「神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例 〜ともに生きる社会を目指して〜」 逐条解説 令和5年3月 神奈川県福祉子どもみらい局 目次 1 条例制定までの経過と今後の方向性について 1 (1)条例の位置付け 1 (2)条例制定までの経過 2 (3)ともに生きる社会を目指して 3 2 条例の全体像 5 3 逐条解説 7 ○ 題名、前文 7 題名及び副題 7 前文 8 ○ 総則的規定(第1条から第7条) 13 第1条(目的) 13 第2条(定義) 15 第3条(基本理念) 19 第4条(県の責務) 22 第5条(市町村との連携)24 第6条(県民及び事業者の責務)25 第7条(障害福祉サービス提供事業者の責務) 26 ○ 基本的規定〜実体的規定(第8条から第26条) 27 第8条(基本計画の策定) 27 第9条(基本計画に定める施策) 29 第10条(意思決定支援の推進) 31 第11条(障害者の権利擁護) 33 第12条(障害を理由とする差別、虐待等の禁止) 34 第13条(障害を理由とする差別に関する相談、助言等) 35 第14条(社会的障壁の除去) 37 第15条(虐待等の防止) 39 第16条(虐待の早期発見等) 40 第17条(障害者の家族等に対する支援) 43 第18条(障害福祉に係る政策立案過程への障害者の参加の推進) 44 第19条(障害者主体の活動の促進) 45 第20条(生涯にわたる障害者への支援体制の整備) 47 第21条(高齢者施策等との連携) 51 第22条(支援手法に関する調査研究) 54 第23条(中核的な役割を担う拠点の整備) 55 第24条(地域間の均衡) 56 第25条(自立支援協議会の活動の推進等) 59 第26条(人材の確保、育成等) 61 ○ 基本的規定〜雑則(補則) 63 第27条(財政上の措置) 63 ○ 附則 63 附則 63 参考文献 64 条例全文 65 1ページ目 1 条例制定までの経過と今後の方向性について (1)条例の位置付け 「神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例〜ともに生きる社会を目指して〜」(以下「条例」といいます。)は、障害者に関わる全ての人が本人の望みや願いに寄り添いながら、本人が自己選択、自己決定し、希望する場所で、自分らしく暮らしていくことを支援するという、新たな障害福祉を推進するための普遍的な仕組みとして制定したものです。 我が国のこれまでの社会保障制度は、憲法第25条の「生存権保障」に根拠を置いた給付を中心とした制度・施策でした。このため、現代社会が抱える、社会的な孤立・孤独といった「社会的排除」に対応できにくくなっているとの指摘があります。こうしたことから、今後の社会保障制度は、憲法第13条の「幸福追求権」に根拠を見いだし、人格的に自律し、主体的に自らの生き方を追求していくことを可能にするための条件整備とする制度・施策へ転換していく必要があるとの考えが広がってきています。1) 「当事者目線の障害福祉」は、このように、障害者を「保護されるべき客体」として捉えるのではなく、一人の個人として、権利を有し義務を負う積極的かつ能動的な主体として位置付けるという考え方に立つものであり、このことは、全ての人に当てはまる普遍的な考え方です。 このような基本的な考え方を基礎に、条例では、行政、事業者、県民が一体となって、障害者の立場に立った施策を着実に実施し、障害を理由とする差別や虐待のない、地域共生社会を実現することを目的として、県の責務を明示し、事業者、県民にどのような責務を担っていただくのかを規定しています。 条例が目指す、この地域共生社会は、「ともに生きる社会かながわ憲章」が掲げる、「誰もがその人らしく暮らすことのできる地域社会」です。地域共生社会は、近年の社会構造の変化や人々の暮らしの変化を踏まえ、制度・分野ごとの「縦割り」や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会のことです。2) 条例は、障害者の権利に関する条約(平成26年条約第1号)(以下、障害者権利条約」といいます。)を強く意識して検討を行ってきました。障害者権利条約の起草に関する交渉(アドホック委員会)には、“Nothing About Us Without Us”(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)をスローガンに、障害者自身が主体的に関与し、国際社会の総意で、名実ともに障害者のための条約が起草され、平成18年12月に国連総会において採択されました。我が国は平成26年1月に批准しましたが、障害者権利条約締約国にある地方自治体として、同条約の各規定がしっかりと実体化されるよう、条例の基本理念等の規定を検討しました。3) さらに、条例は、当事者目線の障害福祉を進めていくための基本的な規範であり、県の障害福祉分野の考え方の礎となる基本条例として位置付けられるものです。今後の県の障害福祉関係施策の方向付けを行い、県の関係部局は、条例の目的、内容等に適合する形で、様々な行政施策を実施することを目指しています。 こうしたことを踏まえ、条例の解釈及び運用については、障害者権利条約、国内法として位置付けられる障害者基本法(昭和45年法律第84号)、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)(「以下、障害者差別解消法」といいます。)、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)(以下、「障害者総合支援法」といいます。)、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成23年法律第79号)(以下「障害者虐待防止法」といいます。)その他関係する国内法との調和を図り、先人達の努力によって蓄積された県の障害福祉の実状に応じ、各般の障害福祉施策が効果的に進められるよう取り扱うこととしています。 2ページ目 (2)条例制定までの経過 平成28年7月26日、県立の障害者支援施設である津久井やまゆり園において、19名のかけがえのない尊い生命が奪われるという、大変痛ましい事件が発生しました。このような事件が二度と繰り返されないよう、県議会と共同して、平成28年10月14日、「ともに生きる社会かながわ憲章」を定め、その理念の普及啓発に努めてきました。 また、同園の再生に向けては、様々な議論が交わされ、平成29年10月、県は、「津久井やまゆり園再生基本構想」を取りまとめました。同基本構想は、社会全体として、この事件を乗り越え、「ともに生きる社会かながわ憲章」の理念を真に実現することを目指して、@利用者の意思決定支援、A利用者が安心して安全に生活できる場の確保、B利用者の地域生活移行の促進、に取り組むことを盛り込み、同園の再生への道程を明示するものでした。 その再生に至る過程で、複数の県立障害者支援施設において、障害者の安全のためといった理由で、施錠した部屋に長時間閉じ込めるなどの不適切な支援が行われていたことが明らかとなり、県立障害者支援施設全体のあり方についての議論に波及しました。その後、令和2年1月に設置した「津久井やまゆり園利用者支援検証委員会」、令和2年6月に設置した「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会」での議論を経て、令和3年6月、県は、県立障害者支援施設も含めた、神奈川県における障害福祉の将来のあり方を検討する、「当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会」(以下「将来展望検討委員会」といいます。)を設置しました。 将来展望検討委員会における議論の過程において、中長期的なビジョンに基づく様々な提言を着実に実現するための普遍的な仕組みの構築が求められました。県では、県議会での議論も踏まえ、県、事業者、県民が当事者目線の障害福祉の推進に向けて取り組むべき責務等を明示する、新たな条例の制定を目指すこととしました。 こうした議論と並行して、津久井やまゆり園再生基本構想に基づく、新しい津久井やまゆり園、芹が谷やまゆり園が再整備され、県は、事件を乗り越え、新たな障害福祉をスタートすることを決意して示すため、令和3年11月、「当事者目線の障がい福祉実現宣言」を発信しました。 宣言では、県立障害者支援施設における不適切な支援について障害者のみなさんに対して心からお詫びし、これまでの障害福祉のあり方を見直し、当事者の心の声に耳を傾け、お互いの心が輝くことを目指す障害福祉へ転換することを誓いました。 そして、当事者、事業者等の関係団体等や、県内すべての市町村との意見交換を実施しながら、新たな条例の検討を進め、令和4年3月、県は条例の骨子案を策定し、県議会厚生常任委員会に報告するとともに、同年4月から5月にかけてパブリック・コメント(県民意見反映手続)を行いました。次に、意見交換やパブリック・コメントによるご意見を踏まえ、条例素案を策定し、同年7月、県議会厚生常任委員会へ報告した後、さらなる検討を加え、同年9月、条例案を県議会へ提出しました。 条例案は、令和4年10月7日、その審議を付託された県議会厚生常任委員会において、「施策の推進にあたっては、障害者とご家族の多様なニーズに対応できる受け入れ体制の更なる整備・拡充、担い手となる人材の育成・確保と処遇改善、実効性を担保するための財政支援と推進体制の機能強化に努めるとともに、諸情勢の変化に応じ、柔軟かつ果断に見直しを行うこと」との意見が付され、全会派が賛成して可決されました。そして、同月14日、県議会本会議において全会一致により可決、成立、同月21日に公布しました。 3ページ目 (3)ともに生きる社会を目指して 条例制定に当たっては、将来展望検討委員会において「新たな条例の必要性」を次頁のとおり位置付けられたところです。県は、同委員会から提起された様々な課題を踏まえ、当事者目線の障害福祉の実現に向け、市町村と緊密に連携を図り、事業者、県民の理解と協力を得ながら施策を講じていきます。 (参考)第11回将来展望検討委員会(令和4年8月30日)参考資料1 「新たな条例を制定する必要性」 (1)津久井やまゆり園事件を風化させないこと 事件発生から6年が経過し、事件の風化が心配される現下において、「ともに生きる社会かながわ憲章」のさらなる啓発普及を進め、障がい者の権利利益に対する侵害のない共生社会を築いていくため、条例において、この憲章の考えを明定し、その理念の普及を促進させるものであること (2)虐待ゼロを目指し、身体拘束のない、当事者目線の支援を進める必要があること 県立障害者支援施設における長期にわたる居室施錠等の身体拘束といった不適切支援を省察し、条例において、障がい者虐待の禁止を謳い、身体拘束のない支援に努めるものとし、正当な理由で身体拘束を行っている場合であっても、その件数を公表する等の措置と相まって、利用者の望みや願いに寄り添った、当事者目線の支援を進めるものであること (3)意思決定支援を着実に進める必要があること 全国的にも具体の取り組みが始まったばかりの意思決定支援の手法を全県に広げ、必要とする全ての障がい者が適切に意思決定支援を受けることができるよう、条例において、県及び事業者の実施責任を謳うとともに、意思決定支援の理念と実施手法の普及に努めるものであること (4)障がい者の地域生活を実現するために必要な地域資源を増やしていく必要があること 障がい者が住み慣れた地域で安心していきいきと、いのち輝かせて暮らすことができるよう、条例において、県は市町村と緊密に連携し、障がい者の地域生活を推進する施策を総合的かつ計画的に講じる責務を定めるとともに、必要な地域資源を充実させるための施策を講じること等を定め、もって地域共生社会の実現を図るものであること (5)政策動向を注視しながら中長期的な戦略的視点で障がい福祉施策を進めて行く必要があること 「当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会」の提言を実体化するため、条例において、中長期的な視点に立った実行プランに当たる「基本的な計画」を策定する旨を定め、本県の障がい福祉関係施策を戦略的に進めて行くものであること 5ページ目 2 条例の全体像 《前文》 平成28年7月、障害者支援施設の津久井やまゆり園において、19名の尊い生命が奪われるという大変痛ましい事件が発生した。このような事件が二度と繰り返されないよう、県は同年10月、県議会の議決を経て「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定し、ともに生きる社会の実現を目指してきた。 我が国は、ノーマライゼーションの理念の下、障害者の自立と社会参加が進められ、平成26年、障害者権利条約が批准されるに至ったが、全ての障害者が自分らしく暮らしていくことのできる社会環境の整備は道半ばである。誰もが安心していきいきと暮らすことのできる地域共生社会を目指し、県民、事業者、行政が一体となって取組みを進める普遍的な仕組みが必要であり、当事者目線の障害福祉を推進していくための基本的な規範として、この条例を制定する。 【総則的規定】(第1条から第7条) 《目的》 当事者目線の障害福祉(関わる誰もが障害者の立場に立ち、その望みと願いを尊重し、必要な支援を受けながら暮らせるための社会環境の整備により実現する障害者の福祉)の推進について、基本理念を定め、県、県民、事業者等の責務を明らかにするとともに、その施策の基本となる事項を定めることにより、当事者目線の障害福祉の推進を図り、障害を理由とする差別や虐待を受けない、本人の望む暮らしの実現と、誰もが喜びを実感できる地域共生社会の実現に資する。 《基本理念》 @自律した存在として主体的に生き方を追求でき、個人の尊厳が重視される A一人ひとりの自己決定が尊重される B本人が希望する場所で希望するよう暮らすことができる C性別、年齢、特性及び生活実態に応じて関係者が連携し、可能性が尊重される D障害者に関わる人々も喜びを実感できる E多様な人々による地域社会の構成の下、全ての県民が障害及び障害者に対する理解を深め、相互に支え合いながら、社会全体で取り組む 《定義》 〇 この条例における「障害」「障害者」「当事者目線の障害福祉」「意思決定支援」「障害福祉サービス提供事業者」について定義 《責務等》 〇 県の責務、障害福祉サービス提供事業者を含む事業者・県民の責務を規定 〇 県は、施策の推進に当たり、市町村と連携・協力するとともに、市町村の取組みに対する情報提供、助言その他必要な支援を行う旨を規定 【基本的規定〜実体的規定】(第8条から第26条) 《基本的な計画の策定と盛り込む施策》 〇 知事は、当事者目線の障害福祉を総合的、計画的に推進するため、県、事業者、県民が取り組むべき施策等の実行プランを策定し、実施状況を公表 《意思決定支援と権利擁護、家族等への支援》 〇 必要な意思決定支援の実施体制の整備、意思決定支援に関する研修の実施 ○ 障害を理由とする差別、虐待等の禁止 〇 差別解消の推進、虐待等の防止のための措置 〇 障害者の家族等に対する相談、助言その他の支援 《政策立案過程への障害者の参加、障害者主体の活動の推進》 〇 障害者の福祉に係る政策の立案に関する会議体等への障害者の参加推進 〇 障害者主体の活動への理解促進、普及啓発、連携体制づくり 《当事者目線の障害福祉の推進のための体制整備》 〇 生涯にわたる障害者への支援体制の整備  〇 高齢者及び子どもの福祉に関する施策との連携 〇 エビデンスに基づく支援手法に関する国内外の情報収集、調査研究 〇 地域生活支援及び社会参加の促進を図る中核的拠点の整備(ソフト事業) 《広域的な調整》 〇 地域間の均衡を図るための取組み 〇 自立支援協議会の活動の推進等 〇 人材の確保、育成等 ・ 人材確保、育成、技術向上のための情報提供、研修その他の措置 ・ 職場定着のための就労実態の把握、従事者の心身の健康の維持及び増進・処遇の改善に資する措置 ・ 障害者の福祉に係る職場への関心を高めるための広報、接する機会の提供等 【雑則(補則)】(第27条) 《財政措置》 〇 財政上の措置 【附則】 《施行期日》 〇 令和5年4月1日 《条例の施行後の検討》 〇 条例施行から5年を経過するごとに検討 7ページ目 3 逐条解説 〇 題名、前文 題名及び副題 神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例 〜ともに生きる社会を目指して〜 【趣旨】 条例の題名について、条例の内容を端的に表す趣旨から、「神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例」としています。また、条例が「ともに生きる社会」を目指していることを県民に分かりやすく伝える必要があることから、副題として「ともに生きる社会を目指して」を付しています。 【解説】 条例の題名は、呼びやすく簡潔なものであることを要請され、一方、題名から一応その内容を推測させ、少なくとも内容について誤解を生じさせないものでなければなりません。 このような観点から、条例の題名を「神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例」としたところです。なお、パブリック・コメント(県民意見反映手続)等において、「ともに生きる神奈川条例」「ともに生きる社会推進条例」「障害のある人もない人も共に地域で安心していきいきと生活できる社会を実現する条例」といった題名にした方がよいとのご意見が寄せられました。また、県議会での条例案の審議において、条例が「ともに生きる社会」を目指していることを県民に分かりやすく伝える必要があるのではないか、といった議論が行われました。