7(仮称)当事者目線の障がい福祉推進条例の制定について    (1)経緯 ・将来展望検討委員会から、議論している長期ビジョンを着実に実現するために、条例も含めた普遍的な仕組みづくりについて検討してほしいとの意見が示された。 ・令和3年9月の第3回県議会定例会では、普遍的な仕組みづくりについて、計画の策定、憲章、宣言、条例などあらゆる可能性、選択肢を排除することなく検討するよう意見をいただいた。 ・これらの意見を受け止め、検討を行った結果、理念や目的、責務などを市町村や事業者、県民等と共有し、県議会の議決を得て制定する「条例」が最も効果的と考え、同年11月の本会議で、条例制定を目指していくことを答弁した。 ・同年12月の厚生常任委員会に条例の構成や盛り込む内容のイメージを報告し、それを踏まえて、当事者、関係団体、市町村、審議会等と意見交換し、骨子案の検討を進めてきた。 (2)条例の基本的な考え方 ア 本県の障がい関係施策の基本条例として位置付ける イ 前文を置く 津久井やまゆり園事件により、「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定し、併せて、当事者目線の障がい福祉の必要性を認識して、この条例制定に至った経緯などを明らかにする。 ウ 当事者目線の障がい福祉の推進を目的として明示する エ 既存の計画を生かし、長期的なビジョンの実現を目指した実効性のある計画の策定を明示する オ 障がい者の差別解消及び虐待防止に関する規定を置く カ 当事者の政策決定過程への参加の推進、本人活動の支援、推進を明示する キ 誰もが意思決定支援を受けられることを明示する ク 科学的エビデンスに基づいた、支援手法等の調査研究を進める旨を明示する ケ 誰もが理解しやすいように、分かりやすい条例のガイド等を作成する (3)条例骨子案のポイント ア 目的 【直接的な目的】 ・当事者目線の障がい福祉の推進 【めざす姿】 ・地域共生社会の実現 【目的達成の手段】 ・県の施策の基本となる事項の規定 ・県、県民及び事業者の責務の明確化 ・県と市町村との連携により推進すべき事項の規定 等      イ 基本理念 ・個人として尊重されること ・心の声に耳を傾け、互いの心が輝く支援の推進 ・希望する暮らしの実現 ・本人の可能性を最大限引き出す、個別のサポート ・政策決定過程への当事者の参加 ・持続可能で、違いを認め誰も排除しない社会の実現 ・オール神奈川で地域共生社会を創造 ウ 関連分野と連携した施策の推進 ・医療、介護、福祉等 ・教育 ・療育 ・職業相談、雇用の促進等 ・公共的施設のバリアフリー化、住宅の確保 ・情報の利用におけるバリアフリー化等 ・相談等 ・経済的負担の軽減、年金等 ・文化的諸条件の整備等 ・防災及び防犯 ・消費者としての障がい者の保護 ・行政等における配慮 (4)骨子案の構成 前文 第1 目的 第2 定義 第3 基本理念 第4 県の責務 第5 県民及び事業者の役割 第6 基本的な計画の策定 第7 政策立案過程への障がい者の参加と本人活動の推進 第8 障がい者の権利擁護及び障がい者差別解消のための措置 第9 障がい者虐待の禁止と救済措置 第10 当事者目線の障がい福祉を推進するための施策等 第11 総合的・計画的な施策の推進体制の整備 第12 財政上の措置 (5) 関係者との意見交換の状況 ・関係団体とは、12月の第3回県議会定例会厚生常任委員会終了後、意見交換を進め、これまでに20団体と実施した(令和4年2月28日現在)。  ・市町村とは、担当者会議での説明のほか、3政令市(横浜市、川崎市、相模原市)や中核市(横須賀市)をはじめ、個別の訪問により、意見交換を進めている。 ・その他、審議会や庁内においても意見交換を実施した。 令和4年1月24日 第8回将来展望検討委員会 2月2日共生推進本部会議 2月15日障害者施策審議会 2月21日第9回将来展望検討委員会 (主な意見) ・できる限り多くの障がい当事者から、意見を聞いてほしい ・障がい当事者にとって、わかりやすい条例にしてほしい ・引き続き意見交換の場を持ってほしい ・条例を踏まえ、実施計画をしっかりと策定していくことが重要 ・差別解消のことも、条例の中に入れてほしい ・県、市町村、事業者等、関係者間での意識合わせが大切 など (6)今後の進め方 ・県議会との議論を踏まえた骨子案により、県民意見の募集(パブリック・コメント)を行う。 ・引き続き、障がい当事者を含む県民、市町村、関係団体、事業者、審議会等と、幅広く丁寧に意見交換を行いながら、条例の制定に向けて検討を進めていく。 ・今後のスケジュール 令和4年4月〜 骨子案について県民意見の募集(パブリック・コメント) 関係者等との意見交換 6月第2回県議会定例会厚生常任委員会に条例素案を報告 7月〜関係者等との意見交換 9月第3回県議会定例会に条例案の提出 令和5年4月条例の施行 <別添参考資料> 参考資料2「(仮称)神奈川県当事者目線の障がい福祉推進条例」骨子案 (仮称)神奈川県当事者目線の障がい福祉推進条例 骨子案 前文(※条例案では、見出しは除く) (津久井やまゆり園事件と「ともに生きる社会かながわ憲章」) 平成28 年7月26 日、県立障害者支援施設である津久井やまゆり園において、19 名のいのちが奪われる大変痛ましい事件が発生した。