参考資料３
神奈川県共生社会アドバイザーによる事例紹介（説明概要）
第９回当事者目線の障がい福祉に係る将来展望委員会（R04.2.21）事例紹介
発表者：神奈川県共生社会アドバイザー髙野元氏

【はじめに】
○筋萎縮性側索硬化症（ＡＬＳ）の進行により喋れないので、パソコンの音声合成機能を使ってお話しいただく。肩から先と足首から先は殆ど動かない。夜間は呼吸器を装着している。
〇重度障がい者向けプレゼンソフトの企画開発やそうはつ介護ステーションの運営の仕事をしている。
○妻の負担を減らそうとして、訪問看護が毎日入っている。また長時間の見守りが可能な重度訪問介護ヘルパーもお願いしている。
○誤嚥防止と気管切開手術を受ける少し前に指が動かなくなり、パソコンもスマホも使えなくなったが、視線入力パソコンの導入に成功した。
【ＡＬＳと公的支援について】
○ＡＬＳは人工呼吸器の使用で本来の人生を全うできるが、国内の装着率は３割と言われている。厚労省指定の難病の１つで、国内には１万人弱の患者がいる。
〇ＡＬＳの在宅療養には、生命の支援、日常の支援、自己実現の支援が必要。医療制度、介護保険制度、障がい福祉制度といった複数の制度を組み合わせる必要がある。
〇特に重要なのは、訪問看護師、訪問リハビリ、そして重度訪問介護である。重度訪問介護の利用が社会参加の鍵になる。重度訪問介護は、障害支援区分４以上の方で、二肢以上、つまり両手または両足に麻痺等があって動かなくて歩行、移乗、排尿、排便のいずれも何らかの支援が必要な状態の方が利用できる。
〇全ての患者がこうした体制を整えられるわけではない。その原因は、情報不足である。
〇身体介護、家事援助、生活等に関する援助など、自分の生活上のことは自分の代わりにやってもらう。重要なのは見守りで、これは、トイレや体位の修正など、必要なときに介助を頼めるので、生活の質を上げられる。有資格者は、喀痰吸引や胃ろうなどの医療的ケアも可能。
〇ヤングケアラー問題など、家族の介護負担や疲弊を考えると、気管切開して、呼吸器をつける選択ができなくなってしまう。家族皆が疲弊すると、まるごと社会から孤立してしまう。
〇介護ヘルパーも医療的ケアができるようにしてほしいという運動の結果、平成24年に「社会福祉士及び介護福祉士法」の一部改正が施行され、介護職員も、「喀痰吸引等研修」を修了することで、痰の吸引や経管栄養などの医療行為が実施できることになった。
【療養の工夫】
○口から食べ続けるために誤嚥防止手術をしている。また、呼吸器をつけるために、気管にカニューレを挿入している。ここに痰が詰まると窒息するので、１～２時間ごとに痰の吸引が必要となるところ、自動痰吸引機を24時間つけて、介護者の負担を大きく軽減している。その他、口の中に溜まった唾液を吸い出すために、自動唾液吸引機を使用している。
〇コミュニケーションをどう取るかが課題となる。透明文字盤（五十音表）の文字を見つめ、聞き手が読み取る方法がある。自分は、パソコンの視線入力デバイスTobiiEyeTracker２万円と、フリーソフトウェアのHeartyAIで環境構築した。視線入力装置が視線を読み取る。これで、ほぼ全てのWindows操作が可能となった。オフィスソフトも使える。
〇Cyberdyne社のサイボーグ型ロボットＨＡＬは医療機器として認可されている。蹴り出しの力を強くしてスムーズに歩くことができた。
【私の一日】
〇筋肉は栄養と酸素を供給すれば、維持の期間を延ばせるので、腕や足や腰の曲げ伸ばしや、手足の指の曲げ伸ばしをしてもらう。週に２回、訪問リハビリに来てもらい、その時、部屋リフトを使って立っている。また、ＬＩＣトレーナーという器具を使って毎日呼吸筋のストレッチをしている。
〇昼食後から夕食までの時間にパソコンに向かっている。この時間はヘルパーに待機してもらい、トイレやパソコンの位置の修正などに対応してもらっている。
〇夕食は家族と食卓で摂り、22時半になると夜勤のヘルパーが来る。呼吸器をつけていると寝返りが打てないので、目が覚めるたびに体の向きを変えてもらう。
〇入浴は、週に３回、介護保険サービスの訪問入浴サービスを利用している。
【私の社会参加】
○私の社会参加の状況について紹介すると、神経難病の療養について自分で調べるには限界があるので、患者会の活動をしている。１つは、日本ＡＬＳ協会神奈川県支部の副支部長をしていて、患者家族相談会（毎月１回）を開催したり、県の支援を受けて、喀痰吸引等３号研修を開催している。もう１つは、「川崎つながろ会」で、 地元川崎の神経難病の療養環境を良くしたいと、４年前に川崎の患者仲間と始めた。毎月１回定例会を開催している。また、皆で遊ぶことも大切にしていて、今年は高尾山に登ろうと企画を始めている。
〇講演活動に力を入れており、そのために、HeartyPresenterというソフトウェアを開発している。使い方はとても簡単で、パワポのスライドを作るときにノート欄に読み上げ文を書いておくだけで、シナリオを生成してくれる。ＡＬＳについて深く知ってもらいたいので、看護学校やリハビリ専門学校、学会等で、ＡＬＳ患者の生活を紹介している。
〇オリィ研究所が開催した第１回分身ロボットカフェでロボットを操縦しウェイターをした。中央のロボットが私。視線入力で自宅から操作している。以降は、若者に出番を譲ったが、全国の仲間が、自信をつけて、どんどん積極的になる様子が感動的である。これまで働けないと思い込んでいたが、テクノロジーの力で開放された。
〇神奈川県は、「ともに生きる社会」を作ることを目標の一つとして掲げており、その一環として、月に２回、重度障がい者の私がオンラインで会議に参加している。
【重度訪問介護の意義】
○重度訪問介護の普及にむけての課題は、まず、重度訪問介護の意義が知られていないこと、次に、市町村によって、必要十分な支給時間が出るとは限らないこと、さらには事業所やヘルパーが足りないことがあげられる。強いニーズがあることを訴え続けましょう。当事者・支援者が自ら探すなど、尽力することが社会を変えていくと考える。
○新規事業開発の考え方として、イノベーター理論というものがある。多くの新規事業は、初期採用者と前記追随者の間にある「キャズム」といわれる谷を超えられずに撤退を余儀なくされる。2040年にＡＬＳで社会参加という新しい概念が当たり前になるためには、数年後には、重度訪問介護がもっと使いやすくなるように社会的な環境を整えていきたいところ。
〇重度障がい者も社会の一員と考えて見直す必要がある。住みたい場所で暮らして良いし、在宅で過ごすなら、家族を介護から開放してあげましょう。動けなくて喋れないなら、生きる意味を再構築すれば良い。重度障がい者の支援は包摂社会の構築に必要な仕事であり、社会の価値観の転換を促す仕事が重度訪問介護だと思う。