こうした議論を通して、条例の正式名称は「神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例」とするとともに、条例公布後に条例を広報等する際には「ともに生きる社会を目指して」という副題を必ず付することとしています。 なお、「障害」「障がい」の表記について、現在、本県の条例においては全て常用漢字の「害」を使うこととしており、国の法令でも同様に「害」を使用していることから、条例においても、「障害」の表記を用いることとしています。 「当事者目線の障害福祉」 ⇒定義の【解説】(16頁)を参照 8ページ目 【前文】※段落の番号を記載。 第1段落 平成28年7月26日、県立障害者支援施設である津久井やまゆり園において、19名の生命が奪われるという大変痛ましい事件が発生した。この事件は、障害者やその家族のみならず、多くの県民に言いようもない衝撃と不安を与えた。 第2段落 県は、このような事件が二度と繰り返されないよう、平成28年10月、県議会の議決を経て「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定し、これを、ともに生きる社会の実現を目指す県政の基本的な理念とした。 第3段落 県は、津久井やまゆり園の再生を進める過程において、利用者に対するより良い支援のあり方を模索してきた。そうしたところ、これまでは利用者の安全を優先するという理由で管理的な支援が行われてきたが、本人の意思を尊重し、本人が望む支援を行うためには、当事者本人の目線に立たなくてはならないことに改めて気付いた。 第4段落 そして、障害者との対話を重ね、その思いに寄り添うために全力を注いだ。その結果、障害者一人一人の心の声に耳を傾け、支援者や周りの人が工夫しながら支援することが、障害者のみならず障害者に関わる人々の喜びにつながり、その実践こそが、お互いの心が輝く当事者目線の障害福祉であるとの考えに至った。 第5段落 そこで、令和3年11月、「当事者目線の障がい福祉実現宣言」を発信し、これまでの障害福祉のあり方を見直し、当事者目線の障害福祉に転換することを誓った。 第6段落 顧みると、我が国においては、昭和56年の国際障害者年を転機として、ノーマライゼーションの理念の下、全ての障害者が自立と社会参加をすることができるよう環境の整備が進められてきた。また、障害者基本法の改正、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の制定等の国内法の整備が行われ、平成26年には、障害者の権利に関する条約が批准された。しかしながら、全ての障害者が自分らしく暮らしていくことができる社会環境の整備は、いまだ道半ばである。 第7段落 私たちは、この現状に真摯に向き合い、誰もが安心していきいきと暮らすことのできる地域共生社会の実現を目指して、障害者も含めた県民、事業者、県等が互いに連携し、一体となった取組を進めるべく、普遍的な仕組みを構築していかなければならない。 第8段落 このような認識の下、当事者目線の障害福祉の推進が、「ともに生きる社会かながわ憲章」の実現につながるものと確信し、その基本となる理念や原則を明らかにした、当事者目線の障害福祉を進めていくための基本的な規範として、ここに、この条例を制定する。 【趣旨】 前文は条例に必須の構成要素ではありませんが、条例の本則の前に置かれ、その条例の制定の趣旨、目的、基本原則を述べた文章であり、その条例の制定の経過や理念を強調して明示する必要がある場合に置かれることが多いものです。 条例においても、条例制定の背景や趣旨、条例全体を貫く考え方をなるべく分かりやすい言葉で表現し、条例の性格をより明確にすることによって、多くの県民の理解と協力を求めるため、前文を置くこととしたものです。また、前文は本則と一体となって、各条項の運用や解釈上の指針としての機能も果たすものです。 その内容としては、@事件発生を受けて「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定した経緯、A「当事者目線」の支援の大切さの再認識、B「当事者目線の障がい福祉実現宣言」の発信の趣旨、Cこれまでの障害者を取り巻く社会環境の整備の経過、D条例における「障害者」は、障害の種別に関わらず全ての障害者を対象としていること、E県民総ぐるみで地域共生社会を構築することの重要性、などについて記述したものです。 そして最後に、条例は、当事者目線の障害福祉を進めていくための基本的な規範として制定する旨を明示しています。 【解説】 〔第1段落、第2段落関係〕 津久井やまゆり園事件の発生を受け、このような事件が二度と繰り返されてはならないという決意のもと、県議会と共同して「ともに生きる社会かながわ憲章」(以下「憲章」という。)を策定した経緯を明示しています。 憲章は、ともに生きる社会を目指すための県政の基本的な理念として、次のとおり定められたものです。 「ともに生きる社会かながわ憲章」 〜この悲しみを力に、ともに生きる社会を実現します〜 平成28年7月26日、県立の障害者支援施設である「津久井やまゆり園」において19人が死亡し、27人が負傷するという、大変痛ましい事件が発生しました。 この事件は、障がい者に対する偏見や差別的思考から引き起こされたと伝えられ、障がい者やそのご家族のみならず、多くの方々に、言いようもない衝撃と不安を与えました。 私たちは、これまでも「ともに生きる社会かながわ」の実現をめざしてきました。 そうした中でこのような事件が発生したことは、大きな悲しみであり、強い怒りを感じています。 このような事件が二度と繰り返されないよう、私たちはこの悲しみを力に、断固とした決意をもって、ともに生きる社会の実現をめざし、ここに「ともに生きる社会かながわ憲章」を定めます。 一 私たちは、あたたかい心をもって、すべての人のいのちを大切にします 一 私たちは、誰もがその人らしく暮らすことのできる地域社会を実現します 一 私たちは、障がい者の社会への参加を妨げるあらゆる壁、いかなる偏見や差別も排除します 一 私たちは、この憲章の実現に向けて、県民総ぐるみで取り組みます 平成28年10月14日 神奈川県 〔第3段落関係〕 県は、津久井やまゆり園の再生を進め、利用者に対するより良い支援のあり方を模索してきた過程で明らかになった、利用者の安全を優先するという理由で行ってきた不適切と認められる管理的な支援を見直し、障害者本人の意思を尊重するためには当事者目線に立たなくてはならないとの認識に、改めて気付くに至った経緯を示しています。 「津久井やまゆり園の再生を進める過程」 平成29年10月、県は「津久井やまゆり園再生基本構想」を取りまとめました。同基本構想は、社会全体としてこの事件を乗り越え「憲章」の理念を真に実現することを目指して、@利用者の意思決定支援、A利用者が安心して安全に生活できる場の確保、B利用者の地域生活移行の促進、に取り組むことを盛り込み、同施設の再生への道程を明示するものでした。   〔第4、5段落関係〕 障害者との対話を重ね、当事者目線の障害福祉の考えに至った過程と、これに伴い、県が「当事者目線の障がい福祉実現宣言」を発信し、これまでの障害福祉のあり方を見直すに至った経緯を明示しています。 「当事者目線の障がい福祉実現宣言」 これまでの障害福祉のあり方を見直し、当事者の心の声に耳を傾け、お互いの心が輝くことを目指す障害福祉へ転換することを誓いました(次頁に全文掲載)。 〔第6段落関係〕 世界や我が国における、障害者を取り巻く法制度や環境の整備についての変遷を振り返る一方、全ての障害者が自分らしく暮らしていくことができる社会環境の整備は、いまだ道半ばである旨を課題提起しています。 「全ての障害者」 第2条の定義規定においても示すとおり、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第2条第1号に規定する「障害者」であり「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」です。条例における「障害者」は障害の種別にかかわらず「全ての障害者」であることを明示しています。 〔第7段落関係〕 上記の現状に向き合い、地域共生社会の実現を目指して全ての県民が一体となって取り組むための普遍的な仕組みの必要性を明示しています。 〔第8段落関係〕 前段までに記した認識の下、当事者目線の障害福祉を進めていくための基本的な規範として、条例を制定する旨を明示しています。  <参考掲載> 「当事者目線の障がい福祉実現宣言」 〜あなたの心の声に耳を傾け、お互いの心が輝くことを目指します〜 私たちは、津久井やまゆり園事件のような悲惨な事件を二度と起こさないために、これまでの障がい福祉のあり方を根本的に見直し、「当事者目線の障がい福祉」に大転換することを誓います。それは「あなたの心の声に耳を傾け、お互いの心が輝くことを目指す障がい福祉」です。 私たちは「虐待」は絶対に認めません。強度の行動障がいの方に対して、周りの人や自分を傷つけるから、音や光などに過敏に反応し過ぎるから、長時間、部屋に閉じ込めておく、車いすに縛り付けておく、安全安心のためにはやむをえないということで、これまではそんな支援が当たり前のように行なわれていました。 しかし、それは明らかに「虐待」です。時代は大きく変わり、法律も変わりました。「虐待」の定義も変わりました。それにも関わらず、現場では同じような支援、すなわち「虐待」が続いていたのです。 それは県立施設においても例外ではありませんでした。県として、障がい者のみなさんに対して、心からお詫びいたします。そんな支援を続けていた事業者は、みんな反省し、支援のあり方を変えなければならないと私たちは思います。 「虐待」は絶対に許されることではありません。あなたは障がい者であるまえに、人間です。人間だからこそ、一人の人間として尊重されるのは当然の権利です。 私たちは部屋に閉じ込められている当事者ご本人の目線に立って考えます。なぜ、あなたは周りの人や自分を傷つけるような行動をしてしまうのでしょうか。もしかしたら、あなたは自分の気持ちをうまく表せないだけかもしれません。自分の気持ちを聞いて欲しいと訴えているに違いないと考えて接すれば、全然違ったサポートができるはずです。 私たちはそんなあなたの心の声に一生懸命、耳を傾けます。あなたの思いを受け止め、工夫をしながらサポートします。そうすればきっとあなたは安心してくれるに違いない。それが私たちにとっても大きな喜びにつながるはずです。それがお互いの心が輝く障がい福祉です。 施設はあなたが地域の仲間たちとのつながりの中で暮らしていけるよう、一緒に考え、みんなで支え、準備をする場です。一生そこで過ごしていただく場ではありません。あなたは自分の住む場所を自分で決めることができます。 かつて、周りの人を傷つけるからという理由で、ずっと部屋に閉じ込められていた人が、「当事者目線の支援」を受けることになったことで、生き生きと働けるようになっていました。 支援のあり方によって、こんなに変わるんだ。それは希望の光でした。こういう支援が拡がっていけば、必ずや、「当事者目線の障がい福祉」は実現できるに違いないと、私たちは確信しました。 どんな障がいがあっても、支えあい、愛と思いやりにあふれ、みんなのいのちが輝く、「ともに生きる社会」を実現するべく全力を尽くすことを障がい当事者、福祉関係者、そしてすべての県民の皆様に誓います。 令和3年11月16日 神奈川県知事 黒岩祐治 13ページ目 〇 総則的規定(第1条から第7条) (目的) 第1条 この条例は、当事者目線の障害福祉の推進について、基本理念を定め、及び県、県民、事業者等の責務を明らかにするとともに、当事者目線の障害福祉を推進するための基本となる事項を定めることにより、当事者目線の障害福祉の推進を図り、もって障害者が障害を理由とするいかなる差別及び虐待を受けることなく、自らの望む暮らしを実現することができ、障害者のみならず誰もが喜びを実感することができる地域共生社会の実現に資することを目的とする。 【趣旨】 本条は、条例の制定目的を明らかにするものです。 具体的には、当事者目線の障害福祉の推進を図る、という条例の直接的な目的の規定に加え、当事者目線の障害福祉の推進についての基本理念や、県、県民、事業者等が取り組むべき責務や基本的な事項を定めることとしています。こうしたことにより、障害者の権利擁護が確保され、障害者本人の望みや願いを尊重し、自分らしく暮らすことのできる、地域共生社会の実現に資することを定めています。 【解説】 条例は、直接的な目的として「当事者目線の障害福祉の推進を図り」、高次の目的として「障害者が障害を理由とするいかなる差別及び虐待を受けることなく、自らの望む暮らしを実現することができ、障害者のみならず誰もが喜びを実感することができる地域共生社会の実現に資することを目的とする」ことを明示しています。   「基本理念」 第3条に掲げる基本理念を指しています。 「県、県民、事業者等の責務」 第4条に定める県の責務、第6条に定める県民及び事業者の責務、第7条に定める障害福祉サービス提供事業者の責務を指しています。 「当事者目線の障害福祉を推進するための基本となる事項を定める」 第8条及び9条による基本的な計画の策定や、後の各条において障害者の権利擁護に関する事項、障害を理由とした差別や虐待の禁止及び防止に関する事項、障害者の社会参加の促進に関する事項、体制の整備や広域的な調整に関する事項などを定めることを指しています。 「自らの望む暮らしを実現することができ、障害者のみならず誰もが喜びを実感することができる地域共生社会」 当事者目線の障害福祉の実践により、障害者の心の声に耳を傾け、障害者が自らの望む暮らしを実現することで、周りの人々も喜びを実感し、その様子を見た障害者本人もまた嬉しくなる、といった双方向の喜びが生まれ、「支え手」「受け手」という関係を超えて、互いに支え合う地域共生社会を目指していくことを指しています。 15ページ目 (定義) 第2条 この条例において「障害」とは、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第2条第1号に規定する障害をいい、「障害者」とは同号に規定する障害者をいう。  2 この条例において「当事者目線の障害福祉」とは、障害者に関わる誰もが障害者一人一人の立場に立ち、その望みと願いを尊重し、障害者が自らの意思に基づいて必要な支援を受けながら暮らすことができるよう社会環境を整備することにより実現される障害者の福祉をいう。 3 この条例において「意思決定支援」とは、障害者が自ら意思を決定すること(以下「自己決定」という。)が困難な場合において、可能な限り自らの意思が反映された日常生活及び社会生活を送ることができるよう、自己決定を支援することをいう。 4 この条例において「障害福祉サービス提供事業者」とは、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号。以下「障害者総合支援法」という。)第5条第1項に規定する障害福祉サービス事業を行う者、同条第11項に規定する障害者支援施設を経営する事業を行う者、同条第18項に規定する一般相談支援事業又は特定相談支援事業を行う者、同条第26項に規定する移動支援事業を行う者、同条第27項に規定する地域活動支援センターを経営する事業を行う者及び同条第28項に規定する福祉ホームを経営する事業を行う者並びに児童福祉法(昭和22年法律第164号)第6条の2の2第1項に規定する障害児通所支援事業を行う者、同条第7項に規定する障害児相談支援事業を行う者及び同法第7条第1項に規定する障害児入所施設又は児童発達支援センターを経営する事業を行う者をいう。 【趣旨】 本条は、条例において繰り返し用いられる重要な用語について、用語の解釈上の疑義をなくす必要があることから、その定義を定めるものです。具体的には、「障害」「障害者」「当事者目線の障害福祉」「意思決定支援」「障害福祉サービス提供事業者」について定義しています。 【解説】 〔第1項関係〕 条例において「障害」及び「障害者」の定義については、障害者基本法(昭和45年法律第84号)の規定に基づくことを明示しています。同法では「障害者」の定義を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう」としています。 同法は、我が国の障害者の自立や社会参加を支援するための施策についての基本事項を定めた法律であり、条例においても、同法に規定する「障害」及び「障害者」と同様とすることが適当であると考えました。 条例は、障害者総合支援法のように、具体的な給付法ではありませんので、客観的な認定等に基づく対象範囲の確定は要さないことから、理念や施策の基本方針を定める障害者基本法の規定を引用することとしたものです。 また、障害者基本法における「障害者」の定義については、数次の法改正が行われ、平成23年の改正では、身体障害、知的障害、精神障害のある者に加えて、「その他の心身の機能障害がある者」が追加され、この具体的な内容について、国会審議で、「難病による心身の機能障害等も含まれる」との答弁がなされており、条例における「障害者」も同様です。 (参考)他制度の「障害者」の定義 障害年金制度や、税金の減免、公営住宅の優先入居など障害者に対する施策においては障害の範囲を定めてサービスを提供しています。さらに、鉄道、バス、タクシー等民間企業のサービスまで含めればさらに多くの制度が存在し、それぞれ障害者の定義をもっており、必ずしも共通してはいません。例えば、身体障害者福祉法による身体障害者と年金各法による身体障害者の定義は異なっていますが、これは、各制度の目的に照らして障害者を定義しているからです。 〔第2項関係〕 条例において、「当事者目線の障害福祉」の定義は、障害者に関わる誰もが障害者一人一人の立場に立ち、その望みと願いを尊重し、障害者が自らの意思に基づいて必要な支援を受けながら暮らすことができるよう社会環境を整備することにより実現される障害者の福祉、としています。 