この事件は、障がい当事者やその家族のみならず、多くの県民に、言いようもない衝撃と不安を与えた。 県は、このような事件が二度と繰り返されないよう、断固とした決意をもって、平成28年10月、県議会と共同で「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定し、ともに生きる社会の実現をめざす、県政の基本的な理念とした。 また、県は、津久井やまゆり園の再生に向けて、本人の望む暮らしを本人と一緒に考える「意思決定支援」に取り組むとともに、新たに施設の規模を縮小し、利用者一人ひとりを尊重した支援ができる環境を整備することとした。令和3年8月に新しい津久井やまゆり園を、同年12月に芹が谷やまゆり園を開所し、新たな障がい福祉の開始地点と位置付けた。 (「当事者目線の障がい福祉」への転換) こうした津久井やまゆり園の再生の過程において、県立障害者支援施設での支援が不適切であるという複数の通報を受け、支援の内容や組織運営の実態について、有識者による検証が行われた結果、長時間の居室施錠など虐待が疑われる身体拘束が長期にわたり行われてきたことが明らかとなり、さらに、本来、指導すべき立場にある県自身も、不適切な支援に関する正しい知識が不足していたことが判明した。 これを受けて県は、「利用者のために」という、利用者の安全を優先した支援者の目線ではなく、本人の望みや願いを第一に、本人の可能性を最大限引き出す、障がい当事者の目線に立った支援を行うべきではないかとの認識に立ち、県立障害者支援施設のあり方の見直しを進めていった。 県は、障がい者の支援の第一線に赴き、多くの障がい当事者と対話を重ねていく中で、障がい当事者の持つ無限の可能性に気付くとともに、一人ひとりの障がい当事者の心の声に耳を傾け、支援者や周りの人が工夫しながらサポートすることで、お互いの心が輝く「当事者目線の障がい福祉」が重要であるとの認識を強めていった。この新たな福祉の実践は、当事者の幸せとともに、支援者、周りの仲間にとっても喜びにつながる双方向の支援であり、県は、これこそが「当事者目線」であるとの考えに至った。 こうした過程を経て、県は、これまでの支援者目線の障がい福祉から当事者目線の障がい福祉に大転換し、ともに生きる社会を実現すべく全力を尽くすという決意を明らかにするため、令和3年11月、芹が谷やまゆり園の開所式において「当事者目線の障がい福祉実現宣言」を発信した。 (当事者目線の障がい福祉推進条例の制定) 今後、障がい者差別や障がい者虐待のない、誰もがいのち輝かせて暮らすことのできる地域共生社会を実現していくには、当事者目線の障がい福祉を推進することが必要であり、これを当事者も含めた県民、事業者、行政等が互いに連携し、一体となって取り組むために、この条例を制定するものである。 そして、このような取組を進めることによって、どんなに重い障がいがあっても、支え合い、愛と思いやりにあふれ、誰もがいのちを輝かせる、「ともに生きる社会かながわ憲章」が掲げる「ともに生きる社会」を築くことにつながるものと確信している。 第1目的 この条例は、障がい当事者の目線に立った障がい福祉(以下「当事者目線の障がい福祉」という。)に関し、県、県民及び事業者の責務を明らかにするとともに、県の施策の基本となる事項、県と市町村との連携により推進すべき事項等を定めることにより、当事者目線の障がい福祉を推進するための施策等を総合的かつ計画的に実施し、もって、障がいを理由とするいかなる差別、虐待を受けることなく、人格と個性を尊重し合いながら、誰もが、いのちを輝かせて暮らすことのできる地域共生社会の実現に資することを目的とします。   第2定義 障がい、障がい者、地域共生社会、意思決定支援等について定義します。 第3基本理念 当事者目線の障がい福祉に関する施策等の推進と、障がい者差別や障がい者虐待のない、誰もがいのち輝かせて暮らすことのできる地域共生社会の実現にあたっては、次に掲げることを旨として行うこととします。 @全ての県民が、個人として尊重され、人格的に自律した存在として主体的に自らの生き方を追求する権利を有すること A障がい者本人の願いや望みといった心の声に耳を傾け、関わる人すべての心を輝かせる支援を行うこと B障がい者は地域社会を構成する一員であり、本人が希望する場所で、尊厳をもって、その人らしく暮らすことが当たり前であること C障がい者の性別、年齢、障がいの状態及び生活の実態に応じて、関係機関・団体等が有機的に連携することなどにより、本人の可能性を最大限引き出すこと D障がい者の社会参加の機会が確保され、政策決定過程においては、障がい者の意見を聴き、その意見を尊重すること E多様な価値観を受け入れ、誰一人取り残さない、持続可能で、違いを認め、誰も排除しない社会の実現に社会全体で取り組むこと F全ての県民がお互いを理解し、誰もが支え、支えられる社会を目指し、県民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていくこと 第4県の責務 県は、基本理念にのっとり、市町村、事業者及び県民と連携し、当事者目線の障がい福祉関係施策を策定し、総合的かつ計画的に実施します。 