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NPO法人 湘南まぜこぜ計画
子どもも若者も親世代も高齢者も多世代が自由に集まれる居場所を提供

2023年 07月 6日

参加条件なし。誰もが集まれる「寺子屋ハウス」

2023年 07月 6日

参加条件なし。誰もが集まれる「寺子屋ハウス」

 共働き世帯もひとり親家庭も珍しくなくなり、ご近所づきあいが希薄になりつつある時代。
「子どもたちは学校でも家でもない居場所を、日常的に必要としている」
 そう考えた有志が立ち上げた任意団体が2016年4月、藤沢市朝日町で「寺子屋ハウス」をスタートさせました。「寺子屋ハウス」とは、週に一度、子どもたちが自由に集まれる場所。ゲームや漫画を持ち込んでもOK。駄菓子の販売や時には季節のイベントなども開催し、利用者を増やしていきました。

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NPO法人 湘南まぜこぜ計画の共同代表・原田建さん

 「ウチは誰でも参加できるのが基本です」と話してくれたのは原田建さん。2018年に任意団体からNPO法人化した「湘南まぜこぜ計画」の共同代表です。
「誰でも参加できる」という姿勢を貫くのは、困っている子どもを誰一人取りこぼさないため。例えば「ひとり親家庭支援」と声高に謳ってしまうと、両親が共働きで帰宅が遅く、放課後はいつも一人きりになっている子どもは対象外となってしまいます。「貧困家庭支援」や「不登校」なども同様。「寺子屋ハウスに行く子どもは何かしらの問題を抱えている」といった偏見を生まないためにも、「誰でも受け入れる」が基本となっているそう。

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「寺子屋ハウス」ののぼり旗を目印に子どもたちが集まってくる

 取材に訪れたこの日は、週1回の開催日にあたる金曜日。開催場所の若尾山公園には、すぐ近くの大道小学校の児童をはじめ、近隣から続々と子どもたちが集まってきます。親から渡された50円玉を握りしめ、駄菓子選びに真剣な子もいれば、常連の一人は原田さんから「あ、髪切ったね」と声をかけられ、お目当ての駄菓子を選んで笑顔を返します。駄菓子を食べ終えた子に原田さんが「遊ぶ?」と話しかけると、あっという間にボール遊びの輪が広がります。

      

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初めて出会う子ども同士でも、あっという間に遊び仲間に

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かつての利用者は今、即戦力のボランティアに

 原田さんが子どもたちとボール遊びをしているそばで、駄菓子屋の店番をしているのは、かつて寺子屋ハウスに通っていたという女性。勝手知ったるといった具合で、小さなお客さまと駄菓子をやりとりしています。
「寺子屋ハウス創設のころに通っていた子どもたちが今、高校生や社会人になってボランティアとして戻ってきてくれているんです。本当にありがたいですね」と原田さん。

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かながわフードバンクの協力を得て、食糧支援も同時に実施している

「居場所」から学習支援、未来食堂や子ども弁当へと支援が広がる

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一人きりの食事ではなく、誰かと一緒に温かい食事ができる未来食堂

寺子屋ハウスは誰でも参加できる子どもの居場所。とはいえ、「付き合っていると、問題があれば見えてきます。そういう時はこちらから声をかけたり、必要があれば深堀りしたりしています」と原田さん。
 そんな深堀りが実を結んだものの一つが「未来食堂」。ひとり親家庭や共働き家庭で、子どもが一人きりで食事する「孤食」を余儀なくされているケースがあることに気づき、原田さんが知り合いの飲食店にそうした子どもを連れて行ったのが始まりでした。孤食を解消するべく、子どもは無料でスタッフら大人と一緒に食事ができる取組をスタート。「未来食堂」と名付けた提携店は4店舗から始まり、17店舗にまで増えました(2023年6月時点)。

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子ども弁当の内容は協力店によって異なるが、「子どもたちに喜んでほしい」という気持ちは共通

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子ども弁当は事前予約制。予約した店、時間に子どもが買いに行く方式だ

コロナ禍による休校期間や夏冬の長期休み期間には、未来食堂や賛同者の協力を得て1食100円の「子ども弁当」を実施。仕事や家庭の事情で昼食を準備しづらい保護者からはもちろん、子どもたちからも好評で、コロナ禍での2020年6月は300食、2020年の夏休みは261食を提供。回を追うごとに利用者数は伸び、2022年の夏休みには900食の利用があったそうです。
「需要が定着してきているので、学習支援団体「ふじらぼ」代表のシステムエンジニアに予約フォームのシステムを作成してもらって、注文システムをIT化するなど、より使いやすく、効率的な方法を模索しています」

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引地川沿いの田んぼ。収穫した米は未来食堂へ提供する予定

未来食堂の一つでは無料学習支援も始まりました。未来食堂で食事をした後、店主の娘さんやその友だちが勉強を教えてくれることになったのです。
「子どもたちが食事をする様子をそばで見ていた娘さんが、”私、勉強教えられるよ”と言い出してくれて、そのお友だちの大学生も参加してくれることになったんです」と原田さん。地域の方と「ふじらぼ」の大学生も参加して、学習支援の輪が広がっています。
 こうした無料学習支援を受ける子どもたちの中に不登校の子どもがいたこともあり、湘南まぜこぜ計画は不登校支援団体「藤沢こどもの多様な学び応援団」へ参加。田植えや稲刈りといった田んぼ体験や無料学習支援を行っています。

空き家を活用して、多世代が集まる拠点づくり

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雨天時の寺子屋ハウスは、宿題をしても漫画を読んでもOKの空間

現在、寺子屋ハウスの拠点は朝日町の若尾山公園と、公園に隣接するアパートの一室です。天気がよければ公園で、悪ければ室内が子どもたちの居場所になります。

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町内会から差し入れられたスイカで「種飛ばし大会」

「実はもう一カ所、空き家を使った実験を片瀬でやっているんです」と原田さん。それが2020年10月に開設した「みかじりさんち」です。10年ほど空き家だった一軒家を借り、地域コミュニティの拠点として運営しているとのこと。

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地元の農家さんによる野菜の直売所

「お茶飲みともだちの居間と縁側」と銘打って、近所のシルバー世代や子育て中の保護者などが自由に集まれる場として定期的に開放。子育て相談のアドバイザーや民生委員、コミュニティソーシャルワーカーも立ち寄るので、気がかりなことや不安なことを気軽に相談できる環境が整っています。月2回の朝採れ野菜の販売も好評で、フリーマーケットやハロウィンといったイベントも開催しているとのこと。

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青少年会館での無料学習支援。「ふじらぼ」の大学生ボランティアも参加

もちろん、みかじりさんちでも「かたせ寺子屋ハウス」として子どもたちを受け入れているほか、寺子屋ハウスの終了後には大学生チームによる学習指導を対面・オンラインで実施しています。
 このみかじりさんちで特徴的なのは、地元町内会との協力体制を整えていること。「お茶飲みともだちの居間と縁側」の管理人に法人メンバーだけでなく、地元町内の住民も加わっていたり、町内会の催しで余った食材を差し入れてもらったりと、着実に交流を深めています。

 子どもを中心とした寺子屋ハウスから始まり、みかじりさんちでは多世代、かつ多様な大人が集るコミュニティづくりへと活動の幅を広げてきた湘南まぜこぜ計画。今後もその名前の通り、老いも若きもまぜこぜで集まる居場所を設け、多世代で交流する中から地域課題の解決へと進んでいくことでしょう。

プロフィール

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団体名

NPO法人 湘南まぜこぜ計画

活動内容

寺子屋ハウスという子どもの居場所づくりを中心として、大学生・若者と協働実施する無料学習支援、子どもたちへの食事支援として未来食堂・子ども弁当、不登校児童の支援活動、片瀬のみかじりさんちでの地域交流など、活動内容は年々幅を広げている。2022年からは10代を対象とした10代による性についての出前授業も開講。対象を限定せず、悩みや問題を抱える人に解決策を提示する「まぜこぜ」な活動内容となっている。