なお、障害者によるワーキンググループで作成した「みんなで読める神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例〜ともに生きる社会を目指して〜」では、「障害のある人に関係するすべての人が、本人の気持ちになって考えることです」「本人の望みと願いを大事にすることです」「障害のある人が、自分の気持ちや考えで、自分に必要なサポートを受けながら暮らすことができるような社会をつくることです」としています。 「社会環境を整備する」 「社会環境」は「自然環境」に相対する用語で、自然環境以外は全て社会環境であると言えます。したがって、条例でいう「当事者目線の障害福祉」は、障害者が必要な支援を受けながら、自分らしい暮らしを実現するための施策について、関係者は非常に広い範囲で取り組む必要があることを表しています。 令和3年11月の「当事者目線の障がい福祉実現宣言」において、県は、次の考えを述べています。 <「当事者目線の障がい福祉実現宣言」一部抜粋> 私たちは部屋に閉じ込められている当事者ご本人の目線に立って考えます。なぜ、あなたは周りの人や自分を傷つけるような行動をしてしまうのでしょうか。もしかしたら、あなたは自分の気持ちをうまく表せないだけかもしれません。自分の気持ちを聞いて欲しいと訴えているに違いないと考えて接すれば、全然違ったサポートができるはずです。私たちはそんなあなたの心の声に一生懸命、耳を傾けます。あなたの思いを受け止め、工夫をしながらサポートします。そうすればきっとあなたは安心してくれるに違いない。それが私たちにとっても大きな喜びにつながるはずです。それがお互いの心が輝く障がい福祉です。 施設はあなたが地域の仲間たちとのつながりの中で暮らしていけるよう、一緒に考え、みんなで支え、準備をする場です。一生そこで過ごしていただく場ではありません。あなたは自分の住む場所を自分で決めることができます。 かつて、周りの人を傷つけるからという理由で、ずっと部屋に閉じ込められていた人が、『当事者目線の支援』を受けることになったことで、生き生きと働けるようになっていました。 支援のあり方によって、こんなに変わるんだ。それは希望の光でした。こういう支援が拡がっていけば、必ずや、「当事者目線の障がい福祉」は実現できるに違いないと、私たちは確信しました。 条例に定義する「当事者目線の障害福祉」は、これまでの障害福祉のあり方を転換し、上記のような考え方を踏まえた社会環境の整備です。 〔第3項関係〕 「意思決定支援」については、国において、「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(平成29年3月31日、厚生労働省障害保健福祉部長通知)(以下「国ガイドライン」といいます。)が策定されており、意思決定支援の定義を、「自ら意思を決定することに困難を抱える障害者が、日常生活や社会生活に関して自らの意思が反映された生活を送ることができるように、可能な限り本人が自ら意思決定できるよう支援し、本人の意思の確認や意思及び選好を推定し、支援を尽くしても本人の意思及び選好の推定が困難な場合には、最後の手段として本人の最善の利益を検討するために事業者の職員が行う支援の行為及び仕組み」としています。 国ガイドラインは、障害者基本法や障害者総合支援法における「意思決定支援の配慮」に関する規定を踏まえて策定されたものです。 条例において「意思決定支援」の定義は、国ガイドラインの趣旨を踏まえ「障害者が自ら意思を決定すること(自己決定)が困難な場合において、可能な限り自らの意思が反映された日常生活及び社会生活を送ることができるよう、自己決定を支援すること」としています。 障害者権利条約は、自分で自分の意思決定を行う権利(自己決定権)を明示していることから、条例では、障害者が自ら意思を決定することを「自己決定」と言い換えています。 <参考>障害者権利条約と「意思決定支援」の用語の関係 「意思決定」という文言が初めて登場したのは、平成18年に国連で採択された障害者権利条約の草案の第12条の議論とされています。この中で、支援付き意思決定「supported decision making」との表現がなされています。これは、自己決定「self-determination」とは異なる表現をとっており、日本国内に対し議論の経過を紹介する際の和訳(仮訳)で「意思決定支援」とされました。 障害者権利条約は、自分で自分の意思決定を行う権利(自己決定権)を認めており、意思決定支援は自己決定が困難な人が意思決定を行うための支援であると言うことができ、意思決定支援の核には、自己決定があると考えられるところです。4) 5)6) 〔第4項関係〕 条例において、「障害福祉サービス提供事業者」については、障害者総合支援法及び児童福祉法(昭和22年法律第164号)に基づく公的な障害福祉関係サービスを実施する者のうち、以下を限定列挙することにより、その範囲を明示しています。   @ 障害福祉サービス事業を行う者 A 障害者支援施設を経営する事業を行う者 B 一般相談支援事業又は特定相談支援事業を行う者 C 移動支援事業を行う者 D 地域活動支援センターを経営する事業を行う者 E 福祉ホームを経営する事業を行う者 F 障害児通所支援事業を行う者 G 障害児相談支援事業を行う者 H 障害児入所施設又は児童発達支援センターを経営する事業を行う者   障害者総合支援法及び児童福祉法に基づき障害福祉サービス等の公的サービスを提供する事業者としては、上記の他にも補装具事業者、成年後見制度利用支援事業を行う者、日常生活用具給付者、意思疎通支援事業を行う者等がありますが、条例では、障害福祉サービス提供事業者の責務として、意思決定支援の実施、障害者の権利擁護、虐待等の防止に努める旨を定めていることを踏まえ、対象範囲を上記に限定しているものです。 19ページ目 (基本理念) 第3条 当事者目線の障害福祉の推進は、次に掲げる事項を旨として図られなければならない。 (1) 全ての県民が、等しく人格的に自律した存在として主体的に自らの生き方を追求することができ、かつ、その個人としての尊厳が重んぜられること。 (2) 障害者一人一人の自己決定が尊重されること。 (3) 障害者本人が希望する場所で、希望するように暮らすことができること。 (4) 障害者の性別、年齢、障害の特性及び生活の実態に応じて関係者が連携し、障害者一人一人の持つ可能性が尊重されること。 (5) 障害者のみならず、障害者に関わる人々も喜びを実感することができること。 (6) 多様な人々により地域社会が構成されているという認識の下に、全ての県民が、障害及び障害者に関する理解を深め、相互に支え合いながら、社会全体で取り組むこと。 【趣旨】 本条は、当事者目線の障害福祉の推進に当たっての基本的な考え方を定めるものです。 【解説】 「ともに生きる社会かながわ憲章」や「当事者目線の障がい福祉実現宣言」に込められた考え等を踏まえ、当事者目線の障害福祉を推進していく上での基本的な考え方を示すため、基本理念を定めるものです。 条例案の検討に先立ち、本県のおよそ20年後の障害福祉のあるべき姿を議論するため、本県は、令和3年6月、将来展望検討委員会を設置し、令和4年3月に同委員会による報告書が取りまとめられました。この報告書において、当事者目線の障害福祉の基本的な考え方と目指す未来として、「基本的な考え方〜7つの理念」が示され、これが条例案の基本理念の検討の基礎となっています。また、将来展望検討委員会の報告書は、障害者権利条約が強く意識されており、その考えは条例案の検討に引き継がれています。 障害者権利条約の起草に関する交渉(アドホック委員会)には、“Nothing About Us Without Us”(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)をスローガンに、障害者自身が主体的に関与し、国際社会の総意で、名実ともに障害者のための条約が起草され、平成18年12月に国連総会において採択されました。 我が国は平成26年1月に批准しましたが、同条約締約国にある地方自治体として、障害者権利条約の各規定がしっかりと実体化されるように、という考えがこの基本理念の基底に置かれています。 〔第1号関係〕 本号にいう「人格的に自律した存在として主体的に自らの生き方を追求することができ」は、「自分の行為を主体的に規制すること。外部からの支配や制御から脱して、自身の立てた規範に従って行動すること」を示しています。 我が国のこれまでの社会保障制度は、憲法第25条の「生存権保障」に根拠を置いた給付を中心とした制度・施策でした。このため、現代社会が抱える、社会的な孤立・孤独といった「社会的排除」に対応できにくくなっているとの指摘があります。こうしたことから、今後の社会保障制度は、憲法第13条の「幸福追求権」に根拠を見いだし、人格的に自律し、主体的に自らの生き方を追求していくことを可能にするための条件整備とする制度・施策へ転換してく必要があるとの考えが広がってきています。 「個人としての尊厳が重んぜられること」は、障害者権利条約においても明らかにされた「障害者を保護の客体から権利の主体へ」という考え方への転換を示すものであり、障害者差別解消法第1条の目的規定においても踏まえられており、条例においても前提とすべき要素であることから、基本理念において明示しています。 〔第2号関係〕 条例では、障害者が自ら意思を決定することを「自己決定」と言い換えています。条例に基づく様々な施策を実施するに当たり、自己決定を尊重することは当事者目線の障害福祉において大前提となる要素であるため、基本理念として明示しています。   〔第3号関係〕 障害者基本法において「全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと」と規定されています。 条例においては、「障害者本人が希望する場所で、希望するように暮らすことができる」ことを、当事者目線の障害福祉の推進に当たっての基本理念として明示しています。 〔第4号関係〕 障害者一人ひとりの性別や、年齢など、それぞれの置かれている状況に対応した、根拠のある専門性の高い個別のサポートに取り組んでいくことが重要です。障害者の行動を課題のある行動と捉えるのではなく、その人の可能性を引き出すことが、当事者目線の障害福祉の前提とすべき事項であることから、基本理念に明示しています。 「関係者」 県、市町村、事業者、支援者、関係団体、地域住民などを想定しています。   〔第5号関係〕 津久井やまゆり園再生基本構想に基づき、令和元年度から施設整備を行い、令和3年7月に新しい津久井やまゆり園が完成、同年11月に芹が谷やまゆり園が完成しました。令和3年11月16日に行われた芹が谷やまゆり園の開所式で、県は、津久井やまゆり園と芹が谷やまゆり園の2つの施設の開所を新しい障害福祉のスタートと位置付け、「当事者目線の障がい福祉実現宣言」を発信しました。 そこでは、「なぜ、あなたは周りの人や自分を傷つけるような行動をしてしまうのでしょうか。もしかしたら、あなたは自分の気持ちをうまく表せないだけかもしれません。自分の気持ちを聞いて欲しいと訴えているに違いないと考えて接すれば、全然違ったサポートができるはずです。私たちはそんなあなたの心の声に一生懸命、耳を傾けます。あなたの思いを受け止め、工夫をしながらサポートします。そうすればきっとあなたは安心してくれるに違いない。それが私たちにとっても大きな喜びにつながるはずです。それがお互いの心が輝く障がい福祉です」として、支援する、される関係だけでなく、双方向の喜びにつながる重要性を示しています。 この宣言を踏まえ、条例では、当事者目線の障害福祉の推進を図る上での基本理念として、「障害者のみならず、障害者に関わる人々も喜びを実感することができること」を掲げています。 〔第6号関係〕 「誰一人取り残さない持続可能で多様性のある社会の実現」というSDGsの考え方は、今日、世界共通の目標として広く知られるようになっており、SDGsの3番「全ての人に健康と福祉を」、8番「働きがいも経済成長も」、10番「人や国の不平等をなくそう」、17番「パートナーシップで目標を達成しよう」の4つの目標の中には、障害福祉に関連するターゲットが設定されています。 本県は、「いのち輝く神奈川」の実現に向けて、SDGsの推進に取り組んできておりますが、SDGsの推進に当たっては、効率性や生産性を優先する既存の価値観を変え、多様性のある社会の実現に取り組んでいくという視点を持ち続けていくことが重要です。 こうした目標を達成していくためには、全ての県民が、障害及び障害者に関する理解を深め、社会全体で当事者目線の障害福祉に取り組むことが必要であり、SDGsの考えは障害福祉施策との関連性が非常に高いことから、基本理念に取り入れています。 22ページ目 (県の責務) 第4条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、当事者目線の障害福祉に関する総合的な施策を策定し、これを実施する責務を有する。 2 県は、市町村、事業者等と連携し、障害及び当事者目線の障害福祉に関する理解を深めるための普及啓発を行うものとする。 3 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策に、県民、事業者又はこれらの者の組織する民間の団体(以下「県民等」という。)の意見を反映することができるように必要な措置を講ずるものとする。 【趣旨】 本条は、条例における県の責務を定めるものです。 【解説】 〔第1項関係〕 条例の第3条に規定する基本理念を踏まえ、県は、当事者目線の障害福祉に関する総合的な施策を策定し、実施しなければならないことを規定しています。 障害者基本法においては、「障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策は、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、かつ、有機的連携の下に総合的に、策定され、及び実施されなければならない」(第10条関係)とされており、同法に基づく障害者基本計画の中の「当事者本位の総合的かつ分野横断的な支援」においても、「障害者が各ライフステージを通じて適切な支援を受けられるよう、教育、文化芸術、スポーツ、福祉、医療、雇用等の各分野の有機的な連携の下、施策を総合的に展開し、切れ目のない支援を行う」「複数の分野にまたがる課題については、各分野の枠のみにとらわれることなく、関係する機関、制度等の必要な連携を図ることを通じて総合的かつ横断的に対応していく必要がある」とされているところです。 こうした、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の総合的かつ計画的な推進に政府一体で取り組むという、我が国の障害福祉施策の基本的な考え方を踏まえ、本条を規定したものです。 <関係法規> 障害者基本法(昭和45 年法律第84 号) (国及び地方公共団体の責務) 第6条 国及び地方公共団体は、第1条に規定する社会の実現を図るため、前3条に定める基本原則(以下「基本原則」という。)にのつとり、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に実施する責務を有する。 〔第2項関係〕 条例の理念を社会に浸透させ、具体的な施策として実施していくためには、県が県民に対して、しっかりと情報発信していくことが重要です。 このため、県は、市町村や事業者等と連携しながら、障害及び障害者についての理解を深め、当事者目線の障害福祉への関心を高めるための普及啓発を行わなければならないことを規定しています。 このことは、県議会での条例案の審議における「条例の考えを県民に深く理解していただくことが大事であり、普及啓発にしっかり取り組まなくてはならない」との指摘を踏まえ、県の責務規定として明確に位置付けを行いました。 なお、こうした情報発信を行う際には、本人のニーズに合った手段で、情報の収集や円滑なコミュニケーションを支援していくことが大切であること(手話通訳、点訳、音訳、拡大文字、カラーユニバーサルデザインなど)はもちろん、SNSなど多様な媒体を用いる工夫を行うことが重要です。 「事業者」 本条の事業者とは、条例により、規制等の対象とするために特定しなければならないものではなく、広く、事業を行う者を想定しています。一般に、「事業者」とは、個人事業者(個人事業主、事業を行う自然人)と法人や団体を指し、商業、工業、金融業その他の事業を行う者を指します(独占禁止法等)。したがって、社会福祉法人や医療法人などの公益法人、公共法人、公企業、私企業(普通法人である株式会社・有限会社などの会社)など法人は全て事業者です。なお、社団や財団で法人でない社団又は財団もありますが、その代表者又は管理者の定めがあるものは、法人とみなされ事業者とされます。   〔第3項関係〕 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策を検討し実施する際には、障害者を含む県民はもとより、障害福祉サービス提供事業者を含む事業者その他関係団体、関係機関の意見を反映させることが重要です。このため、こうした関係者の意見を反映するために必要な措置を講じなければならないことを規定したものです。 具体的には、第8条及び第9条に規定する基本的な計画を検討、策定する際には適切にパブリック・コメント(県民意見反映手続)や関係団体等との意見交換などが、また、県の各種審議会等、障害福祉に関する施策の検討が行われる際には、関係者の意見をしっかり聴取する機会を設けるといったことが想定されます。 24ページ目 (市町村との連携) 第5条 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策の策定及び実施に当たっては、市町村と連携し、及び協力するよう努めるものとする。 2 県は、市町村が当事者目線の障害福祉に関する施策を策定し、又は実施しようとするときは、情報の提供、助言その他の必要な支援を行うものとする。 【趣旨】 本条は、県が市町村と連携協力して、当事者目線の障害福祉の推進のための施策の策定、実施に努めるとともに、市町村が当事者目線の障害福祉の推進を図るための施策が円滑に実施されるよう、県は市町村を支援することを定めるものです。 【解説】 〔第1項関係〕 当事者目線の障害福祉の推進を図るための施策について、実効性のあるものとして適切に策定され、着実な実施につなげていくためには、県は、障害者を含めた県民に最も近い市町村と緊密に連携を図り、適時適切に必要な情報提供や情報交換を行うなどし、協力体制を構築していくことが重要であり、県の努力義務として規定したものです。 〔第2項関係〕 県は、市町村が当事者目線の障害福祉の推進を図るための施策をそれぞれの地域において展開する際に、必要な情報提供や助言などを行わなければならないことを定めたものです。 「市町村」 指定都市、中核市、その他の市町村という区別は行っておらず、県内全ての市町村を対象としています。 25ページ目 (県民及び事業者の責務) 第6条 県民及び事業者は、基本理念にのっとり、当事者目線の障害福祉に関する理解を深めるとともに、県が実施する当事者目線の障害福祉に関する施策に協力するよう努めなければならない。 2 県民及び事業者は、基本理念にのっとり、障害者が社会、経済、文化その他多様な分野の活動に参加することができるよう機会の確保に努めなければならない。 【趣旨】 本条は、条例における県民及び事業者の責務について定めるものです。 【解説】 〔第1項関係〕 当事者目線の障害福祉の推進を図り、条例の高次の目的として掲げる地域共生社会の実現につなげていくためには、障害者の様々な生活場面において関わりを持つ県民及び事業者が条例の理念に共感し、それぞれの立場から主体的に、障害福祉施策の推進に協力していただくことが重要です。 このため、県民及び事業者に対し、当事者目線の障害福祉に関する理解を深めるとともに、県が実施する当事者目線の障害福祉に関する施策に協力するよう努めることを定めることとしたものです。 その前提として、障害福祉施策は、教育や雇用、住宅、輸送、商工、農業など、様々な分野に関連することから、当然に、県は事業者としっかり連携を図って行くことが重要であり、また、障害に関する理解を深め県民総ぐるみで取り組むために、県は県民との連携をより強めていくことが求められます。 〔第2項関係〕 障害者の望みや願いを尊重し、地域でいきいきと自分らしく暮らしていくためには、社会、経済、文化その他多様な分野の活動に参加する機会を設けていくことが重要です。その実現には、県や市町村といった行政機関だけではなく、様々な立場からの協力が得られなければ困難であると考えられます。 このため、県民及び事業者に対し、そうした機会の確保に協力していただけるよう、努めなければならない旨を規定したものです。 26ページ目 (障害福祉サービス提供事業者の責務) 第7条 障害福祉サービス提供事業者は、基本理念にのっとり、地域住民、関係団体等と連携し、地域の社会資源の活用、創出等を図りながら、当事者目線の障害福祉の推進に努めなければならない。 【趣旨】 本条は、第2条において定義した、障害福祉サービス提供事業者の責務について定めるものです。 【解説】 〔第1項関係〕 障害福祉サービス提供事業者は、第6条の事業者に含めていますが、障害者に対する公的なサービスを提供するという極めて公共性の高い存在であることから、一般の事業者の責務に加えて、「基本理念にのっとり、地域住民、関係団体等と連携し、地域の社会資源の活用、創出等を図りながら、当事者目線の障害福祉の推進に努めなければならない」という努力義務を定めたものです。 また、条例は高次の目的として「地域共生社会の実現」を掲げており、障害者が安心していきいきと自分らしく暮らしていくことができるよう、障害福祉サービス提供事業者に対し、地域住民や関係団体等と連携しながら、地域共生社会の実現に向けた責務を果たすよう努めなければならないことを定めるものです。   27ページ目 〇 基本的規定〜実体的規定(第8条から第26条) (基本計画の策定) 第8条 知事は、当事者目線の障害福祉に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、当事者目線の障害福祉の推進に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)を定めなければならない。 2 知事は、毎年度、基本計画の実施状況について、インターネットの利用その他の方法により公表するものとする。 【趣旨】 本条は、知事が当事者目線の障害福祉に関する施策について、総合的かつ計画的に実施するための実行プランとして「基本的な計画」を定め、毎年度、その実施状況について公表することを定めるものです。 【解説】 〔第1項関係〕 条例に基づく基本的な計画(基本計画)は、当事者目線の障害福祉を推進するための関係施策について、どのようなことをいつまでに行うかという、施策の実施についての具体的な実行プランです。 現行の法律に基づく障害分野の計画としては、障害者基本法に基づく「障害者基本計画」、障害者総合支援法に基づく「障害福祉計画」及び児童福祉法に基づく「障害児福祉計画」があります。 本県では「障害者基本計画」に基づく「かながわ障がい者計画」と、「障害福祉計画」及び「障害児福祉計画」に基づく「神奈川県障がい福祉計画」を策定しています。 条例に基づく基本計画は、施策を体系的に分かりやすく示すため、これらの計画を包含して一本化するものです。 実際の検討については、本県の附属機関である神奈川県障害者施策審議会において行うこととしています。 また、社会福祉法(昭和26年法律第45号)に基づく地域福祉計画は、平成30年4月改正により、地域における高齢者の福祉、障害者の福祉、児童の福祉その他の福祉の各分野における共通的な事項を記載することとされ、本県においては社会福祉法第108条の規定に基づき「神奈川県地域福祉支援計画」を策定しており、これとの整合も図っていく必要があります。 <関係法規> 神奈川県障害者施策審議会条例(昭和46年3月12日条例第7号) (趣旨) 第1条 この条例は、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第36条第3項の規定に基づき、神奈川県障害者施策審議会の組織及び運営に関し必要な事項を定めるものとする。 (組織等) 第2条 神奈川県障害者施策審議会は、20人以内の委員をもつて組織する。 2 委員は、関係行政機関の職員、学識経験のある者、障害者及び障害者の福祉に関する事業に従事する者のうちから知事が任命し、又は委嘱する。 3 委員の任期は、2年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。 4 委員は、再任されることができる。 神奈川県障害者施策審議会運営要綱(昭和46年6月26日) (神奈川県障害者施策審議会の所掌事務) 県における障がい者に関する施策の総合的かつ計画的な推進について必要な事項及び障がい者に関する施策の推進について必要な関係行政機関相互の連絡調整を要する事項を調査審議し、及びその施策の実施状況を監視すること 〔第2項関係〕 基本計画の実施状況については、広く県民の目に触れるよう、毎年度、インターネット等を用いて公表することとしています。 また、基本計画は、当事者目線の障害福祉の推進に関する広範な施策になると考えられることから、関係者の意見を十分に踏まえ、段階的、計画的に着実に具体化されていく計画として策定されることが重要です。その上で、毎年度、基本計画に盛り込まれた各施策の進捗状況を見える化して広く公表することにより、PDCAサイクルを適切に回していきます。 29ページ目 (基本計画に定める施策) 第9条 基本計画には、次に掲げる施策について定めるものとする。 (1)障害者が、障害の特性及び生活の実態に応じ、自立のための適切な支援を受けることができ、かつ、多様な地域生活の場を選択することができるようにするための医療、介護、福祉等に関する施策 (2)障害者及びその家族その他の関係者からの各種の相談に総合的に応じることができるようにするための施策 (3)障害者である子どもの教育を保障し、及び障害者が生涯にわたり学習を継続することができるようにするための施策 (4)障害者である子どもが、可能な限りその身近な場所において療育その他これに関連する支援を受けることができるようにするための施策 (5)障害者の多様な就業機会の確保、個々の障害者の特性に配慮した就労の支援及び障害者の雇用促進に関する施策 (6)障害者のための住宅の確保及び障害者の日常生活に適するような住宅の整備の促進に関する施策 (7)障害者が円滑に利用できるような公共的施設の構造及び設備の整備並びに障害者が移動しやすい環境の整備に関する施策 (8)障害者が十分に情報を取得し、及び利用し、並びに円滑な意思疎通を図ることができるようにするための情報提供その他の支援に関する施策 (9)障害者及び障害者を扶養する者の経済的負担の軽減を図り、又は障害者の自立を促進するための施策 (10)障害者が円滑に文化芸術活動、スポーツ又はレクリエーションを行うことができるようにするための環境の整備に関する施策 (11)障害者が地域社会において安全にかつ安心して生活を営むことができるようにするための防災及び防犯並びに障害者の消費者被害の防止及び救済に関する施策 (12)障害者が行政機関等における手続を円滑に行うことができるようにするための環境の整備に関する施策 【趣旨】 本条は、第8条に規定する基本計画に盛り込む12分野の施策について規定しています。   【解説】 本条の第1号から第12号で列挙された以下の12分野の関係施策は、基本計画に盛り込むものとして、障害者権利条約、障害者基本法、現行の「かながわ障がい者計画」(2019年度から2023年度)の分野別施策等を基に検討を行ったものです。 これらは、基本計画に必ず盛り込む施策であり、必要に応じて、これらの他に新たな施策分野も加えることを否定しているものではありません。 @ 医療、介護、福祉等 A 相談等 B 教育 C 療育 D 就業、就労、雇用 E 住宅の確保 F 公共的施設のバリアフリー化、移動しやすい環境の整備等 G 情報アクセシビリティ、コミュニケーション支援 H 経済的負担の軽減等 I 文化芸術活動、スポーツ等 J 防災及び防犯等 K 行政等における配慮 〔第3号関係、第4号関係〕 「子ども」 児童福祉法における「18歳に満たない者」と同じ。以下、本解説において同じ。 31ページ目 (意思決定支援の推進) 第10条 障害福祉サービス提供事業者は、意思決定支援の実施に努めなければならない。 2 県は、意思決定支援の推進に関する必要な情報の提供、相談及び助言等を行うための体制を整備するものとする。 3 県は、障害福祉サービス提供事業者に対し、意思決定支援に関する研修を行うものとする。 【趣旨】 本条は、意思決定支援について、推進していくことを定めるものです。 【解説】 意思決定支援とは、第2条第3項で定義したとおり「障害者が自ら意思を決定すること(以下「自己決定」という。)が困難な場合において、可能な限り自らの意思が反映された日常生活及び社会生活を送ることができるよう、自己決定を支援すること」です。 本県では、津久井やまゆり園事件の後、同園を中心に、利用者一人ひとりにはそれぞれに尊重されるべき意思があるという前提に立ち、本人の意思が反映された生活を送ることができるよう、利用者全員の意思決定支援に取り組んできました。 もとより、障害福祉サービス提供事業者の中心を占める指定障害福祉サービス事業者及び指定障害者支援施設等の設置者に対しては、障害者総合支援法に基づき、指定基準の遵守やいわゆる忠実義務などが課せられていますが、平成23年の障害者基本法の改正により、支援する側の判断のみで相談等の支援を進めるのではなく、障害者の意思決定を支援することにも配慮しながら支援を進めていく必要があるとの観点から、同法第23条に、障害者及びその家族等に対する相談支援、成年後見制度等のための施策の実施又は制度の利用の際には、障害者の意思決定に配慮することが明記されました。 こうしたことから、平成24年に成立した障害者総合支援法において、指定障害福祉サービス事業者等に対し、障害者等の意思決定の支援に配慮することが努力義務として盛り込まれたところです。 こうした我が国の障害福祉施策の動向も踏まえ、条例では、本条において、障害福祉サービス提供事業者は、利用者の自己決定を尊重し、本人の願いや望みを尊重する支援の基礎となる意思決定支援に努めなければならないことを定め、また、これらの努力義務に加え、第7条において、地域住民やその他関わりのある人々と連携を図り、当事者目線の障害福祉の推進に努めなければならないことを規定しているものです。 〔第1項関係〕 第2条において定義されている「障害福祉サービス提供事業者」に対し、意思決定支援の実施について努力義務を課すものです。 〔第2項、第3項関係〕 県は、意思決定支援の取組みが広がっていくよう、意思決定支援の推進に関する必要な情報の提供、相談及び助言等を行うための体制の整備、障害福祉サービス提供事業者に対し、研修を行うものとしています。 <参考法規> 障害者基本法(昭和45年法律第84号) (相談等) 第23条 国及び地方公共団体は、障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、障害者及びその家族その他の関係者に対する相談業務、成年後見制度その他の障害者の権利利益の保護等のための施策又は制度が、適切に行われ又は広く利用されるようにしなければならない。 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)(平成17年法律第123号) (指定障害福祉サービス事業者及び指定障害者支援施設等の設置者の責務) 第42条 指定障害福祉サービス事業者及び指定障害者支援施設等の設置者(以下「指定事業者等」という。)は、障害者等が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、障害者等の意思決定の支援に配慮するとともに、市町村、公共職業安定所その他の職業リハビリテーションの措置を実施する機関、教育機関その他の関係機関との緊密な連携を図りつつ、障害福祉サービスを当該障害者等の意向、適性、障害の特性その他の事情に応じ、常に障害者等の立場に立って効果的に行うように努めなければならない。 (指定一般相談支援事業者及び指定特定相談支援事業者の責務) 第51条の22 指定一般相談支援事業者及び指定特定相談支援事業者(以下「指定相談支援事業者」という。)は、障害者等が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、障害者等の意思決定の支援に配慮するとともに、市町村、公共職業安定所その他の職業リハビリテーションの措置を実施する機関、教育機関その他の関係機関との緊密な連携を図りつつ、相談支援を当該障害者等の意向、適性、障害の特性その他の事情に応じ、常に障害者等の立場に立って効果的に行うように努めなければならない。 2 指定相談支援事業者は、その提供する相談支援の質の評価を行うことその他の措置を講ずることにより、相談支援の質の向上に努めなければならない。 3 指定相談支援事業者は、障害者等の人格を尊重するとともに、この法律又はこの法律に基づく命令を遵守し、障害者等のため忠実にその職務を遂行しなければならない。 33ページ目 (障害者の権利擁護) 第11条 障害福祉サービス提供事業者、障害者の家族その他の関係者(次項においてこれらを「関係者」という。)は、施設への入所その他の障害者の福祉サービスの利用に際しては、障害者の意思が反映されるよう配慮しなければならない。 2 関係者は、障害者が意思決定支援を受けることを希望する場合には、その希望を十分に尊重し、円滑に意思決定支援を受けることができるよう努めなければならない。 【趣旨】 本条は、障害者の権利擁護を図るための本人の意思の尊重及び必要な意思決定支援について定めるものです。 【解説】 障害者の権利擁護を図る観点から、障害福祉サービス提供事業者、障害者の家族その他の関係者は、施設への入所その他の障害者の福祉サービスの利用に際しては、障害者の意思が反映されるよう配慮しなければならないものとし、障害者が意思決定支援を受けることを希望する場合には、関係者は、その希望を十分に尊重し、円滑に意思決定支援を受けることができるよう努めなければならないものとしています。 権利擁護は、権利や利益を実現することが困難な人の自己決定を保障する仕組みであり、意思決定支援の他、成年後見制度や日常生活自立支援事業も重要な仕組みです。各種の相談支援制度、苦情解決制度、オンブズパーソン制度、虐待防止制度も含め、各制度が密接に連携を図り、必要な人に総合的に対応ができるよう取組みを進めていく必要があります。7) 8) 〔第1項関係〕 この規定は、障害者権利条約第19条(自立した生活及び地域社会への包容)の規定を踏まえたものです。 「障害者の家族その他の関係者」 障害者の親、子、兄弟、親戚等の家族や、友人や近隣に住む知人といった家族以外の支援者、県、市町村などの行政機関の職員、などを指します。 〔第2項関係〕 意思決定支援を受けるかどうかについては、障害者の意思により判断されるものであり、希望する場合は、円滑に意思決定支援を受けられることができるよう努めなければならない旨を規定しており、意思決定支援が障害者の権利擁護の一環として取り組まれるべきものと位置付けています。基本理念の「障害者一人一人の自己決定が尊重されること」を踏まえて規定したものです。 34ページ目 (障害を理由とする差別、虐待等の禁止) 第12条 何人も、障害者に対し、障害を理由とする差別、虐待その他の個人としての尊厳を害する行為をしてはならない。 