第5県民及び事業者の役割 (1)県民及び事業者は、地域共生社会についての理解を深めるとともに、県が実施する施策に協力するものとします。 (2)障害福祉サービス提供事業者は、障がい当事者の自己決定を尊重し、本人の願いや望みに寄り添い、当事者の目線に立った支援の実施に努めるものとします。 第6基本的な計画の策定 県、事業者及び県民が取り組むよう努めるべき施策等に関する基本的な計画を策定するものとします。 第7政策立案過程への障がい者の参加と本人活動の推進 (1)県は、障がい者の本人活動の重要性を広く県民に周知、啓発するよう努めるものとします。 (2)県は、障がい者の本人活動の支援に努めるものとします。 (3)県は、障がい福祉の政策立案に係る委員会や会議の開催にあたっては、障がい者の参加を推進するよう努めるものとします。 第8障がい者の権利擁護及び障がい者差別解消のための措置 障がい者の権利擁護及び障がい者の差別解消を図るため、県民への障がい者理解の促進、障がい者差別解消に関する普及啓発に努めるとともに、次の規定を置くものとします。 (1)障がいを理由とした差別や権利侵害を禁止すること (2)障がいを理由とした身体拘束、障がい者の意思に反した施設入所やサービス利用の強制を禁止すること (3)県民たる障がい者は、適切な意思決定支援を受ける権利を有するものであること(4)障がい者に対する差別、意思決定支援の不作為に関する相談、助言等の措置を講ずること 第9 障がい者虐待の禁止と救済措置 (1)障がい者に対する暴行、わいせつな行為、長時間の放置、心理的外傷を与える言動、不当な財産の処分を禁止するものとします。 (2)県は、虐待が疑われる旨の情報を得た場合、市町村を通じて、必要な調査を行い、必要に応じて是正措置を講ずるものとします。 第10 当事者目線の障がい福祉を推進するための施策等  県は、当事者目線の障がい福祉を推進するため、市町村、事業者及び県民等と連携し、以下の視点から、障がい者の地域生活及び社会参加を支援する施策等について効果的な展開を図るものとします。   (1)医療、介護、福祉等 障がい福祉及び保健・医療を支える人材の確保と育成、在宅サービス等の充実、障害福祉サービスの質の向上 (2)教育 インクルーシブ教育の推進、教育環境の整備、高等教育における障がい学生支援の推進、生涯を通じた多様な学習活動の充実 (3)療育 障がい児に対する支援の充実 (4)職業相談、雇用の促進等 総合的な就労支援、障がい特性に応じた就労支援及び多様な就業の機会の確保、福祉的就労の底上げ、一般就労及び定着の支援の充実 (5)公共的施設のバリアフリー化、住宅の確保 移動しやすい環境の整備等、アクセシビリティに配慮した施設、製品等の普及促進、障がい者に配慮したまちづくりの総合的な推進、住宅の確保 (6)情報の利用におけるバリアフリー化等 情報通信における情報アクセシビリティの向上、情報提供の充実等、意思疎通支援の充実、行政情報のアクセシビリティの向上 (7)相談等 意思決定支援の推進、相談支援体制の構築、地域生活移行支援の充実 (8)経済的負担の軽減、年金等 経済的自立の支援 (9)文化的諸条件の整備等 文化芸術活動、余暇・レクリエーション活動の充実に向けた社会環境の整備、スポーツに親しめる環境の整備、パラリンピック等競技スポーツに係る取組の推進 (10)防災及び防犯 防災対策の推進、防犯対策の推進 (11)消費者としての障がい者の保護 消費者被害の未然防止と救済 (12)行政等における配慮 選挙等における配慮等、行政機関等における配慮及び障がい者理解の促進等、資格取得における配慮等 *上記、項目名は、障害者基本法の「第二章 障害者の自立及び社会参加の支援等のための基本的施策(第14条〜31条)」を参考とした *各項目に記載した内容は、現行「神奈川県障がい者計画(2019年度〜2023年度)」の施策の体系図等から記載した   第11 総合的・計画的な施策の推進体制の整備 県は、市町村、事業者及び県民と連携を図り、当事者目線の障がい福祉を推進し、障がい者が住み慣れた地域で、いきいきと安心して暮らすことのできる地域共生社会を実現するため、以下の事項について、総合的かつ計画的に取り組む体制を整備するよう努めるものとします。 (1)乳幼児から学齢期等生涯を通じた切れ目のない支援の確保 (2)障がい者支援についての調査研究及び手法の確立 (3)民間機関を活用した支援研究・研修センター等の指定 (4)地域包括ケアシステムとの総合調整 (5)サービス基盤の地域間格差の是正及び市町村支援 (6)自立支援協議会の活性化 (7)福祉人材の確保と育成 第12 財政上の措置 必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとします。