立っていることをみなさん実感されているようで、マスク作りを通して働く喜びを感じてくれています」と話しました。

髙橋眞木会長
髙橋眞木会長
秋本美奈子さん(左)と長谷川由美子さん
秋本美奈子さん(左)と長谷川由美子さん

利用者とスタッフでチームみんなで完成させる

ありがとうの髙橋会長は「ありがとうはひらつか障がい者福祉ショップ運営協議会が運営しており、協議会には28の障害福祉サービス事業所が加盟しています。ショップでは各加盟事業所で製作した商品を販売しています。各事業所の利用者の方々も、販売スタッフを担ってくれています」と説明します。事業所間で日頃から連携しているため、マスク作りの動きも迅速でした。「貴峯荘ワークピア」ではコロナ禍以前よりマスクを製作していたのに加え、髙橋会長の呼びかけで、3月には市内の複数の事業所でマスク作りをスタート。事業所間で作り方や衛生面の取組を共有しました。マスクの材料が全国的に不足した頃には、ストッキングのゴムを使用したり、浴衣の生地を布にするなど、互いに知恵を出し合い、工夫しました。当初は1日30枚をめどに、ありがとうで販売。マスク不足が顕著だった4月には、買い求める顧客で行列ができたといいます。現在は10事業所がマスク作りを担っており、1日約50枚を量産できる体制になりました。事業所間でマスク作りを行うにあたって取り決めたことのひとつが「マスク製作の工程に多くの利用者が関われるようにすること」と髙橋会長は話し、「みんなで一緒に作ることに意義があると感じました」と説明します。髙橋会長は「今回、県とのコラボマスクを販売するのは平塚市内で2事業所ですが、マスク自体は他の市内事業所も作成しています。ありがとうで商品を販売していますので、ぜひご覧頂きたい」と呼びかけました。

取材先:ひらつか障がい者福祉ショップ「ありがとう」
平塚市役所の1階に常設されているひらつか障がい者福祉ショップ。 運営するひらつか障がい者福祉ショップ運営協議会には市内28の障害福祉サービス事業所が名を連ねる。就労訓練機会を提供し、障がい者の就労意欲を高め、自立した日常生活及び社会参加を支援している。
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