【趣旨】 本条は、障害を理由とする差別や虐待等を禁止することについて定めるものです。障害を理由とする差別、虐待だけではなく、個人としての尊厳を害する行為全てを禁止することを改めて条例に定めるものです。 【解説】 障害者権利条約第12条(法律の前にひとしく認められる権利)は、同条約の中でも非常に重要な規定とされており、「締約国は、障害者がすべての場所において法律の前に人として認められる権利を有することを再確認する」と規定しています。9) 我が国は、同条約の批准に向け、障害者基本法の改正や障害者差別解消法の制定等を行い、障害者虐待防止法や成年後見制度、意思決定支援の実施等と相まって、障害者の権利擁護が図られる仕組みを形作ってきました。 本県においても、障害者の尊厳が守られるよう、不断の努力を続けていかなければなりません。このような趣旨から、本条は、条例第3条の基本理念の規定とは別に、障害者に対する権利侵害を行うことは誰も許されない、という基本原理を、実体的規定として明示しているものです。 条例制定時点の障害者差別解消法において、行政機関等による障害を理由とする差別の禁止(同法第7条関係)及び事業者による障害を理由とする差別の禁止(同法第8条関係)が定められています。 また、障害者虐待防止法においては、障害者に対する虐待が障害者の尊厳を害するものであると明記し、「何人も、障害者に対し、虐待をしてはならない」と規定しており(同法第3条関係)、本条はこれらの規定を踏まえ、障害を理由とする差別や障害者に対する虐待に留まらず、さらに、「その他の個人としての尊厳を害する行為」まで範囲を広げて禁止する旨を定めるものです。 虐待は重大な権利侵害であり、本県では虐待ゼロを掲げて取り組んでいます。虐待をなくすためには、虐待はいかなる理由があっても禁止されるものであるという認識を県民全体で共有する必要があり、そのためには、障害者の虐待防止の啓発をこれまで以上にしっかりと行うとともに、障害者の虐待を絶対に許してはならないという強い姿勢を県が率先して示すことが重要です。こうした趣旨から、本条の規定を置くこととしたものです。 35ページ目 (障害を理由とする差別に関する相談、助言等) 第13条 県は、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう、相談体制その他必要な体制を整備するものとする。 2 県は、障害を理由とする差別に関する相談を受けたときは、必要に応じ、次に掲げる措置を講ずるものとする。 (1) 相談者に対し、助言、情報の提供等を行うこと。 (2) 関係者との必要な情報の共有又はあっせんを行うこと。 (3) 他の地方公共団体への通知その他の連絡調整を行うこと。 【趣旨】 本条は、県が障害を理由とする差別に関する相談、助言等への相談体制の整備を図るとともに、障害を理由とする差別について相談を受けた際、必要に応じ、あっせん等の措置を講ずることについて定めるものです。 【解説】 〔第1項関係〕 令和3年6月に障害者差別解消法の一部が改正され、公布日である令和3年6月4日から起算して3年以内に、事業者の合理的配慮についても義務化されること等により、障害を理由とする差別に関する相談が増えることが予想されることから、障害を理由とする差別の事案に関する相談体制その他必要な体制を強化する必要があります。 また、障害者に対する不利益な取扱いの多くが、障害に対する誤解、偏見、理解の不足等に起因しているとの考えに立ち、不利益な取扱いに当たると思われる事案についての相談があった場合には、当事者間の主張をそれぞれ聴取して、双方に必要な説明をすること、また、問題の所在と解決の道筋を明示して解決に導くことにより、その解消を図っていく「あっせん」機能を強化していくことが重要です。 こうした認識の下、条例において、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう、相談体制その他必要な体制の更なる整備を進めることを規定しています。 「その他必要な体制」 相談内容に応じた、市町村その他関係者との連絡調整の体制などを想定しています。 〔第2項関係〕 相談の事案に応じ、第1号から第3号のいずれか、又は複数の措置を講ずることにより、差別に関する紛争の防止又は解決を図ることを規定しています。 「関係者」 支援者、家族、県、市町村などの行政機関の職員、事業者などを指します。 37ページ目 (社会的障壁の除去) 第14条 県は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。以下同じ。)の除去を必要としている旨の意思の表明がない場合においても、その意思を推知することができるときで、社会的障壁の除去についてその実施に伴う負担が過重でないときは、合理的な配慮を行うよう努めるものとする。 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明がない場合においても、その意思を推知することができるときで、社会的障壁の除去についてその実施に伴う負担が過重でないときは、合理的な配慮を行うよう努めるものとする。 【趣旨】 本条は、社会的障壁の除去について、県及び事業者は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明がない場合においても、合理的な配慮を行うよう努める旨を定めたものです。 この条文には「社会的障壁の除去の推進」と「意思の表明がないときも社会的障壁を除去する合理的配慮を行う」という二つの要素が含まれています。 【解説】 社会的障壁の除去に関し、障害者からの申し出があった場合であって、社会的障壁の除去の実施に伴う負担が過重でないときには、行政機関や独立行政法人等の公的機関には合理的配慮を行うことが義務付けられている一方、事業者に対しては、努力義務とされているところです。 令和3年6月に障害者差別解消法の一部が改正され、公布日である令和3年6月4日から起算して3年以内に、事業者の合理的配慮についても義務化されることとされました。 本条では、こうした現行法制の上乗せを行うものとして、障害者からの意思の表明がない場合も、県、事業者ともに合理的配慮を行う努力義務を課すこととしたものです。 なお、「その意思を推知することができるとき」との規定については、合理的配慮は、押し付け的な、当事者不在の独りよがりなものになってはならず、建設的な対話に基づき実施されるべきものであることから置いているものです。 また、合理的配慮は、差別の解消に関する国際的な動向、国内における具体的な好事例についての情報等を参考にすることも重要です。同法は行政機関等や事業者には「事前的改善措置」を努力義務として課しており(同法第5条)、建物の構造設備の改善や関係職員に対する研修なども力を入れていく必要があります。 加えて、障害者に対する差別の解消に向けては、対立的・規制的概念で捉えるのではなく、社会的な意識改革や地域づくりを主体において総合的に取り組むことが重要であるとされています。こうしたことから、教育との連携、意識啓発、障害者差別解消支援地域協議会の活動強化といった「地域づくりアプローチ」の取組みを進めていく必要があります。10) 「社会的障壁」 「社会のバリア」とも呼ばれるもので、障害者差別解消法の規定に倣い「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう」としています。 「合理的な配慮」 障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいいます(障害者権利条約 第二条「合理的配慮」の定義より)。 「推知」 ある手がかりから推しはかって知ることを意味し、「推察」「推量」「推測」と類似の言葉です。 39ページ目 (虐待等の防止) 第15条 県は、市町村その他の関係機関と連携し、障害者に対する虐待等の防止に関し、障害福祉サービス提供事業者への啓発及び研修を行うものとする。 2 障害福祉サービス提供事業者は、その従業者に対し、障害者に対する虐待等の防止に関する研修及び啓発を行うよう努めなければならない。 【趣旨】 本条は、虐待事案の未然防止を図るため、障害福祉サービス提供事業者に対する啓発や研修等の実施について定めるものです。 【解説】 本県では、条例制定以前も、障害者虐待防止法に基づく都道府県障害者権利擁護センターを設置するとともに、市町村では同法に基づく市町村障害者虐待防止センターを設置し、虐待に関する相談、助言等必要な支援を行ってきました。「虐待ゼロ」を目指した取組みを続けていくことが重要です。   〔第1項関係〕 障害者虐待防止法では、虐待等を受けた障害者を保護救済することはもちろんのこと、虐待を未然に防ぐことが重要とされています。このような同法の趣旨を踏まえ、県では、条例制定以前から虐待等の防止に係る研修を実施していますが、引き続き、県は、障害福祉サービス提供事業者に対し、市町村その他の関係機関と連携し、障害者に対する虐待等の防止に関する啓発及び研修を行うものとしています。 「その他の関係機関」 障害者団体、家族や支援者等の関係者団体、社会福祉協議会などが想定されます。市町村との連携については、例として、県、市町村で研修プログラムを協力し合って作成することなどが考えられます。 〔第2項関係〕 虐待の未然防止のため、障害福祉サービス提供事業者においても、従事者に対し、障害者に対する虐待等の防止に関する研修及び啓発を行うよう努めなければならないものとしています。 条例では、障害福祉サービス提供事業者の従事者に対して、事業者自ら、権利擁護の重要性や適切な支援手法についての研修等を行うことを求めているものです。11) 40ページ目 (虐待の早期発見等) 第16条 県は、市町村その他の関係機関と連携し、障害者に対する虐待の早期発見のため、障害者に対する虐待に係る通報に関する普及啓発を行うものとする。 2 県は、市町村その他の関係機関と連携し、障害者に対する虐待の早期発見及び早期対応のための体制を整備するものとする。 【趣旨】 本条は、障害者に対する虐待の早期発見等について定めるものです。 【解説】 障害者に対する虐待に当たると思われる事案については、虐待を受けた障害者の保護・救済、さらに、その人の家族や養護する人に対する支援等が専門的な見地から速やかに行われる必要があります。 本県においては、障害者虐待防止法を踏まえ、障害者に対する虐待の早期発見及び早期対応のための体制整備に努めており、引き続き、体制の強化を進めるものです。   〔第1項関係〕 障害者虐待防止法においては、障害者に対する虐待の早期発見・早期対応のために、養護者、障害者福祉施設従事者等、使用者による虐待を受けたと思われる障害者を発見した者の通報義務について定められています。 条例においては、障害者に対する虐待の早期発見につなげるため、県が通報に関する意識向上といった普及啓発を行うことを規定するものです。 [第2号関係] 障害者虐待防止法においては、障害者に対する虐待の予防、早期発見、虐待を受けた障害者の保護等について、「関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な体制の整備に努めなければならない」(第4条関係)と努力規定を置いています。 本条では「市町村その他の関係機関と連携し、障害者に対する虐待の早期発見及び早期対応のための体制を整備するものとする」としており、より積極的な規定としています。 「虐待」 条例における「虐待」は障害者虐待防止法第2条第2項に規定される「障害者虐待」に限らず、同法第3条に規定される「何人も、障害者に対し、虐待をしてはならない」の「虐待」を指しています。 「早期対応」 通報に対する早期の状況把握及び必要な支援のことを指しています。 「体制を整備する」 県が「市町村における障害者虐待の防止と対応の手引き(神奈川県版)」などのマニュアルを作成し、県と市町村で虐待防止に関する担当者連絡会議を開くなど、市町村その他関係機関と連携しながら対応を進めることを定めています。 <参考法規> 障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成23年法律第79号) (国及び地方公共団体の責務等) 第4条 国及び地方公共団体は、障害者虐待の予防及び早期発見その他の障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の迅速かつ適切な保護及び自立の支援並びに適切な養護者に対する支援を行うため、関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な体制の整備に努めなければならない。 2 国及び地方公共団体は、障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援並びに養護者に対する支援が専門的知識に基づき適切に行われるよう、これらの職務に携わる専門的知識及び技術を有する人材その他必要な人材の確保及び資質の向上を図るため、関係機関の職員の研修等必要な措置を講ずるよう努めなければならない。 3 国及び地方公共団体は、障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援並びに養護者に対する支援に資するため、障害者虐待に係る通報義務、人権侵犯事件に係る救済制度等について必要な広報その他の啓発活動を行うものとする。 43ページ目 (障害者の家族等に対する支援) 第17条 県は、障害者の家族その他の関係者(以下この条において「障害者の家族等」という。)の日常生活における不安の軽減を図るため、障害者の家族等に対し、情報の提供、相談の実施、助言その他の必要な支援を行うものとする。 【趣旨】 本条は、障害者の家族等に対する支援の重要性に鑑み、県は障害者の家族等に対する@情報の提供、A相談の実施、助言その他の必要な支援を行うことについて定めるものです。 【解説】 障害者の家族等の日常生活における不安の軽減を図るため、県が設置しているかながわ医療的ケア児支援・情報センター、神奈川県発達障害支援センター等、障害の状態に応じた相談窓口について、ホームページや障害種別毎の支援団体、家族会等を通じ、分かりやすい情報提供を行うと共に、丁寧な相談を実施することを想定しています。 44ページ目 (障害福祉に係る政策立案過程への障害者の参加の推進) 第18条 県は、障害者の福祉に係る政策の立案に関する会議の開催に当たっては、障害者の参加を推進するものとする。 【趣旨】 本条は、障害福祉に係る政策立案過程への障害者の参加の推進について定めるものです。   【解説】 県では、条例が制定される以前においても、県の政策形成の場に障害者等が参画する機会を拡大するため、「審議会等への障がい当事者等の参画促進要綱」を制定するなど、県の機関である各種審議会等の委員に、障害者等の登用を促進してきました。 条例の制定を機に、同要綱を見直すなど、審議会等へのさらなる障害者の参加を推進するものです。 「障害者の福祉に係る」 障害福祉のみならず、医療、教育、住宅、労働、バリアフリーなど、障害者の生活に関連する事項を指します。 「参加」 「参画」は、一般に計画の策定に参加することを表した用語であり、国際障害者年のスローガンが「完全参加と平等」とされているように、「参画」は「参加」に含まれる概念であること、また、「参画」とした場合、障害者の政策立案過程への関わり方がかえって狭められる恐れがあることから「参加」という用語を用いています。 45ページ目 (障害者主体の活動の促進) 第19条 県は、障害者の自立及び社会参加の促進のために障害者が主体となって企画し、及び実施する活動(以下この条において「障害者主体の活動」という。)に関する県民等の理解を深め、その活性化を図るため、障害者主体の活動に関する普及啓発その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。 2 県は、県内において障害者主体の活動に取り組む団体又は個人が、相互に連携し、必要な情報を共有し、及び協働することができるよう支援に努めるものとする。 3 県は、障害者主体の活動の促進に資するよう、国内外の障害者主体の活動に関する情報の収集、整理及び提供その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。 【趣旨】 本条は、「本人活動」「当事者活動」「ピアサポート」といった、障害者が主体となって取り組まれている自主的な活動について、県としてもサポートすることを定めるものです。 【解説】 〔第1項関係〕 障害者主体の活動を推進していくためには、その活動の内容や、その活動が障害者や支援者等にどのような効果をもたらしているのか、県民や事業者に広く知っていただくことが重要であり、県は、障害者主体の活動に関する普及啓発に取り組むことを定めています。 「障害者主体の活動」 我が国では、特に知的障害者たちの自主的活動として「本人活動」が知られています。障害者同士が様々な自主的な活動を行うグループを中心とした活動であり、当事者が運営の中心を担っていますが、活動を支援する人が不可欠であることから、親の会や行政機関、社会福祉協議会などがバックアップしている場合もあります。 また、身体障害者の自立生活運動から始まったピアサポートと呼ばれる、同じ困難などを抱える当事者同士が支え合う活動は、近年、知的障害や精神障害の分野にも広がっており、国においても、研修事業を創設し養成等を支援しています。 国と合せて、県でも、精神障害者のピアサポーターを養成し、精神科病院からの退院意欲の喚起や地域移行に係る自己啓発・普及啓発、個別支援などに取り組んでいます。 条例では障害種別に関わらずこうした活動を「障害者主体の活動」とし、その活動の促進について規定しています。 「その他の必要な措置」 県職員が障害者主体の活動の場に参加して意見交換を行い、その意見を施策の検討に活かすことなどを想定しています。 