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「イクメン」とワーク・ライフ・バランス

NPO法人ファザーリング・ジャパン 代表 安藤 哲也 氏

NPO法人
ファザーリング・ジャパン
代表 安藤 哲也 氏

仕事では勝ち組でも、家庭では負け組の男たち

 私が代表を務めるNPO法人ファザーリング・ジャパンは、2006年に立ち上げた父親支援のNPO団体です。「Fathering=父親であることを楽しもう」という考えを持つ父親の支援を中心に、ワーク・ライフ・バランスの見直しや企業の意識改革、地域社会の再生など、さまざまな活動を行っています。現在230名の個人会員、20社の法人会員がおり、個人会員の95%が父親です。父親の楽しみをもっと多くの男性に知ってもらい、男性の育児を定着させたいと思っています。

 私自身も試行錯誤をしながら育児に参加してきた父親の1人です。1人目が生まれたのは私が35歳のとき。NPOを立ち上げるまえは、大手IT企業で管理職に就いていました。すでに、小学生から保育園児まで3人の子どもを抱え、妻もフルタイム勤務、両親にも頼れない環境で、私も育児を手伝わざるを得なかったのです。朝、保育園に子どもを連れて行き、お迎えも週に2日は手伝って、自分なりに必死でワーク・ライフ・バランスをとっていました。しかし、会社の同僚を見ると、子育てに参加していない人が圧倒的に多いのです。制度はあるのに利用する人はいない。そして、話を聞けば夫婦や親子の問題を抱えている人も少なくありませんでした。世間では勝ち組と呼ばれる大企業の社員なのに、「家庭では負け組じゃないか」と思いました。
 当時は、社会でも子どもの虐待や家族間殺人のようなものが増えてきたことも気になりました。私自身も仕事でやりたいことは一通りやり遂げた感があったので、今度は子育てを徹底的にやってみようと考え、シフトチェンジをしてNPOを設立し、子育てがしやすい環境に変えました。

子育て好きな“イクメン”が増えている?

 最近は、男性の育児に対する関心も高くなってきています。“イクメン”という言葉をご存じでしょうか? “イクメン”とは子育てを楽しむ男性のこと。言葉自体は広告代理店が作ったものですが、2010年には厚生労働省も父親の育休取得・育児参加推進のために「イクメンプロジェクト」を立ち上げ、私も座長を務めています。じつは、先進国における男性の家事時間割合と出生率をみると、男性の育児参加時間が高い国ほど出生率も高くなっています。また、日本の女性が出産に対して抱えている一番の不安は「仕事と育児の両立」であり、男性の育児参加は女性が安心して子どもを産み、仕事も続けられる環境を整える力になるのです。しかし、現在、日本の男性の育児休業取得率は1.3%、1日の家事育児時間は60分程度しかありません。そこで、国では2017年までに育児休業取得率10%、家事育児時間2.5時間まで引き上げようと数値目標を掲げています。
 一方、父親の立ち会い出産経験および希望者は都心部で7割になっています。また、育児休暇を取りたいという父親は3割、ワーク・ライフ・バランスも7割の男性が実現したいと答えています。とくに、現在30代半ばより下の層は、その8割がイクメン予備軍だと考えられます。この年代の男性は「自分で育児をしてみたい」と答える人が非常に多いのです。これは、1993年から中学校の家庭科が男女共修になったことも影響しているかもしれません。

先進国における男性の家事時間割合と出生率
(『平成十三年働く女性の実情』厚生労働省より)

先進国における男性の家事時間割合と出生率(『平成十三年働く女性の実情』厚生労働省より)

男性が育児に参加できないわけ

 私は来年、50歳になりますが、私たち世代は高度成長期時代の家庭に生まれ、子育てをする父親という姿をほとんど知りません。そして、日本では妊娠すると女性は母親学級に通いますが、男性には父親学級はありません。そこで、ファザーリング・ジャパンでは父親学校(パパスクール)を開講しています。参加者は20代、30代の父親やプレパパが中心で、参加者の約半分は奥さまが申し込んでいます。受講後は、皆さん「夫が変わった」と言い、本人も笑顔になります。そして、多くの父親が「子育てをしているつもりだったが何もできていなかった」と言っています。誰でもやればできるのに、育児のしかたを習っていないのです。
 私たちは、こうした父親教育を母親学級と同様に保健所でやって欲しいと政策提言しています。ヨーロッパでは育児教育は夫婦で参加が前提で、その日は仕事を休むのも当たり前です。神奈川県は全国でも特に待機児童が多いことが問題になっています。横浜市では副市長が“校長”となった「横浜イクメンスクール」も実施しています。こうした場に一度、参加してみるのも良いと思います。

イクメンの極意

 今後、イクメンが減ることはないと思いますが、問題はその質です。たとえば、週末だけ育児を手伝っても、それは本当の育児参加にはなりません。育児は国語と同じで、週に1回だけの体験ではいつまでたっても上手になりません。毎日続けて子どもと関わることで、子育ての技術も上がり、親子の関係づくりもできるのです。さらに、子どもに向き合うだけでなく夫婦の絆を育て家庭を安定させ、地域活動にも関わってこそ、真のイクメンです。そんな前向きな父親が増えれば、社会が変わり、出生率も上がり、虐待も減るのです。
 私たちは、イクメンの極意として6つ上げています。
 まず、子どもができたら自分の古いOSを入れ替える。古いOSのままでは、そのうちフリーズして強制終了、つまり離婚になります。だから、週末だけのイイトコドリの家族サービスは止めましょう。それから、子育てを主体的にやると時間管理能力、コミュニケーション能力が上がり仕事にもプラスになります。さらに子育てや介護をする他の社員の気持ちも理解できるようになり、ダイバーシティ(多様性)が推進し、働く人にとってよい職場ななっていくでしょう。

笑う父親になるための、ファザーリングの極意6カ条

1.子どもができたらOS(父親ソフト)を入れ替えよう。
2.義務から権利へ。客体から主体へ。さらば「家族サービス」。
3.男の育児は、質より量。イイトコドリ育児をやめよう。
4.子育てパパは仕事もできる。育児で備わる3つの能力。
5.パートナーシップの構築。妻の人生は、夫のものではない。
6.地域活動を通じて、シチズンシップを獲得しよう

 イクメンが増えて、フルタイムで働く女性が増えれば、企業にも大きなメリットがあります。資生堂、ベネッセ、ユニクロなど、女性の力を活かしている企業は、厳しい経済環境下でもしっかりと業績を伸ばしています。
 また、最近は“ケアメン”という言葉も生まれています。すでに介護における担い手の30%は男性という状況。団塊世代が後期高齢者(75歳)になると、団塊ジュニアの人たちの多くが50代という働き盛りの時機に介護をすることになります。いきなり父親のおむつを換えるのは大変ですが、育児経験があれば介護も楽です。つまりイクメンはケアメンになりやすいのです。
 子どもの成長はあっという間です。そういう意味では、育児は“期間限定のプロジェクトX”です。社会参画と能力開発を推進する新たな機会と捉えて、1人でも多くの人に父親の楽しみを知っていただきたいと思います。

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