banner banner

いちょう団地 多文化まちづくり工房

2023年 03月 31日

日本語教室を軸に「多文化共生」を図るお互いの顔がみえる活動を実践

2023年 03月 31日
image

代表の早川秀樹さん

 横浜市泉区から大和市にかけて広がる約3600戸の大規模団地・神奈川県営いちょう団地は、かつてインドシナ難民を受け入れる大和定住促進センターがあったことなどの歴史的経緯から多くの外国人が移り住み、住民の3割が外国人という多国籍地帯です。ここで1990年代半ばから、多文化共生のためのさまざまな活動をすすめてきたのが「多文化まちづくり工房」です。
 「ベトナムタウン」と呼ばれることもあるほど、特にベトナム人が多いことで知られていますが、まちづくり工房の活動のスタートは中国からの帰国者のサポートだったと代表の早川秀樹さんはいいます。

 最初は別の団地で大学生数名で日本語教室を始め、98年ごろにいちょう団地の集会所に活動の拠点を移しました。現在はコミュニティハウスと旧小学校校舎が活動拠点になっています。
 午前中と夜、週2回、およそ2時間ずつ開講する日本語教室をベースに、子どもたちを対象とする放課後学習教室、外国人の悩みに答える生活相談、地域イベントへの出店や交流会の企画、防災リーダー活動、サッカーなどのスポーツ交流など、手掛けてきた活動は多岐にわたります。
 「30年近く活動を続けてきたので波もいろいろありました。リーマンショックの直後は日本語教室が爆発的に増えて、1度に30~40人くらい集まった時期もありましたが、今は15人前後です」

日本語指導はマンツーマン

image

活動の様子

 一口に「日本語教室」といっても、来日直後で日本語をほとんど理解できない人から、20年住んでいて介護の資格を取りたいという人まで、学びに来る人は使える言語も日本語のレベルも求めるものもまったく異なります。そのため集団にまとめて講義する学習形式はとれず、マンツーマンでの指導になるそうです。
 いちょう団地には24か国もの人が住んでいるといわれていますが、入れ替わりが激しく実態はわからないと早川さんはいいます。なかでも多いのは中国人とベトナム人。ベトナム人はカリカリと文字を書いて勉強するけれど、南米の人はあまり文字学習は好まないとか、学習の取り組み方もお国柄が出るそうです。
 「日本語教室も見よう見まねで始めたもので、教え方もボランティア次第といえます。特に教えるノウハウがあるともいえないのですが、一緒になって楽しんでできればいいのかなと思っています」
 1回にだいたい10名から15名の、大学生から上は70代まで、幅広い層のボランティアが、特に募集もかけてはいないけれど、なんとなく集まっているそうです。いろんな国の人と話ができるのが楽しいとか、外国語に興味があったとか、参加する動機もさまざまだとのこと。一生懸命な活動でもなんとなく「緩さ」が感じられます。

下心があるほうが活動は継続できる

image

子ども向けのダンス教室

 場所代などは不要でも、教材をそろえたり、通訳ボランティアに交通費程度のお礼をしたりとそれなりに経費はかかります。現在の活動は基本的に「手弁当」です。公的な支援は受けておらず、ボランティアには参加できないが支援したい、という個人からの寄付などにより成り立っています。生活相談では何人かの外国人に通訳に入ってもらっています。書類の書き方など日常生活での困りごとへの対応が多いそうです。
 5年ほど前に通訳ボランティアのカンボジア出身の方が先生となって団地の祭でカンボジアの踊りを披露したことがきっかけで、子ども向けのダンス教室を開いています。
 故郷の文化を習わせたいとお母さんが子どもを連れてきて、そこでお母さん同士のコミュニティができる、という形で交流が広がったりしていきます。
 「私が常々言っているのは、活動には下心をもってきてください、ということです。外国籍の人のために何かをしたい、といった動機でくる方はかえって折れてしまいがちです。もちろん根っこにそういうものは必要なのですが、活動の中でメリットや楽しみをみつけられるような人の方が続く気がします」

団地のコミュニティをなんとかしたい

 日本語が上手になったり、ダンスがうまくなったりするのは喜ばしいことである一方で、学校を卒業したり、家を買って団地を離れてしまったりなどで、成長すればするほど活動から離れていってしまうむずかしさもあるといいます。
 日本語教室で学ぶ人も以前に比べると減っているそうです。
 その要因として、日本で働くために日本語を学ぶ必要性が薄れていることもある、と早川さんはいいます。
 「昔だったらたとえば日本に来た人が、まず日本語教室に来て、日本語をある程度勉強してから仕事を探す流れでした。いまは同国人のネットワークができあがっていて、来日後すぐに就業できる仕組みができ、それこそ来日1週間以内に仕事を始めるケースが増えているんです」
 インターネットなどの普及も、地元の集まりへの参加意欲が低下する一因になっているのではとみています。
 そんな変化があるなかで、早川さんはちょっとでもお互いの顔を知ることが大事だと主張します。
 「お互いの顔を知らないから疑心暗鬼になってしまう。たとえば外国人がゴミ出しのルールを守らないとよく問題にされますが、そもそも分別をしてなかったり不法投棄をしているのは外国人とは限りません。また、外国人のなかにも分別にすごくこだわって、役所に電話で確認してまできちんとしている方もいるんです。そういう方との交流があれば、外国人の見え方も変わってくるでしょう」
 団地のもつ課題として、国籍にかかわらず、高齢化が進んでいることが挙げられます。外国人に限らず、団地のコミュニティの再生に取り組んでいきたいという早川さん。高齢者の方とのつながりをつくろうと、この1年半ほどラジオ体操の普及に取り組むなど、活動のフィールドを広げることも常に考えているそうです。
 「ちょっとでも活動に来てもらえばお互いの顔を知ってもらえます。持ち出しも多いですが、なぜ活動を続けられているのかというと、結局は私がそれが好きだからってことなんです。一生懸命仕掛けをつくって、いろいろつながって、新しいことが生まれたらより楽しいじゃないですか」

プロフィール

image
団体名

多文化まちづくり工房

活動内容

活動内容:横浜市泉区から大和市にまたがる神奈川県営いちょう団地周辺で、日本語教室を軸に活動しています。日本語教育のほか、生活相談、学習支援、まちづくり活動なども展開しています。団体の目的として「多様な文化背景を持った人たちが、それぞれの個性を出し合い、ともに楽しく暮らせる『まち』をつくる」を掲げています。