〔第2項関係〕 障害者主体の活動に取り組む個人や団体から、他の団体がどのような活動をしているか知りたいという声があります。県では、障害者主体の活動に取り組む個人や団体間の交流や連携、協働といった自発的な取組みにつながるよう、情報提供するといった支援を想定しています。  〔第3項関係〕 県は、障害者主体の活動の促進に資するよう、国内外の障害者主体の活動の好事例を集めて紹介するなど、主体となって活動する障害者やその支援者に役立つ情報の収集、整理及び提供その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとするものです。 47ページ目 (生涯にわたる障害者への支援体制の整備) 第20条 県は、障害者が生涯にわたり必要な支援を切れ目なく受けることができる体制の整備に努めるものとする。 【趣旨】 本条は、障害者が生涯にわたって、ライフステージに応じた支援を切れ目なく受けることができる体制について、県がその整備に努めなければならないことを定めるものです。   【解説】 当事者目線の障害福祉を推進するためには、乳幼児期、学齢期、就学期、就労期、高齢期といったライフステージに応じて、保健・医療・福祉・教育・就労等が連携して、地域において障害のある子どもとその家族を支えていく体制、及び障害者の地域生活を実現するための支援の体制がしっかりと整備されていくことが重要です。 本条は、障害のある子どもが、乳幼児期、学齢期において、保健、医療、福祉、教育、就労等において必要な支援を受けられ、かつ、学齢期を過ぎた後もライフステージに応じて切れ目のない支援を受けられるようにするため、体制の整備を積極的に推進することを念頭に置いているものです。 県においては、保健、医療、福祉、教育、就労等の関係施策の担当部署がそれぞれ異なっていることから、いわゆる「縦割り」の弊害が生じないよう、各部署が緊密に連携を図っていきます。 厚生労働省が取りまとめた平成26年7月の「今後の障害児支援の在り方について(報告書)〜「発達支援」が必要な子どもの支援はどうあるべきか〜」では、基本理念として、@地域社会への参加・包容(インクルージョン)の推進と合理的配慮、A障害児の地域社会への参加・包容を子育て支援において推進するための後方支援としての専門的役割の発揮、B障害児本人の最善の利益の保障、C家族支援の重視、を挙げています。また、今後の障害児支援が進むべき方向(提言)において、「就労支援等と連携した上での学校卒業後を見据えた支援」について提言しています(下に参考掲載)。 当事者目線の障害福祉の推進に当たっては、こうした考え方も踏まえながら進めていきます。 (参考)今後の障害児支援の在り方について(報告書) 〜「発達支援」が必要な子どもの支援はどうあるべきか〜 (平成26年7月 厚生労働省 障害児支援の在り方に関する検討会) 1.基本理念 @ 地域社会への参加・包容(インクルージョン)の推進と合理的配慮 ○ 平成26 年1月に我が国も批准した障害者権利条約では、障害に基づくあらゆる差別(「合理的配慮」の否定を含む。)の禁止や障害者の地域社会への参加・包容(インクルージョン)の促進等が定められている。また、障害者差別解消法では、差別的取扱の禁止が国、地方公共団体から民間事業者までを通じた法的義務とされている他、国や地方公共団体等については合理的配慮の提供が義務化され、民間事業者についても合理的配慮の提供が努力義務とされている。 ○ 「差別」「合理的配慮」等の具体的内容については今後政府の基本方針等により定められることとなるが、いずれにせよ、障害児が一般施策としての保育、教育等による支援を受ける際にもこれらの条項が適用されることとなる。障害者差別解消法の施行(平成28 年4月)を視野に置いた上で、具体的な対応について検討し、障害児の地域社会への参加・包容の推進を図る必要がある。 A 障害児の地域社会への参加・包容を子育て支援において推進するための後方支援としての専門的役割の発揮 ○ 上記@の基本理念を踏まえつつ、今後の障害児支援の進むべき方向性を考えると、全ての子どもには発達支援が必要である中、障害のある子どもについては個々のニーズに応じた丁寧な支援が必要であるという認識に立ち、一人ひとりの個性と能力に応じた支援を行うことができる体制を作っていくべきである。重症心身障害児のように一般の子育て支援の枠内での対応が現実問題として困難なケースもあることは前提としつつも、他の児童も含めた集団の中での「育ち」を保障していくためには、子育て支援を念頭に置きつつ、継続的な見守りを行って、発達支援が必要な場合に特別な支援を行うことを基本とすべきである。 ○ また、このためには、保育所や放課後児童クラブ等の一般的な子育て支援施策における障害児の受入れを進めることにあわせて、障害児支援を、施設・事業所等が持っている専門的な知識・経験に基づき一般的な子育て支援施策をバックアップする後方支援として位置づけ、保育所等訪問支援等を積極的に活用して保育所等の育ちの場における障害児の支援に協力できるような体制づくりを進めていくことが必要である。 B 障害児本人の最善の利益の保障 ○ 障害児支援を行うに当たっては、障害の種別にかかわらず、障害児本人の最善の利益を保障しなければならない。1994 年に我が国も批准した「児童の権利に関する条約」では「生きる権利」「守られる権利」「育つ権利」「参加する権利」が規定されており、それらの観点を踏まえ、関係者が個々に生じた課題に対して積極的に関与して子どもの最善の利益を求めることが重要である。 ○ また、障害児本人の最善の利益を保障していくに当たっては、「障害」を本人の機能障害のみではなく「社会的障壁」との関係において総合的に整理し、支援内容を検討することができるICF(国際生活機能分類:2001 年にWHO 総会において承認)の考え方(「医学モデル」と「社会モデル」の統合)も重要である。ICFでは、一人ひとりの情報を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」という3つの次元に加えて、「健康状態」「環境因子」「個人因子」やそれらとの相互作用で総合的に整理されている。また、児童期用のものとしては、さらに項目が追加されたICF−CY(国際生活機能分類児童版)が2006 年のWHO-FIC チュニス会議において承認されている。 C 家族支援の重視 ○ 障害児支援を進めるに当たっては、当該障害児を育てる家族の支援も重要である。障害児に対する各種の支援自体が、家族の支援の意味も持つものであるが、障害児を育てる家族に対して、発達の各段階に応じて障害児の「育ち」や「暮らし」を安定させることを基本に置いて丁寧な支援を行うことにより、当該障害児自身にも良い影響を与えることが期待される。障害児の家族の支援を直接の目的とした支援の内容としては、大きく分けて次の3つが考えられる。 ・ 保護者の「子どもの育ちを支える力」を向上させることを目的としたペアレント・トレーニング等の支援 ・ 家族の精神面でのケア、カウンセリング等の支援 ・ 保護者等の行うケアを一時的に代行する支援(短期入所等) ○ なお、これまでは家族支援というと一般的には保護者の支援が想定されるケースが多かったが、障害児が育つ家族全体のことを考えると、障害児のきょうだいの支援という観点も重要である。上記のケアの一時的な代行を利用している間に保護者がきょうだいにも十分な関わりをもつ時間を作ることができることを考えると、「きょうだい支援」の一手法と捉えることも可能である。一方、きょうだいの育ちを支援することそのものについても、その在り方を検討すべきである。 ○ さらに、子育て支援においては、保護者が子育てと就業とを両立させるための支援(ワークライフバランスの実現)も重要な要素となる。障害児支援においても、特別児童扶養手当等が支給されていることも考慮しつつ、ワークライフバランスの観点は今後基本的に拡充していくべきものである。 (略) 3.今後の障害児支援が進むべき方向(提言) (略) (2)「縦横連携」によるライフステージごとの個別の支援の充実 (略) C 就労支援等と連携した上での学校卒業後を見据えた支援 ○ ライフステージに応じた切れ目のない支援を行う上で、学校卒業後も見据えた情報の引き継ぎが大切である。例えば、滋賀県湖南市では、義務教育終了後も支援を必要とする児童について、中学校卒業後の進路先へ支援をつなぐための取組として、児童本人の意向を中心とした「個別支援移行計画」を作成、実行しており、このような各学校から関係事業所等への情報の引継の取組を、どこの地域でも行えるよう、福祉と教育が連携して支援する体制を検討すべきである。また、その際には、障害福祉サービスの利用を想定し、障害児相談支援事業所は必要に応じて、サービス等利用計画の作成を担当する特定相談支援事業所を自ら実施あるいは連携することが重要である。 ○ さらに、学校卒業後の就労に当たっては、学校在学中から、職場実習や就労体験の実施など、就労へ向けての支援が、切れ目の無い支援につながる。学校在学中から就労移行支援事業所等との連携が必要である。このため、学校在学中からのサービス等利用計画の作成に向けて、教育と福祉が協働で会議を行うなどの具体的な対応が必要である。さらに、就労後の職場定着の支援も重要であり、アフターフォローを行っている学校と、企業や障害者就業・生活支援センター等が役割分担を明確にしつつ連携を図ることができる体制を構築すべきである。 51ページ目 (高齢者施策等との連携) 第21条 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策の実施に当たっては、高齢者及び子どもの福祉に関する施策との連携を図るものとする。 【趣旨】 本条は、県が当事者目線の障害福祉を推進するための関係施策を実施する際には、高齢者及び子どもの福祉に関する施策との連携を図らなければならないことについて定めるものです。 【解説】 高齢者の福祉に関する施策との連携は、高齢者に対する医療保健福祉施策として取り組まれてきた地域包括ケアシステムが住み慣れた地域で、安心していきいきと生活できるための地域づくりを目指したものであり、障害福祉施策と非常に親和性のあるものとして捉えるという視点によるものです。 精神障害地域生活支援のために、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の取組みが全国的に進められているほか、障害者が地域の高齢者の日常生活や社会生活上の課題の解消に向けた支援の主体になっている事例も様々報告されているところであり、こうした施策の動向も踏まえながら、高齢者の福祉に関する施策との連携を図っていく必要があります。 また、子どもの福祉に関する施策との連携については、障害者基本法の平成23年改正において、可能な限り障害のある子どもが障害のない子どもと共に教育を受けられるよう配慮しつつ、十分な教育を受けられるようにすることや、障害のある子どもが可能な限り身近な場所で療育等の支援を受けられるようにすること等が新たに規定され、取組みが強化されてきました。 児童福祉法では、地方公共団体は国とともに、子どもを心身ともに健やかに育成する責任を負うものとされており、健康診査等による障害の早期発見、障害児保育、放課後児童クラブにおける障害のある児童の受入、地域における療育機会の提供などの取組みを一層推進していく必要があります。 高齢者の福祉に関する施策との連携を図り、子どもの福祉に関する施策については国の障害児支援の政策動向(下に参考掲載)なども踏まえながら進めていきます。 (参考)障害児支援の政策動向 <参考法規等> 児童福祉法(昭和22年法律第164号) 第六条の二の二 この法律で、障害児通所支援とは、児童発達支援、医療型児童発達支援、放課後等デイサービス、居宅訪問型児童発達支援及び保育所等訪問支援をいい、障害児通所支援事業とは、障害児通所支援を行う事業をいう。 第七条第二項 この法律で、障害児入所支援とは、障害児入所施設に入所し、又は指定発達支援医療機関に入院する障害児に対して行われる保護、日常生活の指導及び知識技能の付与並びに障害児入所施設に入所し、又は指定発達支援医療機関に入院する障害児のうち知的障害のある児童、肢体不自由のある児童又は重度の知的障害及び重度の肢体不自由が重複している児童(以下「重症心身障害児」という。)に対し行われる治療をいう。 児童発達支援ガイドライン 1 目的 (1)この「児童発達支援ガイドライン」は、児童発達支援について、障害のある子ども本人やその家族に対して質の高い児童発達支援を提供するため、児童発達支援センター及び児童発達支援事業所(以下「児童発達支援センター等」という。)における児童発達支援の内容や運営及びこれに関連する事項を定めるものである。 (2)各児童発達支援センター等は、このガイドラインにおいて規定される児童発達支援の内容等に係る基本的な事項等を踏まえ、各児童発達支援センター等の実情に応じて創意工夫を図り、その機能及び質の向上を図らなければならない。 障害者総合支援法 (都道府県障害福祉計画) 第八十九条 都道府県は、基本指針に即して、市町村障害福祉計画の達成に資するため、各市町村を通ずる広域的な見地から、障害福祉サービスの提供体制の確保その他この法律に基づく業務の円滑な実施に関する計画(以下「都道府県障害福祉計画」という。)を定めるものとする。 2 都道府県障害福祉計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。 一 障害福祉サービス、相談支援及び地域生活支援事業の提供体制の確保に係る目標に関する事項 二 当該都道府県が定める区域ごとに当該区域における各年度の指定障害福祉サービス、指定地域相談支援又は指定計画相談支援の種類ごとの必要な量の見込み 三 各年度の指定障害者支援施設の必要入所定員総数 四 地域生活支援事業の種類ごとの実施に関する事項 3 都道府県障害福祉計画においては、前項各号に掲げる事項のほか、次に掲げる事項について定めるよう努めるものとする。 一 前項第二号の区域ごとの指定障害福祉サービス又は指定地域相談支援の種類ごとの必要な見込量の確保のための方策 二 前項第二号の区域ごとの指定障害福祉サービス、指定地域相談支援又は指定計画相談支援に従事する者の確保又は資質の向上のために講ずる措置に関する事項 三 指定障害者支援施設の施設障害福祉サービスの質の向上のために講ずる措置に関する事項 四 前項第二号の区域ごとの指定障害福祉サービス又は指定地域相談支援及び同項第四号の地域生活支援事業の提供体制の確保に係る医療機関、教育機関、公共職業安定所その他の職業リハビリテーションの措置を実施する機関その他の関係機関との連携に関する事項 4 都道府県障害福祉計画は、児童福祉法第三十三条の二十二第一項に規定する都道府県障害児福祉計画と一体のものとして作成することができる。 (略) 54ページ目 (支援手法に関する調査研究) 第22条 県は、障害の特性に応じた支援手法の確立を図るため、国内外の先進的な取組に関する情報の収集その他の調査研究に努めるものとする。 【趣旨】 本条は、障害の特性に応じた支援手法の確立を図るための調査研究に努めることについて定めるものです。 【解説】 障害福祉の支援については、経験だけではなく、科学的な根拠のある支援手法を調査研究・開発し、体系的な研修プログラムを策定した上で、第一線の支援者にその支援手法を習得してもらうことが重要です。 まずは、全国の先進的な取組みを行っている障害福祉サービス提供事業者の実践内容について、大学や研究機関とも連携し、情報収集することなどに取り組んでいく必要があります。 (参考法規) 発達障害者支援法(平成16年法律第167号) (医療又は保健の業務に従事する者に対する知識の普及及び啓発) 第22条 国及び地方公共団体は、医療又は保健の業務に従事する者に対し、発達障害の発見のため必要な知識の普及及び啓発に努めなければならない。 (専門的知識を有する人材の確保等) 第23条 国及び地方公共団体は、個々の発達障害者の特性に応じた支援を適切に行うことができるよう発達障害に関する専門的知識を有する人材の確保、養成及び資質の向上を図るため、医療、保健、福祉、教育、労働等並びに捜査及び裁判に関する業務に従事する者に対し、個々の発達障害の特性その他発達障害に関する理解を深め、及び専門性を高めるため研修を実施することその他の必要な措置を講じるものとする。 (調査研究) 第24条 国は、性別、年齢その他の事情を考慮しつつ、発達障害者の実態の把握に努めるとともに、個々の発達障害の原因の究明及び診断、発達支援の方法等に関する必要な調査研究を行うものとする。 55ページ目 (中核的な役割を担う拠点の整備) 第23条 県は、当事者目線の障害福祉の推進に資するよう、障害者の地域生活の支援及び社会参加の促進に関して中核的な役割を担う拠点の整備に努めるものとする。 【趣旨】 本条は、障害者の地域生活の支援及び社会参加の促進に関して中核的な役割を担う拠点について、県が整備に努めることを定めるものです。 【解説】 当事者目線の障害福祉の推進を図るため、福祉に限らず医療や、文化芸術、スポーツといった様々な施策を円滑かつ確実に実施していくには、県だけの取組みではなく、幅広く民間機関等の知見やノウハウを活用することが必要であると考えています。 「拠点の整備」 本条でいう「拠点」は、いわゆるハード整備ではなく、当事者目線の障害福祉の推進に寄与する知見やノウハウを持つ民間機関等のことを想定しています。 例えば、本県では条例制定時点において「神奈川県障がい者芸術文化活動支援センター」を設置して民間組織に委託しており、障害福祉施設への芸術家の派遣や、障害者の芸術文化活動を支援するコーディネーターの育成などを行っています。また、障害者やそのご家族、事業者等からの芸術文化活動に関する相談を受け付けています。 56ページ目 (地域間の均衡) 第24条 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策の実施に当たっては、障害者に対する福祉サービスの地域間の均衡が図られるよう努めるものとする。 【趣旨】 本条は、当事者目線の障害福祉の推進を図るための各般の施策の実施に当たって、県は、障害者に対する福祉サービスの地域間の均衡が図られるよう努めることを定めるものです。 【解説】 国においては、自治体間の格差や障害種別による支援内容の格差を解消することを目的として、平成18年に障害者自立支援法(その後、障害者総合支援法に改正)を施行しました。同法では、支援費制度とは異なり、訪問系サービスについても国の義務的経費となり、自治体格差の解消が期待されました。しかしながら、自治体における介護給付の障害支援区分認定から支給決定に至る実態を見ると、財政基盤の弱い自治体は長時間介護の支給決定が行われにくい傾向にあることが指摘されており、また,手話通訳派遣者などのコミュニケーション支援等においても,市町村の実施状況には差がみられるところです。 全ての障害者が、住み慣れた地域で、安心していきいきと暮らすことができるよう、県は、各市町村における障害福祉施策の実施状況を把握するとともに、できる限り、地域による格差が生じないよう、必要な支援、広域的な調整に努める必要があります。 本条は、「人口減少下において満足度の高い人生と人間を尊重する社会をどう構築するか」という課題に対する答えとして取りまとめられた「自治体戦略2040構想研究会 第一次報告」において提言されている、「現下の地方自治体が抱える課題の認識の下、県内のどこに住んでも、一定水準の障害福祉サービス等が提供されるよう、県がプラットフォームづくりに注力すること」という考えを踏まえていく必要があります。 既に、障害者に対する必要な福祉サービス等の確保を図るため、広域的な調整を行っている市町村が存在しているところであり、県は、人口減少社会を見据えて障害者に対する福祉サービスの地域間の均衡が図られるよう努めることとしています。 人口減少下の現状においては、こうした考え方(下に参考掲載)を踏まえながら地域間の均衡を図っていきます。    (参考)自治体戦略2040構想研究会 第一次報告 12) 〜人口減少下において満足度の高い人生と人間を尊重する社会をどう構築するか〜 (平成30年4月 自治体戦略2040構想研究会) W 2040 年頃を見据えた自治体戦略の基本的方向性 長期にわたる少子化によって、今後、本格的な人口減少を迎える我が国を、国際社会はどのように見ているのであろうか。 我が国が国際社会から信任を得られるかどうかは、長年指摘されてきた経済や財政の健全性の観点に加え、社会の機能不全を自ら克服できるという意味でのレジリエンス(=社会の強靱性)が問われるのではないか。 短期間の財政効果を追求した取組のみでは、我が国の地域社会の持続可能性に対する根本的な疑問と不安に応えられない。今回、本研究会が提示した課題や論点は、我が国の行政の制度設計の根幹に当たる部分を含めた見直しを迫るものである。 課題は内政全般にわたる。その改革を総合し、国内に行き渡らせるためには、各行政分野における取組と併せて、自治体行政のあり方の根本を見直す必要がある。医療、介護、インフラ、空間管理など、住民サービスの多くを支えるのは地方自治体である。2040 年頃にかけて迫り来る我が国の危機を乗り越えるべく、全ての府省が政策資源を最大限投入するに当たって、地方自治体も、持続可能な形で住民サービスを提供し続けられるようなプラットフォームであり続けなければならない。 今後、本研究会において議論すべきは、新たな自治体と各府省の施策(アプリケーション)の機能が最大限発揮できるようにするための自治体行政(OS)の書き換えである。住民の福祉のため、自治体行政のあり方も、大胆な変革を構想する必要がある。 2040 年頃の自治体の姿は運命的に与えられるものではなく、住民が自らの意思で戦略的につくっていくことができるものである。将来のことは完全には予測できないという前提の中で、自治体が住民とともに落ち着いて建設的な議論に向かい、時間をかけて準備ができるよう、我が国全体で共有できる長期的な戦略を早い段階で定め、住民にとって実感のできる選択肢を示す必要がある。 人々の良質な生活を満たす公・共・私のベストミックスのあり方や方法は、都市部と農村部、東京圏と東京圏以外など、地域によって大きく異なる。自治体は、地域の戦略本部として、制度や組織、地域の垣根を越えて、資源(施設や人材)を賢く戦略的に活用する必要がある。個々が部分最適を追求することにより合成の誤謬に陥らないようにしなければならない。 加えて、自治体には、専門性を発揮し、住民の合意形成をコーディネートする役割がより求められることとなる。地域ごとの公・共・私のベストミックスに移行するため、自治体は、単なる「サービス・プロバイダー」から、公・共・私が協力し合う場を設定する「プラットフォーム・ビルダー」への転換が求められる。 急速に人口減少が進み、特に小規模な自治体では人口の減少率が4〜5割に迫る団体が数多く生じると見込まれる。そのような中では、個々の市町村が行政のフルセット主義を排し、圏域単位で、あるいは圏域を越えた都市・地方の自治体間で、有機的に連携することで都市機能等を維持確保することによって、人が人とのつながりの中で生きていける空間を積極的に形成し、人々の暮らしやすさを保障していく必要がある。 人口減少が先行して進んできた県においては、県が市町村と一体となって様々な施策を展開して地域を守ろうとする動きが顕著になっている。都道府県・市町村の二層制を柔軟化し、それぞれの地域に応じた行政の共通基盤の構築を進めていくことも必要になる。 医療・介護ニーズの急増や首都直下地震への対応など、東京圏の大きな行政課題に対処していくためには、いわゆる埼玉都民や千葉都民なども含めた東京圏全体のサービス供給体制を構築していく必要がある。 若年層の減少により、経営資源としての人材の確保がより厳しくなる中、公・共・私のベストミックスで社会課題を解決していくことが求められる。他方、定年退職者や出産を機に退職した人など、企業等で築き上げた能力が十分活かされず、活躍の場を求めている人も多い。就職氷河期世代には、これまで十分活躍の場が与えられてこなかった人がいる。こうした人々が多様な働き方ができる受け皿を作り出す方策について検討する必要がある。 これまで自治体が個々にカスタマイズしてきた業務プロセスやシステムは、大胆に標準化・共同化する必要がある。更には、今後、ICT の利用によって処理できる業務はできる限りICTを利用するというICTの活用を前提とした自治体行政を展開する必要がある。 総務省においては、自治体行政の新たな姿を描く際には、ICT や郵便、統計などを含め、その総力を挙げて、有機的に連携して取り組む必要がある。 こうした基本的方向性をもとに、2040 年頃を見据えた自治体戦略として、どのような行政経営改革、圏域マネジメントを行う必要があるのか、さらに具体的な検討が必要である。 59ページ目 (自立支援協議会の活動の推進等) 第25条 県は、障害者への支援体制の整備を図るため、障害保健福祉圏域(保健及び医療と福祉との連携を図る観点から県内を区分した区域のことをいう。)ごとに協議会(障害者総合支援法第89条の3第1項に規定する協議会をいう。次項において同じ。)を置くとともに、その活動を推進するものとする。 2 県は、地域の実情に応じた障害者への支援体制の整備を促進するため、市町村が置く協議会との連携を図るものとする。 【趣旨】 本条は、県内に設置された、障害者総合支援法第89条の3第1項に規定する協議会の活動について、県がその推進等を図ることを定めるものです。 【解説】 〔第1項関係〕 障害者総合支援法第89条の3第1項に規定する協議会は、多くの場合「自立支援協議会」の呼称で設置され、本県では県の自立支援協議会と、政令市を除く5つの圏域に自立支援協議会を設置しています(政令市は横浜市、川崎市、相模原市が各自設置)。 協議会は、障害者が地域において自立した日常生活や社会生活を営み、安心して豊かに過ごすことができるよう、様々な社会資源の整備等を促進することを目的として設置される会議体です。本条では、こうした協議会の活動に県がしっかりと関与し、その活動の推進を図ることを定めるものです。 このような圏域の協議会が広域的な観点から当該区域の障害者に対する支援体制の整備に取り組むことで、第24条に定める地域間の均衡が図られる効果を期待するものです。 なお、神奈川県障害者自立支援協議会について、条例においては特段の規定を置いていませんが、その設置要綱において、設置目的を「かながわの障害者が、地域において自立した日常生活や社会生活を営み、安心して豊かに暮らすことができるよう、質の高い相談支援体制の整備等を促進するため」としています。この目的を達成するために、@障害保健福祉圏域及び市町村における相談支援に関すること、A専門性の高い相談支援事業及び広域的な支援事業に関すること、B相談支援従事者研修等研修事業に関すること等について協議を行うこととされており、本条の規定を踏まえ、運営の充実強化を図っていくことが必要です。 「障害保健福祉圏域」 障害保健福祉圏域は、保健及び医療と福祉との連携を図る観点から県内を区分した区域のことを指します。本県では二次保健医療圏を基本として県内を8つの区域(横浜、川崎、相模原、県央、横須賀・三浦、湘南東部、湘南西部、県西)に分けています。 〔第2項関係〕 県内の各市町村は、それぞれ協議会を設置しており、県は、各地域々々の実情に応じた障害者への支援体制の整備を促進するため、第1項に定める圏域ごとの協議会などの場を活用し、県と市町村の協議会相互の連携を図ることとするものです。 <参考法規> 神奈川県障害者自立支援協議会設置要綱(平成30年4月1日施行) (目的) 第1条 かながわの障害者が、地域において自立した日常生活や社会生活を営み、安心して豊かに暮らすことができるよう、質の高い相談支援体制の整備等を促進するため、神奈川県障害者自立支援協議会(以下「協議会」という。)を設置する。 第2条 (略) (協議事項) 第3条 協議会は、第1条の目的を達成するため、次の事項について、協議を行う。 (1) 障害保健福祉圏域(以下「圏域」という。)及び市町村における相談支援に関すること。 (2) 専門性の高い相談支援事業及び広域的な支援事業に関すること。 (3) 相談支援従事者研修等研修事業に関すること。 (4) その他必要な事項に関すること。 (参考)将来展望検討委員会の提言 将来展望検討委員会の報告書には、入所施設に頼り過ぎた障害福祉提供体制から、地域全体で、障害者を支えていく態勢への転換が必要であり、そのための新たな支援の組み立てを考える場として、自立支援協議会が中心となるべき、との提言が盛り込まれました。 障害福祉は、高齢者福祉の中心となる介護保険制度とは異なり、対象者が少ないことから、自ずと地域資源の整備には遅れや隙間があるため、広域的に融通を利かせていくことが重要です。 こうしたことから、現行の県内8圏域の自立支援協議会において、当該区域において、障害者がその人らしく暮らしていくことができるよう、障害者に対する新たな支援の組み立てを、県もしっかりと関与しながら、関係者間で議論を行っていくこととしています。 61ページ目 (人材の確保、育成等) 第26条 県は、障害者の福祉に係る事業に従事する人材(次項において「従事者」という。)の確保、育成及び技術の向上を図るため、情報の提供、研修その他の必要な措置を講ずるものとする。 2 県は、従事者の職場への定着を促進するため、就労実態の把握、情報の提供、助言その他の従事者の心身の健康の維持及び増進並びに処遇の改善に資するための措置を講ずるものとする。 3 県は、障害者の福祉に係る活動及び事業並びに当該事業に従事することに対する県民等の関心を深めるため、広報活動の充実、当該事業の活動に接する機会の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。 【趣旨】 本条は、障害者の福祉に係る事業に従事する人材(以下、本条の解説において「従事者」といいます。)の確保や育成等について、県が取り組むべきことを定めたものです。 【解説】 今日、我が国は人口減少社会に突入しており、労働力人口は長期的に減少していくことが見込まれます。福祉分野は、他業種に比べて人手不足感が続いており、従事者の職場への定着が重要であり、引き続きの給与水準の引き上げ(処遇改善)や、職場環境の改善が強く求められているところです。 しかしながら、従事者の確保については、一法人、一市町村だけではなかなか解決することが困難な課題です。 こうしたことから、本条において、県が障害福祉サービス提供事業者等に就労する人材の確保及び育成について、必要な措置を講ずる責務を規定したものです。 〔第1項関係〕 本項では、県が従事者の育成及び技術の向上を図るための措置を講ずることを定めています。 県は条例が制定される以前から、福祉人材の育成及び技術の向上に係る研修等の取組みを進めてきたところですが、より一層、市町村や障害福祉サービス提供事業者等と連携を強め、取組みを強化していくことが重要です。とりわけ、地域生活移行を担う人材の育成は急務であり、県が積極的に関与していく必要があります。 〔第2項関係〕 本項では、県が従事者の職場への定着を促進するための措置を講ずることを定めています。 従事者の職場への定着を図っていくためには、従事者の心身の健康の維持と増進がしっかりと担保された職場環境であることが必須です。このためには、ロボット・ICT技術の導入による業務負担の軽減は有効な手段の一つだと考えられ、県は、その導入支援に取り組むことが重要です。 また、処遇の改善(給与水準の改善)は、新規就業のみならず職場定着を図る上で、最も重要な措置の一つと考えられます。障害福祉サービス提供事業者の収入は、いわゆる公定価格である障害福祉サービス等報酬によることから、国において、これまで、必要な改善が講じられてきたところであり、県は、同事業者の処遇改善加算の円滑な申請のための助言等を行うことが重要です。 こうした県が講じる各般の情報提供や助言などの措置が的確なものとなるよう、県としても、同事業者の就労実態について、しっかりと把握し、必要に応じ、国への提言や要請を行うことも検討すべきと考えられます。 〔第3項関係〕 県内の障害福祉サービス提供事業者等への新規就労を増やしていくためには、県は、これまで以上に、県民等に対し障害福祉に係る活動及び事業に関する魅力を伝える情報発信に取り組み、関係者と協力しながら、「神奈川で障害者の福祉に係る仕事をしてみたい」と思ってもらえるような環境を整備していく必要があります。 こうしたことから、本項では、従事者のほか、県民や事業者に広く障害者の福祉に係る活動及び事業への関心を深めてもらうための措置、いわば人材の裾野を広げるための措置を、県が講ずることを定めたものです。 63ページ目 〇 基本的規定〜雑則(補則) (財政上の措置) 第27条 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策を推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。 【趣旨】 本条は、当事者目線の障害福祉の推進を図るための関係施策の実施に必要な財源の確保について、県の努力義務を定めたものです。 【解説】 条例においては、当事者目線の障害福祉の推進を図るための各般の施策についての具体的な実行プランとして「基本計画」を定めるものとするとともに、それら施策を円滑に実施するための体制の整備について定めています。 こうした取組みの実施に当たっては、一定の財政措置が必要になることから、その点を担保するため、県が財政上の措置を講ずる努力義務を規定したものです。 この財政措置については、毎年度の予算編成過程において決定されることとなります。 〇 附則 附則 1 この条例は、令和5年4月1日から施行する。 2 知事は、この条例の施行の日から起算して5年を経過するごとに、この条例の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。 【趣旨】 附則において、条例の施行日と見直しについて定めるものです。   【解説】 〔第1項関係〕 条例は令和4年10月21日に公布されましたが、県民等への十分な周知の期間を勘案し、施行日を約半年後の令和5年4月1日としました。 〔第2項関係〕 本県では、現在約400本の様々な内容の条例が施行されています。条例は、十分な検討の上、県議会の議決を経て制定されるものですが、その時々の社会状況にふさわしいものとなっているかを検証することとされています。条例についても、見直しを定期的に行うことを義務付ける「見直し規定」を設け、本県の基準である「5年を経過するごとに」、必要性、有効性、効率性、基本方針適合性、適法性の5つの視点から見直すこととしているものです。今日、社会保障分野の制度変更の速度は非常に速いことから、5年を待つことなく、必要に応じて見直すことも可能としています。 64ページ目 参考文献(※記載のURLは全て令和5年3月時点に確認したもの) 1)菊池馨実.社会保障再考 <地域>で支える.岩波書店.2019 2)地域共生社会のポータルサイト.厚生労働省.https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/ 3)人権外交:障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約).作成及び採択の経緯.外務省. https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_000895.html 4)氏田照子.支援つき意思決定制度〜自己決定権を保障する制度づくりを.第18回総合福祉部会委員提出資料.2011 5)木口恵美子.自己決定支援と意思決定支援.福祉社会開発研究究6号.東洋大学.2014 6)遠藤美貴.「自己決定」と「支援を受けた意思決定」.立教女学院短期大学紀要第48号.2017 7)秋元美世・平田厚.社会福祉と権利擁護.有斐閣.2015 8)井土睦雄.福祉サービスにおける自己決定権の保障.近畿福祉大学紀要第7巻第2号.2006 9)松井亮輔・川島聡.概説 障害者権利条約.法律文化社.2010 10)障害者差別解消法解説編集委員会.概説 障害者差別解消法.法律文化社.2014 11) 障害者虐待防止対策.障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律について.厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/gyakutaiboushi/index.html 12) 自治体戦略2040構想研究会.自治体戦略2040構想研究会 第一次報告.総務省.2018 https://www.soumu.go.jp/main_content/000548066.pdf 65ページ目 <条例全文> 神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例 〜ともに生きる社会を目指して〜 平成28年7月26日、県立障害者支援施設である津久井やまゆり園において、19名の生命が奪われるという大変痛ましい事件が発生した。この事件は、障害者やその家族のみならず、多くの県民に言いようもない衝撃と不安を与えた。 県は、このような事件が二度と繰り返されないよう、平成28年10月、県議会の議決を経て「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定し、これを、ともに生きる社会の実現を目指す県政の基本的な理念とした。 県は、津久井やまゆり園の再生を進める過程において、利用者に対するより良い支援のあり方を模索してきた。そうしたところ、これまでは利用者の安全を優先するという理由で管理的な支援が行われてきたが、本人の意思を尊重し、本人が望む支援を行うためには、当事者本人の目線に立たなくてはならないことに改めて気付いた。 そして、障害者との対話を重ね、その思いに寄り添うために全力を注いだ。その結果、障害者一人一人の心の声に耳を傾け、支援者や周りの人が工夫しながら支援することが、障害者のみならず障害者に関わる人々の喜びにつながり、その実践こそが、お互いの心が輝く当事者目線の障害福祉であるとの考えに至った。 そこで、令和3年11月、「当事者目線の障がい福祉実現宣言」を発信し、これまでの障害福祉のあり方を見直し、当事者目線の障害福祉に転換することを誓った。 顧みると、我が国においては、昭和56年の国際障害者年を転機として、ノーマライゼーションの理念の下、全ての障害者が自立と社会参加をすることができるよう環境の整備が進められてきた。また、障害者基本法の改正、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の制定等の国内法の整備が行われ、平成26年には、障害者の権利に関する条約が批准された。しかしながら、全ての障害者が自分らしく暮らしていくことができる社会環境の整備は、いまだ道半ばである。 私たちは、この現状に真摯に向き合い、誰もが安心していきいきと暮らすことのできる地域共生社会の実現を目指して、障害者も含めた県民、事業者、県等が互いに連携し、一体となった取組を進めるべく、普遍的な仕組みを構築していかなければならない。 このような認識の下、当事者目線の障害福祉の推進が、「ともに生きる社会かながわ憲章」の実現につながるものと確信し、その基本となる理念や原則を明らかにした、当事者目線の障害福祉を進めていくための基本的な規範として、ここに、この条例を制定する。 (目的) 第1条 この条例は、当事者目線の障害福祉の推進について、基本理念を定め、及び県、県民、事業者等の責務を明らかにするとともに、当事者目線の障害福祉を推進するための基本となる事項を定めることにより、当事者目線の障害福祉の推進を図り、もって障害者が障害を理由とするいかなる差別及び虐待を受けることなく、自らの望む暮らしを実現することができ、障害者のみならず誰もが喜びを実感することができる地域共生社会の実現に資することを目的とする。 (定義) 第2条 この条例において「障害」とは、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第2条第1号に規定する障害をいい、「障害者」とは同号に規定する障害者をいう。  2 この条例において「当事者目線の障害福祉」とは、障害者に関わる誰もが障害者一人一人の立場に立ち、その望みと願いを尊重し、障害者が自らの意思に基づいて必要な支援を受けながら暮らすことができるよう社会環境を整備することにより実現される障害者の福祉をいう。 3 この条例において「意思決定支援」とは、障害者が自ら意思を決定すること(以下「自己決定」という。)が困難な場合において、可能な限り自らの意思が反映された日常生活及び社会生活を送ることができるよう、自己決定を支援することをいう。 4 この条例において「障害福祉サービス提供事業者」とは、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号。以下「障害者総合支援法」という。)第5条第1項に規定する障害福祉サービス事業を行う者、同条第11項に規定する障害者支援施設を経営する事業を行う者、同条第18項に規定する一般相談支援事業又は特定相談支援事業を行う者、同条第26項に規定する移動支援事業を行う者、同条第27項に規定する地域活動支援センターを経営する事業を行う者及び同条第28項に規定する福祉ホームを経営する事業を行う者並びに児童福祉法(昭和22年法律第164号)第6条の2の2第1項に規定する障害児通所支援事業を行う者、同条第7項に規定する障害児相談支援事業を行う者及び同法第7条第1項に規定する障害児入所施設又は児童発達支援センターを経営する事業を行う者をいう。 (基本理念) 第3条 当事者目線の障害福祉の推進は、次に掲げる事項を旨として図られなければならない。 (1)全ての県民が、等しく人格的に自律した存在として主体的に自らの生き 方を追求することができ、かつ、その個人としての尊厳が重んぜられること。 (2)障害者一人一人の自己決定が尊重されること。 (3)障害者本人が希望する場所で、希望するように暮らすことができること。 (4)障害者の性別、年齢、障害の特性及び生活の実態に応じて関係者が連携し、障害者一人一人の持つ可能性が尊重されること。 (5)障害者のみならず、障害者に関わる人々も喜びを実感することができること。 (6)多様な人々により地域社会が構成されているという認識の下に、全ての県民が、障害及び障害者に関する理解を深め、相互に支え合いながら、社会全体で取り組むこと。 (県の責務) 第4条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、当事者目線の障害福祉に関する総合的な施策を策定し、これを実施する責務を有する。 2 県は、市町村、事業者等と連携し、障害及び当事者目線の障害福祉に関する理解を深めるための普及啓発を行うものとする。 3 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策に、県民、事業者又はこれらの者の組織する民間の団体(以下「県民等」という。)の意見を反映することができるように必要な措置を講ずるものとする。 (市町村との連携) 第5条 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策の策定及び実施に当たっては、市町村と連携し、及び協力するよう努めるものとする。 2 県は、市町村が当事者目線の障害福祉に関する施策を策定し、又は実施しようとするときは、情報の提供、助言その他の必要な支援を行うものとする。 (県民及び事業者の責務) 第6条 県民及び事業者は、基本理念にのっとり、当事者目線の障害福祉に関する理解を深めるとともに、県が実施する当事者目線の障害福祉に関する施策に協力するよう努めなければならない。 2 県民及び事業者は、基本理念にのっとり、障害者が社会、経済、文化その他多様な分野の活動に参加することができるよう機会の確保に努めなければならない。 (障害福祉サービス提供事業者の責務) 第7条 障害福祉サービス提供事業者は、基本理念にのっとり、地域住民、関係団体等と連携し、地域の社会資源の活用、創出等を図りながら、当事者目線の障害福祉の推進に努めなければならない。 (基本計画の策定) 第8条 知事は、当事者目線の障害福祉に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、当事者目線の障害福祉の推進に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)を定めなければならない。 2 知事は、毎年度、基本計画の実施状況について、インターネットの利用その他の方法により公表するものとする。 (基本計画に定める施策) 第9条 基本計画には、次に掲げる施策について定めるものとする。 (1)障害者が、障害の特性及び生活の実態に応じ、自立のための適切な支援を受けることができ、かつ、多様な地域生活の場を選択することができるようにするための医療、介護、福祉等に関する施策 (2)障害者及びその家族その他の関係者からの各種の相談に総合的に応じることができるようにするための施策 (3)障害者である子どもの教育を保障し、及び障害者が生涯にわたり学習を継続することができるようにするための施策 (4)障害者である子どもが、可能な限りその身近な場所において療育その他これに関連する支援を受けることができるようにするための施策 (5)障害者の多様な就業機会の確保、個々の障害者の特性に配慮した就労の支援及び障害者の雇用促進に関する施策 (6)障害者のための住宅の確保及び障害者の日常生活に適するような住宅の整備の促進に関する施策 (7)障害者が円滑に利用できるような公共的施設の構造及び設備の整備並びに障害者が移動しやすい環境の整備に関する施策 (8)障害者が十分に情報を取得し、及び利用し、並びに円滑な意思疎通を図ることができるようにするための情報提供その他の支援に関する施策 (9)障害者及び障害者を扶養する者の経済的負担の軽減を図り、又は障害者の自立を促進するための施策 (10)障害者が円滑に文化芸術活動、スポーツ又はレクリエーションを行うことができるようにするための環境の整備に関する施策 (11)障害者が地域社会において安全にかつ安心して生活を営むことができるようにするための防災及び防犯並びに障害者の消費者被害の防止及び救済に関する施策 (12)障害者が行政機関等における手続を円滑に行うことができるようにするための環境の整備に関する施策 (意思決定支援の推進) 第10条 障害福祉サービス提供事業者は、意思決定支援の実施に努めなければならない。 2 県は、意思決定支援の推進に関する必要な情報の提供、相談及び助言等を行うための体制を整備するものとする。 3 県は、障害福祉サービス提供事業者に対し、意思決定支援に関する研修を行うものとする。 (障害者の権利擁護) 第11条 障害福祉サービス提供事業者、障害者の家族その他の関係者(次項においてこれらを「関係者」という。)は、施設への入所その他の障害者の福祉サービスの利用に際しては、障害者の意思が反映されるよう配慮しなければならない。 2 関係者は、障害者が意思決定支援を受けることを希望する場合には、その希望を十分に尊重し、円滑に意思決定支援を受けることができるよう努めなければならない。 (障害を理由とする差別、虐待等の禁止) 第12条 何人も、障害者に対し、障害を理由とする差別、虐待その他の個人としての尊厳を害する行為をしてはならない。 (障害を理由とする差別に関する相談、助言等) 第13条 県は、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう、相談体制その他必要な体制を整備するものとする。 2 県は、障害を理由とする差別に関する相談を受けたときは、必要に応じ、次に掲げる措置を講ずるものとする。 (1)相談者に対し、助言、情報の提供等を行うこと。 (2)関係者との必要な情報の共有又はあっせんを行うこと。 (3)他の地方公共団体への通知その他の連絡調整を行うこと。 (社会的障壁の除去) 第14条 県は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。以下同じ。)の除去を必要としている旨の意思の表明がない場合においても、その意思を推知することができるときで、社会的障壁の除去についてその実施に伴う負担が過重でないときは、合理的な配慮を行うよう努めるものとする。 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明がない場合においても、その意思を推知することができるときで、社会的障壁の除去についてその実施に伴う負担が過重でないときは、合理的な配慮を行うよう努めるものとする。 (虐待等の防止) 第15条 県は、市町村その他の関係機関と連携し、障害者に対する虐待等の防止に関し、障害福祉サービス提供事業者への啓発及び研修を行うものとする。 2 障害福祉サービス提供事業者は、その従業者に対し、障害者に対する虐待等の防止に関する研修及び啓発を行うよう努めなければならない。 (虐待の早期発見等) 第16条 県は、市町村その他の関係機関と連携し、障害者に対する虐待の早期発見のため、障害者に対する虐待に係る通報に関する普及啓発を行うものとする。 2 県は、市町村その他の関係機関と連携し、障害者に対する虐待の早期発見及び早期対応のための体制を整備するものとする。 (障害者の家族等に対する支援) 第17条 県は、障害者の家族その他の関係者(以下この条において「障害者の家族等」という。)の日常生活における不安の軽減を図るため、障害者の家族等に対し、情報の提供、相談の実施、助言その他の必要な支援を行うものとする。 (障害福祉に係る政策立案過程への障害者の参加の推進) 第18条 県は、障害者の福祉に係る政策の立案に関する会議の開催に当たっては、障害者の参加を推進するものとする。 (障害者主体の活動の促進) 第19条 県は、障害者の自立及び社会参加の促進のために障害者が主体となって企画し、及び実施する活動(以下この条において「障害者主体の活動」という。)に関する県民等の理解を深め、その活性化を図るため、障害者主体の活動に関する普及啓発その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。 2 県は、県内において障害者主体の活動に取り組む団体又は個人が、相互に連携し、必要な情報を共有し、及び協働することができるよう支援に努めるものとする。 3 県は、障害者主体の活動の促進に資するよう、国内外の障害者主体の活動に関する情報の収集、整理及び提供その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。 (生涯にわたる障害者への支援体制の整備) 第20条 県は、障害者が生涯にわたり必要な支援を切れ目なく受けることができる体制の整備に努めるものとする。 (高齢者施策等との連携) 第21条 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策の実施に当たっては、高齢者及び子どもの福祉に関する施策との連携を図るものとする。 (支援手法に関する調査研究) 第22条 県は、障害の特性に応じた支援手法の確立を図るため、国内外の先進的な取組に関する情報の収集その他の調査研究に努めるものとする。 (中核的な役割を担う拠点の整備) 第23条 県は、当事者目線の障害福祉の推進に資するよう、障害者の地域生活の支援及び社会参加の促進に関して中核的な役割を担う拠点の整備に努めるものとする。 (地域間の均衡) 第24条 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策の実施に当たっては、障害者に対する福祉サービスの地域間の均衡が図られるよう努めるものとする。 (自立支援協議会の活動の推進等) 第25条 県は、障害者への支援体制の整備を図るため、障害保健福祉圏域(保健及び医療と福祉との連携を図る観点から県内を区分した区域のことをいう。)ごとに協議会(障害者総合支援法第89条の3第1項に規定する協議会をいう。次項において同じ。)を置くとともに、その活動を推進するものとする。 2 県は、地域の実情に応じた障害者への支援体制の整備を促進するため、市町村が置く協議会との連携を図るものとする。 (人材の確保、育成等) 第26条 県は、障害者の福祉に係る事業に従事する人材(次項において「従事者」という。)の確保、育成及び技術の向上を図るため、情報の提供、研修その他の必要な措置を講ずるものとする。 2 県は、従事者の職場への定着を促進するため、就労実態の把握、情報の提供、助言その他の従事者の心身の健康の維持及び増進並びに処遇の改善に資するための措置を講ずるものとする。 3 県は、障害者の福祉に係る活動及び事業並びに当該事業に従事することに対する県民等の関心を深めるため、広報活動の充実、当該事業の活動に接する機会の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。 (財政上の措置) 第27条 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策を推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。 附則 1 この条例は、令和5年4月1日から施行する。 2 知事は、この条例の施行の日から起算して5年を経過するごとに、この条例の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。